怪奇ばかりな日常とゲェム記録   作:何処にでもある

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 出来る事は全部やり遂げられました。




冒険-おわり

 

 

 トゥルルル…トゥルルル……ピッ、

 

「本体としての最初で最後の命令。自由にやれと命令してみて」

『自由にやれ』

 

 ピッ、

 

「【自己育成ゲェム】、【裏世界探索記録帳】、コインは10枚で十分です」

 

 テレビを経由して『ウワサネット』に頼んで命令を上書き、そのままガチャコインを記録帳に投入。

 勿論コレだけだと収納されるだけだ。此処からもう一手工夫する。

 そも、ゲームコインは存在100相当だった訳だが、ガチャコインはなんだろうか。

 答えは無規則に特典内の物を物質化する、ランダム性があり物質化にしか使えないゲームコインだろうな。今までの挙動からの推察だ。

 

「コインと書かれた文字を囲う様に扉を書きます。扉を書いて開けば『無縁仏画展』に行けますからね」

 

 さて、此処で問題だ。怪奇を沢山取り込む様な無節操な『無縁仏画展』とランダム性のある物質化のコイン。二つを重ねるとどうなるか?

 

「扉に囲まれたコインのある場所、残骸【ゲーム】のある空間に『無縁仏画展』への扉が完成する。つまり、私のスキル欄にある残骸【ゲーム】が『無縁仏画展』へ変化する」

 

 その結果何が起きるか、俺の存在の中で『無縁仏画展』が開き、現在あちこちに点在しているゲェムの管理権を通じてあちこちに『無縁仏画展』までの道が開通する。

 把握してるのは【裏世界探索ゲェム】は『裏世界』の最深部の階層に、【不思議いっぱいTRPG】は『ウワサネット』の二つだな。

 推察だけど、かなたらとDDは月なんじゃ無いか?まぁ扉から出て来た連中を対象にしてくれたらそれで良い。自己育成は…転生させた神様とか?

 

【因果律の変動を確認。ゲームコインを1枚進呈します】

 

 お、反応が有った。やっぱ神様に直通してたんだな。

 お陰で短縮チャートの方を採用出来る。

 

「次に、ゲームコインを「神器/命福」に投入。存在値を種にして扱い易いリソースに変換。それを「怪具/晴眼」に投入」

 

 眼球とメガネが変化して、一体化し、砕けた硝子の様な、目の輪郭を連らせた様な物に変わり、俺を蝕む。肉を裂き、骨を砕き、しかしそれは脳に達した時点で停止した。

 

「晴眼の元となった怪奇、『並行世界』は、硝子を通じて似ているようで別の世界の世界を観測出来る怪奇です。実際にある訳では有りませんが、こうなり得たというデータは得られます」

 

 脳に触れた時点で止まったのは、脳の眼がそれだけ埒外な情報を送ったからだろう。

 永遠に続く怪奇の前に怪奇の全ての情報を送りつける脳の眼は、自分の無限の情報を見せつける物と化す。

 情報が完結しないって奴だな。

 

「その結果何が起きるか。私の脳を野晒しにする代わりに、脳の眼を通じて『並行世界』の無数の情報が私に流れ込みます。つまり、私の存在の一部になった『無縁仏画展』にも送り込まれます」

 

 脳が焼き切れる様な感覚があるが、それは『無縁仏画展』もだ。

 

「そして、『無縁仏画展』は空想の怪物を実体化する…『らくがき』を使って現実にデータ上の存在を実体化出来るんです」

 

 データしか無い『並行世界』、データを実体化する『無縁仏画展』、その二つが揃えば、どんな怪奇や存在も宇宙的速度で増加する。

 そして、今の『無縁仏画展』は様々な怪奇を飲み込み、ゲェムで通じている。

 

「コレによって、此処に一つの世界が成立しました。魂の怪奇が揃って『ちい』が出て来た様に、ある世界の法則が復活する。その名前を付けるとすれば、『熱的死』、全ての物質が移動量上限に引っかかって止まる怪奇です」

 

 身体が急速に冷たくなって停止する。並行世界から現れた存在で怪奇が膨大な数になり、その熱量で宇宙に存在出来る熱量の上限に引っかかったからだ。全てが動かなくなる、処理落ちの怪奇。元々この法則が有った世界では、コレで滅んだんだろうな。

 だけど此処は怪奇という法則のある、別世界だ。絶対の滅びは無い。

 

「…本来なら、全ての怪奇の枠がこの世界の物で埋まらなければ成り立ちませんでした。それ程、分割されてバラバラになっていました。それを数のゴリ押しで、無理矢理成立させると…」

 

 熱が戻り、全てが再開する。血の汗と涙が流れ始めた。

 「怪具/晴眼」から復活した『並行世界』と、それに巻き込まれた怪奇が消えたからだ。

 もう後には引けないな。晴眼が消えて、脳まで到達した硝子片諸共消えたんだ。その傷から、血が垂れる。眼が消えたから、そこからも。そして、枠も全て埋まり切った。後一つでもスキルが増えれば、俺も死ぬだろうな。

 

「さて、鳥の時の様な連鎖反応です。『並列世界』が消えたから、それを実体化させてた『らくがき』が巻き込まれて消える。『らくがき』が消えたから、『無縁仏画展』も消える。『無縁仏画展』が消えたから、それを構築していた『怪異』達、『異界』群、その他百を超える怪奇が巻き込まれて消える…特典を持った転生者もです」

 

 大枠が消えると、本当に全てが破綻するよな。消えなかった怪奇も、相当存在を削られただろう。

 コレで、一時的に殆どの怪奇が消え去った‭─‬‭─‬‭─つまり、‬新たな怪奇が再現され始める。

 

 其処に、割り込みをする。

 

「脳の眼は怪奇の情報を強制的に獲得させます。フィルターとか無い直接です。そして此処に、繋がる事にかけては無法の裁縫箱が有ります」

 

 さて、施術の時間だ。糸を通した針を脳に突き刺す。痛みが走るが、大したことはない。

 これ以上の死に様は何度も経験した。

 

 グチャ…、

 

 奥へ、奥へ、そして、手袋の怪力で勢いを付けて、貫通させる。

 

 ベチャ…、グチュ…、ボトリ…、

 

 それを繰り返す。その過程で脳がぐちゃぐちゃになるが、問題ない。

 

 プチュ、クチュ、

 

 裁縫箱の糸は、繋ぐ過程で何があっても、終わるまでは支障が起きない。

 

 ブチブチブチ…、ぎゅ…、

 

 脳が丸や四角になっても、取り出して俺の手元に持ってきても、ぎゅうぎゅうに畳んで小さくしても、()()が完成するまで、その存在を消費して延命させる。

 完成すれば、その状態を正常として問題なく稼働させる。

 

 だから、コレは何度繋がるのを失敗しても絶対に辿り着く。

 

 ………繋がった。

 

「はい、完成。怪奇の情報を仕分ける世界の部分と、俺の脳を繋げた奴です」

 

 そもそもおかしな話だと思わないか?

 俺の眼は怪奇だけ見通せるが、それはどこで判断されてるんだ?

 それは、この世界の法則と怪奇には明確な差異があるからだ。

 この眼は、その差異を通じて情報を得ていた。『怪奇』というラベルそのものに繋がる情報路だ。

 眼に入った怪奇と判断できる物から。データを読み取っていた。

 

 …思考が纏まらないな。三角に畳んだのは不味かったな?要はバーコードだ。この眼はバーコードリーダーだな。

 今繋げたのは、バーコードリーダーと俺の思考、そして、バーコードを作る機械だ。

 順に脳の眼、俺の脳、裁縫箱…越しで怪具…の更に奥。

 

「怪具とはなんぞや?怪奇が消えない様に物体に押し込められた物です。その内消える筈の怪奇を、永遠にする。だれが?世界がです。既に滅んだ世界の法則を怪奇として誰が復活させた?この世界の法則です。では、世界とは?‭─‬‭─‬怪奇と似た様な文字化けで喋る奴、居ましたよね。それも結構凄そうな立場の方が」

 

 普通なら、知ってても其処に手出しするやり方が分からないだろうな。

 だけど、今なら出来るんだよ。怪奇が居なくて、その空いた席に座らせる為に大きく動いてさ、分かりやすく主張してるから。

 この眼は怪奇を判断できる。なら、わかりやすく向こうから来てるのが道案内になるんだよな。

 

「移動するための足はどれか?なんでも良いですけど、今回は一番早い奴です。歩く必要が無い方法を採用します」

 

 『チャンネル不接続』を45度で叩き、ある存在の視界に繋げる。

 

 あぁ、懐かしい。見慣れた真っ白な世界だな。なぁ、神様?

 俺、今からそっちに行くから待っててよ。

 

 【裏世界探索ゲェム】のカセットとテレビを、残った糸で繋げた。コレで糸は使い切った。

 

「テレビを渡れるか?愚問ですね。こんな分かりやすい道を、『赤テレビ』が逃さない訳がない」

 

 テレビが真っ赤に変わる。テレビの上にあるプロペラを固定して、本体を高速で回転させた。高速で回り、瞬きの代わりになる。

 ずっと、ずっと、ずっと、カセットの奥底で身を縮こませて待っていたよな。

 だけど、出るのを阻んでいたゲェムはもう居ない。『並行世界』と一緒に消えたから。

 神様の居る場所以外に繋がる道はない。だって、昔のロシアから始まった研究で、全ての道が消え去っていたから。

 

 だからコレは、絶対に辿り着ける経路だ。

 

 


 

 

「お、ひ、さ」

 

【コレを寄越したな。何がしたい】

 

「整理整頓」

 

 神様の眼から、ズルりと零れ落ちた。

 この空間を認知する為に、怪奇をたくさん消して、脳の眼と自分を繋げた。

 視界とは複数ある物だ。視界を映すテレビで、全ての視界を表示した。

 そして、テレビの向こう側の異界に行く怪奇で、視界の持ち主まで移動した。

 

「全部合わせて、相手の視界を通して転移した……そうだよねぇ、別世界の人間を転生させる様な奴が、他の世界に関わってない訳ないもんねぇ?」

 

 『怪奇』と【転生者】は枠組みが違って見える様に徹底されてるけどさ、結局この世界の法則で言えば、怪奇と変わらないんだよ。異質さなんて、変質次第で獲得する奴も居るだろうな?

 

 例えば…『神格』が1回目の変質で【この世界の神】という怪奇になれば、それだけで転生もさせられる神様の誕生だろ?

 

 別世界の物が、この世界にやって来る。それは千年周期で変質し、3回目に消える。

 ただし、例外があるのは『消した』や『宇宙の無意識領域』で分かりきってる。

 ありきたりだから予想付くんだわ。転生者もまた怪奇の一つだった、とかさぁ。あるもんねぇ?そういう自分も化け物だったって話。

 

【怪奇を寄越して手を煩わせるな。この世界を救えよ】

「どれ?救えない奴しか居ないよねぇ」

【当然、この続いてる世界だよ。死んだ世界は気にしないで良い】

 

……良いよぉ!!

 

 おっと、命令したな?俺は今、命令は聞かないとなんだよ。

 死んだ世界を気にしなくて良いなんて大義名分を渡してくれる、そんな事すればどうなるかは知ってる筈なのにねぇ?自分がその死んだ世界の産物である自覚がなくなっちゃったんだろうな。

 だってこの眼、神様の眼だもんねぇ?全部知ってたら、この世界の住民になれた気がして来るよねぇ、分かるよ。

 

「はい、コレなーんだ」

【神器の命福か。そんな物効かないぞ】

「誰が神様に使うって言ったの?ただ、千切るだけだよ」

 

 ビリ、

 

【…あ、

『罪を

 

 ブツ、

 

 さて、『昨夜様』は神器が壊れた時に転移して来た訳だが、今回も例に漏れない。

 この空間に、『神格』と【この世界の神】が揃った。

 

「怪具で脳を繋ぎ包んでるから、この身体は消えませんが…」

 

 同じ怪奇は、変質したとしても共存出来ない。一つしか存在出来ない。

 だから『神格』はリスキルされて、全体的に長生き出来ない。この世界の神が命欲しさに殺すから。

 でも、もしそれが揃ったのなら、必ず両方が消えてリセットされる。この世界の根本的な法則だ。

 怪奇として成り立ってるなら、怪奇としての法則には逆らえないよねぇ?

 

「『パァ』の様にこの世界の法則として存在出来ず、さりとてただの怪奇よりはこの世界に馴染んでいた。だから中途半端に枠が重なって、【こんな】塗りつぶした表記をしなくちゃいけなくなる…もう消えましたけどね」

 

 脳の眼も消えて、特典も消えた。枠に余裕が出来たが、俺の強みは消え去った。

 

 足を、次元の隙間に置いて進む。

 

 さて、此処まではチャートの言う通り。此処からは俺の機転次第の冒険だ。

 もう帰る道はないが、更に進んで空間の無い場所に辿り着いてるからな。

 神様の白い世界が消えて、神格も消えて……主神が居るのはいつだって世界の中心だ。其処から放り出されたなら、其処は世界の全てがある場所だ。

 デバックルームと言っても良いし、バックルームと言っても良いな。ある意味、裏世界と言っても良い。どの道この空間だと寿命か自殺以外では死にそうにないし、のんびり歩こう。

 

「ある意味、夢の中を歩くのと大差無いかもね。人の身ではどこまでも無意味だし、怪奇が再現される生産場で何が出来るんだって話だけど……」

 

 まぁ焦る事は無い。1秒がちゃんと1秒で計算されるんだ。此処は世界の中心なんだから、時間の歪みは全く無い。そうじゃ無いと怪奇の3千年周期を数えられないからな。

 だから一番心配しなくちゃいけないのは、この世界が、急に消えた怪奇の分だけ再現しなくちゃいけない状況で、此処に居る俺という参考資料に、どういうアプローチをするのかだ。

 

「急に大量に注文が入ってさ、作ってる最中に更に追加が来てさ、猫の手も借りたい中で、ネズミが一匹居たらどうなるかな」

 

 さんかい、

 

 目の前に、この世界に馴染み切った怪奇が現れる。狐の様な、モノクロの怪物だ。

 見ても何もわからないが、普通はそうなんだから別に良いだろう。目が見えないのに見えるって言うのも、不思議な感覚だが。

 そしてこの遭遇は…運がいいな?

 

「どれだけ頑張っても読まれなきゃ意味がないのに…無駄に長引かせても意味ないよ」

 

 にかい、

 

 必要なのは、言葉のナイフを一つだけ。

 刺すべき場所は、経験則で知っている。

 

「名作の条件は、過程だ。それを忘れて3千年の大長編。最初の一年も見る気が失せるよね」

 

 いっかい、

 

 ある世界では、全てが突如として現れるものでしかなかった。突然王国が現れて、突然怪物が現れて、突然全てが消えていく。

 5分前仮説とか、シミュレーション仮説とか、そういう法則の世界だったんだろうな。

 怪奇の情報を読み解いてると、いつの間にかそういう、元々はどんな法則のある世界だったのかわかる様になって来る。

 怪奇が元々別世界の法則だと知ってからは、尚更だ。読み解いてる内に、元となってる世界は4つしかないと気づいた。

 魂関連の世界、『宇宙の無意識領域』が主神の世界、超科学と神格関係の世界、怪異や魔物や悪魔や妖怪関係の世界。全てこの四つに分類出来た。

 大方この4つの世界から拾い上げて、この世界に再現してるんだろう。同じ怪奇が何度も出て来たりしてるし、それにどんな意味があるのやらだが……そう成り立ってると知ってからは、より深く怪奇を読み解ける様になってたな。

 

「やめたら?この仕事。一瞬の輝きこそが読み手を引き寄せるんだから、元々の方が良いよ」

 

 ブツ、

 

「あーあ、自殺しちゃった。その世界を見る誰かが居る世界だったんだろうけど、それが寿命で死んだら存続する訳ないよね」

 

 言うなれば、読者的な上位者が居て、その反応で世界が繁栄する世界だな。その上位者が不老不死じゃなかったのが運の尽き。死んじゃって、そのまま世界が滅んだと。

 自分を串刺しにした法則を見つつ、その横を通り過ぎる。コレで怪奇の3千年周期で変質云々は消えた。紀元前の数百年現れては突然消える方になるだろうな。

 

 らぁ、らー?

 

「怪具の法則、その化身かぁ…『ちい』がどう願えばそうなるか…歴史は知らないけど結果は分かるよ。永遠に続けば良いって思ったんだね?」

 

 らんらー!

 

 おや、言葉も分かるとは育ち切ってるな。でも相手は元々人間だし、言葉のナイフで何とかなるか。

 

「そっかそっか。迷惑だからやめて?君が居た時代は必要でも、もう邪魔にしかなってないんだよね」

 

 ら…

 

「科学はわかる?人間が頑張って築き上げた、この世界への解答。そのおかげで、もう怪具が無くても良くなったんだよ。今までお疲れ様、もう頑張らなくて良いよ」

 

 …ら、らーらーらん!

 

 あ、何と無く言いたい事が分かって来た。父さんと母さんと話し合った経験が生きてるな。言語の法則が掴める。

 

「じゃあ試してみなよ?私の持つ怪具を消してさ。私が死ねば、お前は必要だった。生きたら、お前は必要ない。じゃあ、やれよ。なぁ? なぁ!!?」

 

 ブツ

 

「賢いねぇ、殺せば罪悪感に駆られて自殺する。必要無いのならそれに耐えられずに自殺する。この2択を迫られた時点で詰んでるって理解したんだねぇ。解脱おめでとう」

 

 良い人だったんだろうな。怪具という法則も、人類の為に創り上げたんだ。多分、どっかの宗教の教祖あたりじゃ無いか?

 仏みたいな長耳とおできがある『ちい』だったし、『ちい』になって悟りを失っても善人だったな。どの仏か知らないけど、長年お疲れ様でした。

 よし、コレで怪奇が永遠に続く怪具は消えた。

 確かに有能な法則だったし、何度も助けられはしたけど、そのせいで怪具の性質を持って永遠を生きる怪奇も居たからな。『南極鯨』とか、『消した』とかさ。

 

 おや…ゾンビかと思ったら、人間がこんなところにねぇ?

 

「おー、あの鳥じゃんね。2体目となると見慣れて来るな」

 

 『宇宙の無意識領域』から随分と容姿が変わり果てては居るが、確かに同じ燃える鳥だった。

 あいつよりは性格良さそうだけど、コイツはどんな法則だ?怪具と三千年周期は消えたぞ?

 見た目は透明な鳥でやつれてるけど…怪奇の選出か?

 

 そうか…妾の偽物と会った事があるんだね?なら知ってるだろう。

 妾は或る世界の創世の神、蒼く繁る、柳下の芽さ。

 

「大きな世界では無く、それよりは小さな産まれたばかりの世界ですか。怪奇の何を担当してますか?」

 

 そうだね、全て自分で決めれば上手くいくと大樹を離れ、産まれてすぐに破綻して消えた小童さ。

 それが今では、世界の端材を拾い上げてるもの拾い。私が創り上げた巣が、いつの間にやら怪奇として真似られては捨てられる。

 それをまた拾い集め、巣の中で羽を休め、いずれ世界に取られる鳥だよ。此処以外に世界を知らないから、永遠と繰り返すしか無いのさ。

 

「私の過去を見てください。今の姿より昔です。前世と呼べる頃の世界を見て、行けそうなら行ってみませんか?少なくとも、この世界よりはマシですよ」

 

 おや……本当だね……痕跡的にあっちの方…自らの姿も取られたが故に今は休んでおったし、丁度疲れは無い…感謝しよう、人間よ。

 お主も一緒に行くか?今なら新しき人生と妾の加護を与えよう。その偽りの妾の呪いも解いてやるぞ?

 

「いえ、大丈夫です。此処で死ぬことにしてるので」

 

 そうかえ。なら止めはすまい。ではさらばじゃな人間よ。

 其方の最後に幸がある事を、ただの鳥は願っておるぞ?

 

 キェーー…、ばさ、はざ、ばさ…、

 

 実際に創世した方の鳥かぁ、案外悪いやつじゃなかったな。

 最初は俺が初めに会った時の性格だったんだろうけど、この鳥は失敗と挫折、不遇な経験を積んで立派になったんだろうな。

 アイツを見てると、真倉達も成長してマシになれるって思えて来るから不思議なもんだ。

 さて、コレで怪奇が大量に現れる部分が崩壊した。コレからは怪奇が中々出てこなくなるだろうな。あの鳥の巣作りで大量に怪奇が溢れてたっぽいし、コレからは出て来る数も減るはずだ。

 

「よし、なんだかんだ主要な怪奇の法則は消せたかな。コレからの怪奇は長くて数百年しか出てこなくて、怪具が作れなくて、数も其処までじゃ無くなった。後はどれだけスコアを伸ばせるかだよねぇ」

 

 運が良かったのか順調に進んだし、後は細々とした奴を倒して行けば良いか?

 

「あ、そうだ。ぱぁ…ぱぁ?あれ、いつの間にか消えてる。怪具と一緒に消えたかな」

 

 そんなこんなで、てくてく歩いてると本が何冊も落ちていた。それが何処までも続いてるとくれば、少しくらい整理して欲しいもんだよな。

 実際には本じゃ無くて、俺の目にはそう見えてるだけの概念なんだろうな。

 文字化けして読めない様で、いつも通り怪奇の解析の感覚でやったら解けた。

 

「お…やっぱり解析能力は自前だったんだね。そこは少しくらい補助してくれても良いのにねぇ」

 

 てっきり脳の眼で解析補助でもされてるのかなって思ってたけど、そうでもなかったらしい。

 

「なになに…『怪奇ばかりな日常とゲェム記録』…著者は霧晴千歌ねぇ?人の人生にタイトルつけてんじゃ無いよ。他には…『葬儀と蟲の日々ー我が子可愛すぎるー』著者は霧晴百葉…アレだね、アカシックレコード的なのなんだね」

 

 拾っていくと、身内や友人のから知らない人まで、大量の人の人生がタイトル付きで転がっていた。コレだけだとどういう法則かも予想付かないな。俺の奴の中身見るか。

 

「…何処までもダイスの出目の記録だねぇ?アレだね、ステータスだ。スキル上限が9個とか、能力が数値化出来たりとか、存在が規定されてるのもコレのせいじゃ無いか?」

 

 んー.壊してセーフか?そもそも壊せるかって話だけどさ。本は何処までも続いてるし、キリがないぞ。ってかどの世界のだろうなコレ。鳥か?管理し易い様にって感じ?

 

「んー…コレはそのままでも良い気はするけど…取り敢えず適当な怪奇の存在を0にしてみようか」

 

 『悪魔』の怪奇のページを開きながら、指先を鉛筆にして、斜線を入れて0にしてみた。

 デリートの文字が本を埋め尽くし、本は虚空に消えてしまった。遠くを見ると、幾つかの本も一緒に消えている。多分〇〇の悪魔とかの小枠だったんだろうな。

 

「あ、本が消えた…本があると生きてる。死ぬと消える…殲滅の時間だ」

 

 理屈は理解したので、片っ端から怪奇を消し飛ばしていく。怪奇は人間の表紙よりわかり易いからな。この眼が無いのに見える世界で、俺から逃げられる事は無い。

 人の本もそのままだと紛らわしいから、大丈夫そうなら1箇所に纏める。投げれば何処かにぶつかるまで進むからな。それを使えば余裕だ。

 

 

 一月後…

 

「よし、こんなもんだね」

 

 食べなくても寝なくても良いなんて、便利な世の中だ。世界の中心ってのはすごいなぁ、今残ってる怪奇も全部消せたよ。大枠を消すと連鎖で細やかな奴も消えるから、案外楽だったな。

 妖精を消したのに手足が残ってるのは不思議だったけど、それを言ったら怪具と裁縫箱もそうだしな。この空間、俺が帰るまで現実に反映されない法則とかあるかも知れん。でも帰るチャートは使ってないんだわ。どうしようかな。…まいっか。行けたら行く方針で。

 

「ただ…その過程で拾った『能力値』の怪奇はどうするか。この本の怪奇そのものだよなぁ」

 

 コレばっかりはな…あまりにもこの世界に馴染みすぎて、無くなるとどうなるか予測つかない。

 でもスキル枠は絶対に要らないんだよなぁ…俺だって、良く考えたら破裂して死ぬとか怪奇そのものなのに、全然受け入れてたし。

 

「…いいや、消そう。メリーみたいなシナジーでヤバくなる連中居るし。」

 

 ブツ…、

 

 『能力値』の怪奇が消えると、全ての本が忽然と消える。もうこの先、能力があり過ぎて死ぬ事は無いし、逆に明確に力を具体的に区切られる事は無い。

 少なくとも、存在とかいう謎の項目による怪奇の必殺技は消えるんじゃ無いか?

 分かんないなぁ…コレのせいでできる事が増えてたのか、出来る事を視覚化する代わりに上限を設けてたのかわからないわ。

 

「…まぁ、どっちでも良いか。代わりに怪奇は全て消したんだから良いでしょ。釣り合ってる釣り合ってる」

 

 命令でこの世界を救うのは良いけど、こういう曖昧な事は自分で考えなきゃだからな。

 ぶっちゃけもう命令の効力はゲェムが消えた時に、一緒に消えてる気はするけど…別にいっか。

 今までの自分のままに生きるのも、自由の一つだ。

 

「さてさて、後は何かないかなーっと…コレで最後かねぇ?」

 

 歩いた先に会ったのは、目では見えない何かだった。多分概念かなにかだな。

 とても大きく、俺が出来る事は無さそうな何かだ。生身で宇宙戦艦を破壊しろと言われても出来ないのと一緒だな。

 今までの流れで壊せた連中とは一線を越す、マジでこの世界の根本の部分だ。怪奇が出て来る原因って感じだ。

 

「…どうすることも出来なさそうだけど、それだけだな。もう今の俺は何が正解かも知らないんだ。どうして妖精の手足が繋がってるのか、脳が壊れても無事なのかも原理不明だ。でも、それを知りたいとも思わない」

 

 だから、このまま進もうか。怖い事は無いんだからさ。

 透明な何かに触れて、中に入り込む。深い霧の中を進んでいる感覚だった。

 途中で母さんや真倉達の幻覚が俺の足を止めようと声を掛けたが、そもそもこの体験自体が変な薬やってる夢と大差無いんだ。止まってやる義理もないしな。

 そんな親しくないんだよぶっちゃけさ。居ないと寂しいけど、そこまで大事でもないし。

 

「…なんだか、あっさり一番奥に着いちゃったな」

 

 そんなこんなで、今まで巡った異界や出会った怪奇を全て記憶と同じ動きで突破して、奥地にやってきた。

 基本俺のチャートって再現性ある奴しか作らないんだよ。走馬灯だろうが再走だろうが、運要素なんて一つも無いんだわ。俺の運悪いし。

 

「…で、命乞いしてるお前を殺せばオッケー?」

 

 手を蟷螂の形にして、声も見た目もない相手の首にかける。

 怪奇の情報を貰えなくなっても、前世から持っていた感覚はそのままだからな。

 俺は皮膚に伝わる振動で周囲を把握出来るんだよ。前世じゃそのくらいの超人じゃなきゃあんなに長生き出来ないからな。不幸続きでなんか出来る様になってるんだわ。

 

「じゃあ選べよ。此処で死んで私も死ぬ共倒れか、私に関する記憶と記録を消して、今後人類が宇宙に進出して、人口が10兆を超えるまで怪奇を出さないか。怯えるって事は殺せるんだろ?見逃す代わりの条件は出したぞ?」

 

 お、なんか見えない何かの動きが止まった。世界の意思的なのの癖して非力な奴だ。

 両手足が無くて頭も割れてるとか、そんな死にかけの身体でどうやって交渉する気だったんだ?

 俺の能力を真似ても雑魚になるだけなのになぜ?

 

「…お、じゃあ約束守れよ。守らなかったら、俺は化けて出て来るからな」

 

 身体が浮上する。どうやら後者の要求を飲んだようだ。まぁ世界にとってはこのくらいの条件は安い物だからかな。思ったよりすんなりだ。

 何だか俺の能力がコイツに特効なせいで簡単に終わったけど、精神攻撃や透明な自分のコピーは普通に脅威なんだよな。

 …まぁ、俺らしい平坦な冒険だったんじゃない?平凡な奴なんてこんなもんさ。

 

 どさ、

 

「いて…」

 

 雑だけど、無事に地球に戻されただけマシだな。サイズ感で言えば精密なくらいだ。

 

「手足なし、目玉なし、血涙は流れないけど…頭はカチ割れてるし…さっむ…風の感じ方的に、全裸で川近くのゴミ山かぁ…」

 

 メガネも手袋も、怪奇関係は全て消えたのが反映されていた。

 奇跡的に脳が割れてても意識はある。だけど、直ぐに死ぬだろうな。

 

「あーあ、初めての冒険にしてはワクワク感に欠けていたなぁ…でも、初めてやりたい事が出来た気分だ。情報の無い怪奇を、考察しながら、仲良くなりながら潜り抜ける…まぁ、英雄譚に乗せるには不十分でも、自慢話にはなるかな」

 

 だが、戦果は十分だ。怪奇も人類の安全も全部解決したし、タイムは…3時間切れなかったけど、オールクリアとしては良い方だろう。

 後さ、今なら分かる気がするんだけどさ、もしかして妖精の手足やらなにやら会ったのは前世の影響だったりする?俺、自分の前世に怪奇みたいなのが居なかった自信がもう無いんだよね。

 『能力値』みたいに、当たり前なのが怪奇だったりするかもなぁ。

 

「あ、でも結局そこまで悪い事は出来なかったな…いっか、俺としても、私としても、スッキリしたんだし、ケチは付けないでやろう」

 

 …案外死ぬまで時間があるな。前世の俺ってすごくしぶといからなぁ、能力値が無くなってその影響が出たのかも知れない。

 でも関係ないね、しっかり周りに後悔させずに死ぬ為に、俺に関する記憶や記録を消すことにしたんだ。このまま死んでやるって思ったね。

 

「……お、ようやく意識が遠のいてきたな。痛みも無いし、今まで体験した死に方で一番穏やかで優しいかも知れない」

 

 やっと死ねるのか…長い様で、今世は6年しか生きてないんだよね。

 あー、濃すぎだし世界系の案件過ぎるだろ。世界系彼女じゃないんだぞ?俺を助けるか世界を助けるかなら、ヒーローが出て来る前に俺が世界を助けるわ。

 だって俺は英雄志望だしな。諦めた夢だけど、コレはもう実質叶っただろ。

 

 …よし、最後くらい俺らしく一言、言ってやるか。

 

 瞼を閉じて、心底笑ってやった。

 

「人生を完走した感想ですが、多分コレが一番幸せなんじゃ無いかなって信じる方が出来そうです!まぁ、悪くはありませんね!おわり!へいて

 

 






『怪奇』
 この世界が滅んだ世界を惜しんで、自分に取り入れた物。
 約束通りずっとずっと先の未来、必ず復活する。
 だけどそれは今じゃ無いし、人類の発展は遅い。
『何処にでもある作者』
 怪奇のある小学生のホラーをやろうとしたら、おまけ要素の特典で大暴れされた。
 絶対に無理だろって終わりに、ダイス運の無さだけで辿り着けられて困惑してる。
 もうこの世界に霧晴千歌という転生者は忘れ去られたが、大丈夫、みんな生きてる。
 次は不遇水魔法使いサーシャの異世界ファンタジーを書くことにした。またね。



霧晴千歌/小鳥遊薬
 あんまり良い人生では無かったけど、この世界でやれる事は全部やれた気もする。
 でもやっぱり、もっと幸せで居たかった。
 でもそんなに後悔してないんだから、不思議なもんだよね。

 ばいばい、みんな。
 みんなの最後はいい終わりである様に、薬/千歌が祈ってますね。

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