月人の科学力は世界一ですが、怪奇の規格外さは殿堂入りです。
ざぁー、ざぁー、
「…………なに?」
「真倉、大人しくなったねぇ」
「……別に。変わんないし」
「何だかツンツンしてるね」
やぁ、久々に真倉と会話する俺だ。チカは笠木比良の方に行ったぞ。常に2人で動く必要はないからな、別れて会話するくらいはやる。
何より今日は雨だからな。こんな日は本を読むに限るけど、それはチカと2人一緒にだ。うっかりのネタバレとかやりたくないしな。
「前まであんなに皆んなと話してたのに…初めて会った時に戻ったみたいだね」
「そんな事……」
「あるよ。あの時は物静かで、私の手を握って後ろを着いてってた。入学式の日だけの話だけど、全てのキッカケとしてしっかり覚えてる」
「………………」
「ん。だから、私的には変わったって言うより戻ったって感覚だね。何だか懐かしいし、コレはコレで落ち着くね」
「………………」
「…ん?もう1人の私はって?生憎とずっと一緒にいる訳ではないよ。一緒にいても言う事は同じだし、感じることも同じ。それなら、別れていっぱい楽しんだ方がお得だよねぇ?」
言いたい事は何となくわかる。目は生やして馴染ませる最中でも、他の感覚は変わった訳でもない。コレだと真倉の喋る練習にはならないけど、昼休みってのは終わりがあるんだ。容赦なく察して行くぞ。
「………………」
「あー…性格はねぇ…あっちの方がオリジナルだね。私はほら、真倉や比良と同じく心を歪められたからね。普段は問題なくても、私を深く知ろうとされると歪みが出てくる感じなんだよ」
「………………」
「…自分は何処がって?真倉は…少なくとも、その無口さは『因継の儀』と真倉自身の合わせ技だから、頑張れば直せるよ。見た感覚は…ごめんね、『ちい』になったせいで今は眼が鈍くて…一月したら回復するから、それまではお預けでお願いね?」
真倉自体は血が混ざったお陰か、頭の良さは据え置きっぽいな。魂よりも『性善説』が無くなった影響の方が多そうだ。
「………そう、厄介ね」
「だねぇ。魂と宇宙の鳥、両方消えちゃったもんねぇ…海外ではひどい事が起きてるし、日本は『閏日』とあの鳥が死ぬのを見たからまだ混乱が少ないけど……どうしたの?」
「…………私は、気づいたら皆んな『ちい』になってて…」
「うん」
「……放送見て、もうダメだって…」
「うん」
「妖精が……怖かった。何か一言言ったら、全部壊れてって……そ、そしたら、みんなと話す勇気が無くなって…」
「うん…頑張ったねぇ」
優しく抱きついて、背中を摩った。此処は教室だけど、何故か皆んな居ないからな。他のクラスの子達と廊下や階段で遊んでたり、体育館で遊んでたりしてる。何度もダルマさんで驚かしたせいか、教室=『屋根ダルマ』の図式が頭に叩き込まれたみたいだな。
そして…喋らなかったのは、下手に全て見ていたせいもあるからか。あの鳥、神々しさと神秘性はしっかり有ったからな。それに対峙する妖精はさぞ禍々しく見えた事だろう。チカもそう言ってたしな。
「……こわかった。全部壊されて、お父さんも…経営が危ないって……私の研究室、取られそうで……夏奈も…ボケちゃったし…全部悪い方に行っちゃいそうで…!」
「うんうん、怖かったねぇ。安心してねぇ?霧晴は…千歌はすごく頼りになるんだぞう?」
「………………きり…!……ううん…ちかぁ!」
お、何かの琴線に…あぁ、証と真倉と一緒にあちこち行ったっていうアレ?いつの間にか千歌呼びになってた時と同じ言葉かけたのか。
なるほどねぇ、俺はこうして千歌呼びになったのか。今更ながら焼き増し出来たんだな。
「困ったらいつでも連絡してね。どれだけ時間をかけても良いし、私の前で願うだけでも良い。この耳はそういうのを逃さないからね」
「………うん」
さて、コレで真倉は問題なさそうだ。後は…ゲェムの研究室か。あちこちからゲェムを回収してるし、あそこが何も知らない人に預けられちゃうのは困る。前なら何とも無かっただろうけど、今だとちょっとね。悪い人を考えないといけないからね。
ざぁー、ざぁー、
「……真倉、それで聞きたいことがあるけど、良いかな?」
「……………」
「…下の方で呼んで?まぁ良いけど…
「…お父さんに、会って…それで、有効な、技術を教えて…」
「焦らなくて良いよぉ。人のお願いを聞いたら焦っちゃうんだね。頭の中でまとめるの待ってるから、リラックスねぇ」
「………うん」
ざぁー、ざぁー、
雨の音が教室に響く。他の子達が体育館や廊下を走ってる音も、今は遠くの事の様に聞こえた。
空気を読むとかしてないと思うけど、今の真倉を混乱させるノイズが少ないのは良いね。
それに魂が無い分聴き取りやすいっていうか、守りが少ないって言うか…みんなが帰ってきてから、どんな思考か解析しやすいイメージだな。難易度が下がってる感じがする。
「………」
「…大丈夫だよ、話してみて?失敗とか間違いとか、心配しなくても笑わないよぉ」
「…あの『閏日』の日から、我が社の所有してる異界や魂の蓄積が無に帰ったわ。それまでも儀式や怪奇が消えて、商売にならなくなる事は増えてたけど…今回のは致命傷だったのよ」
「大企業が致命傷かぁ、そうだよねぇ…マニュアルとかは将来同じ怪奇が出てきた時に使えるけど、今は難しいよねぇ…」
「そうね。だから、今の怪奇を商売にしている企業に求められるのは、新しい怪奇の利用法と発見よ。夏奈の電脳化とか、その一環ね。今が厳しい時期なのはお父さんも感じてたから、新規開拓は急務だったわ」
「そっかぁ、小学生の夏奈に人員を渡したり、ゲェムにも箱と人を与えたり…実は結構切迫詰まってたんだ」
ん、前みたいに話せてる。相槌とか相手が言って欲しい感じに合わせてるのも有るけど、やっぱり『性善説』は善性と自分の
「ええ、藁にも縋る勢いよ。異界と魂、儀式関係は今の会社の大黒柱だったもの。マージンに他の怪奇にも関わってるけど、全部一度に潰れると社員が養えずに縮小せざる得ない。電脳化は民間に売り出すにはまだ危険性があるし、国にも『霊脈』によるネットワークへの潜入で今まで需要が無かったけど…」
あ、此処で相槌か。結構人頼りの会話になってるなぁ、まぁ1人で喋るプレゼンとか難しいよな。
「あぁ、「HIW」のネットポリス?ゲェムだけの関係のつもりだったけど、ここで売り出せば『霊脈』でのネット潜入の代わりになるんだね」
「そうよ。今は日本中で混乱してるし、青写真や未来の技術書の写しが有るとはいえ、研究者達も頭が鈍くなった……将来的には出来上がるわ。ただ、時間が無いのよ。今を乗り越える為の時間が。此処さえ乗り越えれば元の規模以上になる。ただ、浮き駒になった人達の食い扶持がキツい。それがゲェム研究室が取られそうな理由よ」
社員の大多数の仕事が無くなって、他の事業に入れようにも既に人員も足りてる。ゲェムで引き出せた電脳化の技術の詳細を更に手に入れれば、時短にもなるし、未だ残ってる『裏世界』の異界も貴重…なにより昔の優秀な人員で何度でも攻略可能なら、希望もある。
まぁやられたら困るんだけどさ。今の過去改変崩れるんだし。
「借金したくても、貸す側の銀行が混乱してるし…引き出せる頃には会社が終わっちゃいそう。一応土木や運送にも関わってるけど、競合が激しい…スマートに異界関係や儀式関係、魂関係の社員を何とかしなきゃ…なまじ社員が多い分苦しいんだ…」
んー、俺と真倉の目的はゲェムの研究室の所有の維持、それが危ぶまれる理由は会社の経営難。
解決手段は電脳化技術の製品化、特許取得がゴール。コレを早める手段として会社はゲェム研究室が欲しい。
そこに、俺が「いやいや、焦らなくてもこういうやり方をすれば〜」と他の明白な怪奇関係の事業を紹介するなり、電脳化を製品化させたりすれば良いのか…難しい事言ってるなぁ。
「…分かった、お父さんに話せる場を設けてよ。最初にゲェムをやる事になった人が話をしたいって」
「……!! ありがとう、さすが千歌ね!それなら早速電話して…」
よし、ハッタリでも先ずは約束をしようか。当てはないけど会うまでに見つければ良いだろ。お偉いさんだし、直ぐには会えないはずだしな。
「…うん、うん。そう、ち…霧晴家の娘の……え…うん、分かった。約束する」
「それで、どうだった?1ヶ月後?」
「……明日の放課後」
「フットワーク軽々だねぇ?」
「私の面子…信用全部載せた話だから、コレが失敗したら私は会社での立場が無くなるわ」
「責任重大だねぇ?」
あれ?思ったより期待されてる感じがするな。そして早いなぁ、俺が見つけてる前提の動きじゃん。どれだけ焦ってるのか分かるね。さて、どうしようかな。全く用意出来てないぞ?
ブー、ブー、
お…チカから電話だ。向こうどうなったかな。
「あ、ごめんね?ちょっと電話が来たから」
「…あ……えぇ、なら仕方ない、仕方ないわ…行ってきなさい」
「まぁ、何とかするから安心してね」
席を立ち、少し離れて電話に応答した。今は教室が一番静かだからな。あんまり移動する必要はないのが良いな。
「へぇい、どうしたの?」
[やっと出てきましたね!チカはお怒りです!]
「何の用?」
[ツレないです…比良ちゃんと話に行ったじゃないですか]
「ん」
[なんやかんやあって助けてって言われました]
「よし、詳しくは家で話して。私がやるべき事は?」
[人の用意。それも異界や儀式に詳しい人達を沢山です]
「…なにさせるの?」
[月まで行ける入り口の管理とあの鳥の認識弄りの解除ですね]
「引き受けたりは?」
[言ってません!出来ない事の責任は持てませんから]
おっと、真倉なら金の匂いがするとか言いそうな案件が来た。
でも認識のあれ本鳥にしか無理な筈なんだけどな。
まぁ丁度いいや。コレを真倉のお父さんに言う話にしよ。
「…当てはあるから、任せてと言ってよし」
[…!分かりました。今すぐ追いかけます!]
「終わったなら切るね」
キーンコーンカーン…、
「お…チカと比良は遅れそうだし、先生には…授業の手伝いとか、放課後にやればお目溢ししてくれるかな」
魂やら何やら変わって、授業も前みたいなハイペースではなくなった。
それも、今までのとんでも無い詰め込みじゃ無理だからって先生に意見を言って、それで調整したからだ。他のクラスは今もぐだぐだみたいだが、先生と俺らの実質大人3人でやってる此処くらいは、問題なくやりたいからな。
説得も大変だった。少なくしろって意見を生徒側として言わなくちゃならないんだから。
「…よし、こんな所か。霧晴達もありがとな」
「問題ありません!チカはもう貧弱では有りませんから!」
「怪異の手足だからね…宿題の量や授業のペースは今の感じで大丈夫ですよ」
「みんな覚えきれなくて諦めたりはしてませんし、寝てる子も居ないので順調です!」
「頼もしいな…先生、他の教員との会議が有るからもう帰って貰って良いぞ」
「はい!では先生、さようなら!」「さようならぁ」
「はい、さようなら」
そんな訳で放課後は先生のお手伝いをして、終わった頃にはみんな帰っていたし、2人で一つの傘を使って家に戻ってきた。
雨だと不審者も少なくて良いな。電信柱の影に隠れてる謎の人を撒かなくて良いし、楽に帰れる。
「ただいまー!いやー、クタクタです!」
「ただいま…本当にね。比良と一緒にずぶ濡れで帰ってきた時はどうしたのかと思った」
「ぶへへ、青春って奴です!」
「何故か比良に抱っこされてたし…それで、何が有ったのか詳しく教えて」
「はい!それは校舎裏、木から滴る大粒の雫が落ちる場所での話です……」
そこから、お米を研ぎつつ話を聞いた。何でも、こんな感じだったらしい。
チカは比良ちゃんの明らかに異常なのが気に掛かった為、昼休みが始まってすぐ何処かに行く比良ちゃんを追いかけました。
ストーカーとは言わないで下さいね?昨日の月曜の、コレからの授業や宿題集め、チカ達が2人に増えた事の説明や体育館での校長のお話…そういうのをやった日の、発狂したり俯いて黙ってたりしているのを見れば、誰だって心配すると思います。
[ほーんそりゃそうだね…ん、其方の野菜切ってね]
はい!…そんな訳で、チカは追いかけました。靴も履かずに雨の降ってる外に出た比良を追いかけて、校舎裏で俯いて立っている比良に話しかけたんです。
ざぁー、ざぁー、
「…比良ちゃん、こんな日は傘を持たないと風邪をひいちゃいますよ?」
チカは靴を履くついでに持ってきた傘の中に、濡れている比良を入れました。
勿論チカは濡れたくありません。結構近くに寄りました。
「もぅ、こんなに濡れちゃって…折角の白い髪が台無しです!靴も履かなきゃ、怪我をしちゃいます」
「…………」
「…何か、辛いことがあったんですね。チカで良ければ相談に乗りますよ?」
「…………」
ざぁー、ざぁー、
「…知ってますか?此処は今は何も有りませんが、昔は畑が有ったんです。霊脈が出来た日から役割は無くなり、今は草だらけですが…かつては立派な魂の循環場だったんですよ?」
「…………」
「…実の所、魂がある限り人は何も忘れません。例え消えたと思っていても、魂が保存していますから。死ねば全て思い出せて、比良ちゃんも自分を取り戻せたんですよ?」
「…………はぁ?」
「だから、千歌は運が良いって言ったんです。未来を見て、楽しく過ごすだけで全て取り戻せた。焦る必要も、悲しむ事も無い。知りたいという未練さえ有れば、ほんの一瞬、霊脈に落ちるまでの間は取り戻せますから」
ざぁー、ざぁー、
外ですから、雨の音は強いです。何が起きても、雨は全てを流して忘れさせます。
そんな雨の音は、きっと忘れられたく無いという、流されるもの達の悲鳴なのでしょう。
少なくとも、前世で土砂崩れが起きた時の雨はそうでしたから。
「……それを今言う?もう、魂も何も無い、今?」
「赤い稲は、食した者に自分を混ぜます」
「…………」
全て消えて、比良ちゃんは暴れる気も無いみたいでした。
だから、今なら話せるかなって思ったんです。
「比良ちゃんは食べたんですよ。この学校が抑えていた異界、其処にある赤い稲を」
「その赤い目は垂れた稲穂の様に、その白い髪は病の様に…白葉枯の病です。異界の外に出て、なっちゃったんですね」
「あ、死んじゃう事は有りませんから!人間では有りますし、稲穂なのは髪と目だけです!」
慌てて死んじゃう事は否定します。なっちゃった物は仕方ありませんが、コレはただ、そうなる程長い時間異界に居たと伝えてるだけなので。
「それを教えて…どうしたいの?」
「だから、比良ちゃんの本性は怪奇では有りません。だから怪奇っぽく振る舞っても何も起きません。…はい、コレで執着出来る過去は本当に全部消えました」
「お前ッ!!」
どさ、ざぁー、ざぁー、
傘が投げ飛ばされ、押し倒され、ぬかるんだ土で汚れます。
比良は泣きそうな顔で、怒った様な顔で、チカの襟元を掴みました。
「何がしたい!私の希望を全て摘み取って、何がしたい!」
「全て忘れる事。自分の過去に執着する事───生きたいと思い続ける事」
「それがッ「比良が弄られた物です」……」
「頼み事、漸く言えました。見た物の解析終わってから、随分と時間がかかりました」
「…頼み事?」
「夏休み、言ったじゃ無いですか。自分の正体は何だって。だから、言いにきたんです」
雨の降る日に立って幽霊みたいに振る舞ったり、心の表面ではそれらを気にして無いみたいに言ったり、発狂してみたり…指輪の時から思ってたんですけど、自分の見た目から振る舞いを決めてる節があったので。
過去に執着する様にされた以上、いざ手がかりが目の前にあったら居ても立っても居られないのに、過去に執着するから、過去の自分らしさを求めてそう振る舞う。
「比良ちゃん、貴女はこう苦しむ様にされてたんです」
『一生過去に足を引き摺られながら生きて、今の自分が正しいのかも分からないまま踊って、最後の最後、霊脈に落ちるまでの一瞬、全て間違えていたと、絶望しながら終わりを迎えなさい』
「過去を知りたい。でも予想した過去の自分の振る舞いを崩せない。そうして実際とは掛け離れた振る舞いを続ける滑稽な姿を笑い物にでもしてやろう」
あの鳥が考えそうな事です。怪奇災害が起きた時に偶然異界で生きてる奴を見かけたから、折角だし弄って返してやった…と。
チカは『ちい』として、神秘の宿った眼で見ました。だから、怪奇災害の時に居た理由も、『宇宙の無意識領域』が運び込んだと見通せました。
「だから、比良ちゃんの過去の一つ、何で怪奇災害の時に居たのかの答えは、玩具にする為」
「それが答えです」
ざぁー、ざぁー、
たった6文字ですが、今の比良ちゃんが持っている過去はコレだけです。
それより昔を知る手段は、今の比良ちゃんには有りません。
「……それだけ?」
「はい」
「…たったそれだけの為に、私は此処に居るの?」
「はい」
「っ!!」
そして、比良ちゃんはチカを放って走り出してしまいました。
「…今の比良ちゃんに知る手段は有りません」
キーンコーンカーン…、
「ですが、チカには有ります……その為には相談が必要ですけど」
傘を持って、汚れを払って、電話をして…え?助けてって言われてない?
変な事を言いますね!比良ちゃんはちゃんと言いましたよ?
(確定:だったら…見つけてよ…此処に居る理由も!私の過去も!……この息苦しさから、助けてよ…)
って、割りかしハッキリとした絵と音楽で聞こえました!
アレですね、魂がないとハッキリ聞こえます。解析し易いです!
[…それで、5時間目の間、そっちは何処に居たの?]
屋上です!鍵が空いてましたし、普通に開きました!
着いた時には、比良ちゃんはフェンスを超えた向こう側に立ってましたね。
ざぁー、ざぁー、
雨で風もそこそこあるのに、危なっかしかったです!廊下を通る時に傘を運ぶなんて出来ませんし…ずぶ濡れで大変だったんですよ?比良ちゃんも『しぐれけむり』で相当近づかないと見えませんでした!
「比良ちゃん、そこは危ないです」
「止めないで。死んで幽霊になって、全部思い出すから」
「もう魂はありま「五月蝿い!私が有るって言ったらあるの!」無いんですよ」
「もう、真っ暗になって自分が消えるだけです」
一応葬儀屋として、説得に失敗しても良い様にお祈りする準備は終えました。
その背中に手が触れられる程、近づきます。
「チカは葬儀屋の娘です。やるのなら、死にたいなら止めはしません。その死が報われる様に祈るだけです」
「そう…だったら…」
「死にたくないんですよね?」
「……そんな、訳」
「死にたかったらチカが来るまでに死んでますし…何より、比良ちゃんは死にたく無いと思う様にされてるので」
ざぁー、ざぁー、
雨は強いです。下手すれば、死にたくなくてもコケて死んじゃうでしょう。
なので、柵を乗り越えました。足場が狭くて、怖いですね!
「…千歌、何を」
「比良ちゃん、あの鳥は弄った認識の解除方法は必ず、弄る前なら簡単な物にします。弄った後は、それを出来ないと思い込むか、若しくは忘れてしまうんです」
「…それがどうし「比良ちゃん!異世界に逃げたいと思った事は?」…有る訳ない」
「どうして?異界はあるのに?」
「……何でって」
悩んでる比良ちゃんの手を握って、笑って言いました。
「あ、因みにチカは比良ちゃんの過去を知る方法知っています!」
「え?」
「知りたかったら、助けてくださいね!」
「え?……は!?」
ピョーンと、柵から飛び降りてやりました!勿論手を繋いだままなので、比良ちゃんも一緒です!
[あー…強硬策だなぁ]
くすくす、小学校の屋上から地上まで、落ちる時間は短いです。比良ちゃんが昔できた事が出来るか、それとも2人とも死ぬか、雨と『しぐれけむり』で下は見えませんから、いつ死ぬか定かじゃなくて怖いですよね!
「それで、異世界に逃げたいですか?」
「…あぁぁぁああ!!!!もう!!」
はい!【プリズンワールド】の特典っぽいのを持ってそうでしたから、どうせコレを解除条件にしてるだろうなって予想です!博打100%ですね!そそるぜコレは!
「私が出来るって言うなら!これがそうだっていうかなら言ってやる!」
こうして一緒に料理してる時点で分かると思います!
地面にちょっと触れましたけど、間に合いました!
「──【
地面にゲートが開き、ネオンのライトで彩られたビルの都市に転がり込みます。
落ちる勢いを、ゲートの向きで横に変えたんです。五点着地でやる事をゲートで代用したんですね!
『裏世界』に大多数を送られて、少ない人々が、突然転がってきたチカ達を見て困惑します。ですが、それは今重要なことでは有りませんでした。
「はぁ…はぁ…はぁ…!!…殺す気なの!?」
「くすくす、あー…死ぬかと思いました!」
「自殺志願者だったりする?悪いけど、私はそんなのに巻き込まれたくないから!」
「くすくす…でもほら!キッカケ、出来たじゃないですか!」
「……それは、そうだけど!」
まぁこんなの持ってる時点で察しますよね!比良ちゃん、転生者です!
それも結構特殊な特典を持った、チカが偶然持ったりもした特典の、本来の持ち主です!
何ですか、持って転生した瞬間怪奇として人々が出現する特典って!チカも【ゲームガチャ】なんてハズレを引きましたけど、コレはコレでハズレです!
だって、出現した瞬間に全滅して、残るのは人の死体と月に行けるゲートだけ。それも、異世界に行きたいと思うだけで無秩序に発動する……コレはチカが持ってたからでしょうか?
「くすくす、それじゃあ帰りましょうか!まだ授業の最中です!」
「は…お預け!?此処までやって!?」
「だってほら、地球が見えてる以上此処は月みたいですし、居るだけで国際問題で、違法入国です。だったら、しっかり企業か国家にお願いしてから関わらなきゃ!」
「…いや、そんなのどうやって用意するの?個人的に調べた方が良いよ?」
「大丈夫です!チカはスゴいので!」
「あぁもう…はぁ、来れたのは千歌のおかげだし、従うよ」
「はい!いっぱい先生に怒られましょうね!」
くすくす、まぁ良いです!焦っても仕方ない物ですから、一つずつ解いて行きましょう!
「と言う訳で、チカは無事にクエストをクリアしたのでした…終わりです!」
「話が長い。ご飯食べ終わっちゃったし…今度はもっと端的に言って」
「えぇーそんなー」
そんな感じにご飯を食べながら聞いていた訳だが、相変わらず昔の俺はド派手に進みたがるな。
なろう無双したいだけはあるし、ハーレムしたいだけはある。
「それで、特典が使えるようになってどれが解除された?」
「生きたいと思い続ける事ですね」
「つまり、コレでよく分かんなかったってなったら今度こそ死ぬのかな」
「無いんじゃないですか?過去を知れそうなら、幾らでも前に進めると思います!」
「ん…そんなもんか。因みに何だけどさ」
「はい?」
テレビを付けながら話題を変える。コレに関してはもう話しても判明する事は少ないだろうしな。
「私が「裏世界帰還者」のスキル貰えなかった理由想像付く?」
「外部要因で帰ったからじゃないですか?」
「父さんは『家守り様』、証は貰えてないっぽい、私も同じく…やっぱりそうか」
「『裏世界』の中にある物だけで帰ったら貰えて、入ったばかりだったり、外から持ち込んだら無理…兎に角、枠が埋まらなかっただけ良い事です!」
「だなぁ…」
細かい事とかを話の話題にしつつ、チカが食べ終わるのを待つ。
大抵の事は想像ついても、確信出来ない事の方が多いのは困った事だ。ふとした時に昔の因果が襲ったり、巡り巡って帰って来たり…【プリズンワールド】を引いて、比良も持ってたとか、どんな確率だよって思っちゃうな。
[臨時ニュースです。『南極奈落』から、突如として外観上は10.66kmの雪山が浮かび上がりました。しかし怪奇による空間の歪みによってか、実際は約5623kmはあるとされており、これ1844万9063フィートの、あまりにも巨大すぎる山、大陸であると国際機関から発表されています]
「お、黒海の先の南極大陸クリアしたんだね」
「わー、スゴいです!チカ達が全力で見て諦めたアレを、チャート有りとはいえクリアしたんですね!」
「アレ無茶苦茶だったなぁ…」
「本当です!山みたいな生き物の、その心臓を貫かないと死なないなんて無茶も良いところです!」
「一応アレ鯨らしいからな。名付けるなら…『南極鯨』…その上に居るのは『南極人魚』かな」
「お魚さん、どれも大っきくて強そうでした!」
[…これは、およそ地球の半分の大きさであり、また、回収した雪の成分を分析した所、正常な、怪奇では無い水が大半だった事から、三千年の怪奇の寿命を乗り越えたとしても、この雪山は消えない可能性が非常に高く…]
「消えないんだよねぇアレ。コレから寒くなるだろうし、早い内に『南極鯨』の血を採掘してくれると助かるんだけど…」
「確か…「怪具/永久機関」でしたね。宇宙鯨と言い換えてもいい大きさですけど、永久機関が出来ちゃうなんて、スゴい怪奇です!」
「もう殺せたし動かないだろうけど…人魚も危険だし、コレからあの鯨の内部の生態系、盛大に外に出るよね。今年の内には鯨の爆発も…何起きるっけ」
「『南極鯨』なら…空間湾曲だった筈です!アレの中にあるガスは空間を歪ませて小さく折り畳みますから!」
「増えるだろうなぁ…『リヴァイアサン』や『海の怪物』、『浮遊蛸』に『海坊主』…最速で心臓だけ貫くチャートだったし、実質安全にやるなら星一つ解体しろって言ってるもんだもんね…でも攻略しないと地球が崩壊するし…」
[雪が溶けた場合、全大陸が沈没すると見られ、また、未知の怪奇の生命体や『海坊主』といった妖怪が確認されている事から、南極の独自の生態系が外に出てくると…]
そんな感じにお茶を啜りつつ、テレビの放送を見続けた。今頃ネットではお祭り騒ぎだろう。
なんせあの鯨は福音と破滅を齎す奴だ。その細胞一つ、血の一滴でとんでもない物が作れる。
ただすぐに使い切らないとダメってだけで、使い切れるなら人類は益々繁栄するだろう。月の人達に分け与えても良いな。鯨の半分渡してもまだ余るだろうし、彼らが頑張って打ち上げた鯨だ。何なら全部あげても良いだろうな、邪魔だし。
「あ、そうだ!」
「どうした?」
「コインは貰えてますか…と」
チカがゲェムを取り出し、確認する。横から見てみると、【ゲームコイン】を1枚、【ガチャコイン】を10枚貰えていた。こっちに纏まるんだな、コレって。
「コレで村、黒海、南極の三つはステージクリアです。チカ達の指示でしたしコインも貰えてます。沢山人が死ぬのは本意では無いですし、特典を引いてみませんか?」
「そっちの枠は?こっち2」
「6です!眼鏡と手袋と葬儀だけなので、問題有りません!」
「でも良いやつ引けるかね。微妙じゃ…良い事思い付いた」
「…?」
俺の閃きは天才的だな。コレは中々良い線行ってるんじゃないか?
「比良の【プリズンワールド】、万が一の時はアレで月の方に持って行くんだ。そして、月の軌道の反対にでも置いて、鯨の星にするんだよ」
「出来ますか?それ」
「それは比良次第。やれるかどうかはあっち次第だけど、出来たらとってもステキだよ」
おー、胡散臭い奴を見る目だ。でも思い付いちゃったんだから仕方ないだろ。
「…無理なら特典を引くって事で、先ずはそうですね、比良と真倉のお父さんに相談です!何故か商談のプランも複数用意出来ましたし、話し合ってみましょう!」
「ん、最悪の場合の鯨を消滅させるチャートは作ってある。何より、コレから4層目のイギリスの土地も有るんだし、怪異の件も忘れちゃいけない。折角大企業を動かせるんだ、やるだけやってみよう」
1人で抱え込むには多すぎるけど…大体の事に関しては人類全体の問題なんだ。俺が頑張るって考えじゃなくて、その手伝いをやる感じてでやってみよう。微力ながら助太刀しますって感じに。
霧晴千歌/チカ
最悪の場合南半球が硝子の大地になるチャートは作った。
真倉朝凪
最悪の場合千歌を取られる覚悟はした。
座式比良
最悪の場合霧晴と一緒に破滅する覚悟はした。
『裏世界』に居る月人の人達
500億の怪奇を燃料にした砲撃で星の心臓を穿った。その勢いで鯨の死体が地上に出た。
『南極鯨』
死んだ。上半身だけで5623km有り、大穴に埋まってる分も含めると地球を超える大きさになる。全身怪具に出来る。
『南極奈落』
鯨の空間湾曲ガスで崩壊せずに済んでた、ただのデカい穴。
『南極人魚』
内部に居る文明を築いていた者は死んだ。白黴に覆われたみたいな見た目。
『リヴァイアサン』
一際大きい1体を残して死んだ。大きな蛇。
『浮遊蛸』
数体残して死んだ。気球みたいに空を飛ぶ蛸。
『海坊主』
数体残して死んだ。大きな影。
『深海髄液』
鯨の脳から産まれた怪奇。時間をかけて鯨を蘇らせる。