「さっむい……なんでいつもこんな寒い日に人の子働いてるの……バカじゃないの」
アタシ天使、天におわす我らが神の御使い。神が作りたもう人の子らを見守り、美徳を伝える者。だからこんな雪降る真夜中でも人の子が働くなら見守るの、さっさと寝てくんないかな。あのお月様もそう言ってるわよ。
本当に最近の人の子は天使の話を聞かない! 大昔、本当に人だけの世界だった頃は天使の意味もあったろうけど、今は亜人がいっぱいいて天使もその一つに数えられてしまった。もうだーれも有難がらないし、まともに説教を聞く人もいない。嫌になっちゃうわよ。
「はぁーあ、こんな大きなビルや橋を作れるのに、人の子達は今も昔も変わらない所しか可愛くないわね、仕事終わるまで時間あるし歌でも歌おうかしら」
冬の寒空を眺めながら、高層ビルの屋上のフチに腰掛けて鼻歌を歌う。なんて書き起こせばちょっと美的じゃない? 人の子感動で涙の洪水ノアの箱舟よ! 大げさか。
「ラァー……ララリラー」
「いい歌だね、空まで聞こえてたよ」
「きゃあ! だれ!」
「あ、どうも宇宙人です」
振り返れば宇宙人と名乗る人の子……人の子か宇宙人は? まぁ人の子か、人型なら等しく神の子供と言うことで。そう人型、グレイとかタコとかそう言うんじゃなくて、この子は普通のサラリーマンみたい。
「どうしたの、宇宙人も神様信じるの?」
「まさか、天より高い所から来たのに」
「皮肉ね、で、真面目な話どこから来たの?」
「元は僕らもこの星の子、今は月にいるから月の子かな」
「ふーん月から……幸せ者ね」
「そうかなぁ、人口増加で体のいい口減らしだったけど」
「それでもよ、月はいいわよ、天使には特別なの」
宇宙人はアタシと同じくビルの屋上の縁に腰掛けて、並んで座った。
「さっきのは賛美歌かな? もう一度聴かせて欲しい」
「人に聴かせる歌ではないわよ」
「そこを曲げてなんとか」
「賛美歌ってそういうものじゃないと思うのだけれど」
不思議な子、見た目は大人なのに子供のような無邪気さがある、アタシとしては皆子供なんだけど、そういうことじゃなくて人基準で子供っぽい、まるで中身と外側があべこべね。
「ねぇ天使は宇宙で見たことないけど、どこに住んでいるの?」
「それは秘密、空の上とは答えてあげる」
「僕らはいつも月から地球を見てるけど、天国は見つけたことがない、ずっと不思議なんだ」
「ふふん、それじゃ見つからないわね」
我らの神は人が探して見つかるようなところには何も作ってないからね、そのくせに試練とか与えたがるからサディストよあれ、アタシの仲間は皆そう言ってる。
「じゃあ、人が神様と会うことはないのかな」
「それは人の子次第、それこそ神のみぞ知るってことよ」
「大昔、人は神様を信じてた、けど今は形だけ、神様はそれが嫌いになったのかな」
「そんなこと無いわよ、神は母で父、親心は人の子の親より二倍強いわよ……だから、独り立ちしてほしいのかもね、神に頼ること無く人の手で自立して……って」
これは天使であるアタシが言っていいことでは無いんだろうけど、神の教えは守っても守らなくても、人は育つ、親を離れ自らも親となる、だから、我らの神は親として見守るだけ。
「そっかー、じゃあまた来るね」
「今度は月の石持ってきてよ」
「良いよ、代わりに歌を聞かせて欲しい」
「良いわよ」
宇宙人は船で空へ飛び立ちその姿はすぐに見えなくなった。
全く、月の明かりは良いわね、私たちはもう帰れないのだけれど、あぁ我らが神よどうして我々をこの星へ落としたのですか、共にそちらで暮らしたかったのに。