学園一の美少女に脅されて付き合うことになりました。   作:赤瀬 涼馬

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10話 頑張ったご褒美と初めてのデート

 迎えた中間考査の答案用紙返却日当日。

 

「やっとこの日が来た」

 

 そんな大袈裟なことを思いながら私は自分の席に座っている

 

 中間考査から数日が経ちテスト返却日がやってきた。できることは全力でやったし、あとは人事を尽くして天命を待っている状態であった。

 

 このテストの結果がユウマくんと週末デートできるかの鍵を握っている重要なものなのだ。

 

 自己採点では全教科九割は取れていたので大丈夫だとは思うが。と一抹の不安を抱えながら、現代文のテスト返却を迎える。担当教諭が出席番号に沿ってテストを返していき全員返し終わってから平均点と赤点を黒板に書いていく。

 

 私も自分の席に戻ってから点数を確認する。緊張した気持ちで名前の横に書かれている点数を確認するとそこには九割五分を超えている数字が書かれていた。

 

 そんな調子で残りのテストも返却されていき、すべての教科の答案用紙が返却され合計点数も計算することができた。

 

―――よし!勝った!!

 

 放課後、ユウマたちがいる教室に脱兎のごとくの勢いで向かうと扉の前でユウマと出会い頭にぶつかりそうになった。

 

「――――ユウマくん!」

 

 ちょうどユウマのところに行こうとしていたのでグッドタイミングだ。

 

「ユウマくんちょうど良かった。テスト返ってきた?」

 

 ウキウキした様子で訊いてくる九音。

 

「ああ、返ってきたよ」

 

 普通に答えるユウマにドキドキしながらテストの点数を訊く。

 

 自分の点数を言ったとき、ユウマがまるでこの世の終わりのような顔で絶望していた。

 

「どうしたの?ユウマ」

 

 驚いた胡桃がユウマに尋ねる。

 

 その光景を見た透哉が「まさか――――」と何かを悟った顔をしていた。

 

 九音もそんなユウマの様子を不審に思ってひょっこりと答案用紙を盗み見ると――――。

 

 直後に勝ち誇った笑みを口元に浮かべながら「今回の勝負、私の勝ちみたいだね」と高らかに勝利宣言をしていた。

 

 それを訊いたユウマも諦めたように「ああ―――俺の負けだ、惨敗だ」と口にしていた。

 

「それじゃ、ユウマくん。約束通りに週末楽しみしているからね」

 

「わかっているよ」

 

「今日は祝勝会だ――――!」と胡桃の腕を掴んでグイグイと引っ張ってどこかに連れだそうとする。

 

 透哉も嬉しそうな九音を見てにこやかに微笑みながら「せっかくだから二人で行ってこい!」

 

 と、快く送り出してくれた。

 

「透哉たちは来ないの?」

 

 ユウマと寄るところがあるからパスと言ってユウマの方に腕を回しながらどこかに行ってしまった透哉。

 

「あいつらのことは良いから、私たちも楽しもうよ」

 

 とえぼをつった胡桃とともに祝勝会兼作戦会議のため遊びに出かける。

 

 

 

 帰り際に近くのコンビニに来ていた俺たちは駐車場でアイスを買い食いしていた。

 

 なぜ大好きな胡桃の誘いを断ってユウマと二人でこんなところにいるかと言うと。

 

「大丈夫か元気出せよ」

 

 腐れ縁であり悪友である透哉が珍しく俺のことを励ましている。

 

「励ましてくれるのか珍しいな、明日は槍でも降るのか」

 

 そう言って元気に振舞おうとすると、「そういうのやめろよ。本当は悔しくてたまらないんだろ?勝負に勝って西園寺さんに言うつもりだったんだろ?この関係を終わりにしようって」

 

 珍しく真剣な表情で透哉が言ってくる。

 

「おま、え、どうして知っているんだ。まさか西園寺が約束を破って――――」

 

「違う!西園寺さんから訊いたんじゃない、彼女はそんなお前のことを裏切るようなことをする子に見るか」

 

 透哉の言葉に気圧されて黙ってしまう。

 

 静かな声色で透哉が俺の名前を呼ぶ。

 

「俺の協力できることなら力になるから話してくれないか」

 

 真剣な表情で話す透哉に「でもそれをしたら西園寺との約束を破ることになる」

 

「心配しても誰にも言わねぇから安心しろ」

 

 透哉の言葉を信じてこれまでの出来事を話す。

 

 「そうかそれは災難だったな」と俺の話を訊いた透哉は九音を責めるわけでもなく一言そうだ言っただけだった。

 

 それから強引に話を変えた透哉とこれからの週末に控えたデートに向けたプランを練るのであった。

 

 そうして迎えた週末。

 

 指定された駅前のカフェテラスで待ち合わせをしていると遠くから訊き慣れた声が聞えてきた。俺を見つけた九音が脇目も振らずにこちらに全力疾走してくる。

 

「ユ―――ウ――――マ―――くぅ―――ん!!」

 

 と、ハイテンションな九音が挨拶の代わりに腕に抱き着いてくる。

 

「お、おはよう。西園寺」

 

―――まったく、朝から元気なだな。

 

 と感心しながらきゅんきゅんと子犬のようにしがみついてくる九音を見遣る。

 

 こんなに嬉しそうにしている九音を見ていて少しだけ複雑な気持ちになる。

 

「西園寺、そんなにくっつかなくても別に逃げたりしないぞ」

 

「…………ダメよ!これくらいしないと鈍感なユウマくんは気づかないでしょ?」

 

 そう言ってさらにぎゅっと抱き着いてくる。まるで自分の大切なものだと周りにアピールするかのように。

 

 といっても、周りには誰もいなのだが。

 

「おい!西園寺」

 

 少しだけ離れてくれるように言おうとするが「ユウマくんは負けたんだから私の言うこと訊いてくれるんでしょ?」

 

「それは今週の休みにデートするってことだろ」

 

「でも一つしかお願いちゃいけないなんて言ってないし訊いてないもん」

 

 暴論を言い出す九音。

 

「そんなのアリなのか」

 

「勝負に勝った方が正義なんだから、敗者は勝者の言うことを訊かないといけないんだよ」

 

 満面の笑みで正論と暴論をぶちかましてくる九音に返す言葉もなく沈黙する。

 

「………ユウマくん?」

 

―――もしかしてやりすぎちゃった!?

 

 だんまりを決め込んだ俺にちらりと不安げな視線を送ってくる九音。

 

「で、でも―――本当に嫌なら言ってね。ユウマくんに嫌われたら意味ないし、一方的な関係も良くないから」

 

 俯きながらそう言う九音。この子は真剣に俺に対して好意を持ってくれているだということを実感する。

 

 そんなことを考えながら考えていると。いきなりツンツンと頬をされ驚いて突かれた方を見ると、フグのように頬を膨らませた九が不満たっぷりの瞳でこちらを見ていた。

 

 プンプンとした様子の九音に「どうしたんだ?西園寺、もしかして俺なにか変なこと言ったりしたか――――」

 

 そう訊いてみるが、「別に何でもないよ」と言った後に小さな声で‘’ユウマくんのばかぁ‘’と言っていた。

 

―――聞こえているぞ―――!

 

 そう思いながら気まずい空気の中歩く。

 

 歩き始めてしばらくしてから「今日はどこ行くんだ?」

 

 と九音に訊いてみる。

 

 デートといえば男子の方がいろいろとリードをしていくものだろうと思い透哉と一緒に考えたデートプランを前日に九音に伝えたのだが…………。

 

「当日は私に任せてくれていいからユウマくんは何も心配しないで!」

 

 と力強く言われたため九音に任せることにしたのだ。

 

「…………」

 

 隣を歩いている九音を横目でちらりと見ると可愛らしいメモ帳のようなものを手にしてぶつぶつと独り言を口にしている。

 

「………西園寺?」

 

 声をかけてみると、「っはい!」とぴくりと肩を震わせる。

 

 なにやらすごく緊張しているようだ。

 

「大丈夫か?西園寺そんな無理しなくても大丈夫だぞ」

 

「べ、べ、別に無理してないよ――――」

 

 明らかに虚勢を張っている九音にもっとリラックスしてもらうにはどうしたらいいかと思い周りを見渡すが中々これと言ったものが見当たらずしばらく歩いていると。

 

 小さな映画館が目に留まる。外見から年季の入っている具合から昔からあるらしい。ちらほらと利用客がいるようだ。

 

 試しに入ってみようかなと思っていると、九音が小さな子供のようなキラキラと瞳を輝かせて建物を見ていた。

 

「西園寺入ってみるか」

 

 そう訊いてみると、「………入っても良いの?」

 

 嬉しそうな表情でこちらに確認をとってくる。

 

「別に良いよ、今日一日は西園寺に付き合うのが目的だからな」

 

 俺がそう言うと、「ありがとうユウマくん」

 

 太陽のような笑みを浮かべながらそう言う九音に図らずもドッキリとさせられてしまう。

 

 その後、二人で並んで上映される映画のチケットを購入する。

 

「で、どんな映画を観るんだ」

 

 チケットを持っている九音に訊いてみるが、「見てのお楽しみだよ、ユウマくん」

 

 内容どころかタイトルすら教えてもらえずやきもきしていると、とことこと建物内に入っていく九音を見つけて追いかけるようにして後を追う。

 

 それから小さなフードコーナでお菓子を買い、近くの自動販売機で飲み物を調達して指定されたスクリーンに向かう。

 

 定刻となり、映画でおなじみの予告が流れた後に、映画上映の際に気を付けることや注意点のCMを見て本編が始まる。

 

 さて、どんな映画なのかと胸を躍らせているといかにも恋愛っぱいタイトルがスクリーンに流れる。まさかの恋愛ものかと思いながら観ていく。

 

「まさか、あんなラストになるなんてすっごく感動した――――ユウマくんもそう思うでしょ?」

 

 映画を観終わった九音が興奮気味に捲し立ててくる。

 

「そうだね。すごく感動したよ」

 

 思ったことを素直に口に出したのだが―――――。

 

「本当にそう思ってるの?」

 

 九音が疑念を持った瞳で見てくる。

 

「ホント、本当にそう思ったから」

 

 疑いに満ちたジト目を向けてくる九音に必死に思いの丈を語る。

 

 それから昼時になり近くのファミレスでお昼ご飯を食べる。『サ』がつくお馴染みのお店でドリンクバーとドリアセットを注文して食べる。

 

 目の前の九音が宝物でも見るかのように瞳をキラキラとさせながら「食べていいの」と幼い子供のようにウキウキとしている姿を見てついほっこりとした笑みが零れる。

 

「いただきます。美味しい―――――!!」

 

 美味しそうに食べる九音を見て自分の分を食べる。

 

 パクパクと食べている九音に午後の予定を訊く。

 

「そうだね」と言いながらドリンクを一口飲んでからメモ帳を見ながら人差し指を唇に添えて考えるしぐさをする。

 

 しばらくしーんとした空気が流れた後。

 

 突然、九音がバックからスマホを取り出してなにかを調べ始める。

 

 すると「ねぇ、ユウマくん午後はここ行かない?」

 

 と、県立図書館のホームルームを見せてくる。

 

「別にいいがどうして図書館なんだ。デートスポットなら他のもあるんじゃないか」

 

 不思議に思って訊いてみると―――――。

 

「実は今日、イベントを開催しているらしくてそれに参加してみたいの」

 

 興味津々でそう言う九音に「分かった、それじゃ行こう」と言い、昼食を食べた後に駅のバスターミナルから県立図書館に向かう。ゆらゆらと揺れること数十分後、目的の場所に近くに到着したため降車ボタンを押して降りる。

 

 眼下には広々とした空間に自然が広がっており見ているだけで気分がリラックスできる。

 

 目的のイベントが開催されている場所に向かうため図書館の中に入り指定されている場所に向かうと目の前にカフェテラスのような空間が目に入る。

 

 中へと進んでいき、いちばん奥の専用のスペースがあるのを見つける。職員の人が数人いたため「すみません」と声をかけてイベントを体験した旨を話す。

 

 どうやら今回のイベントは自分だけのオリジナル図書カードを作る体験型のイベントらしくベースとなる図書カードを作りその表面に好きなイラストを印刷するというものらしい。

 

 へえ―――と感心していると隣にいる九音が熱心にプリントするイラストをスマホで検索する。

 

 どれにしようかと悩んでいる九音を横目に部屋の周りをグルーと見渡すと様々なものが展示されている。色々なものがあるなと感心していると。

 

「決めた私これにするよ」

 

 そう言って一枚のイラストを見せてくる、そこに映っていたのは俺が推し活中のアニメのイラストだった。

 

 黒髪の紫紺の瞳と女象牙色の髪に深紅色の瞳をした制服姿の二人の美少女がカメラに向かって満面の笑みでピースサインをしているものだった。

 

「これって――――」

 

 一瞬だが、驚いた顔をしたユウマがポカンとしたまま私を見つめてくる。

 

「ちょ、ユウマくんのそんなにまじまじ見られると恥ずかしいよ」

 

「どうしてこのイラストにしたんだ?」

 

 真剣な表情でそう訊いてくるユウマに以前から言いたかった言葉を口にする。

 

「あなたのことを知りたいって思ったから…………それに好きな人のことを知りたいって思うこと普通でしょ?だからこれからも私はユウマくんのことをどんどん知っていくし、私のことも少しずつでいいから知ってほしいって思っている」

 

 決意の籠った瞳でそう告げてくる九音、それは前にも聞いた言葉。

 

「俺ってなんて幸せ者なんだろうな」

 

 自分でも驚きの言葉が口から出る。

 

「ユウマくん?」

 

―――学園で一番の美少女に好かれてこんなに想われているのに俺ってやつは。

 

 自分の勇気のなさと不甲斐なさにほとほと呆れてしまう。

 

 そんな自己嫌悪に陥っていると「ユウマくん」と優しく名前を呼ばれる。

 

 振り向くとまるで天使のような、女神のような、聖母のようなすべての苦しみから解き放つ光の笑みを浮かべる九音がいた。

 

「こっちきて」

 

 手を引かれて真横に引き寄せられる。

 

「これから専用の機械でプリントするんだって楽しみだね」

 

 嬉々とした様子で状況を説明してくれる九音。

 

「ああ、どんなふうになるのか楽しみだ」

 

 図書カード制作後、敷地内の公園をグルグルと散策していた。

 

 時刻はまだ午後十四時を回ったばかりだった。

 

「次は行こうか西園寺」

 

「え、えっとそれじゃあ――――」

 

 先ほどのメモ帳を片手にそう言って恥ずかしそうに俯きながら目的の場所を口にする。

 

 バスのなかではご機嫌な九音が隣の席で鼻歌を歌いながら到着を心待ちにしている。しばらくして最初にいた駅前近くまで戻ってきてとある場所に入る。

 

「存在の証明を――――――!」と俺の好きなアニメのOPを熱唱している九音。

 

―――めっちゃめちゃ歌うのが上手いもはやプロの歌手レベルだ。

 

 と、感心して訊き惚れていると九音からほいっとマイクを手渡される。

 

「ユウマくんも一緒に歌おうよ―――――」

 

 歌の間奏が流れている間にそう誘いを受ける。

 

「え、ちょっと!西園寺」

 

「さぁ行くよ―――――!」

 

 テンション爆上げの九音に先導されるようにデュエットする。気づけばあっという間に楽しい時間が終わりを告げていた。

 

 楽しいカラオケタイムを堪能した後、二人で駅の周りをぶらぶらとする。時間もまだあるため、どうしようかと考えていると、肩を並べている九音がチラチラと視線を向けてくる。

 

「あの―――、その――――えっと――――」

 

 指をもじもじとさせながら言葉を詰まらせる九音がねだるような視線を向けながら消え入りそうな声色で「よ、洋服を一緒に選んでほしい―――」とお願いされる。

 

 九音に言わんとしていることも理解はできる、確かに‘’仮初めのカップル‘’とはいえ付き合っている以上はこういったいベンドが発生してもなんらおかしくはない。

 

 確かにそれは理解できる、だが―――――。

 

―――生着替えを見守るのはどうなんだ。

 

 と、疑問に思いながらも着替え中の九音を置いて帰るわけにもいかないため致し方なく待つことにすることになるが、試着スペースのカーテンの中から衣擦れやジッパーを下す音が聞こえてきた。

 

「西園寺これはちょっとまずいんじゃ――――」

 

―――目の前を通る女性からは、もしかして高校生カップルかしら?かわっいい、私も高校生のころを思い出すな。青春だね―――などと言われまくっておりさすがに恥ずかしくてたまらなかった。一秒でもいいから早くこの場から立ち去りたい気持ちを駆られながら九音が出てくるのを必死に待つ。

 

 数分後、肩口の空いた白のタートルネックに膝丈くらいの長さのスカート、薄い黒のニーソックスに茶色のブーツといった大人っぽいコーデをして外に出てきた。その姿を見た店員や周囲の女性たちが可愛いし、すごい似合っているやこれなら彼氏くんも悩殺確定でしょ―――!といった具合で好評だった。その声に照れ笑いを浮かべながら、「………どうかな?ユウマくん」と俺の袖口を掴みながら照れたような上目遣いで訊いてくる。

 

―――今、それは反則だろ!!と思いつつも、九音にバレないように冷静を装いながら「すごくいいんじゃないかな、普段の西園寺とのギャップもあって似合っている」と素直に思ったことを伝える。

 

 俺の感想を訊いた九音は、嬉しそうに微笑みながら試着室の中に戻っていった。その後も何着か試着をしていたが、結局、最初に着た服のコーデが気にったようで支払いを済ませてそのまま着替えてお店を後にする。

 

 それからしばらく歩いて近くの公園で一休みしていると、目の前に美味しそうなアイスクリームの出店が目に入る。

 

 歩き回って疲れていたし、ちょうど良いと甘い物を食べたいと思っていたのでグッドタイミングだった。九音になにを食べたいのかを訊いてから買いに向かう。

 

 注文した商品を受け取って九音のいるところに戻ると、「ありがとう、ユウマくん」とお礼を言った九音は、俺の手にしているアイスクリームを見て驚いた顔をしていた。

 

「ゆ、ユウマくんいくらなんでもそれは多すぎじゃないかな―――」

 

 やや困惑気味な反応をしている九音に「いいから、いいから」と言ってチョコレート、キャラメル、イチゴ味の三段乗せのアイスを手渡して俺も抹茶、バニラ、メロンシャーベット味のアイスを堪能する。

 

 すると九音がちらりと俺の方を見てから、「私の少し食べていいからユウマくんのも少しもらっていい?」

 

 と言われ驚いてフリーズしていると――――。

 

 九音が「はい、どうぞ」といって自分の使っているスプーンであーんをしてきた。いきなりのことで驚いた俺は咄嗟に距離をとってしまい、そのはずみで腕が九音に当たってしまった。

 

 九音が持っていたスプーンがニーソックスに落としてしまう。

 

「っきゃあ!!」

 

 驚いた声を上げる九音にすぐさまごめんと謝って持っていたハンカチを渡す。アイスが付いたニーソックスを拭きながら、ちらりと九音がこちらを見る。

 

 そしてなにかを悪戯を思いついたと言わんばかりににやりとサディスティックな笑みを浮かべて「ねえ、ユウマくん―――私の鞄に予備のニーソがあるからとってくれない?」

 

 突然、そんなことを言い出す九音。絶対なにか裏があると思うが汚してしまった手前、断るわけにもいかず言う通りにする。

 

「はいよ、これでいいか」

 

 と言って鞄から予備のニーソックスを取り出す。それを見た九音がクスっと笑って「それじゃあ履かせてくれる?」と色白の綺麗な足を俺に差し出してきた。

 

「ッ―――なにしてるんだ」

 

 びっくりして大声を上げる俺に小首を傾げて「だって男の子はこういうことするの大好きなんでしょ。 だからユウマくんにはとってもこれはご褒美になるんじゃないの?」と迷いのない声でそう言ってくる。確かに世の中にそういうマニアックなことを好む人種もいると訊くが、俺はそっち側の人間じゃないと心の中で否定しながら「そういうことをするのはごく一部のやつらだけだ」と否定の意味も込めて九音に説明する。

 

「……へぇそうなんだ」といかにもつまらなそうな反応を示すだけだった。

 

 俺の説明を訊いた九音はすっと出していた足を引っ込めて「ユウマくんの意気地なし―――」と不満を口にする。

 

 ばっちりと聞こえていた俺はゆっくりと九音の方に近づいていき無言でニーソックスを奪い取る。

 

「………フッフッフ、やっとその気になってくれたのね」

 

 嬉しそうに微笑みを浮かべながら色白で綺麗な足を再び俺に差し出す。

 

「そんなにあっさり出されるとちょっと――――っていうかまだ心の準備が――――」

 

 あたふたとする俺の手を九音が優しくとって、「お願いユウマくんが履かせて?」とねだるような甘い声で囁く。

 

 女の子にここまで言わせておいてなにもしないのは男が廃ると思った俺は覚悟を決めて九音の足を両手に乗せる。

 

 九音が痛くないように優しく指先からふくらはぎ、膝頭とニーソックスを上げていき、太ももの真ん中辺りですべすべした生地のせいで手が滑ってしまいパチンと音を立ててしまった。

 

「っひゃあん!!」

 

 艶めかしい九音の声が俺の耳朶を打ち、自分がなにをしでかしたのかを瞬時に理解する。

 

「ご、ごめん、痛かったか?」

 

 急いで九音のひざ元にしゃがみ込んで確認する。

 

「うん、ちょっとびっくりしただけだから大丈夫だよ。 履かせてくれてありがとう」

 

 おろおろと慌てるユウマをそう宥めながらそうお礼を口にする。

 

「ところでユウマくん………私のパンツ見た?」

 

 突然、とんでないことを言い出す九音。

 

「な、なに言っているんだ。見るわけないだろう!」

 

 顔を真っ赤にして否定するが――――。

 

 その反応が気に入ったらしく、「本当かな―――? ユウマくんは意外とむっつりだからな」とクスクスとからかうように言ってくる。

 

 それからは今日一日の感想をお互いに語り合い気が付くと落ちてすっかり夕方になっていた。

 

「あまり遅くなると家の人が心配するかもしれないから、今日はこれで解散しよう」

 

 俺がそう言うと九音が名残惜しそうに服の裾を掴んでいる。

 

 ポンポンと頭を撫でながら慰めようとするが、名残惜しそうにしてなかなかはなしてもらえない。

 

「そんな顔しなくても大丈夫だ、また明日学校で会えるだろ」

 

「だって―――――」

 

 駄々をこねる子供のような表情をしながら不満げな瞳を向けてくる。そんなやりとりをしていると、駅のロータリの中に一台の高級車が入ってくる。

 

「お嬢様、そろそろお時間でございます」

 

 車内から九音の専属執事・伊織が降りてきて、さっと後部座席のドアを開け中に入るように促してくる。

 

 静かな瞳がなにか言い気にしているのを見た瞬間、はあ―――と大きなため息をして九音が車に乗り込む。

 

 九音が乗り込んだことを確認した伊織が、ちらりと俺の方を見て「よろしければ昼神様もご自宅までお送りいたしますがいかがされますか?」

 

 と提案してくれるが――――。

 

 さすがにそこまでしてもらうのは気が引けたため断ろうと口を開こうとしたその時―--。

 

「せっかくだから乗っていてよ、ユウマくん」

 

 車窓から顔だけをひょっこりと出してそう言う九音。

 

「お嬢様もこう言っておれることですし、遠慮なさらずにどうぞ」

 

 そう言って後部座席のドアを開けてくれた。それからは家に着くまでは九音と他愛もない話をしながら過ごして、あっという間に家の前に到着した。

 

 「今日はありがとう西園寺、伊織さんも送って頂いてありがとうございました」

 

 二人のお礼を言って車から降りて、走り去る車を見送りながら一日のことを振り返る。

 

 最初は乗り気ではなかったがこうして終わってみるとなかなか楽しかったと実感している自分がいることに戸惑いつつも素直に言葉にする。

 

 まさか脅されて無理やり付き合うことになった彼女に気が付けばこんな感情を抱き始めているなんてあのときの俺なら想像できなかっただろうな、と思いながら家の中に入る。

 

~~~~~~~~

 

 翌週、教室に入るとニヤニヤした胡桃と顔を耳まで真っ赤にした九音がいた。珍しく通学路で会わないと思ったら今日は胡桃と一緒だったようだ。

 

「おはよう、二人とも」

 

 挨拶をして荷物を自分の席に置く。

 

「なにを話をしていたんだ?」

 

 それとなく二人に聞いてみると、「それは男子には言えない乙女の秘密の会話だよ。 ユウマ」とニコニコと人懐っこい笑みを浮かべながらそんなことを言ってくる。

 

「なんだ、そりゃ――――」と不思議に思いながら意味を咀嚼していると。

 

「よお!ユウマ」と肩に腕を回して独特の挨拶をしてくる透也。

 

「それでどうだったんだ?西園寺さんとのお初デートは」

 

 にやにやとからかうようにそう訊いてくる。

 

「あれはでデートじゃなくてただの罰ゲームみたいなもので――――」

 

 バシバシと肩を叩いてくる透也にそう説明するが、「照れるな、照れるなって―――」

 

 事情は知っているはずなのにまったく聞く耳を持ってもらえず困惑していると九音がさっと俺の前に立つ。

 

「ユウマくん、昨日はありがとう」

 

 深々と頭を下げる九音に「そんな気にするなって、勝負に負けたから言っただけであって他意はないからな」

 

 そう必死に弁明する俺を見てクスっと九音が笑みを零す。

 

「そっか、他意はないのか――――じゃあ、今度はしっかりと私に夢中になるくらいのデートにしてみせるから覚悟してよね!」

 

 にっこりと微笑みながら決意に満ちた瞳を向けてくる九音に「マジか――――次がある前提なのか」と頭を抱えるのだった。

 

 

 その週末―――――。九音は宣言通りにリベンジデートの申し込みをしてきた。

 

 最初は断ったのだが例の如く付き合ってくれないと“秘密をばらす”と脅されて渋々ついてきた。

 

 今回はどこに行くのかと思ってついていくと。

 

 市内のとあるプール施設に来ていた。どうやらこのプール施設は隣のゴミ集積場からの余熱を利用しているらしいと、車内で九音が説明してくれた。

 

 その他にも食堂や温泉、トレーニングジムまで完備しているらしく実用的な施設と言えるだろうと思っていると―――。

 

 俺の顔を見た九音が悪巧みを企てる子供のような顔をしていた。

 

「西園寺、今度はいったいなにを考えているんだ?」

 

 気になって聞いてみるが、「それはあとのお楽しみだよ」と言うだけだった。

 

 一抹の不安を抱えながら目的地に到着するのを待つ。そしてしばらくして目的地につき、料金を払って中に入る。

 

 更衣室に向かう前に「それにしてもどうしてプールなんだ?」と訊くと、「そろそろ、夏休みに入るし新しい水着も新調したからユウマくんにお披露目したくて――――ダメだったかな………」

 

 と不安げな上目遣いで訊いてくる。

 

「………別にそういうことなら――――」と答えて各々更衣室に入る。

 

 着替え終わった後、出入口付近で九音が出てくるのを待っている。

 

 その間に先ほどの言葉を頭の中で反芻していると………。

 

「………お待たせユウマくん、どう似合っているかな?」

 

 純白のビキニにショート・ハーフの布を巻いた九音が恥ずかしそうにはにかみながら出てきた。普段の清楚なお嬢様の感じとはかけ離れた大胆かつセクシーな恰好に目のやり場に困り、つい視線を右往左往させてしまう。

 

 俺の反応を見た九音は満足げに微笑みながら「ほら、行こう! ユウマくん。………その前にシャワー浴びないとね―――」と隣同士でシャワーで身体を綺麗に流してからプールサイドに出る。

 

 肩が触れ合うくらいの距離のたせいかふんわりと甘く良い匂いが鼻腔をくすぐる。

 

 その後は二人プールサイドを散策してから流水プールや波のプール、ウォータースライダーを楽しんだ。

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