学園一の美少女に脅されて付き合うことになりました。 作:赤瀬 涼馬
勉強会を始めてから今日で三週間が経った金曜日の放課後。教室では居残りして本格的に中間考査に向けた勉強を始める者も出始めてきた。
俺たちの通う学園では中間考査が近くなったらすべての部活動が活動停止となり勉強一直線になる。そのため、必然的に勉強することが必須となるわけだ。まあ、そもそも学生の本分である学業を疎かにするような奴に部活動をする権利はないと思うのだが。
そんなことを思いながら黙々とテストに向けて勉強を進めていく。
迎えた週末。いつものように四人で勉強していると、珍しくピーンポーンとインターホンが鳴った。誰かと思い出てみると、歓迎したくない客人だったため、すぐに追い返そうとするが、ドアを閉める直前にストンと靴を入れられて強引に抉じ開けられてしまった。
「………どうしたの!?」
大きな音にびっくりした九音が心配して様子を見に来た。
「なんだ、彼女さんもいたのか」
特に驚いた様子もなくそう口にする琴音。
「ひ、昼神先生?どうして先生がここにいるんですか」
琴音の登場に驚きの声を上げる九音。
「どういうことユウマくん。まさかユウマくんの言っていたお姉さんって先生のことだったの?」
驚いた声を上げる九音と、騒ぎを訊いて部屋からできた胡桃が「おぉ―――こんにちは琴音せんせ」
と嬉しそうに話しかける胡桃。
反応が二極化する中、透哉もひょっこりと部屋の奥から顔だけを出して状況を見守っていた。
注目の的になっている琴音は、特にこれと言った反応は見せずに無遠慮にずかずかと上がり込んで来ようとする。
「ちょっと待ってくれ、皆でテスト勉強しているところだから邪魔しないでくれ」
止めに入るが、それが逆効果だったようで、「ならばなおのこと私がいた方がいいだろ?新任とはいえこれで教師だからな、なにかしらのお前たちの力のなれるかもしれん」
引くどころかごり押ししてくる琴音。結局、琴音のごり押しと圧に根負けする形で半ば勉強会に参加させることになった。
「ここの文脈は作者の意図をよく考えてみろ、その計算問題は順列の公式を応用して解くんだ、いいか、もともとルネサンスとは14世紀イタリアの人文主義に端を発しており―――」となかなか勉強になる補習授業をしてくれた。そのおかげもあり透哉や胡桃たちのテスト対策もだいぶ捗っており、時折、俺や九音の方も見てくれて色々とアドバイスをしてくれた。
それからは色々な話をしながら過ごした。
「いよいよ、明日か…………」
時間が流れるのは早く、明日に迫った中間考査に向けて最後の追い込みをしていた。
胡桃が緊張した声色で呟く。
「なんだ、赤点を取らないか今から心配しているのか」
ユウマくんが笑いながらそんなことを口にする。
「ちょっと、縁起でもないこと言わないでよ」
その言葉を聞いた胡桃がぷっくりとフグのように頬を膨らませながら抗議してくる。
「そんなに心配しなくても大丈夫よ」
そんな胡桃を九音が励ますように言葉をかける。
「西園寺さんの言う通りだぞ、だからそんなに心配するな」
それに続いて彼氏である透哉が胡桃の頭をよしよしと頭を撫でる。
「そういうのは私とユウマくんがいないところでやってよね」
九音が顔を赤くしながら注意するもまったく効果がなく赤くなってしまったことで火に油を注いだようで悪意味で逆効果だったようだ。
「西園寺の言う通りだぞ」
九音に続いて俺もそう言うと…………。
「九音ってば、もしかして羨ましいの?自分がユウマにしてもらえないからって嫉妬しちゃってる!?」
盛大に煽り散らかした胡桃を般若の形相をした九音が睨みつける。
―――そればまずいだろ。っていうか、なんで積極的にケンカを売っているんだ?そんなことしたらぶっ殺されるぞ!!
心の中で突っ込んでいると案の定、ピキっと九音の額に青筋が立つ。
それを見た胡桃が「ひぃぃぃ―――――――!!じょ、じょ、じょ、冗談だってば、ちょっとしたアメリカンジョークだよ」
引き攣った笑みを浮かべながら弁明する胡桃に、「………言いたいことはそれだけかしら」
と、九音がまるで世界を凍土にかえかけない絶対零度の眼差しを向けて死刑宣告をする。
「助けてよ――ユウマ」
俺に助けを求めるが…………。
「わかっているよね?ユウマくん――――」
怒りのボルテージをMAXにした九音にぎょろりと睨まれる。
――――すまない胡桃、俺にできることはなさそうだと無言の肯定で答えるとともに決して九音を怒らすまいと固く誓う。
「ユウマの薄情者――――!あんぽんたん、おたんこなす」
俺の悪口を言いながら九音に首根っこを掴まれて廊下に連行されていく。その様子を透哉と見守りながらドンマイという視線を送る。
その後、廊下の方からマジギレした九音の声と幼子のように泣き喚く胡桃の声が漏れ聞こえてくるのだった。
九音のマジギレ説教タイムが終わった後、なんともいえない気まずい空気が漂う中、中間考査に向けた最後の仕上げをしていた。
ピリピリとした殺伐の空気の中、俺たちは黙々と勉学に励んでいる。
ちらりと壁にかけてある時計に目を向けると、時刻が夕方の十七時を回っていた。そろそろお開きにしようと三人に言おうとした矢先。
「それじゃあ俺たちは先に帰るからあとはごゆっくり」
逃げるように帰っていく二人を見送ったあと、気まずい空気の中で九音と二人きりになる。
さて、どうしたものかと考えていると――――。
「ユウマくん」
静かな声で九音に名前を呼ばれる。
「どうしたんだ?」
振り返った刹那、ドンと廊下に押し倒される。
「え、えっと西園寺さん?」
俺があたふたしていると、端正な顔をゆっくりと近づけて「もし私が今回の中間テストでユウマくんよりもいい点数をとれたら私と週末にデートしてほしいの」
「へぇ―――?デート?」
「そう、ダメかな」
潤んだ瞳で懇願するように上目遣いで尋ねてくる。
―――おいおいその表情は反則だろ。
「ッ…………」
自問自答していると九音が作戦変更をしたようで別のやり方で攻めてくる。
「もしかして、ユウマくん私に負けるのが怖くて勝負できないの」
意地悪な笑みを浮かべながらいきなりそんなことを言い出す。
―――おいおい、さっきまでの幼気な少女はどこに消し飛んだんだ?
またしても自問自答していると、「どうなの?ユウマくん」
こちらを挑発するように好戦的な瞳を向けながら自信満々に微笑んでいた。
「わかったそこで言うなら受けて立とう。ただし、俺が勝ったら、約束は白紙に戻してもらうからな」
「良いわ。望むところよ」
俺たちの会話を訊いていた胡桃と透哉が面白いことになってきたというような顔をしていた。
「頑張れ―――!九音応援しているから、あとユウマも頑張ってね」
胡桃が九音と俺に声援を送る。
透哉も俺に「せいぜい頑張れよ」と応援してくれる。
―――俺はついでかよ、っていうか、透哉の奴、応援する気ないだろ!
なんとも言えない複雑な気分になりながら九音との勝負に臨むのだった。