第八話 開催!!肉祭り
アビドスの騒動から数日が経った。アビドス生徒は、借金返済を変わらず進めている。それでも、大量の利子が少なくなったのは彼女らにとって救いだっただろう。
それはさておき、シャーレの部室で大量の書類と格闘している先生は、ほんの数日前、アビドス騒動が終わった翌日にシャーレに入部した砂藁サナに、つい先ほど渡されたある招待状について尋ねていた。
「“チキンボンバーとモモフレンズのコラボ?”」
「はい。チキンボンバーとは鶏肉を主に扱う会社なのですが、それ以外にも事業を展開している企業です。今回の件は、コラボ商品の宣伝としてシャーレを招待したとのことです」
サナは先生に事情を説明しながら、生徒会室での出来事を思い出していた。
それは、サナがアビドスの騒動の報告書を提出してから数時間後のことであった。彼女は、生徒会室に再び呼び出され、いきなりこの招待状を先生に届けろと命令を受けたのだ。
「これをですか?」
「あぁ。今回のイベントは大規模になるからな。それに乗じて先生を招待することにした。サナは確か明日シャーレにいくのだろう?だったら、そのついでにその招待状を渡してきてくれないか?」
日ノ本学園生徒会ネクロマンスは先生のことを警戒していた。類稀なる指揮能力に、連邦生徒会会長から受け渡された莫大な権力。得体の知れない先生を警戒する理由は、それだけで充分であった。
「“分かった。すぐに準備するよ”」
「外で待ってますね」
サナは外に出た。先生は未だ残っている大量の書類を眺めながら、準備を進めるのだった。
『ただいまより、肉祭りを開催いたします!!』
その放送と同時に、イベント会場に通ずる道が全て開放された。そこで行列を作っていた人々は、一気に中に雪崩れ込む。
その様子を外から見ていた先生は、会場の熱気に早速翻弄されていた。
「外で待っていて良かったですね」
「“そうだね……”」
先生とサナはこのような事態を予測して予め外で待機していた。というのも、肉祭りは日ノ本学園ではとても人気の祭りであり、毎年多くの人が参加して行列を作っていた。それに加え、今回はモモフレンズとコラボしている。他の学区ではマイナーなのかもしれないが、日ノ本学園では国民的マスコットのような立ち位置であり、今回のイベントでは二つの人気の要素が重なっているため、今まで以上の人が参加するのは目に見えていた。
「それでは色々見てまわりましょうか」
サナは先生を案内する。
このイベントでは様々な露店が大通りに建ち並んでいた。定番であるフランクフルトや焼きそば、たこ焼きなどはもちろん、射的やスーパーボールすくいなどの幼い子供も楽しめるものまである。その中で先生が特に目を引いたのは、今回のイベントの目玉の一つである巨大ペロロ像だった。その横にはMr.ニコライやウェーブキャットなどの巨大像が聳え立っていた。しかも、そのどれも妙にリアルに作られていた。
「どうです?クオリティが無駄に高いでしょう?」
「“た、確かに…”」
先生は少し顔を引き攣らせながらも笑顔でそう返した。
「“ん?”」
ここで先生は何かに気づいた。先生の右斜め前方に何やら見覚えのある生徒が目を輝かせてペロロを見つめていたのだ。
「“ヒフミ?”」
「?せ、先生!?」
先生が声をかけると、ヒフミはいつのまにか背後にいた先生に驚愕する。彼女がペロロに夢中になっていたがために気づかなかったのだろう。
すると、横にいたサナに気づいたヒフミが、先生にサナのことについて聞く。
「先生、この人は?」
「“あっ、ごめんね。この子は…”」
「先生、大丈夫です。自分で自己紹介します」
サナは先生の横に立ってヒフミと向き合う。
「日ノ本学園3年、砂藁サナと申します。よろしくお願いします」
「あっ。ト、トリニティ総合学園2年の阿慈谷ヒフミです」
両者とも自己紹介が終わったところで先生がヒフミにある提案をする。
「“良かったら一緒に見て回らない?”」
「え?いいのですか?」
「“うん。大丈夫だよ。大丈夫だよね?サナ”」
「はい。私はあくまでこのイベントに先生を招待させるためと日ノ本学園に案内するためにシャーレに行っただけですので。イベント中の案内は個人的な判断によるものです。なので、先生がヒフミさんと一緒に回るのであれば、私は構いません」
「“ありがとう!!”」
こうして、先生、ヒフミ、サナは3人でこのイベントを回ることになった。
「お、おいしい!!」
ヒフミは、様々な露店で売っていた料理を食べて目を輝かせていた。特にペロロの形をした皿に乗っているカレーを食べた時には、一番目を輝かせながら物凄いスピードで食べ進めていた。
「“確かにおいしい!”」
「ふふっ。そうですか?」
サナはバクバクと食べる先生とヒフミを見て微笑む。すると、喉が渇いたのか席を立ったサナは、ウォーターサーバーのところに立ち寄る。紙コップに水を入れ終わると自分の席に戻ろうとするが、いざ席に座ろうとした時、ある表記がヒフミたちが今食べているカレーを売っている店に書かれてあった。
「ど、どうしたんですか?」
「ヒフミ、あれ見て」
ヒフミはサナが指差した方向を見る。そこには、『ペロロのお皿は自由にお持ち帰り下さい』という表記が書いてあった。それを見たヒフミが興奮したのは言うまでもなかった。
「あ、ペ、ペロロ様のお皿を持って帰っていいんですか!?」
「“いいらしいね。向こうで洗う必要はあるけど”」
ヒフミは真っ先に洗いに行った。
カレーを食べ終わった一同は、露店の見回りを再開していた。人が多く入り乱れる中、一同は入り口から5km離れている場所に辿り着いた。そこは人が多いのに何故か周りより涼しく、真ん中には1人の生徒がいた。
「セツちゃん!!」
「?ヒフミ!!」
ヒフミに呼ばれた生徒、冬花セツは、後ろに振り向いてヒフミの向かい合う。お互いに久しぶりの再開なので、彼女たちはその再開を堪能していた。
30秒ほど経つとセツはサナに視線を向けて、その後先生に視線を移した。
「サナはなんで先生と?もしかして案内してるの?」
「そうです。あなたは治安維持活動に駆り出されているみたいですね」
そう言ったサナの目線を辿ると、セツの左腕にある腕章が付けられていた。その腕章をよく見ると、デッカく『旭日隊』と書かれてあった。このことから、彼女は旭日隊の任務に就いていることがわかる。
旭日隊とは日ノ本学園における治安維持組織のことである。中身はゲヘナの風紀委員会、トリニティの正義実現委員会に近いが、どちらかというとSRT特殊学園に近い。もっと正確に表すとしたら、風紀委員会+SRTになるだろう。
旭日隊は主に陸・海・空の三つに分かれている。それら全て、自治区内の治安維持や特殊任務を請け負っている。また、仮に日ノ本学園が攻められた場合、防衛戦と攻撃戦を担当するのが旭日隊だ。つまり、旭日隊は軍+警察の組織であることが窺えた。
セツはそれら旭日隊のトップの立場の人物である。故に、書類仕事は多いのだが、セツはそれを悉くサボる。なので、生徒会長であるユカからは治安維持を任せられていた。サナはそれを知っているため、セツに何故治安維持をしているのか言及しない。
「そうなんだよ!!ユカったらひどいと思わない?」
「いや、それは書類仕事をサボるあなたが悪いだけでは?」
「うぐっ」
サナの鋭い言葉に言い返せないセツ。ここで先生がセツに話しかけた。
「“セツもこのイベントを回りたいの?”」
「先生、そうです。私だって回りたいんです!!」
「“なら、一緒に回る?”」
「へ?」
セツは先生からの提案に固まった。そこにサナから援護射撃が入る。
「確かに私たちはこのイベントを回りたい、セツさんも回りたいが治安維持の仕事がある。しかし、私たちと回るついでに巡回の役目を果たせば一石二鳥ですね。最悪、セツが私たちを案内していたとすれば大丈夫ですし。私もその時はセツさんにつきますから」
その言葉がセツを決断させた。周りを見て顔が知らない人しかいないのを確認すると、セツは先生に近づきこう言った。
「なら、お願いします」
セツにしては珍しい敬語でお願いしたのだった。