先に言っておきますが、続きます。
やぁやぁ…お疲れなチカです…なんで疲れてるのか、お分かりですね?
「なぁんでまだ多々良への伝授があるんですかぁ…チカはもう真倉のアレで疲れきったんですよぉ〜?」
「チカ、気持ちは分かるけど初動が大事なんだよ。私も雪町に会いにいくし、お互い様だよ」
「それもコレも…全部千歌が采配を間違えたのが悪いんじゃ…?」
「…よし、行くぞ。そっちは公園、私は雪町の家だ」
「やすみたいぃ…ずっと千歌と寝てたいぃ…」
うだうだ言いつつ、公園に到着です…疲れました…もう帰って良いですか?
「あ、霧っち!おまたせー!」
「ふにゃぁ……ねむぃ…」
「…おつかれだ!でも教えて!」
「……ぁぁ…」
「おーしーえーてー!!!」
「よく見たら友達らしき人影も…10人くらい居ませんか?」
「みんな魂の代わりになるのがほしいんだって!」
だっっっるるるぅぅ……。大人しく魂が無いのを受け入れて帰ってミルクでも飲んで寝てろ…はちみつみるくよこせ…ねむっ…おなかすいた〜ぁ…。
「やるき…ぜろぉ…」
「霧っち…もう、髪もセットしてないしパジャマのままだし…肩出てる…スリッパのまま……やる気なくても教えて!!教えてからねて!」
「…………進化させたい方向性のウワサを言ってから…自分の怪異にそう言うの言ってからね?それがお前だって言う。育て過ぎたら毎日の餌用のウワサが増えるから程々に…3個も入れたら十分だから、毎日のご飯はブログ記事やツイート程度に留めておくように……」
「霧っちありがと!」
あぁ、お布団の中で惰眠を謳歌したい…千歌を抱き枕にして寝たいぃ…。
でも千歌行っちゃった…さみしい…ねむい…さむい…おそとさむい…なんか怪異いっぱいいる。
「ねぇ、このウワサはどうかな?」「私食べても太らない様にしたーい!」「人の思考を読む怪奇のウワサ…怪奇関係が穴場っぽい?」
「羽出せるし、飛べられたら素敵だよね!」「魂、噂で検索…なんかやけに少ないような…?」「妖精と宇宙の鳥の噂多いなー…妖精は会った事ないけど、キラキラしてそう」
其々が自分の怪異を出してますね…羽が生えたり、目が真っ黒になったり、影が浮かんだり…なんでそこで満足しないのか…幾ら普通なら月一の接触だとしても、今の多々良の声がけで10人も集まるんですかね?
「…よし!ウチのうわさは、「記憶を抜き取る怪具」と「記憶を忘れさせる怪具」と「記憶を思い出させる怪具」のうわさに決めた!お姉ちゃ、戻って来て欲しいもん!」
あー…良いや面倒ですし。正しいやり方はメインを決めた後にサブを二つなんですけど、シナジー決めると強さが増幅して最初に暴れるんですよねぇ…他にも似た様なの居ますし、お互いぶつけ合って消耗した所をみんなで叩けばなんとかなりますね?
取り敢えず…チカは避難しましょうか。
「千歌〜!お月以来だね!」
「久々だけど、それは増えた方のチカだからね。私とはアイドルコンサート以来だよ」
「…また変な事になってる」
「またって言うほど雪町の前で変な事したっけ」
「少なくとも、私が魔女になったのは千歌のせいじゃない?」
「…まぁそうだね」
やぁ、雪町に言葉で捩じ伏せられた俺だ。オシャレな喫茶店に居るぞ。
チカに足引きされつつも抜け出してバスに乗り、こうして雪町に奢ってもらっている訳なんだが…今回呼んだ用事は魔法を知りたいかららしい。
「と言われてもねぇ…私は全ての『魔法』を知ってるわけじゃ無いんだよね」
「えぇー?あんな頂上決戦してたのにー?」
「…バレる人にはバレるよねぇ。貰い物って言うか、必要最低限しか知らないよ」
「うーん…それは困った」
「知らないとまずい事でも?」
無糖の紅茶を飲みつつ、甘いケーキを食べる。人が少ないけど、落ち着いて良い雰囲気の喫茶店だからな。バスで15分…結構穴場なのかも知れない。
なんかのダークヒーローの拠点とかで使われてそうだし、「Stella」…イカしてるぜ。
「それがねー?棚ぼたで貰えたのは良いだけど、これって魂を基本にした怪奇でしょ?お陰でみんなから注目されちゃって…雰囲気を地味にする魔法とか無い?」
「んー、魂って無い人には匂いとかで感じ取られるもんね。魔法があるなら魂もそりゃああるか…」
「そういう事。偶然でも魔法を渡してくれた千歌の顔を立てて、あんまり大規模な使い方はするつもりは無いけど…アイドル辞めてから注目されるのは、なんだか複雑って感じ」
「それはそう。うーん…自分で調べたりは出来る?」
「むり!月の時に教えてくれた分は良いけど、それ以上はうんともすんとも」
チカの奴、完全に使い捨てのタクシーとして使ったな…魔法が使えると教えるだけ教えて放置したのか。
だけどなぁ…今からチカに聞くには向こうも忙しいだろうし、眼も今は使えない。
俺が来たのは失敗だったかな…いや、やるだけの事をしてから諦めよう。まだ早…良い事思いついた。
「そうだね…今使えるのは?」
「転移と念話だけー」
「それなら…自分の魂を直接見て確認しようか」
「なにそれー?」
「魂の物質化。本来なら全身変換されるんだけど、今は魂が無くても生きていけるしね。ノーリスクで抜き取れるって訳よ」
「…つまり?」
「魔法は魂に刻まれてる。なら、魂を物にすれば自然と説明書になる」
「おぉ、冴えてるー!」
やり方は簡単。魂が有れば誰にでも出来る。なんせ一言だけ言うだけだからな。
どんな形になるかは別として、見い出せる部分はある筈だ。
「それじゃ言うね? 『魂は現実の物になる されどそれは一時の物』…わっ!」
雪町が言うと、その背中から真っ赤な棘が生えていき、ゴロリと地面に転がった。
俺の背丈程、1m程度の赤い血の結晶が停止すると、一部分の棘が退いて、瞼が開かれた。
目玉の怪物に赤い棘が生えたそれは数回瞬くと、宙に浮いて雪町の周囲をゆっくりと回り始めた。
「おお、これが私の魂かー!」
「…好奇心の目と自衛の棘、魂が元だから敵意は本人に準じて…怪物らしさは怪奇への好意かな?」
「この状態で魔法は…転移出来る!」
「1時間したら戻るって規定したからね。その繋がりで問題なく使える感じかな」
見れなくても培った経験則は消えないからな。見て分かる事は少なくなっても、ゼロじゃ無い。
うん、ここで終われば良い感じに終わるんじゃないか?
「後はー…何か私の知らない魔法使ってみてよ!」
「魂に語りかけるって言えば使えそうな雰囲気あるよね」
すると棘目玉は数回瞬きをした後、その場でくるりと回り、棘の先端の軌道で陣みたいなのを書いた。どうやら使えるらしい。
どんな魔法かなぁ…大人しいのだと良いな…赤棘を持ったスライムが大量に出て来たから無理そうだな…。
べちょ、ガリ、ズズ…、
陣からスライムが落ちて、棘が床を傷つけて、のっそりと移動し始めた。
「おー!なんか出て来た!」
「なんだろうね…沢山居るし、喫茶店の床が全部埋まってるし…店長なんて顔以外スライムが貼り付いてるよ」
「お客様、他のお客が来てない間に片付けを行ってください」
「あはは!真っ赤なスライム人間だ!ごめんごめん、私の魂、片付けちゃって!」
雪町がそう言うと、棘スライムが集まって3m程の薔薇の怪物に変化した。
薔薇の花と茨の塊が絶えず茎を動かしていて、花の隙間にある目で辺りをキョロキョロと見ている。
どうやらこの怪物、自力で消えそうに無いようだ。困ったな、雪町の言う事は聞く様だけど置き場所に困るぞ?
「片付けは確かに収納って意味合いもあるけども…何を材料にしたんだろう」
「分かんない!でも可愛いよ!」
「そうかなぁ…動き方次第でカッコ良くはなりそうだけど、怖い人は怖いんじゃ無い?」
「まぁ良いじゃん?私この子気に入ったし」
「自分で作ったんだからそりゃあ気にいるよ」
自分が読みたい話を書いてから、記憶をなくして読み手に回ってるのと同じだもの。
なんだか雪町の魂の思惑通りって感じだね。
「じゃあ今後は棘目玉に頼んで『魔法』を使ってね。私はもう帰るから」
「えぇー?もっと話そうよー?折角会ったんだし、ここの支払いは私だぞー?」
「…分かった。遅くならないくらいは居るよ」
雪町が主導権は私にあると手をわきわきさせながら言うので、もっと居る事になった。
でもこれ以上話すことってあるかな。もうやる事やったし、果報を寝て待つ段階じゃないかな。
正直、もう帰って寝たいんだよね。今週は動き過ぎたし。
「むむ…千歌が暇そうにしてる…それなら場を温めるゲームをしよう!」
「…ゲームかぁ」
「うん!最近知ったんだけどね?『人権ばいばいゲェム』って言うんだよ!」
「やらない選択肢は」
「あると思うかな」
出口は怪物が塞ぎ、店主はこちらを意に解さずに平常運転だ。
左手にグラスを持って拭いてるし、その権利が無いみたいに認識していないな。
雪町を見る。心は一切の音を出して無かった。
寝ていても寝てる音が聞こえるのに…それすら無いのは死体くらいなんだけどな。
「定番の質問するけどさ、なんでこんな事を?それといつから?」
「私が、魔女になった時から、千歌を手に入れる為に、怪異から奪ったゲェムを魔法で改造して、だよ!」
「魔法が見つからないってのは」
「あはは、知らなかったのは本当だよ?魂を隠す魔法なんて無かったからね。でも、『魂の実体化』なんてすごい魔法を教えられるなんて思ってなかった!やっぱり…欲しいなぁ」
うっとりした顔っていうのは、きっと目の前の頬杖された物を指すんだろうな。
本当にどうしてこんな事をするのか、なんで俺が欲しいのかは知らないけど…帰って寝る為にはゲェムをしなくちゃならなそうだな。
…もう始まってたりするか?質問に簡単に答え過ぎな気がする。
「…もうゲェムは始まってるか?」
「うん、始まってるよ!その喫茶店に入ってから…あ、ゲームの説明義務があるから、今から教えてあげるね?」
契約書の存在がここでも発揮されるなんて俺は聞いてないよ!
「このゲームは【不思議いっぱいTRPG】と『約束を守らせる』魔法の組み合わせで作られてて、お互いの【権利】をチップにやるんだ!」
まとめるとこうだ。
2人でやる賭け事のゲェムである。合意は必要とせず、条件を満たした者を強制参加させる。
賭けるものは【権利】であり、その人物が持つ物とできる事なら全て権利として扱える。
ゲェムの内容は両者が公平な内容に限る。事前に用意する必要がある物に細工した場合、細工がされていた分は無効とする。
反則した者は全ての権利を相手に譲渡する。権利の価値は一般的な価値観に基づく。
賭けた物の価値が釣り合ってないなら、余剰分はゲェム相手の自由に指定できる分になる。
賭け物の追加投入は権利のある限り無条件で認められる。
「基本はこれだけ!後は自分たちで決めたゲームで勝敗を決めればいいの!苦労したんだよー?ゲームとして成立しないって何度も訂正されちゃったし」
ほーん、貴族の証の価値はどれだけあるかな。それで帰る権利を買いたいわ。
「それでどんなゲェム?」
「それは私も知らないよ。公平にする為に店長の独断で決めて貰ったから。店長、ゲェムの説明お願いね」
「どうも。今回のゲェムを務めさせて貰います。短い間でしょうがお見知り置きを」
「どぅもぉ…ゲェムで負けた感じですか?」
「はい。「反抗する権利」と「認識する権利」を取られましたね」
「結構重いの取ったなぁ…」
結構バリバリ魔法使いこなしてるわ。コレはもう真っ当に勝たないと無理だろうな。
やろうと思えば俺を力づくで誘拐出来る相手。このゲェムを持ちかけられた時点で優遇措置なんだよな。
「今回やるゲェムは、コイン選びの2択です。私が右手と左手、どっちにコインを持っているのかハッキリと言って当ててください。両方外れか当たりのドローになりましたらやり直し。15分経っても回答が無い場合はもう1人の逆となります」
頭使おうと思ったら幾らでも使える奴来ちゃった…でも幾らでも力づくでやれる奴でもあるわ。
そしてもう始まってる以上、既にコインは握られてるな。
「左て……むぁ…」
「あ、奇遇だね。私も左手だよ!」
さて、口の中に手を入れられて舌を抑えられたらどうすればいいかな。
まぁ、急いで言えたんだから大人しくするに決まってるよね。
「答えは…右手ですね。両者間違いです」
「ありゃー。スライムちゃんで確かめたのに…」
「可能な限りの公平が決まりですから」
「…ふぁふぇふぃんふぁ?」
それにしても…今の俺って何を賭けられてるんだ?
「あはは、宣言する時にそんなモゴモゴだと判定されないよ?今はどっちも「相手に反抗する権利」を賭けてるの!」
「では次です。どっちを選びますか?」
店長が両手をポケットに隠して言う。持ってるのが大事なんだし、どっちのポケットにもコインを入れてれば分からなくなって当然か。
「うんうん。千歌、残念だったね?もう私の勝ちだよ」
…うん、少なくとも、店長は一回目と変わらずに右手と考えてる。
「お選びください」
「右手!」『左手』
雪町がコチラを見た。
その目には、妖精の手の平を口に変えた俺が映っていた。
『自分の口なら再現できる。そういう手だよ』
「…妖精の手だったんだ!でも、心の声が聞こえる対策はしてるよ!」
模倣出来るの口だけじゃ無いけどな。
「答えは…どっちも持ってます。両者ともお見事です」
「いふぇーい」
「…なんで?」
「説明する義務がありますので、お伝えしましょう」
多分認識の権利で俺の耳の対策したんだろうけどね、それはそれとして店長から奪った「反抗する権利」はゲェムの進行の間は戻るんだよ。だって、反抗できない奴を進行役に置いたら公平じゃない。
ゲェムで権利を取ったんだ。本質的に、権利を本当に自由に出来るのはゲェムの方。だったら、ずっと右手にコインを持つとか、連続で同じ手にコインを入れるとか、そういうゲェムの間なら命令に反抗出来る。
そもそも、雪町って嘘付いてるんだよな。ゲェムの内容は知らないと言ったのにスライムに探させたりとか、勝利が前提になる様に作ってるんだよ。
でもね、ゲェムを土台にしたのが間違いなんだよな。今までゲェムやってたから分かる。そういう成立しないゲェムは特典の奴らの方が上手だって。
「なので、このゲェムの進行を務める間、マスターの命令は無効です…残念でしたね?」
「…っもう!…薔薇、両手」
「いふぁい…」
薔薇の怪物に手を貫かれて、椅子に固定化される。喋る手口が塞がれた。
「では……どうぞ、お選びください」
「…ふぅ、『透視する』魔法」
「ぶっう」
雪町がズルをしているが、特にこう言うのを規制している訳じゃ無いからなぁ…ゲェム中の努力は全て認められてるって言うか、反則の項目が今回は作られてないんだわ。
コイン当てるだけだもん。どうしようも…ないけど良い事思いついた。
「…左手にするから」
『私の賭け金に「華族である権利」を追加してから右手』
「薔薇!足も!」
今度は足を口にして賭け金の追加を宣言する。足は刺されたが、帰って裁縫箱で縫えば問題ない。
「基本ルールに則り承諾します。結果は…左手ですね。霧晴千歌の「反抗する権利」は笠木雪町に譲渡されます」
自分の中から反抗する思考が消える感覚というのは、眠い時に入ったベッドに似ていた。
抗うというより、安寧の中から出来る気力が無くなる感覚だな。
思考は正常なのに、今なら誰に何を言われてもその通りにしてしまうだろう。
ただ、布団の中で動く分には問題ない。自分の意思で動く事は出来る。
「………まだあるよね」
「はい。賭け金に追加された「華族である権利」も譲渡され、その分を今から霧晴千歌がゲェム相手から…笠木雪町から回収されます」
「命令、私から「魔女である権利」と「反抗する権利」を回収しないで!」
「いいふぉ」
「それ以上舌を掴むのは反則とさせて貰います」
「……もう!」
それを封じられても、何とかなる事の方が多いから問題ないな。
「ぷはぁ…やっと普通に喋れる…笠木雪町から「犯罪に該当する行為をする権利」を」
「はい、譲渡されました。まだ余剰がありますね」
「次に「霧晴千歌に自分から会う権利」、まだ余裕があるなら「同じ権利を所有する権利」を」
「え!?」
「最後のは霧晴千歌以外の権利のみであれば丁度で適応可能ですが…どうしますか?」
「ならそうしてください。そして、私に渡すなら、元々の持ち主に渡しておいて下さい」
「かしこまりました」
「…ま、待って。そんなに取られるの?」
「これは…準備が必要ですか…もう少ししましたら実行されます」
「ねぇ、答えてよ?」
「そりゃあ…華族がそれだけ重いからだね」
まぁ、相続税の支払いで謎に増えた部屋が減る様な国家が相手なんだ。
その一部、しかも中枢となれば、かなりの重さになる。日本国民全員に影響を与えられるからな。
そもそも、霧晴家が奈良時代から頑張って来て、上納で結構すごいのを渡して貰った物だからな。時間も実績も、全てが一個人には収まらない。
「準備が整いました。では」
「まっ…!!!」
それは、眼がまだ見えない俺でも見える物だった。虹色に輝く鎖、恐らくは【権利】という概念の物質化か、視認できる物にしたものか。
それが雪町の身体から無数に溢れて、薔薇の怪物や店長の身体に入り、大半は別の人の下に向かった。
俺からは、家に置いてあった貴族の証と、黄金に輝く鎖と首輪が雪町に渡された。
いい国作れよな。
終わった時には、雪町は気絶して、怪物も魂の目玉も無かった。
時計を見ると、既に1時間以上が経過している。権利の受け渡しは一瞬に感じたけど、どうやら単に「権利の処理の間、時間を正しく感知する権利」が無かった様だ。
多分、【人権ばいばいゲェム】自体が取り上げたんだろうな。
「…終わったかねぇ」
「えぇ、ゲームはこれで終了しました」
「店長は、もう店長に戻れました?」
「はい。お陰で全ての権利を取り戻せました。ありがとうございます」
「ん、淡々としてたけどいい采配だったよ。はいチップ」
2回目のコインで反抗してくれなきゃ俺は詰んでたからな。格好よく逆を宣言して、解説で誤魔化しながら普通に負けてたし。
「いえ、我々庶民の権利を取り戻してくださったお嬢様から貰うのは…」
「いいの。もう私も庶民だし、コレはほんの…私の「チップを渡す権利」を使っただけだからね」
「おっと…権利侵害はダメですね。では、ありがたく」
こうして、雪町とのゲェムは終わった。
あ、手足の貫通した傷口は変形で塞いでおいたから血は出ないぞ?包帯も店長に巻いてもらったしな。
「なぁ、怪異ってウワサで……」「もう不審者見かけなくなったなー」「仕事が終わらない…」
「てゆーかそれマジ?」「なぁあいつうざくねぇか?」「明日は晴れてるといいなあ」
「…やっと、みんな今に馴染んできたかな」
なんだかんだでもう夕方で、街は一応の落ち着きを取り戻した光景だ。
この後処理にも似た1週間は随分と大変だったが、ゲェムも怪奇もなんとかして、不穏な影を残しつつも日常に戻れる。
大体は俺の望み通りに事が運んだと思う。
「まぁ、結構良かったと思うなぁ…私は。色々あったけどさ」
ある意味では、今日は節目になるだろうな。
4月から始まった連鎖。ゲェムと怪奇の騒動は、一旦幕を閉じてくれる。
「ただ…怪奇はずっとあるし、怪異が幅を広げてきた」
「魂と異界が抑えてきた奴らも…今まで影に潜んでいた怪奇も出てくる」
バスに乗り、ぼんやりとした影を見て瞼を擦る。
そろそろ、ぼんやりと怪奇が見え始める頃合いだ。
不意の遭遇に警戒する必要があるだろうな。
「ゲェム関係は大体終わったなら…次はなんだろうな。怪異が厄介になりそうなのは分かるんだけど」
[次は〜鎌ヶ原駅〜鎌ヶ原駅[ピンポーン。次、止まります]〜]
[降りる方は、足元にお気をつけください]
「ありがとうございます」
鎌ヶ原駅に到着したので降りる。
未来は見えないから予想は付かないけど…
「こんにちは」
「ん?」
「今、青空ピアノ教室をやっててね?音楽が出来るのに誰も弾けないから、駅に置いたピアノを使って教室を開いてるんだ。君もどうだい?」
「あぁ、あの広告の…惹かれるけど…」
不意に、駅の中からピアノの音色が聞こえた。楽しそうな心の音と一緒に。
ちょっと迷って、つま先を変える。
「ごめんなさい。待ってる人がいるから、出来そうに無いです」
「そっか…それなら仕方ないね。来たくなったらまたおいで。この時間になら、いつでもいるから」
「はい。そうさせて貰います」
足先は団地の方に。
日常の一つを増やすんじゃなくて、
まだ逃げる訳には行かないからな。1人で楽しむ道を選ぶには、まだ俺には関わってる人が多い。
ブーーッ、ブーーッ、ピ、
「どしたん?」
[帰るのが遅いです!多々良達に教えて父さんも帰ったんですよ!?]
「ごめん。今駅に着いたところ。多々良なんか無かった?」
[むぅ…途中シナジーのあるウワサで怪異が暴れましたけど、父さんがやっつけてくれたので問題無しです]
「なら良いや。なんか関係で進展は?」
[夏奈のポンがなんとかなりそうです!多々良の操り人形にはなりますが、正気には戻れます!]
「達って言ったよね。他の子達は?」
[怪奇は怖いのは身に沁みたので問題ないと思います!]
「ほんとうかなぁ?……はぁ」
まだ、この大変な日常は続きそうだな。
俺のため息は、茜色の空に消えていった。
霧晴千歌/チカ
濃い経験を経てちょっと成長した/力尽きて寝てた。
橘多々良
記憶関係のウワサを使った。
笠木雪町
1人では何も出来なくなった華族の魔女。
青空ピアノ教室の人達
みんな死んだのに自分だけ生き残ったらここの壊れたピアノを弾いて完結になる。
日本国
霧晴一族を華族にしたと思ったら『魔女』を華族として献上されていた。笑って受け取った。
『魔女』
魔法が使える人間。華族になった事で国に怪奇として認知された。増やすことにした。
『ゲェム』
怪異から繋がる遊びの怪奇。既存の流用で自作も出来る。
『霧晴家』
霧晴一族の家。長年の死に関係した怪奇に関わった影響で独自の法則がある。
『皇族』
代々何故か怪奇に狙われてる一族。過去に完全なこの世界の敵として成り果てた事がある。