怪奇ばかりな日常とゲェム記録   作:何処にでもある

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 自分のやりたい事を優先したいですよね。




日常-操るって

 

 

「終わりだ……」

「まだ諦めるには早いです!」

 

「身長が……下がった…!」

「千歌ーー!!」

 

 やぁ、身体測定を受けている俺だ。身長が100㎝ぴったりになっていたぞ。4㎝減少…!

 恐らく手足を薔薇の怪物に刺されたせいだ。アレでダメな部分を切り取ったりしたからな。やっぱり魔女は滅ぼすべきなんじゃないすか?魔女狩りの時間だ…!

 

「あ、チカは6㎝伸びました!110です!」

「殺す…」

 

「なんだか千歌の分まで吸い取ったみたいですね!」

「殺す…!」

 

 ふざけんなよ…なぁ?ただでさえ、胴体は伸びてるのに手足が短くなって不恰好なんだぞ?

 その上で4㎝……重い…あまりにも…!なのになんでお前は10も半年で伸びてるんだ?

 

「この…!妹扱いされたい癖にデカくなって…!」

「わぁー!でもパワーでは負けです!」

 

「千歌達、五十歩百歩って言葉を知ってる?」

 

「あ、朝凪。其方はどうなの?」

「5㎝よ。これで126になったわ」

「もう…頭一つ離れちまったね」

「これが親が3人居る力よ。大きくなったら2人とも抱えるくらい大きくなってやるわ!」

「頼もしいですけど…千歌は渡しません!」

「そう、ならアンタから頂こうとかしら?」

「ひぅ……お、お手柔らかにおね  」

 

「うぅー…その内見上げるだけで首が疲れそう…」

 

 なんかラノベで見た様な応酬とキスが有ったが、そんな事よりも身長のショックが激しいんだわ。

 もうね、無理。俺は手足が千切れない程の筋肉盛り盛りマッチョマンの化身になりたいのに、世界がそれを邪魔するんだから話になんねーよ。

 

「あ"あ"ーー…返してよ私の身長…返してー…」

「おや霧晴。反復横跳びに来てどうしたんだい?」

「あ?……なんで朝凪達はあそこに留まったままなんだろ」

「なら霧っち、ウチらと一緒にやろ!これならさみしくないよ!」

「…そうする」

 

 真倉達を置いて来た結果、俺は緊急避難として橘姉妹の間に入る事になった。

 休日跨いで学校に来て驚いたんだけど、夏奈が戻ってたんだよな。多々良も指から糸出して夏奈を操ってるし、何が有ってその関係に落ち着いたのやら。

 知らないけど、夏奈の自由意志はあるみたいだから放っておいても良いだろう。どんな感覚か聞いたら、ネプライザーを付けてる感覚って言われたからな。

 多分耳鼻科にある両鼻穴に突っ込んで吸うアレだ。息苦しいってのは間違い無いぞ。

 …本当に大丈夫か?

 

「じゃあカウントするねー!」

「いつでも来[スタート!]…出遅れたわぁ!」

「1…2…3…4…」

 

 うむ、長い時間の運動は本当に無理だわ。なぁ橘、この後に10分走り続ける奴が来るって本当か?あぁ、マジだぜ。

 

「こひゅー…ひゅー…」

「おつかれー!記録は27だよ!」

「ご…み…か…うぇ…」

「まぁまぁ、人それぞれだとも。さて、次は私の番だね」

「がんばー…」

「お姉ちゃがんばえー!!」

 

 結果?60行ってた。多々良ぁ、お前の操作無茶させ過ぎじゃないか?どうやったら記憶関係と糸で肉体操作出来るんだよ。

 

「は…!どう…は!…だい!…すごい…だろう?」

「多々良ぁ…お姉ちゃんの操作ってどんなの?」

「んーそれはねー…『人形』に命令するのをつよくしたかんじ!」

「無茶はさせないであげてよ。頑張れの一言で頑張らせすぎなんだよ」

「千歌、よくぞ言ってくれたね…!」

「ええー?でもお姉ちゃならこのくらいできるよ?」

「霧晴、心配は無用だとも!」

「なるほど、千歌って言う時は本人。霧晴って言ったら言わされてる感じかぁ」

「もっとしっかり説得してくれ千歌!」

「多々良、お姉ちゃんも嫌がってるからメっだよ」

「…わかったー」

「心の友よ!」

 

 なんだかんだ姉妹だからか、ゆるーい感じだな。姉として見てる間なら特に問題も起きないだろう。そんな関係だわ。

 その内『人形』として見做しそうなのが怖いけどね。

 

「よし、最初の長座体前屈ですごい記録を出せたよ」

「霧っち、うでを伸ばすのは反則だと思う」

「うん。だからやり直しさせられて前回より短くなった」

「うでが短くなってるもんねー」

「おかしいな…全体的に弱くなってるぞ?」

 

 まぁ、ご覧の通りだ。やっぱり普通の身体の方がいいんだろうな。

 視力はメガネ有りで相変わらず最低だし、聴力も一回聞き逃したし…心の音で騒がしいんだよ。

 他のだって、ボール投げや腕力とかの一発勝負なら兎も角、大体前回より悪化していた。

 

「…怪奇関係のテストが有ればなぁ」

「まぁ、千歌のすごい所は肉体じゃ無いさ。得意なことを伸ばして行こう」

「夏奈…全身をぷるぷるしててそっちに気がいっちゃうねぇ」

「正直妹が手加減してくれなくてツラい」

 

 体力測定も終わり、放課後で2人で駄弁って居る時の会話である。チカは証の所に行ったよ。改めて話してみたいとか何とか。

 

「まぁ一緒に居ない間は自由だし良いじゃん」

 

 俺なんてあらゆる命令に対する反抗が出来なくなったからな。

 なんだかんだ返されて無いんだよなぁ奪われた権利。強い口調で言われたら誰に対しても逆らえないし、なんだかチカから聞いた真倉のアレや、聖女だった時のチカになった気分だよ。

 バレたら一瞬で首輪付きになると思うと日常の一コマでも恐怖があるよな。

 

「そうだね。多々良なりに手を尽くした結果だと思うと、あんまり強く言えなくてね…だから困ってるんだ」

「今日だけでも結構操られてたしねぇ…不快感が有るのは聞いたけどさ、アレってどういう仕組みなの?」

 

 夏奈は足を組んで、浮いた足を揺らして悩んだ後、教える順序を決めた様だった。

 

「チカが雑に教えた怪異の育成。その結果、多々良のただの糸は記憶を通して人を操る物に変わった」

「だねぇ。見た感じスキル…一個体の持てる変化には含まれてないっぽいし、それが自由に揮えるなんて、なんだか穏やかじゃ無いよねぇ」

 

 あの怪異、今までの情報を纏めてみたら、ただその人の近くで居て、ご飯もくれるなら言う事も聞くだけで、スキルとして契約した訳では無いんだよな。

 怪奇もスキルとして含まれるのは『家守り様』とかで分かっているからこそなんだけど、もし怪異側に都合悪い事が起こったらパッと離れると思うんだ。

 スキルに含まれるかどうかの違いは、飼い犬と公園にいる鳥に餌を撒いてるかくらい違う。

 だからあんまり調子に乗るのは危ないんだよ。企業とかの支援が必要なんだ。

 

「そもそも、怪異のやってる事はかなりの無法だ。折角の怪奇と関わらせない為の怪具を無効化して、普段は怪奇に関わらない人にも影響を与えている。それが与える影響なんて…」

「いやぁ、一時の感情で悪さをする人が出そうだよね。特にゲェムとか、ゲェムとか、ゲェムとか」

「…【かなたらの願い】は確かに酷いものだったが、怪異と関係あるのかい?」

「その前に多々良の事だよ。話が逸れちゃった」

 

 最近雪町にゲェムを挑まれたからな。ゲェムの出所は怪異らしいし、その内ゲェムが広まりそうなんだよね。

 おかしいなぁ、こびり着いた汚れ並みに消えないよ。いい加減消えて欲しいわ。

 

「…まぁそれもそうか。怪異を育てた多々良は早速私に糸を繋げてね。ゲェムの記憶をディスクにして取り出したんだ」

「おぉ、記憶をディスクに…怪奇にしたってどう言う原理?規格とか合うの?」

 

 俺の知ってる怪奇は自然現象らしさが有るんだけどな…魂とか魔法とか神格とかさ。

 ディスクなんて人工物にまで加工出来るのは知らないな。近い物だと…ゲェム?

 

「あぁ、家のプレイヤーで再生も出来たし、切り取り機能とやらで重要な部分だけ見たり、私に入れ直したりも出来た」

「わぁ、怪具のウワサを組み合わせただけ有る感じだ。利便性が高いねぇ」

「特に、記憶に刻まれた感情を読み取って再生する機能は便利だったよ。お陰で、経営や交渉と言った場面以外、怪奇との遭遇の経験や、大事な記憶は取り戻せたからね」

「そりゃあすごいねぇ。とても元がただ糸を出すだけとは思えない変化だ」

 

 俺も怪異の成長のさせ方は知ってたけど、やったらどうなるかは把握してない。

 こんなそれだけで商売に出来そうな怪異に育つのは思ってなかった。

 …コレと同じレベルが量産されるのか?やばいな実質怪具の甲持ちが増えるのと同じだよ。

 

「そして操作能力だ。10人までなら支配下に置けるらしくてね。記憶を差し込めると言っていた」

「あぁ、「自分でやろうと思った事にする」のね。記憶の捏造だ」

「そうだね。幸い私はこの事をまだ知ってるから、推察で分かる」

「千歌と霧晴で呼び方違ったし、発言とかは本人のエミュ次第かぁ…それでも無法じゃ無い?」

「まだ視認してる間しか操れないらしいけど…それも怪異への理解度が低いからそうなってるだけっぽいからね……道を踏み外さないか心配だ」

「それ、周りにバレたら仲間外れになりそうだからねぇ…いじめとか心配だなぁ」

 

 人を操れるとか一緒に居るの怖くなるもんな。まだ知ってる人は少ないけど、もしもみんなにバレたら…考えるだけで震えることが起きるな。

 

「…いじめ?」

「え、夏奈は知らないの?」

「すまない。未来の体験で聞いたとは思うんだが、今の大事な部分しかない私は知らないな。良ければ教えて貰っても良いかい?」

 

 嘘だろ?善意しか無いってここまで純粋だったのか?

 雪町とか容赦なくゲェムで俺を手に入れようとしたのに?……寧ろ、力づくでやれるのにゲェムで済ませようとしてる辺り、まだ悪意の扱いに慣れてないのか。

 まだまだ上を狙えるって怖いな。

 

「ええとね、逆らえない様に相手の心を折るんだよ。目立たない傷を付けたり、心をねじったり…拷問や使い捨ての玩具にやる行為が近いのかな…?」

「拷問と玩具の扱いで心を折る……?」

 

 あれ、コレで伝わらないのか?逆に拷問とかが辛くないならどうやるんだよ。

 

「ん…例えば拷問とか何をやったりする?」

「え?嘘が吐かなくなる怪具と心を読む怪具で情報を取る…だけど…後は裏切りたくなる物で交渉とか…」

「よし、未来の人道と道徳の高さは素晴らしいね。ここは戦争や中世の時の拷問を…」

 

 ダメだ、怪具のせいでその手の技術が発展してない。未来の人道的な拷問の知識だとダメだ。

 ここはスマホで検索してやねぇ…何々?

 

「中世では…夏奈と似た様な話だなぁ…戦争…も同じだな。そういえばマイケルは…なら怪奇に対する対応で…有った有った」

 

 幾つか調べて、最終的に昔の怪奇に対する対応を渡した。

 人相手の手の甘さに変だと思ったけど、これ『性善説』がかなり前から居るせいだ。訳あって争う事はある。憎しみや恨みでの争いはとても少ないけどある。でも、怪奇の影響による多少の連帯感が、怪奇が関係してない物への対応を甘くしてたんだ。

 

「…怪奇に取り憑かれ、制御できないと見られた人物を生きるのが困難な環境に……確かに誤解で普通の人に同じ目に遭わせたりも有ったけど、それは…仕方ないんじゃ無いかい?」

「無知による迫害は悲しいよねって顔してるけどね、こう言うのを態とやるのがいじめなの」

「………? なんで? 怪奇じゃないのに?」

 

 味方と敵の関係性が、ずっと人間対怪奇なんだよね。敵相手なら幾らでも容赦なく出来るのに、それが同じ人間に向けられるのが少ないんだよ。

 ふむ…善意ってのは価値観によって変わるから、昔になる程失敗や誤解で迫害する事になったのか。

 つまり……しまったな。いじめの説明で主語を大きくしちゃったよ。もっと端的に言わなきゃ。

 興味深いけどね、今はそうじゃ無いわ。夏奈に分かるように説明しなくちゃ。

 

「……怪異は怪奇。もし制御出来なかったら怖いことになる。なので怪奇として多々良共々排除されるかも知れない。その手段は問われない」

「…なるほど、そういうことか。確かに記憶の操作は怪奇としても厄介な相手だった。多々良と一緒に廃棄した方が良い…か」

「そう。そうならない為に怪異は隠しておこうねって事と、そうなったらどんな手が使われるのか分からないよねって事」

「確かに…これは警戒しないといけないな」

 

 夏奈は納得した様子で頷いた。結局いじめは何なのか問題は流されたけど…感情からの差別が今まで無かったって事だし、それ自体はいい事だ。

 つまり、それ相応の理由が有れば…でもそれ前世でも同じだな…俺は何を問題に感じたんだろ。分からなくなってきたな。

 

「うーん?」

「…?どうしたんだい、千歌」

「なんだか思考が纏まらなくて…」

「分かるよ。魂が無いと自分が何を考えていたか分からなくなる時があるからね。私なんてつい最近までしょっちゅうだった」

「なんか良いアドバイスとかある?」

「疑問に思ったキッカケに戻ると、結構良い感じになるよ。初心に帰る…だ」

「なるほど…」

 

 キッカケ…いじめを知らなかった事。

 不思議なところ…いじめみたいな行為はある。怪奇全般の敵意とか、誤解による迫害とか。

 うん、誤解でやったならいじめにならないか?なのに何で無いんだ?

 スマホで検索しても子供の虐待やDVとか無いし…真倉とかまんまコレなのに…。

 

 やられた側がそれが当然だと思っていたからか?

 確かこういうのって被害者がそう思わないと該当しなくなるよな。

 『性善説』は善人にする怪奇だから…結果として、被害を受けた側が善人だとするなら、どんな行動が善になる?

 

「善と悪は相手がどう受け取るかだから…」

 

 もしかして…訴えるって選択が無かったのか?

 どんな扱いをされても?

 

「誤解が解けたら先ず「許す」と「許さない」があるから…はぁ、コレ以上考えても仕方ないか」

「考えはまとまったかい?」

「まぁね。実例が無いと話にならないのが分かった」

 

 昔に関してはもう過ぎた事だし、こういうのを抽象的に考えても堂々巡りだ。

 難しい事を考えても仕方ないし、そんな事よりも今日の晩御飯について考えた方がいい。

 何より、母さんも強くなったっぽい影の怪異を連れて帰ってきたんだ。今は何も起きてないけど、その内大変な事になりそうなのは爺さんから聞いている。

 目の前の事を何とかしないと、話にならない。

 

「そうだなぁ…もう遅いし、私達も帰ろっか」

「9月になって日が暮れるのが早くなったからね。そうしようか……」

 

「…どうしたの?」

 

 ランドセルを背負って教室を出ようとしたら、なんか夏奈が立ち止まっていた。

 

「…霧晴、今から私の家に泊まって貰っても良いかな」

「なんでぇ?」

 

 急にお泊まりとか言われてもな。教えて欲しいわ。

 しかも俺がそっちに行くし、霧晴って事は多々良が喋らせてるじゃん。

 

「……どうしてもだ…泊まってくれ」

 

 あ、命令になった。

 

「いいよぉ」

「…え?良いのかい!?理由も私だって分からないんだぞ!?」

「夏奈と多々良の頼みなら仕方ないよねぇ」

「だいぶ怪しいと思うんだが!」

 

 命令になったから従わないとな。権利が無いから仕方ない。

 それはそれとして夏奈達の頼みだからって言い含めはするけどね。

 

 ふむ…思考が切り替えられるってこんな感じなんだな。RTAをする時の切り替えを強制的にやられたみたいだ。

 

「多々良が事前に命令仕込んでたりしてた感じかねぇ」

「かも知れないから、今とっても焦ってるんだ!」

「まぁ理由もなく家に来いなんてねぇ…なんでこんな事言ったんだろうね?」

「知らない…私も今急に言わされたから知らない!」

「神様に何かあったのかも」

「それならまだ良いんだ…問題は…」

「問題は?」

 

 俺と夏奈は校門から出て、その足で橘の家に行く。

 自分の意思に見える自然な足取りが、まさかどっちも操れるものとは思わないだろうな。

 俺だって出来れば自分の家に帰りたかった。

 

「…最近、というより魂が無くなって以来、人々の欲望が増えたのは知ってるだろう?」

「うん。私の母さんなんて会って直ぐに全身舐めて来たよ」

「それはそれでヤバくないか?」

 

 団地を通り過ぎて、畦道の方に行く。歩いてある間に橘の家に泊まるのは連絡しておいたから、もし助けを呼んだら来てはくれるだろう。

 

 着替えや荷物は…今からって言ってたし直で行かないとダメだろうな。

 

 …へぇ、反抗しないって、命令した相手の都合が良いように解釈されるのか。なら後出し命令優先かな。先んじて命令されておいて無効化とかしない為にさ。

 

「私はボケからの回復で特に大きな変化は無かったけど、多々良は違ってね」

「なんか変な動きしたりしたの?」

「あぁ、急にSNSの投稿を小まめにやったり、友達の中でも能力のある子の意見は優遇したりし始めた」

「ギャルの負の側面じゃんね」

 

 まさか…チカが怪異の事を教える時に居たらしい10人の友達って…優遇として連れて来たのか?

 その集団のリーダーになれば、学校なら権力的に頂点になれそうだな。

 

「それと、最近やむ…とか家でぼやき始めてた」

「とても中身が4歳とは思えないねぇ」

「…私の記憶から作ったディスクだよ」

 

 マジかよそれ先に言ってよ。

 それ有りならもうちょいしっかり聞いたよ?

 

「自分にも入れる事できるんだ…」

「うん。お姉ちゃと同じになりたい!って言ってね。その結果、腹黒い世間の流行に敏感な16歳くらいのメンタルを持った子になった」

「まぁじでぇ?」

 

 ふぅん。いじめをされる側じゃ無くする側になる事を心配した方が良かったということか。分かるか…そんなの。でも小学生に囲まれた女子高生ってそこまでガチな立ち回りするかな。

 少なくとも俺の知ってる多々良は割といつも通りだったぞ。演技にしては変わりないし、腹黒いかなぁ?

 

「私が知ってる多々良のままだったけどなぁ?腹黒いってどんな所?」

「私の交渉や社会経験のせいだろうね。意地悪をしたり好きな物を独占しようするんだ」

「例えば?」

「私が好きな肉じゃがを取ったり、トイレに行こうとしたら我慢をさせられたり…」

「好きな子に嫌がらせする奴じゃんねぇ?」

「学校が好きだから支配して独占したいとかも言っていたね」

「好きな物の独占にも限度があるよねぇ…コレさ、先に話して欲しかったな」

 

 神社の階段を登りつつ、大変な事になったなぁと思う。

 でも動機は軽そうだし、何かあってもそこまで酷い目には遭わないだろう。

 

「…積極的に話したくないってさっきまで考えてたんだ。今思えば、先んじてそう思考するように記憶を差し込まれて居た」

「自分の意思で考えたと思わせられるってすごいよねぇ。ゲームのラスボス張れるよ」

「実際、まだ怪異について広まってない現状であれば、やろうと思えば相当な事が出来そうだ」

「今だって私達、のこのこ歩いてるもんね」

「…千歌は帰ろうと思えば帰れるだろう?」

「そうして欲しいならそうするよ」

 

「おかえり!お姉ちゃん、霧っち!」

 

 そんな訳で、女の子らしく長話をしている間に神社の横の橘家に到着した。

 にへらと笑って出迎えた多々良は、どう見ても悪い事はしない人の顔だ。

 

「ただいま、多々良。…どうして千歌を泊まらせたいんだい?」

「頼まれたし今日は泊まるけど…急だよねぇ?」

 

「それはね、お姉ちゃんの記憶を体験したからだよ」

 

「…どういう事だ?もう少し詳しく言ってくれるかい?」

 

 多々良はいつも通り、元気な笑顔だ。

 いつもと違う点を挙げるとすれば、その指から糸を漂わせてる事だろう。

 一つは夏奈に。それ以外は何処にも繋がっていない。

 コレ、一度繋がったら外せたりするかな。教えてくれたら良いんだけど。

 

「お姉ちゃんっていつもいつも、ずっと霧っちの事を考えてたよね」

 

「あぁ、声の齎した情報は小まめに確認してたからね」

 

「ウチの事、全然考えてなかったよね。ウチの事を庇って死ぬくらい好きなんだよね?なのになんでずっとウチの事を考えてくれないの?」

 

「いや、千歌の情報は頼りしてたけど、好きと言うより信頼で…」

 

「祭りの時に千歌なんかの為に死ぬとか言ったのは?ウチじゃ無いの?家族よりその女の為に死ぬの?」

 

「あ、いやそれは…」

 

 やべーぞ修羅場だ!俺帰って良いかなあ!こんな争いに巻き込まれたく無い!

 

「お姉ちゃんはずっとそうだよね。ウチよりもみんなみんな、世界が社会が技術が、滅亡だの地球がだの…ウチってバカだからさ、お姉ちゃんはすごいって、だから仕方ないって思って諦めてた」

 

「でもやらないとみんな死んじゃ」

 

「そうやって!!!! ウチを1人にして!!!! ずっとずっとずーーーーーっと!!!! 一番大事なのはウチでしょ!? ならさ、何が有ってもウチが全てじゃん!!! みんなじゃないじゃん!!! 一緒に居てよ! 大事にしてよ!………大事にされてるって思わせてよ」

 

「…大事にしてるとも」

「どこが?」

「それは「ウチが一緒に居たいって言った時、ごめんの一言で倉っちの所に行ったじゃん。ウチが遊びに行こって言った時、時間がないって真倉の所に行ったじゃん。ウチの誕生日の時、サプライズされたらどうしようってワクワクしてた時、結局いつも通りあの女の所に行ったじゃん。プレゼントくれたの、霧っちとパパとママだけだよ?ねぇ、なんで何も無かったの?ウチバカだから分からないんだー…」

 

 あ、5月にプレゼントしたの覚えてたんだ。放課後にサラッと渡しただけなんだけどな。

 怪奇も特に無かったから普段の会話の範疇で処理してたわ。

 

「…忘れてた」

「は?」

「ずっと昔の事だったし…無の世界に入れられてたから…でもマスターとかなら「黙ってくんない?」……」

「其処はさ、言い訳する場面じゃなくない?」

 

 そうだぞ夏奈。ここは良い感じの言葉と一緒にプレゼントは私だとか何とか言って誤魔化す場面だ。知らんけど。

 

「…………「良いよ喋っても」……ごめん」

「謝んないでよ、そんなの求めてないから。……ウチさ、お姉ちゃんの事が好きなの。わかる?」

「…うん」

「ならさ、遅れた詫びも兼ねてさ、自分の一つや二つ渡してよ。自称奉仕する機械なんでしょ?そのくらい分かんなきゃ困るよねー」

 

 しゃあっ俺合ってたわ。やっぱり多々良の思考は分かりやすい方だわ。このくらいの心は理解できなきゃ媚びなんて売れないよねチカ。

 

「…あーあ、ウチもう怒っちゃった。夏奈のせいでやらかしちゃうな。霧っちにひどーいことやっちゃうなー?」

「え、其処は私じゃ無いのかい?」

「ククッ…思いあがんないでよ、お姉ちゃん?そんなのさ、罰でも何でもないじゃん?ウチよりもみんなが好きなんでしょ?それに千歌の騎士になりまーすなんてさ…だったらお姫様に酷い事すれば、ナイトさんなお姉ちゃんは傷つくでしょー?」

 

 はーっ夏奈よその余計な事しか言わない口を塞げ!俺はもう覚悟は済んだぞ。

 

「多々良ぁ、どんなのやるの?痛いのは嫌だよ?」

「大丈夫だよ、霧っち!大事なお友達に傷つける訳ないでしょ?安心して、のんびりしててよ!」

「分かったよぉ。リラックスしてるねぇ」

 

 わぁ、急に落ち着くな。

 命令だからのんびりリラックスするけど、余計に何されるか分からなくて怖いわ。

 

「…ど、どんな事をするんだい?」

「心配する様な怪奇解体ショーみたいなのはしないよお姉ちゃん。『人形』にするなんて、友達にする事じゃないもん。ねー?霧っち」

「だねぇ。多々良はそんな酷い事はしないよねぇ」

「酷い事はするよ?だって分からず屋のお姉ちゃんを分からせる為だもん」

「言葉のあやって面倒だねぇ…傷つけないね。うん」

 

 …玄関で何やってるんだろうな俺達は。そろそろお腹空いたし上がっても良いか?

 

「じゃ、じゃ、勿体ぶらずに早速やっちゃおー!」

「お、おー?」

「それじゃあ霧っち、ちょっと糸を括り付けるね?あ、ウチが解くか首を切るかでしか解除出来ないから、安心してねー?」

「…結ぶのが自然で抵抗する事もできなかったねぇ」

 

 へぇ、反抗する権利が無いとこういう首に糸を着ける行為も反抗出来ないんだ。

 思ったより不便だなぁ。

 

「…多々良、こんな事はやめなさい。千歌は関係ないだろう」

「あ?」

「あ…」

 

 夏奈ぁ…余計な事は言わない方がいいのに…でも指摘したら俺への対応も悪化しそう。

 ここは多々良が満足するまで多々良を全肯定しなきゃいけないのに…。

 

「へー…まだそんな口きけちゃうだねーへー?霧っちー、早速で悪いけど動かすね?」

 

 する、する…、

 

「…?…え、お、身体が勝手に動くねぇ?」

「すごいでしょ?使い慣れて来たから、思考とは別の事も出来ちゃうんだー!」

「すごいけど、なんで服を脱がなきゃならないの?」

 

 なんだろうな。人が関係する怪奇って性的なの多いよな。母さんもそうだったけど、やっぱりみんな頭が猿になってるのかも知れん。でも小学1年の全裸なんて需要があるのか?

 お風呂が終わって全裸で走り回る子供並みに需要がないぞ。さっさと服を着て寝ろって言われるだろうな。

 

「じゃあ2人とも、一緒にご飯を食べよっか!」

 

 多々良はそう言うと家の奥に向かったので、その後ろを俺たちも着いていく事にした。

 服?勿論着ないままスリッパとメガネと手袋だけだ。ランドセルは玄関に置いておく感じだな。

 

「…何がしたいんだ?」

「夏奈が余計な事言ったからねぇ…私も分からないよ。でも寒いのは確か」

「9月の夜は冷えるからね。…その格好で歩かせるのもなんだね。少々失礼?」

「……おぉ、お姫様抱っこだ」

「くく、ランドセルも無いし軽いもんさ」

 

 夏奈の体温で多少マシになったな。でもコレ余計に怒らせないかな。やっぱり降ろして貰ってもいいか?

 

「やっぱりお姉ちゃんはそうしたんだね」

「あ、多々良…」

 

 ちょっと頼むのが遅かったかな。多々良がなんか持ってこっちに戻って来た。

 何やら手招きされてるので、夏奈から降りて多々良の方に行く。廊下を曲がってしばらく歩いたから、置いてけぼりの夏奈には見えなくなったな。

 

「…まぁいいや。ほら霧っち、を着て?」

「コレは…コレは…え、マジでなにコレ?」

「逆バニー」

「すごいなぁ、ばにーも逆も分からない。だって服じゃ無いもん」

 

 うさぎの耳と長袖と確か…すとっきんぐ…だっけ?股までは届かないタイプだな。うさぎの尻尾は無いんだな。

 逆って言うけどさ、そもそもバニーって何だよ。前世で聞いた事ある気はするけど…なんだっけ。

 まいったなぁ、もしかしたらトラックに撥ねられた拍子にロストしたかも知れない。今更分かった新事実だわ。

 でも胸も股間も丸見えなのはどうなのよ。うろ覚えだけど確か接客の仕事でしょ?風俗じゃ無かった気がするんだけどな…。

 

「え…コレ誰が考えたの?」

「お姉ちゃんの記憶を見て再現したよ!」

「未来の服かぁ…裁縫お上手だねぇ…取り敢えず着た…着た?けどさ、コレが夏奈の罰になるの?」

「霧っち、お姉ちゃんは自分をロボットだと思ってるんだよ?」

「ほーん、それで?」

「小さい子供を性的な目で見る様な児童ポルノを見るととても反応する!」

「せいてきなかっこう…世の中はよくよく分かんないねぇ?」

 

 俺が着てもなぁ?身長1mが性的かなぁ?三つ編みとメガネの芋いスタイルよ?

 夏奈も失笑して終わりだよ思われるが…。

 

「じゃあカメラを持って、霧っちはしゃがんでうさぎさんのポーズしててね…お姉ちゃん、もう来て良いよ」

 

「何が有っても私うわあああぁぁぁぁ!!!!検閲せよ!発禁せよ!貴公は法を犯した者である!直ちにその罪を認め獄中にて改めよ!」

 

 わぁ、妹に言う言葉じゃ無いのが出て来たけど…。

 んー…この姿勢の維持がツラいのやめていい?え?このまま上下にぴょんぴょんしろ?そんな運動神経俺には無いよ!あ、でも足を変形させる要領で…よし、痛むけどそれっぽくは出来た。

 

「足いたぁい」

「くくくっ!ほらね!言った通りになった!」

「腰もいたぁい」

 

「あ……が…!くそっ!多々良!!今すぐこんな事はやめろ!千歌の…児童の労働と性的な商品化は電脳空間において最も罪深い罪だぞ!千歌を解放しろ!」

 

 夏奈は多々良の指示で動けてない様だ。無理やり進もうとしてるけど、多々良の命令と矛盾した動きは肉体に負担を与えているな。

 

「腕つかれふぇ…いふぁい」

「お姉ちゃん、これで分かった?今のお姉ちゃんは霧っちを助ける事も出来ないよわーい女の子なんだよ?」

「しふぁふぁんだ…」

「霧っちごめんねもうちょっと頑張って?」

 

 もうやめて良い?舌を噛んだ千歌も居るんだぞ?もうね、夏奈にとっては恐怖の現状なんだろうけどね、俺にとっては地獄の兎跳びなんだよ。膝が壊れるだけの運動とか俺にやらせるなよ。

 

「あがっ……くそ、分かった。多々良の要求に応じる!だから千歌を此方に引き渡せ!」

 

「…お姉ちゃん、まだ警察や法の番人のつもりなの?言ったよね、お姉ちゃんはもうただの女の子だって。どれだけすごい技術や知識を持ってても、それよりもウチを優先するお姉ちゃんなんだよ?」

「あ、もう自由に動ける…疲れた」

 

 もう今日は手足動かしたく無いわ。ただでさえ体力測定で疲れてるのに、追い討ちされたんだもん。うつ伏せでぶっ倒れたわ。

 

「だからどうした。それは、心に傷を負いかねなかった千歌よりも優先される事かい?」

「…なら、千歌はあげなーい。もーっと酷い目に遭わせるから」

「な…!話が違うぞ!」

「私をダシにして家族の時間を作るのは良いけどさ、もっと負担の少ない感じでお願い」

「…霧っちって結構図太いよねー」

 

 其処からは俺が酷い目に遭って夏奈が苦しんでた。

 なんか俺が夏奈や多々良にあーんってやったり、風呂で多々良達の身体を拭いたりとか、なんかそういうメイド?みたいな事が多かったな。普通に疲れたぞ。

 多々良は楽しんでて、夏奈はその度にめっちゃ苦しんでたけど…アレかな、奉仕する機械的に人間に奉仕されるのはストレスなのかな。

 

「はぁ…疲れた…」

 

 かぽん、

 

「あー…いい湯だーなー…」

 

 ようやく回って来たお風呂の時間。普段はシャワーだけだからなんだか久々だ。

 んー…それにしても機械の恐怖って分かんないな。『人形』の時もそうだったけど、他の存在にとっての恐怖がどんなのかは理解し切れないんだよな。

 まぁいいや。俺的には急でも友達の家でのお泊まりなんだ。多少変でも楽しめはしたから良しとしよう。

 

「ふぅ…そろそろ出るか」

 

 そんな訳でバスタオル一枚で出るが…服はどうしようかな。着てたのは洗濯と乾燥されてるし…置かれてる服がチャイナ服なんだよね。別名パオペエ…チーパオだっけ?こっちも曖昧になってるわ。

 

「…すごい、すけすけだ。袖が無いし前後ろで重なってるのに向こう側がはっきりと見える…」

 

 多々良の細やかな夏奈への攻撃が止まらないな…俺も不快ではあるけど、肌着なんてすけすけで当然だから抵抗はあんまり無い。夏用の肌着とかこんな感じだよな。

 

「…寒いけどまぁいっ…そうだ携帯ランドセルに入れたままだ」

 

 あっぶね、洗濯機に突っ込むところだったな。

 ランドセルって便利だよな。「怪具/裁縫箱」も教科書もスマホも全部入るんだから。

 泊まる連絡はしてるし、メールがあるかも知れない。確認してくるか。

 

「本当人を操るってのは酷いよなぁ…ええと…あった…2分前のメールが一通…チカからじゃん」

 

 内容は…[早くたすけてまくらとじっかおく]

 

 手を蟷螂の鎌にして、首を切った。

 

 






霧晴千歌/チカ
 命令のせいで最速で救助する事になった/のんびりしてたら連れ去られた。
橘夏奈
 奉仕する機械的に奉仕されるのは、自分達の立場を乗っ取られたみたいな恐怖がある。
橘多々良
 夏奈の記憶を使って精神年齢を上げた。千歌との繋がりが切れて驚いてる。
真倉朝凪
 一緒に連れ去られた。

『人形の糸』
 10人だけ記憶を支配する多々良の怪異。記憶に関してなら、大体の事は出来る。
『白昼霧』
 ただの霧の夏奈の怪異。成長中。
『ウワサをすれば』
 影から影に移動する百葉の怪異。触れたものも一緒に運べる。
『紙折りの式』
 神との契約の儀式場になる健太の怪異。式を取り仕切る折り紙人間も出せる。

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