学園一の美少女に脅されて付き合うことになりました。   作:赤瀬 涼馬

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6話 とあるカップルの休日・ユウマと九音の場合

「おーい! 早く来てよ。ユウマくん」

 

 と言いながら九音が嬉しそうに俺に手を振っている。

 

「あんまりはしゃぐと危ないぞ、西園寺」

 

 小さな子供のようにはしゃいでいる九音に注意しつつ俺も進んでいく。

 

 今、俺たちはどこへいるのか、そしてどこへ向かっているのかと言うと話は三日前の放課後に遡る。

 

 

 

「ねぇユウマくん! 週末にキャンプにいかない?」

 

 ホームルームが終わり、学生食堂に呼び出した九音がいつものように唐突な提案をしてくる。まあ、九音がいきなり言ってくるのは今に始まったことではないのだが。

 

 そんなことを思いながら「確かに時期的にはちょうどいいかもしれないが――――どうしてキャンプなんだ?」と彼女の話を訊いた俺は呆れ気味そう言葉を返す。

 

「だって場所によっては紅葉が見れるし、そうじゃなくてもユウマくんと二人きりになるでしょ? チャンスがあるなら動かないとね」と下心満載な発言をする九音。

 

「………」

 

 10月に入ったばかりだというのに忙しないなと思いながら返答に悩んでいると………。

 

 九音がお得意のサディスティックな笑みを俺に向けてくる。まるで分かっているよね?と言わんばかりに。

 

 いつものことながら拒否権がない俺としてはこの提案を受けざるを得ない。

 

「分かった行くよ………」とぶっつらぼうに答える。

 

 俺の返事を訊いた紗代はぴょんとうさぎのように飛び跳ねて喜んでいる。

 

「それじゃあ、土曜日の朝10時くらいにユウマくんのお家に迎えにいくから」

 

 と、それだけ伝え終えると、九音は用事があるからと言って脱兎の如くスピードで走り去っていく。

 

「本当に天真爛漫なやつだな」

 

 九音と透哉の関係が始まってから半年がたっていた。結局のところ九音とは別れるどころかますますアプロ―チの勢いは増していき、俺自身も西園寺九音という少女に少しずつ興味を持ちつつあった。

 

 九音との約束の日。家の前で荷物を持って待っていると一台の黒塗りの高級車が目の前で停車する。

 

 中から「おはよう、ユウマくん」と朝から元気いっぱいの九音と専属執事の伊織が出てくる。

 

 伊織が「おはようございます。昼神様、本日はよろしくお願いします」と恭しい一礼をしてくる。

 

「こちらこそよろしくお願いします」と返した後、車に乗り込んで目的地に向かう。

 

「なあ西園寺、本当にキャンプするのか?」

 

 一緒に後部座席に座った九音に僅かに視線をずらして訊いてみる。

 

「当たり前でしょ、ユウマくん。そのために行くんだから」

 

 とさも当然のように言い放つ九音。

 

「だけど、俺たちキャンプに必要な道具とか持ってないぞ? それから必要なもの諸々――――」

 

 焦ったように捲し立てるユウマを九音が冷静な声色で「大丈夫だよ。そこら辺の必要なものはあとで現地で揃えればいいから」と事前に調べていたようで九音が余裕たっぷりな態度でそう答える。

 

 数十分後に目的に場所に到着する。壮大な景色に新鮮な空気。

 

 どうやらこの高原はとある有名なキャンプ映画の聖地としても知られており、しるしとぞ知るスポットらしい。その証拠にそのアニメのイラストが売店に掲示してあるらしい。

 

  九音に連れられて高原の説明を一通り聞かされた後、先にテントの設営を済ませてから二人でお散歩デートをしたり、伊藤にお願いをして必要なものを買い出しに行ったりと色々と忙しく動く。

 

 それから気が付けばあっという間に夕方になっていた。

 

 「さて、そろそろ夕ご飯にしようか、ユウマくん」

 

 勝ってきた袋を見ながらそう言う九音に「それってまさか、自分たちで作るのか」

 

「だってそっちの方がキャンプらしさも出るでしょ」

 

「だって俺、料理とかしたことないぞ………」

 

「大丈夫だよユウマくん、そんなに難しい物は作らないし――――」

 

 と言って、九音はどこからか飯盒炊爨を取り出す。

 

「………いったいどこから取り出してきたんだ?」

 

 驚いたように口を開いたユウマにそんなことはいいから、早く作ろうよと言ってキッチンに連れ出されていく。

 

 それから二人で仲良くカレーを作って食べた後、近くの温泉で汗流してから夜景を見てテントに入る。

 

「えっへへ………夜もこうしてユウマくんと一緒にいるなんて初めてだね」と九音が照れたように少し上ずった声で呟く。

 

 ごそごそと九音が動くたびに女子特有のいい匂いがテント内に充満していき、鼻腔をくすぐる。

 

「ねえ………? ユウマくん――――今なら誰もいないよ?」

 

 隣りにいる九音が不意打ちでぐっと耳に顔を近づけて囁いてくる。

 

「えっと、さ、西園寺さん?」

 

 戸惑う俺に構わずに九音はゆっくりと顔を近づけてくる。

 

 ゆっくりと九音の端正で綺麗な顔が近づいてきて、あと数センチで唇が触れそうな距離まで来たその時―---。

 

「ちょっと待った!」

 

 九音の甘くいい香りと二の腕に当たっている柔らかい双丘の感触が俺の理性が奪われそうになりつつも何とか直前で九音の肩を掴んて動きを止める。

 

「こういうのはきちんとお互いに好きなもの同士がすることであって―――」

 

「だったら大丈夫だよ。前から言っているけれど………私、ユウマくんのこと大好きだから」

 

「お前はそうかもしれないけれど、俺はまだ―――」

 

「だって前に言ってくれたでしょ? もっと私のことを知りたいって」

 

「確かに言ったが、こういう意味の知りたいじゃなくて―――――」

 

「だったら………今、私のことを知ってよ!」

 

 俺の言葉を遮った九音が腹の上に跨ってくる。そして小さな袋に入った《ブツ》を寝巻のズボンのポケットから取り出す。

 

「………! どうしてそんなもの持っているんだ。っていうか何をするつもりなんだ西園寺」

 

「何って、これからユウマくんには私のことを知ってもらうのよ………体の隅々までね」

 

 妖艶な笑みを浮かべた九音が獰猛な目つきでそんなことを言ってくる。

 

「こんなことダメだ―――落ち着けって!」

 

 跨っている西園寺を無理やり引き離すため九音の二の腕を掴んで少し荒っぽく退けようとするが――――。

 

「いやっ! 私はユウマくんと――――」

 

 そうして激しく抵抗する九音と軽くもみ合いになっているうちに「きゃっあ! ゆ、ユウマくん――――」

 

「だ、大丈夫か、ってわあぁぁ―――」

 

 ドンと大きな音がテントの内外に響き渡る。

 

 ゆっくりと瞳を開けるとどういうわけか俺が九音を押し倒しているような態勢になっており、あまつさえ二つの柔らかな双丘に顔をうずめるようにして倒れ込んでいた。

 

「ほらやっぱり私のこと知りたいんじゃない、本当にユウマくんはむっつりなんだから」

 

 言葉とは裏腹に九音の顔は薄暗いテントの中でも分かるくらい真っ赤になっていた。

 

(---本当は西園寺も恥ずかしくて堪らなかったのか)

 

 そんなことを思いながら九音の端正で綺麗な顔を見ていると。

 

「そんなに見ないでよ。は、恥ずかしいよ……ばかっ!」と一段と顔を真っ赤にした九音がぼそりと小さな声で呟く。

 

 すっかり場の雰囲気に飲まれてしまった。ゆっくりと九音の顔がユウマに近づいていく。あともう少しで唇に届きそうなところで――――

 

「お嬢様、大丈夫ですか? 何やら大きな音が聞こえたようですが―――」

 

(い、伊藤―――!?)

 

 予想外の乱入者に不意を突かれた九音は軌道が狂ってしまい、狙った場所とは違うところにキスをしてしまった。

 

「………!? お嬢様、お返事がないようですが大丈夫ですか?」

 

 心配した伊織がテントの出入り口近くまで歩みを進めてくる。

 

 遅れて九音が「大丈夫だからあっち行っていて―――!!」

 

 追い払うように大きな声を出す。

 

「かしこまりました。何かございましたらお申し付けください」と言って戻っていく。

 

「あ、危なかった――――」

 

 どくんどくんとユウマは自分の心臓がうるさいくらい高鳴っていることを自覚しながらゆっくりと九音から離れる。

 

 その時―---。ちゅっと頬に柔らかい感触を感じる。

 

「なっ………」

 

 いきなりの出来事でフリーズしているユウマに悔しそうに「せっかくファースト・キスを狙ったのに……頬っぺにしちゃったよ」と残念そうに言っていた。

 

 恥ずかしさからかユウマは九音の顔をしばらく見ることができなかった。

 

「………俺は寝るから西園寺も早く寝ろよ」

 

 照れているのを悟られないように矢継ぎ早にそう言ってそそくさと寝てしまったユウマ。しばらくして完全にユウマが寝静まったところでくるりと寝返りをして「私だって………勇気出して頑張ったのにユウマくんのばかっ!」と頬を赤く染めた不満気な九音の呟きがテントに響くのだった。

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