怪奇ばかりな日常とゲェム記録   作:何処にでもある

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 依存性のある物を手放すのは難しいですよね。




日常-明日に備えて

 

 

「こんにちは、霧晴千歌くん。今日はいい話し合いになる様努めていこう」

「はい!よろしくお願いします!」

「…君、そんなに元気な子だったっけ」

「少々事情が混み合いまして、2人に増えたり魂がそのままだったり…能力に変化は無いので大丈夫です!」

「なら…良いんだけ…魂あるの?」

「…? はい!チカは怪異の異界に行かずに『ちい』になりましたから、そのせいか2人に増えて魂も有ります!」

「爆弾みたいな情報だな…それ、あんまり人には言わない方が良いよ」

「分かりました、気をつけます!」

 

 やぁやぁ、何故か対談に行く事になったチカです!見えてる方が行った方が情報の追加投入も出来てお得だと言われました!

 その通りですけど、其処は約束を取り付けた方が行くべきだと思います。しかし…千歌は夏奈ちゃんや多々良ちゃんの様子を見ているのです。どんな状態かチカも知りたいですし、ここは受け入れましょう。

 

「話は聞いてると思うけど、ウチの会社がピンチでね。何か商売の種は無いかい?」

「複数あります!月との交易、『南極鯨』探索と開拓、身体に組み込まれた怪異の有効活用法、海路の貿易船護衛、魂が無くなって消えた魂糸による怪奇対策品の代用品製作、電脳化技術とゲェムを組み合わせたVRゲェム製作に……」

「ちょっと待ってくれ」

「はい!表は書いてあるので好きなものから聞いてください!」

「用意が良いね、助かるよ……思った以上だな。魂があるお陰か?」

 

 チカ達が一晩かけて創り出した新規事業相談表を取り出し、差し出します。かなたらの願いで良くやってましたからね!案外捻り出せました!

 

「ふむ…隣の項目は利益、時間、危険性で甲乙の基準…」

「利益は甲が一番高いです。時間は丁が一番短いです。危険は甲が一番社員が死にかねないでしょう」

「時間がかかる程利益が高く、その逆も然り…両方高いのは危険性が付き纏うか…やはり、其処は変わらないんだね」

「そう簡単にはいきません!危険性は異界探索の先駆け隊が乙〜丙だとして作りましたが、コレはチカの助言なしで実行した場合です。死者が0とは行きませんが、助言していいならこの表よりも少なくなりますね」

「…うん、君はコンサルが向いてるよ。見ててワクワクする表を作ったんだから」

「ありがとうございます!」

「ただ…この表がその通りになる保証は?」

 

 おっ、鋭い眼光が来ました、社長的にも其処は心配なんですね。

 でも、チカに頼った時点で結構追い詰められてるのは知ってます!

 

「無いですよ?千歌は自分の眼で見た情報からチャートを作っただけです。でも、それを言ったら普通のコンサルも同じだと思います!世間の情報や客が集まる条件を見る、チカも怪奇の情報やそれが売れる条件を見た。ほら、同じです!」

 

 しばらく静寂が流れました。見た目は子供でも、魂がある優秀な子供だと伝えました。

 それを担保にすれば、信じられる条件は多少は揃ってると思います!

 

「……うん、朝凪は本当に良い友達を作ったね。僕でも自分の判断に自信が持てなくなってた所だったし、動きを決めるキッカケには丁度いいかな…きみから見てのオススメは?」

「はい!表が先ずオススメ順ですから、上から見て月との交易、『南極鯨』の探索と開拓、怪異の有効活用法の三点セットを基本に、細々とした物を2つ実施するのがオススメです!」

「スタンダードプランって所かな?其々の詳しい説明をして貰おうか」

「はい!先ず月との交渉は……」

 

 月との交易は人や食料の代わりに技術や月の科学製品を貰うプラン、比良のワープで移動は一瞬ですから、コレほど明確で直ぐに結果の出るプランは有りません。

 問題は交易出来るか、『裏世界』の人達が帰ってきたら武力抗争まで発展しかねない事ですが、今は向こうに人は少ない好機です!社会を動かす歯車がスカスカなので、ボランティアと称すなり、国際支援と称すなりすれば簡単に取り入れられるでしょう!

 それに、『裏世界』から帰ってきた所で人口は最低50万、最高でも1億は行かないです。コレまでの様な64億人の世界レベルの圧力にはなりません。世界から国家レベルに落ちたのなら、一企業でもうまく立ち回れば長い付き合いも可能ですよ?

 

「…きみ、思ったよりも悪どいな」

「でも、悪く無いと思いましたよね?」

「…まあね。前はこんなことを聞けば、きみを論していただろう」

「くすくす、欲望を満たそうと考える時のねちゃねちゃした熱、初めての感覚でしょうけど、悪く無いでしょう?」

「しかもその座式比良くんとの協力はもう取り付けてあると来た…交渉は僕がやる事になるだろうけど、1番のオススメなだけはあるね。これで儲けられなかったら先祖に顔向け出来ない」

「はい!ですがまだまだありますよ!次は先日ニュースにもなった『南極鯨』です!」

 

 昨日の今日で現れたあのおっきなお山、南極大陸と今は言われてますが、その内それが非常に大きな鯨だと判明する物です。名付けるとすれば『南極鯨』、テレビの山の部分は閉じた口の先端ですね!身体は奈落に挟まっています!

 そんな大きな生き物が居るか?そう思っても仕方ありません!ですがそれは山を数十mも掘ればハッキリするでしょう!あの鯨の僅かな毛細血管でさえ我々には大きな血脈になりますから!

 利益は簡単、異常な性質を持った鯨の肉体。問題も簡単、その鯨の外皮や体内で生きていた怪奇達の存在。今はみんな混乱しているのもあって尻込みしてますが、そろそろ落ち着いた人達も出てきます。今行けば先行した分特許や怪具の製作に有利になるんです!

 

「それに異界の先鋒隊、余ってますよね?採掘班を作って行ってみましょう!遠征一回で確実な利益は出ますし、国が領地を宣言する前に基地を作っておけばそれだけで利益は出ます。初期投資は多く見えますが、怪奇関係としては破格な安さと安定性です!」

「これは君の目を全面的に信じる案になるね。…朝凪からは聞いてるけど、実際に会話していると全知の神様と話してる気分になってくるよ」

「魂がある、ないの差はそれだけ激しいって事ですね!この眼も、魂があるから乱発出来て、怪奇の情報を集められますから」

「…うん。それで、3番目もお願いできるかな」

 

 おっと、催促されました。地味に真倉のお父さんが一番気になってる部分ですね。

 お望み通りに説明しましょう!

 

 『ちい』になったあの日、大多数の人はその前日に真っ暗な異界に連れて行かれたと証言されています。実際、国から怪異と任命された新たな怪奇は、『ちい』になる身代わりとして働き、その対価に身体に異常な特徴を付け加えて行きました。

 貴方の場合はそのキューブですね!手から生み出せる正方形の影、しかし現状はどれも害悪な物はなく、ちょっとした芸が出来る程度。反面利益も有りませんが、今はこんなのを気にしてる余裕も無い。

 それを活用するやり方が有ると言ったら、みんな興味を示すに決まってます!だってそれ、「その人の心の活動を栄養にして成長しますから」!時間が経ったらその人を怪異にした存在に変化します!

 

「そうなのかい?それはそれで問題だけど…どうやって商売に?健康診断?」

「大筋はその通り、ですが其処から一歩踏み込んで、能力開発です!」

「能力開発」

「はい!心の活動…感情を栄養にするのが怪異です。それを敢えて促進させ、その上で制御できる様に開発する…医療関係が儲かるのはご存知ですね?なので、制御し易くなる様にしましょう!」

「…それ、人体実験が必須にならないかな。僕の所はその手のは専門外だし犠牲は出ると思うけど」

「死体を使いましょう!さっき言った南極鯨の件で死んだ人を使って、脳に電気と酸素を送って、怪異を促進して、制御する術を確立する」

「……バレたら不味くないかな」

 

 さっ!此処で取り出しますは怪具の作成書です!

 チカ達2人で徹夜で作った設計図ですね!

 

「‭─‬‭─‬と、言わなきゃいけない所ですが!今ならチカが制御する為の怪具の作り方を渡します!「怪具/怪異制御器」…材料に必要なのは『南極鯨』の血液と月人の科学力だけ!…どうですか?三点セットでお得でしょう?」

 

 それを聞いた真倉父は、チカの手から貰った設計図を捲り、それが確かな物だと確信した様子でした。その手の知識も持ってる以上、コレが成立する物だと理解してくれたみたいです!

 

「……怪具の作り方もその眼は見抜くのか」

「はい!チカは怪奇に関してなら知ってる事は多いので!」

「……今までよく話さなかった事を悔やみたくなったよ」

「それはコレから取り戻しましょう!」

「…うん、此処までされてやっぱり無しにするのは惜しいね。これが嘘で騙されてたとしても、その時は笑って許す事にしよう」

 

 お互いに手を握りしめ、チカの提案は受け入れられました!

 その後は細かいサブプランを選んだり、其々の具体的な話を詰めていきました。

 気が付けば日が暮れていて、最後は真倉のお父さんに直接家まで送り届けられたりもしたんですよ?すっかり気に入られたと思います!チカは偉い人に認められました!

 

「良かったねぇ。こっちは大変だったのに」

「楽なもんだぜ!」

「じゃあ、私の方を話そうかねぇ」

 

 2人で背中を洗いっこしつつ、チカは千歌にちょっぴり悪戯なんかもしちゃいます!

 

「それでは足指も…」

「其処までは要らない。足指同士絡めるのも必要ない」

「ごめんなさい!でも、くっ付いてると一つになったみたいで落ち着くんです!」

「阿修羅じゃ無いんだから…まぁ触れ合ってて落ち着くのは分かるけど…」

「心臓の音も、面白いくらいに同じです!」

「…お互い女の子で良かった…のかねぇ」

「くすくす、絵面が綺麗になりますからね!」

 

 くすくす、千歌は何をしても最悪嫌がるだけであんまり抵抗しないのが面白いですね!小学生なので興奮とかはしませんが、どれだけ距離感が近くても良いのはリラックス出来ます!

 2人だと髪に櫛を通すのもやり易いですし、結構便利ですね!

 

「まぁ気を取り直して…稲穂が黄色く垂れて、そろそろ収穫する時期の黄金の絨毯、その間となる畦道を歩いていた時からの話だ……」

「人の事言えない程度には気合い入れて話してます!」

「後から話すと気合い入れたくなるんだな、私は今知ったよ」

 

 


 

 

「夏奈、家はそっちじゃ無いよ」

「…あぁそうだったか。全く、ファストトラベルくらい用意して欲しいもんだね」

「お姉ちゃ、ウチにはわからない事ばかり言ってる…」

「夏奈、ここはリアルの方。多々良、お姉ちゃんはひゅんって感じに移動したいって言ってる」

「…なる!お姉ちゃ!一緒にあるこ!お手て繋げばつまんなくないよ!」

「…ネットじゃないなら仕方ないね。自分の足で行くしかないか」

 

 やぁ、橘姉妹と一緒に歩いてる俺だ。其々の世界観を擦り合わせるのが大変だぞ。

 商談をチカに押し付けたけど、やっぱり俺があっち行ったほうが良かったかな…ダル過ぎる。お互いの現状認識が全く一致してないし、擦り合わせても直ぐに不一致になるし…か、介護って大変なんだな。

 

「全く…子供が大変なのに親は何処に行ってるんだ…」

「霧っち、パパとママはお仕事なんだよ!神様をもてなすんだって!」

「そっかぁ…奇遇だね、私の所もそうだよ」

「おそろっちだ!」

「済まない、怪奇対応班への連絡をさせてくれないか?そろそろ『ゆらくも』が起きる時間なんだ」

「夏奈はもう帰ってきてるし、それ別の記憶だよ」

「……よし、記憶を混乱させる怪奇だな?すまないね、素っ頓狂なことを言ったみたいだ。それで、連絡の方法は?」

「もうやらなくていいんだよぉ。『ゆらくも』はもう死んだんだ」

「…そうか。どうやら記憶処理を受けた方が良いらしい。「忘れ箱」はどこだ?」

「そんなの今は無いよぉ」

 

 ずっとこんな感じだし、このループする会話も飽きてきた。なんとかしないとずっとこのままなのはダル過ぎる…2人の持ってるゲェムでなんとか出来ないかな。確か願いとTRPGだったし、真倉に回収されてなきゃ…されてそうだなぁ……なら、アレするか提案しよっか。

 

「2人とも、やりたい事が有るんだけどいいかな」

「霧っちどしたの?」「なんだいマスター」

「2人は怪異を埋め込まれたよね。それってどんなの?」

「あぁ、このアバターに追加されたこれかい?」

「知ってるよ!これだよね!」

 

 夏奈は白い靄を身体から出し、多々良は手足から糸を出現させた。どっちも実体はないし、自由に動かせるわけでも無い。今はまだ無害の怪異の一部だった。

 

「その怪異って人の感情で育つからさ。普通に過ごしてるといつかは暴走するんだよね」

「…それは一大事だね。そんな怪奇、メモにも無かったよ」

「暴走ってどんなの?」

「ん、普通に育てばもしもその人が怪異になったら…って感じの怪異になるかな。制御は出来るけど、それをするには専用の怪具が必要なんだよね」

「なるほど、切除してしまうのが手取り早いと」

「取り除くには死なないといけないから実質無理だよ。脳と心臓に根付いてるからね」

 

 神社の階段を登りつつ会話を続ける。妖精の手足で人並み以上の体力がついたお陰だ。見た目は少しだけ違和感があるけど、今のご時世だとそれはマイナスに働かないし、普段生活してると本当に有り難いと思う。

 

「なら、どうするんだい?まさか、人と纏めて殺すなんて事はしないだろ?」

「答えから言ってよ!」

「まぁ言っちゃうと、その怪異を態と育てて力を貸してもらおうって感じなんだけどね」

「…暴走するんだろ?」

「するよ。自分の感情だけで育てたらね。つまり、外部の物を取り込ませる事も出来る」

 

 元から怪異って不特定多数の関心興味から成り立つからな。暴走自体も1人から与えられる感情よりも成長して増えた消費の方が多いからだし。

 要はお腹が空いたら暴れるんだ。それを満たせるなら大きくなっても暴れないし、寧ろ協力してくれたりもする。一つ一つの怪異の自我が薄すぎて犬並みになってるんだよな。

 

「つまり外部の興味関心…怪異の餌を手に入れれば、すくすく育つ上に手伝ってくれる…と。それをするメリットはなんだい?」

「育てて良いことあるの?」

「あるよ、だから提案したんだし……ボケるのも周りに付いていけないのもイヤでしょ?」

「…私はボケてるのかい?」

「…なかよしなままだもん」

「まぁ、したく無いならそれでも良いよ。その内安全に育てられる環境が整うだろうし、その時に改めてやればいい」

 

 ただ、それまでの苦痛に耐えられるかというと…どっちも微妙だと思うよ。夏奈は暴力に躊躇がないし、多々良は心が幼い。

 どれだけ強く心を持ってても、傷つけられたら痛いんだ。痛いのはイヤだし、辛いのは避けたい。今の橘姉妹に、漠然とした未来への不安は耐えられるかな。俺としては耐えきれずに話に乗ってくれた方が今後の付き合い的に楽だぞ。

 

「……霧っち、それってあぶない?」

「危ないかもね?でも前みたいに世界が明るく見えるようになるよ」

「明るく…」

「今の多々良って周りがどう見えてる?前よりも何をすれば良いか不明瞭?見えてる物がどういうのか分からない?言ってることに付いていけない?友達の考えが分からない?」

「…ぜんぶ」

「だよねぇ。4歳なんてそんなもんだし。だから提案。怪異を育てれば良いことあるよってね」

「…………」

「ん、今すぐ決めなくて良いからねぇ?危ないし、少なくとも1ヶ月したら安全に育てられるだろうし。気が向いたら元気なチカに言ってね?私よりも安全だろうし」

「…聞いてみれば、随分と虫のいい話だね」

 

 お、夏奈が正気に戻ったか?多々良の事分かるようになったかな。ちょっとでも良いから見てあげてくれると多々良も心から元気になってくれるんだけど。

 

「夏奈、今のを聞いてどう思った?」

「怪奇は基本、閉じ込めて管理し、そうして初めてどんな利益が得られるか向き合える物だ。そんな急拵えの対応は、将来の為にならない」

「ん、その通りだねぇ。でも今欲しいって子、結構居ると思うよ?だから解決策もあるよって言ったの」

「騙すような真似を…人の心を弄ぶような事は、奉仕する物として見過ごせないね」

 

 ダメだ、夏奈全然正気じゃない。もう根っから機械としての在り方が染み付いてる。少なくとも人間だと忘れては欲しく無いんだけどな。

 

「ダメかぁ…脳が増えてくれれば良いんだけどな…」

「さぁ、武器を取りたまえ。決闘で決着を着けよう」

「コレに関しては何処の記憶だろ…何百年も生きてる人の思考ってぐちゃぐちゃしてるんだよねぇ」

「お姉ちゃ、早く階段登ろ?」

 

 うーん…人を駄目な方に誘うのは決闘の方に行くのか…やっぱりゲェム探すか?丁度橘の家に着いたし。

 

『……………』

 

「んー…『鎌蛇様』がぐったりしてる」

 

 そうして階段を登った先で、何故か『鎌蛇様』が姿を現した上で倒れていた。

 只事じゃ無いな、取り敢えず見て…今の俺に見る力は無い筈…なら夏奈達にも見えてるか?

 

「多々良、夏奈、神様見えてる?」

「神格はこの地域に確認されてないが?」

「何も無いよ?」

「見えない時期なのに私にだけ見えてるのか…」

 

 誘われてるのかなぁと取り敢えず近づき、思考を聞いたり興味が向かれてるか確かめたり…検診してみた所、どうにもお腹が空いているらしい。そう言えば神様って魂を食べるし、それが無くなったら食べるもの無くなっちゃうか。連鎖崩壊で神格は考えてなかったなぁ。うっかりしてた。

 それ考えると妖怪や悪魔もそうか。魂を食べて理性を得ていた奴と、魂を使って契約とかしてた奴。結構あちこちに支障が出てるなさては?

 

『……………』

 

「お腹が空いてるならご飯を用意すれば良い…『魂蟲』も居ないのにどうやって?」

 

 そもそも用意してやる義理はあるのかという話は一旦脇に置いておこう。橘家の仕事が無くなる危機なんだから。

 手立てはある。怪具は怪奇が消えても無くならない。なので「怪具/ムシカゴ」の蟲を使えば用意出来る。特に『人籠の三尸』は怪具の特徴も組み込んだから、中にいる蟲も含めて消えてない筈だ。

 だから、それが有れば良いんだけど…分けて貰った幼虫は使っちゃったし…そう言えば俺ってまだ魂あるよな?…なんで俺だけ見えるようにしていたか…食べる為じゃ無いか?

 

『寄越せ』

「ッわーお」

 

 肌に突き刺さる食欲を感知して、地面を蹴る。

 同時に妖精の両手を羽に変更、空中で軌道を変えて着地。

 着地と同時に妖精の両脚を多足に変更、『鎌蛇様』の大口開けた突進を回避と同時に引っ付く。

 

「蟲の脚は吸着力あるからねっと!」

 

 いやぁ、体力あるって素晴らしいな。

 片手を人の手に戻しつつ蜘蛛の糸を出せるように変更、もう片手を蚊の口と麻酔毒に変更。

 糸で固定しつつ突き刺し、麻酔を入れた後に寄生虫に変更し脳に伸ばす。

 生物に近い神様で本当に助かった。お陰でこういう対応ができる。

 

『…許さな「その前に終わるから、大人しくね」……」

 

 鱗が鎌の様に変形して、爪で切り裂かれるみたいになる直前、ギリギリで脳の支配は完了した。

 

 以上、お腹空いて冷静じゃ無い『鎌蛇様』の鎮圧風景だ。

 側から見たら突然見えない奴と取っ組み合いしてるように見えてたみたいだぞ。

 

「2人とも怪我はない?」

「霧っち、それ…なに?」

 

 多々良は『鎌蛇様』の脳を眠らせてる手を指さして動揺していて、夏奈は臨戦体制になっていた。

 

「ほら、多々良達の白い靄と糸と同じだよぉ?私の場合は色んな物に擬態できる手足。限度はあるけど、こうして便利に扱えるね」

「…それにしたって人から離れ過ぎやしないかな」

「そうかな。こんなの妖精なら誰でもできるし、戦闘に使えても生活だと手足としてしか役立たないよ」

 

 その手足として役立つがとてもありがたいのは言わなくても良いな。夏休み前は左手だけだったし。

 そこからは警戒する橘姉妹の警戒心を解いて、その間に『鎌蛇様』の脳や体質から代用品となる食べ物が無いか思案していた。

 警戒が解ける頃には日が暮れていたけど、時間をかけたお陰で『鎌蛇様』の食べ物にも目処が付いた。

 

「…じゃあ、暴走するとかは無いんだね?」

「ん、だから何度もそう言ってるよぉ。現にほら、ずっと話してる間も大人しかったじゃんね」

「………分かった。だから、神様を解放してくれないか?」

「納得できて無さそうだけど…良いよぉ、もう確認する事も終わったし」

 

 後遺症の残らない様に注意しつつ腕を抜き取り、蜘蛛の糸を回収した。糸とかを放っておくと腕の体積が減るからな。分離しないよう気を付けて扱わないとだ。

 

『……………』

「コレは独り言だけど、調べた限り『鎌蛇様』は炊いてない玄米とか食べられますよ。おかずとしては油を切った鶏肉や生野菜がおすすめです。魂に拘らず、穢れとか気にせずに食べてみてください。代わりに今までより人に見え易くなると思いますけど、参拝した人とかがその強靭な姿が見れないのは勿体無いですし、気にせず食べちゃってください」

『…………許す』

 

 そんな訳で、折角遊びに来たのにこんな結果になったのは残念だったが、寛大な処置で許されたなら問題なし。この調子だと『鎌蛇様』も生きていけそうだ。

 一先ず問題無しと見て、俺は橘姉妹と『鎌蛇様』に別れを告げて立ち去った訳だ。

 

 


 

 

「なるほど、それは大変でしたね!」

「戦闘なんて今日初めてやったし…挙句にあれだけ出来たのは運も良かったね」

 

 ただ…『鎌蛇様』でこの調子だと、神格は全員大変な事になってそうだ。今週が終わっても帰れるかどうか…父さんと母さんの仕事が無くなったら、本格的に眼鏡の分の借金が危ない。父さんが貯金してはいるから直ぐにどうこうとはならないだろうけど、もし完全に消えたら大変な事になる。

 

「それは…母さんや父さんに連絡した方が良いです」

「ん、だから帰る途中で電話しておいた。出なかったから留守電だけど」

「…いつもそうですけど、仕事中は出て来ないですよね」

 

 願わくは母さんの実家が神格関係を手伝ってくれれば万々歳だけど…今の実家の人達が果たしてまともな状態なのか…とても不安だ。

 

「とは言え、やれる事はしたと思います!比良ちゃんと真倉ちゃん、神様に母さん達への電話…2人になった分、二倍の成果です!」

「母さんの方はまだあるとは思うけどね、実際、1人だけだったら今週はどっちかしかやれなかったと思う」

「はい!だから千歌、この前の悪夢の夏休みにはならないです!チカが居ますから!」

 

 お互い食べ終わった食器を台所で水に浸けつつ、目を合わせる。

 確かに普段なら、今頃気力が消えて日常を送る生活をしていただろうな。未だ心に余裕があるのは、チカが細かく励ましてくれたり、一緒にご飯を食べたりしているからだ。

 最近は死者に祈るのも少なくなってるし、俺のメンタルは間違いなくチカのお陰で改善されている。同じ自分同士なだけはあり、俺の事はよく分かってるんだろうな。

 俺はチカの事そんなに理解出来てないけど。前世の自分とか当時何考えてたかあんまり覚えてないんだよな。…ここは一つ、要望を聞く必要がありそうだ。

 

「…チカ、ありがとうね。チカの言葉を聞いてると元気になる。さすが自分同士だって思うよ」

「…ぶへへ、どうもどうも!」

「なのでチカ、私にやって欲しい事があったらなんで「ダメです」…なんで?」

 

 

 

 チカの目が濁った気がするな?なんか地雷踏んだか?

 

 

 

「チカのお願いなんて聞かなくて良いんです。チカは良い子です。チカは欲張りません。チカは元気です。チカは愛玩犬です。チカはペット以下です。チカは奴隷で良いんです。チカは笑います。チカは正しく生きるんです。チカは幸福です。チカは後悔なく死にます。チカは裏切りません。チカは死にません。チカは従順です。チカに構わなくて良いんです。チカは寂しくありません。チカは食べられても良いんです。チカは人権がなくて大丈夫です。チカは自我を出しません。チカは品物です。チカはそこそこのお金になります。チカは手足がありません。チカは無力です。チカは苦しみません。チカは踊ります。チカは頑張れます。チカは捨てても大丈夫です。チカは喋りません」

 

 

 

「お、懐かしいのが出てきたね」

「チカはチカに愛されることは無いです」

「そう言えばそうだね。昔はそんな感じに…トラックに撥ねられてからはそういうメンタルだったっけ。他人に媚びないと生きてけなかったもんね。よしよし、変なトラウマ思い出させたね」

「チカは…チカは…チカは…」

「ほら、落ち着いてね。ここには私以外には誰も居ないんだから」

 

 まぁ、コレに関しては俺も克服はしてない。今だって手足が消えて、いつ殺されるのか気が気じゃなかったあの時期は思い出したく無いしね。ただ、俺には制限がかけられてるから、一瞬のストレスに強いだけだ。まぁ積み重なると流石に逃げたりもするけどさ。

 

「不便だったよねぇ?目も耳も聞こえずに、喋れてるかも定かじゃない。そんな状況で見えない相手に好かれなきゃいけなくて、相手が家族か他人かも確信できないまま生きる。そうだね、昔に戻ったならそっちも戻るか」

「あ…あ…あぁ…あ」

「ほら、見えてるし聞こえてる。喋れてもいる。手足だってもう生えた。幻覚でも夢でも無い。普段から触ってるし…ほら、本物だ」

 

 蹲って固まっているチカを布団に持って行き、力いっぱい抱きしめる。

 他人に好かれたがりだったり、悪戯して好かれてるか確かめたり、やたら俺と触り合ったり…トラウマが起因なのをすっかり忘れていた。こういうのは依存無しで戻すのは難しいからな、チカがいて助かるのは間違い無いが、用法要領を守って使わないとだ。

 小鳥遊薬だけに。

 

「りゅ、龍星、さ、寒いです…」

「お、反応があった。やっぱり猿渡先生ェは落ち着かせるのに最適だねぇ」

「あ、あう…い、いき、いきなり」

「はい深呼吸ー、吸ってー…吐いてー…吸ってー…吐いてー…」

「すー…はー…すー…はー…すぅ…ふぅ……すぅ……ふ…」

 

 深呼吸を行わせて、その間に髪留めを解く。多々良に貰った奴、チカのになったんだよな。

 そうして寝る準備を終わらせて、チカが寝付いた頃に、証とのデートで手に入れた兎の人形を身代わりにして、照明やお手洗いを終わらせた。全く、前世の事ながら面倒なメンタルだ。

 

「じゃあ、明日に備えて…おやすみなさい」

 

 






霧晴千歌/チカ
 コレでも共依存にはならない様にしてる。
真倉父
 ワクワクが止まらない。
真倉朝凪
 晩御飯で父がずっとチカの事を話してた。
橘姉妹
 その姿に恐怖を覚えた/とても綺麗な姿だった。
霧晴家
 ████の代わりに『人籠の三尸』は貸し出した。

『鎌蛇様』
 玄米とチキンサラダが美味しかった。
妖精(フェアリー)
 海外だとよく見かける。基本は羽を4枚、人や細いごぼうみたいな身体をした生き物。環境によって変化し、中には人に適応した種もいる。今は一瞬だけ宇宙に現れたデカい妖精に憧れて痺れてる。

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