怪奇ばかりな日常とゲェム記録   作:何処にでもある

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 戦うと人間側の、逃げると怪奇側で良いものが手に入ります。




ゲェム-神様は

 

 

「よし、食材の準備は万端だな」

『ジジ…ジ…』

「うん、良い景色でしょ。私のボヤけた視界だと曖昧な色だけの景色になるけど」

『ジジジ…ジジ…』

「んー?対戦は良いのかって?…対戦が始まったらお互いの位置情報は見えなくなる。その上で誰にも見られず、心も止めて移動したからね。仮にチカ…もう一人の私が相手でも気付かないじゃ無いかな」

『…ジジジ』

「ん、それはまた今度ね。この話は複雑過ぎて、この畦道で話し切るには距離が短過ぎるから」

 

 やぁ、完璧なステルスで逃げ切った俺だ。上履きのまま歩いてるぞ。

 あの後、簡単な罠を教室に張り巡らしてから俺は鶴の飛翔モードに手足を変え、「怪具/万能ゲーム機」と『チャンネル不接続』の、二つの空を飛ぶ物に持ち上げられつつ飛んで逃げた。

 まぁランドセルも背負ってたから、飛んだってよりゆっくり落ちた、が正しいんだけど。

 

「ゲーム機を下に、テレビを上にして、丁度給食当番だったから有った給食服を紐代わりに。テレビに私を吊るして落ちて、進行方向は私が指示する…言葉を覚えるのが早くて助かったねぇ」

『ジーー……』

「大丈夫。渡した知識は大した事ない物ばかりだよ。この学校で学んだ国語と算数の記憶、そのくらいなら余裕があるから問題ない」

『ジジ…ジ』

「いーや、すごいのはお前の方だね。渡した記憶を理解するのはその子次第なんだから、咀嚼して地力に出来たお前の方がすごい」

『ジ…ジジジジ』

 

 この作戦の致命的な部分は、この『チャンネル不接続』が言葉の意味を理解してない事だ。それに目が見えない。

 コイツ、他人の視界をハイジャックして視覚を得るんだけどさ、其処は配線と晴眼の怪具を、裁縫箱の糸を配線代わりに結んだからなんとかなった。この生身の目はあくまでも晴眼が出してる目だからな。

 そして記憶、こっちは簡単には行かなかった。だって言葉を知らない奴に1時間で一から教えるとか普通に無理だもん。

 なので、『語彙渡し』を使った。血が繋がってれば自分の記憶を食べ物と一緒に渡せる怪奇だな。

 血は裁縫箱の針で採取した血を染み込ませた糸を縫って血縁関係を繋ぎ、記憶と食べ物は適当な記事を音読して渡した。

 

「いやぁ、案外イケるよね。赤いお花の刺繍もいい感じだし、食べ物の量は関係ない。テレビと言ったら電気だけど、怪異と言ったらウワサがご飯だ。ウワサなら音読して渡せるし、それなら口移しの判定になる。完璧な計画だねぇ」

『ジジ…ジジ』

「ん、コレからの食事と一緒に渡す記憶は同じく国語と算数になるね。其処が一番安定してるから」

 

 回収してて良かったなぁ裁縫箱。視界繋げたり手足繋げたり、修理系の怪具の甲だけはある応用力だ。お陰で糸は大分少なくなったけど、まだまだ活躍できる範囲だ。針や指サックは残るんだし、最後まで使い倒していこう。

 

「今は神様にサラダチキンを作りに行かなきゃだからねぇ。あの方が満足するまで通い勤めないとだ。こんな事に時間を使ってられないよ」

『ジー…ジジ』

「別に戦いたいわけじゃ無いからねぇ。日常を過ごせればそれで良いんだし、それを達成する要素さえあれば私はもう十分かなぁ」

 

 多分まだ学校で俺を探してるんだろうな、対戦者。怪奇を使えば自分を隠す方法なんていっぱいあるし、いつ狙われるかも分からない。今頃慎重に立ち回ってるんじゃ無いかな。その間に俺は買い物とか済ませたけど。

 

「よし、到着。早速橘家のキッチンを借りていこっか。テレビは誰か来たら教えてね」

『ジ…!』

「良い返事だ。生まれたばかりの子は純粋なのが気楽だよねぇ。お邪魔しまー…誰も居ないか」

 

 最近は人間関係で疲れて来たからな。怪奇は価値観が人じゃ無いのが難点だけど、穏やかな気質の奴は本当に無害だな。…怪異もなぁ、丸くなったよなぁ。最初は殺しに来てたのに、今ではこうして隣に立って手伝ってくれるんだから、成長と変化は分からない物だ。

 

『…ジジ…ジ』

「そう、みんなそうなんだよ。いい方向に行くか、わるい方に行くか。まだ6歳なんだから、きっと立派な大人になれるよ」

『ジジジ』

「…まだ分かんないかな…その内分かるようになるよ。きっとね」

 

 成長はそんな直ぐに出来る物じゃ無いよっ…と。よし、卵を溶いて、野菜は水で洗って…俺は料理は大して上手くないけど、神様の好みは見て来たお陰で分かるからな。それに合わせた味に調整する事は出来る。

 後は愛情とか優しさとか込めて…美味しくなれー!ビバババ!

 

 ピロン、

 

「ん、戦場の範囲が拡大?…時間経過で他の参加者を増やして行くんだね、怪異持ちならアプリを入れて参加させるし、元から持ってるなら当然強制…そして私と相手の位置情報が公開されたか」

 

 本来ならお互い消耗した所を漁夫の利出来るルールなんだろうな。あ、相手まだ学校に居るわ。

 血の気が多いシステムなのは良いけどさ、コレ本来ならもっと怪異が成長してから起動する物なんじゃないの?

 

「…ん?時期的にこのアプリって最近出来た奴だよね?まだ全然参加者が居ない実力が団子の状態、そしてこの戦場拡大で追加された初心者は、ルールの確認する時間もない上での参加…」

 

 俺は1時間襲われ無いのが確定してる状態でやってたけどさ、コレで参加した奴は初心者保護のルールが無いんじゃないの?最初から対戦中なんだから。そんな中戦おうとするかな。

 どうするんだろ、拡大する範囲って上限あるのかな。無いなら俺と相手がどっちかリタイアするまで続くぞ?

 

「…ま、いっか。どうせ私の事をよく知らない奴からの対戦なんだし。私のこと知ってたら、先に身柄を抑えるのが確実だもんねぇ…よし、チキンサラダ出来た」

『ジ…』

「ん、誰も居ない?そっか、なら平和で良いね。アプリの方だと既に学校から神社までの3700人くらい参加させられてるけど…此処まで来ると愉快だね」

 

 所詮ゲェムの面した怪奇だからな、初期特有の上限のない参加と雑ルールの賜物だ。

 一応お互い戦闘する意思が無ければ対戦は成立しないんだけど、今回は相手がまだ諦めてないのがなぁ…あ、強制参加が4000人を超えた。

 

「よし、そんな事は放っといて神社の中だ。どうだ広いだろう」

『ジジジ…ジジ…ジジ!』

「おぉ、興奮してる。目の悪い人の視界でも凄さは伝わるもんだねぇ」

 

 大きなボウルを4つ持ち、てくてくと歩いて行く。あわよくば対戦相手が此処に侵入して神様に怒られるのが良いんだけど、流石に其処までバカじゃ無いんだろうな。

 神様って大きいせいで一食でたくさん食べるから、俺の持った4つのボウルなんて一口だ。だからこそ連日呼び出されてる訳でもあるのが…神様サイズだと本当に作るの大変だからな。巨大サラダは作るの難しいのよ。

 

 しゃく、

 

『明日もだ』

 

「はい」

『ジ』

 

 そんな訳で一人と一体はサクっとお渡しを終わらせて、明日も来る様に言われて帰宅した。明日は橘の両親に頼んでおいたお野菜や鶏肉も届く頃だからな。目に物見せられる事請け合いよ。

 どうかそれで満足してくれると良いんだけどね。

 

『…?…ジジ』

「んー?…あ」

『ジジジ…』

「…そうだね、スマホ神様の所に置き忘れちゃったね」

『ジ…?』

「まぁ明日取りに行けば良いでしょ。丁度位置情報も誤魔化せるし、私らはこのまま帰ろっか」

 

 スマホを忘れるというハプニングが有ったものの、良い機会なのでそのまま置いていく事にした。

 対戦相手がどこに居るのか分からない為、普段とは違う道を通る必要が出て来た以外は気にしなくても良いだろうな。

 

(この先に……)(本当なんだよな……)(……やりたいわ〜)

 

 ぞろぞろ、ガヤガヤ、

 

 神社の階段を降りる途中、遠くから人の行列がこちらに向かうのが見えた。心の音は欲望に満ちているな。

 

「…お、いつもの道に人がいっぱいだ。システムで賞金首システムでも作動したのかな」

『ジジジ』

「さてねぇ…本当に何がこんなに人の心を動かしたのやら…」

 

 何らかの報酬が出たんだろうな。初心者を動かすのに十分な何かがさ。

 

「ただいまぁ」

『ジジ…!』

「…ん?チカも居ないねぇ」

 

 帰ってみたらチカが居なかった。どうしたんだろうな、今頃読む本でも探してると思ってたんだけど…まぁ良いや、偶には気分転換に散歩くらいするだろ。

 

 そうやってご飯を作った17時、先に食べる事にした18時、テレビを見つつ風呂に入って待つ事にした19時、今日は多分お泊まりする事になったんだろうなって就寝に着いた20時。

 

「そして母さんと父さんも帰ってこないのに違和感を覚えて来た朝8時…」

『ジジ…』

「だよねぇ、「怪具/九十九守式」が全部燃え尽きてたし、流石に何か有ったと思うんだよねぇ…土曜なのに誰も帰って来て無いし」

 

 ちなみに、九十九守式は家の中に無許可で怪奇が入るのを防ぐ怪具だ。最近だと『飛び雲』がコレで死んでたな。コレが燃え尽きてるという事は、目的にした怪奇に侵入されそうになったという事。早速42枚全部新しいのに貼り直したぞ。

 どんな怪奇に巻き込まれたかなって力を込めて見たけど、特に変化は無い。いつも通り遠くの怪奇が沢山見える視界だ。

 とはいえ今日は『鎌蛇様』のご飯を気合い入れて作る日だ。昨日の様子を見るのも兼ねて、行ってみる事にしよう。

 そう思って外に出た訳だが……何だか『閏日』を思い出すな。もしくは怪奇側として人が見えなくなってた時期。

 

「…誰も居ないねぇ?公園にも子供が居ないし、車も一つも走ってない」

『ジ…?』

「夢じゃ無いよ。そして偶にあることでも無い。…コレでもメガネを外して半月経ったんだし、見逃しは起きない筈なんだけどなぁ?」

 

 電気やガスは繋がってるからその手の問題は無いけどね、流石に異常事態なんだよ。

 そつして畦道に来てみれば、昨日の人だかりが通った証拠である大量の足跡があった。雨が降ったら泥濘で大変な事になりそうだ。

 

「んー…見覚えが無いわけじゃないのがなぁ」

『ジジ…?』

「ちょっとした胡蝶の夢って言うか、空耳って言うか…比良がこんな風にゲェム関係で消えた音が聞こえた事があったなぁって」

 

 夏休み前にまた比良のアレ、それがたくさんの人を相手に発動したら、こうなるのも分かるんだよ。でもアレはかなたらの願いだったし、前提が違いすぎる。疑うだけにしておこう。

 

「…で、神社前に来た結果がコレねぇ」

『ジジジ…』

「んー、逃げるのはダメだよ。進むべきで…でもその前に祈らせてね。何でアレ死者は弔われるべきだ」

 

 階段を登って見えたのは、数えるのが億劫になる現代的な服を着た白骨死体の山だった。

 葬儀屋としてその死に偲び、祈りを捧げる。何が有ったのか知らないけど、多分神様に無礼を働いたんだろうな。じゃなきゃ老死の先の白骨死体まで時間を進められない。

 

「…………よし、行こっか。幸いサラダの材料は山ほど橘の家の前にあるし……この死体配達員だ。ボロ切れになってるけど、この青い服は間違いない。…お疲れ様です」

『ジジ…』

「だから逃げないって。怪異が臆病になってどうするの。怖がらせる側でしょ?シャキッとしな」

『ジ…ジ』

「…うん、その返事、ギリギリ赤点にはしないであげる」

 

 そんな訳で大量生産してあっという間に12時。氷や水を使って鮮度維持したり、流石に苦労したが何とか一人で作り切った。手足の変形が出来るってのは便利な物である。後は荷車をテレビと万能ゲーム機と一緒に引いて運ぶだけだな。

 

 コロコロコロ…、

 

(ジ、ジ、ジ…)

「わっせ、わっせ…白骨死体が続いてるな…出口に向かって倒れてるし、逃げてる途中で捕まったって感じだ…えっほ、えっほ…」

 

 空を飛んだお陰で空飛ぶゲーム機の馬力が結構あると学んだからな。お陰で力仕事が捗るし、テレビと合わせて戦闘が3くらいのパワーを発揮してそうだ。万能って名乗るだけ有ったな。

 でも進む程死体が多くなるのは頂けないな。子供の死体もあるし、どんな事をしたらこんなに反感を買うんだよ。

 

「…ふぅ!到着…した…疲れた…」

『ピガー…』

「あ、気絶した。まぁ、お疲れ様…後は謁見だけだね」

 

『来たか、寄越せ』

 

 あ、待ち切れなくて神様が出て来た。急いで差し出さなくちゃな。

 

 スッ……シャクシャク、

 

 美味しそうにもりもり食べてるな。コレだけ頑張ったんだし、流石にもう満足してくれただろう。

 

『美味にして満腹である。次も来い』

 

 え、まだ許されないのか?普段ならもう許されてる頃合いなんだけどな。

 …何故か命令判定じゃ無いな?つまりお願いなのか。なら妥協ライン探れるわ。

 

「…神様、今回は一際許すのが遅いですよね。他の人にレシピを教えて作らせるだけじゃダメですか?」

 

『…………』

 

 ズズ…、

 

 大きな蛇が動き、頭を俺に近づけた。俺なんて一口で飲み込める相手だからな、この距離だと対抗する間もなく食べられるだろう。目に巻かれた白帯の向こうから見られてる感覚がするな。

 

『その囀りは許すが神を計るのは許されぬ。しかし問いは真っ当な物である。故に許して答えよう』

「ありがとうございます」

『罰とは本人がしなければ意味はなさぬ。故に許される程の量を創り上げたのは大義である』

「なら、なんでもう一度?毎日作るのは罰にしても多いですよね」

『其方を気に入った。その宝石の如き輝きに在らず、その扱い易き様に付け足された指輪に在らず、その奥にある心にだ』

「ご飯と心の関係が見えないですねぇ」

 

 なんで其処で心?料理の腕じゃ無いのか?

 

『魂を喰らいてる時は知り得なかったが、血肉となる万物にも過去は在りき。神なるこの身はそれを読み解き、己とする。故に、喰らうとは味も然り、過去と言う感情の渦も然り。どちらも揃いて美味となる』

「あぁー…」

 

 存在を食べて寿命伸ばしてるから、その存在が過ごしてきた経験や調理過程の感情も読み解いて食べられるのか。俺が食べる時本として読んだりする奴の味版ね。

 となると結構マズったかもな。俺って普段から自分が美味しく食べれるものを作ってるし、その要領で作ってもいた。

 当然多々良達も神様向けのメンタルで祈祷して作ってたんだろうけど、美味しくするのは俺の方が上手くやれる。だって自分の舌で確かめられるんだもの。

 

『奉じる者達は一色、其方は十を超えて尚尽きぬ。して、その全てが美味であった。故に魅入るのだ』

「そんな事言われてもなぁ…」

 

 あれだな、神様が心の清らかな乙女を嫁にする奴。それに近いわ。俺の場合はその心をメンタルセットして料理にしてるんだけどさ……この違いってアレか?

 天然素材のそのまま食べて美味しい食べ物と、普通の素材を神様に合わせた味にする専門コックくらい違うのか?料理の腕はそこそこだけど、神様的にはそこそこですら、作れる人も神様も居ないから気に入るのか。

 読めるかこんな落とし穴。普段の食生活が面倒を惹き寄せるとか、誰が予想付くかよ。

 

「ごめんなさい神様。私は神様の事は詳しく知らないし、通い詰める程好きでも無いです」

『許す。正当な望みである』

「そして神様、この死体は何ですか?」

『目を向ける価値も無し。神器に触れた愚かどもが対価を支払ったに過ぎん』

「神器…?普通触らないと思うんだけど…」

『先日に忘れ置いたこれよ』

「あ、私のスマホだ。種籾に埋まってるけど」

 

 神様が尻尾の先を器用に動かして、稲穂結びでめでたい感じに飾ったお守りを奥から取り出した。

 貰って中身を覗いてみると、俺のスマホがある。どうやらこの神器の中に入れて待っててくれたらしい。

 早速お守りの神器を見て、特性を確認する。

 

「お守りの中身の持ち主以外が触れたら時間を吸い取る…しかも連帯責任。取った命は様々な事に使えて、中身の持ち主に還元可能…コレ作るのに神様の寿命どれだけ削ったんだろ」

『授ける。命を刈り取り、それを己とする稲穂刈りの袋。長く生き、来い。互いに死ぬまで傍に長く居よ』

 

 あ、もしかして俺告白されてたりする?蛇は対象外なんだけど…名付けるとすれば「神器/命福(めいふく)」かなぁ?名前は福袋でも良いけど…貰わないとみんな戻らないよな。

 特性としては、刈り取った命を与えたり使ったりだな。死体に入れれば時間を巻き戻して実質蘇生出来るし、食べれば寿命が伸びる。

 燃料としても、怪奇の消費する存在の代わりになるだろうな。リソースとしてはコレだけで破格だ。

 つまり、拒否したら自由に扱えないから死んだみんなを生き返せ……授けるって言ったか今?

 あれ、普通に手元にあるな。スマホ見た時から取り上げられて無いな。

 

 あれ、もう貰ってるのか?

 

「え…渡す代わりに毎日来いとかじゃなくて、渡したからこまめに此処に来いって事…ですか?」

『二度は言わん。言うべきは言った』

 

 ズズ…、

 

『……満月が二度昇るまでに、一度は来い』

 

 神様の大きな身体は奥に進み、そのまま辺りに静かさが戻る。元から静かな空間だったが…神様が居なくなって広々とした空間になったのが静かだと感じた。

 

 ぽつねんと立ち尽くす。

 

「…ありがとうございます。有り難く使わせて貰いますね」

 

 お礼を一つ、困惑しつつも、心から感謝した。

 

「ほら、テレビも気絶してないで行くよ。道すがら返していかないとだし」

『ジ…?』

 

 返す方法は簡単だ。近くに行って返したいと思うだけで良い。流石にスマホは入れっぱなしには出来ないから、後で一房の髪を切って洗って結んで入れる予定だが…想像以上に『鎌蛇様』の性格がイケメンだったわ。

 料理と其処に込めた感情で好かれたのは思っても居なかったが、本当に破格な物をくれた。

 神器って作るのに身を削るからな。相当入れ込むか『昨夜様』みたいにかなりの献上をしないとやってくれない品物なんだよ。

 

「ほいほいほい、返して返して…巻き込まれたネズミはどうしよう…いいや返しておこう」

『ジジジ…ジ』

「一年くらい天引きした方が良いって…よく思い付くねぇ、そんな細かい調整出来ないから丸ごとだよ。慣れたら出来そうではあるけどね、そんな面倒な調整やりたく無い」

 

 そんな訳で、あっという間に種籾は消えた。残るのはスマホを入れたお洒落な袋だけである。

 時間を巻き戻すのは結構時間がかかるみたいで、今日一日は動けないだろうけど…連帯責任なんだ、ほぼ無関係でも仕方ないだろう。

 

「あ、でも街に誰も居なかったの理由ってコレか。怪異対戦でアプリ入れられて、そこに連帯責任で死んだんだ」

『ジジ?』

「街で骨を見かけなかった理由は…風とか…あ、怪異に持ち去られたとか?」

 

 何かしらの怪異の本体として確保しそうだしな。生きてる奴を本体にしててもね、死んだ状態のウワサを改めて流せばノーダメなのよ。

 

『ジー!』

「やだなぁ、自分はそんな事しないって…人それぞれでしょ?怪異もおんなじだと思うよぉ?一体くらいはやるだろうし、一体で街の死体全部回収出来る能力が怪異にはあるからねぇ」

 

 シナジー次第で幾らでも強くなれそうだしな。

 畦道を歩いて帰っていると、遠くの家が照明を点灯させるのが見えた。どうやら時間が戻り切った人が出て来たらしい。暫くすれば、街も賑やかさを取り戻してるだろうな。

 

「あ、そういえば…」

『ジ?』

「ん、ちょっとした確認だよ」

 

 袋からスマホを半端に出しつつ対戦の状況を確認した所、システムがエラーを吐いて中止になっていた。人の方が死んでも尚、怪異の方は死ななかった様だ。どれだけ広範囲に渡って広まったんだか。

 

「試合は引き分け。ゲェムシステムのエラーが深刻な為サービス終了…負荷をかけ過ぎて運営する為のゲェムか何か壊れたなさては。基礎の作り込みが甘いなぁ」

『ジ…ジ?』

「捨てないよ。裁縫箱もタダじゃ無いんだから、そんな勿体無い事はしない。せめて私が死ぬまでは何かあったら手伝え?」

『ジジ…!』

「良い心意気だね。怪異としては落第点だけど、人間としては満点を与えよう」

『ジー!』

 

 まだ人の記憶が大多数だからか、自意識が人に寄ってるな。それだと将来苦しむだろうが…まぁ、俺が死んでからだろうな。若しくは、このテレビも早死にして悩む暇もないか。

 どの道、俺には関係ないな。所詮は怪異だし、気にする暇が有ったら最低限神様が投資した分は生きてご飯を作ってやった方が良い。

 使わない神器でも、中身を変えれば持ち主を変えられるんだ。どっかしら役には立つだろう。

 使い捨てればこの料理の腕と感情くらいなら再現した物を作れるだろうし、使い所に困ったらそうする事にしよう。

 

「ただ…懸念として、『チャンネル不接続』との血縁による制御で1つで埋まったから…余裕を持ちたいな」

『ジジジ…?』

「確かに神器を使えば手足が戻るからそれで義肢は捨てられる。ただし霊感が消える。手袋は…儀式系や怪異系を纏めてるから手放したら溢れる。晴眼と裁縫箱は必須枠…纏める方法を探すかどれか捨てるか…捨てるなら使い切りたい…」

 

 鯨の血で代用できる怪異の制御を自分の血でやったからなぁ…裁縫箱を使った契約だからその分手放すのが困難だし…『メリー』や【ゲームガチャ】の連中に圧縮方法聞けば良かったな。

 

「…ん、んーーぅ!!…はぁっ!悩んでも仕方ないか。神様は親切だった、それで良しとしよう」

『ジ!』

 

 伸びをして、団地の階段を登る。何とかなったんだから今日はゆっくりするとしよう。そのうちみんな帰ってくるだろうし、話はそれからでも遅くは無いだろうな。

 

 

 

 

 それから、みんなが帰ってくる事は無かった。

 

 






霧晴千歌
 勝てる訳が無いので知恵を振り絞って逃げた。
行方不明者
 霧晴千歌を除く霧晴家及び、その大多数の関係者及び、怪具と怪奇。

『切り貼り映画』→『さしこみ』→『埋め込まれた怪異』+『らくがき』+『霧晴家』+『怪異対戦』+他多数=『無縁仏画展』
 扉の絵から入れる。死にたい方からお越し下さい。

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