学園一の美少女に脅されて付き合うことになりました。 作:赤瀬 涼馬
「はぁ――――――」
清々しい朝だというのに私の口からは大きなため息しか出てこなかった。
「朝からどうしたのよ。九音」
友人である胡桃が横からひょっこりと顔を覗かせてそう尋ねてくる。
「ユウマくんが風邪でお休みなんだって…………」
まるでこの世の終わりの如く形相で友人に事情を説明する。
「そんな大袈裟な単なる風邪でしょ。二、三日したら元気になるってば」
そう胡桃が励ましの言葉をかけてくれるが、今の私にあまり効果はない。
ユウマと一緒に登校できないだけでこんなにも胸が痛みなんて―――――
心の中で思っていると。それを感じ取った胡桃が―――――
「あんた、どんだけあいつのこと好きなのよ」
呆れたような苦笑交じりの声で呟くと、そうだと何かを思いついたようにポンと手を打つ。
「………どうしたの?」
訝しげな表情を胡桃に向けると、「私、いいこと思いついちゃった」
まるで悪戯を考えついた子供のような笑みを浮かべている胡桃。
その顔に何だがすごく嫌な予感がした。だいたいこの顔をする胡桃は何か良からぬこと考えているときのだからだ。
数秒後、私の不安は外れ予想外のことを言われる。
「ねぇ――――九音、今日の放課後にみんなでユウマのお見舞いに行かない?」
「ふぇ…………?」
と、思わず素っ頓狂な声で出てしまった。
「どうしてそんなに驚いているの。あんたの大好きなユウマの家にお見舞いにいくだけだよ?」
「てっきり、あなたのことだから弱っているユウマくんにちょっかいだすものだと思っていたから」
「なっ!失礼しちゃうわ。あんたはわたしのことを何だと思っているのよ」
すると私の言葉を訊いた胡桃がぷっくりフグのように頬を膨らませて不満を口にする。
「ごめんってば…………」
「まあ、いいわ」
「…………」
「どうしたのよ。急に黙って…………もしかして、ユウマの家に行くから緊張しているの」
ニヤニヤと口元を綻ばせながら胡桃がからかってくる。
「べ、別にそんなことないから」
「ホントに~!?」
「だから、そうだって言っているでしょ」
「そんなに必死になっちゃって可愛いんだから」
「もう―――胡桃ってば!」
「ごめんってば、つい、照れている九音が可愛くって」
と満足した様子でそう言ってくる胡桃に少しだけムッとする。
「ほーら、そんな顔しないの。せっかくの可愛い顔が台無しだよ」
なぜか、元凶であるはずの友人に励まされると言う謎の構図に戸惑ってしまう。
「それより胡桃、とりあえずどこに集合すればいいの?」
「放課後、校門前で透哉と待っているから」
こうして急遽、私はユウマくんの家にお見舞いに行くことになった。それだけを楽しみに憂鬱な気分の中、なんとか一日を乗り越える。
ホームルームを終えて放課後となり約束した場所に向かう。そこには人目もはばからずにイチャイチャしているバカップルがいた。
「ちょっと、透哉ったら」
「良いだろ、別に―――――」
「なにやってるの、二人とも」
その光景を目の当たりにした私は自分でも驚くくらい冷たい視線を二人に向けていた。
「あ、遅いよ。九音、待ちくたびれちゃった」
イチャイチャを中断してそう胡桃が声をかけてくる。遅いと言われても困る。
これでもホームルームが終わっていのいちばんに教室を飛び出してきたのだ。逆になぜ、そんなに早く来られるのかが不思議で仕方がない。
西園寺さんも来たことだし、そろそろ行こうかと透哉に促されて移動する。
徒歩で近場のスーパーに立ち寄る。
各々、お見舞いの品を調達する。お菓子にしようか、ゼリーにしょうか、それともヨーグルトにしようかと悩んでいると。
「しっかりと選ぶんだね。ちょっと意外かも」
透哉と胡桃の会話がちらほらと聞こえてくる。その話を訊いて少しだけ羨ましいと感じている自分がいることに気づく。
自分も早くあんな風にユウマと話したいと強く思う。そんなことを考えていると、胡桃が「九音、見てよ。これ良くない?」
そう言って小さい子供が貰って喜びそうな物をこちらに見せてくる。思わず、クスっと小さな笑いが零れる。私が笑ったのを見た胡桃がやっと笑ったと安心したように口にする。
「今日一に暗い顔していたからさ。やっぱり九音には笑顔の方が断然似合うよ」
そう言って太陽のように燦燦と輝く笑顔を向けてくる。
なんだかんだで心配してくれる友人に感謝の気持ちを抱きつつお見舞いの品を選ぶ。
数分後、私たちはそれぞれが選んだ品を携えてユウマに家の前に来ていた。
「それじゃあ、九音、インターホン押して?」
「どうして私?胡桃が押してよ」
いくらお願いしても首を縦に振ってくれない友人から彼氏である透哉にちらりと視線を送り、助けを求めようとするがとびきりのイケメンスマイルで「ファイト!西園寺さん」と言ってサムズアップされてしまう。
仕方がないので諦めてインターホンを押す。ピーンポーンと機械的な音が響き渡り、それからしばらくして「はいどちら様ですか?」という丁寧な口調の声が返ってきた。
声の主は言わずもがな、ユウマ本人だった。どうやら、親は留守にしているらしく、体調不良のユウマ一人きりのようだった。
「西園寺です。急にごめんなさい。ユウマくんが風邪をひいたと聞いていてもたってもいられずにお見舞いに来たの」
素直な気持ちを伝えるが、正直、迷惑だと思う。私がユウマくんの立場だったらすごく戸惑うと思うから。脅して無理やり付き合わせている相手がいきなりお見舞いに来たといっても警戒するだろう。
現にユウマくんからの返事はすぐには返ってこなかった。もし、このまま帰ってくれと言われたらどうしようと不安に思っていると。
「ちょっとユウマ!せっかくお見舞いに来てあげたんだからグダグダ言わずに早く開けなさいよ」
胡桃が急かすように言ってくれた。それに続いて透哉も「そうだぞ!ユウマ、せっかく俺たちがお見舞いにてやったんだから早く開けろ」
二人して早く開けるように催促してくれたおかげでしぶしぶと言った感じで扉を開けてくれた。
「なんだよ。いきなり」
わしゃわしゃと頭を掻きながら不機嫌な声で訊いてくる。
寝起きなのだろう、パジャマが乱れており腹部がちらりと覗いている。すきまから見え隠れしている腹筋に図らずもドッキリとしてしまう。
そんな私を見たユウマくんはバツが悪そうにそっぽを向いてしまう。
「ユウマくん具合どう?」
「…………」
「ちょっと!ユウマ。せっかく九音が心配してくれるんだから返事くらいしなさいよね」
「…………」
ご機嫌斜めなのか、胡桃がそう言っても無言を貫くユウマ。
「まあ、良いわ。とりあえず上がるわよ」
どかどかと家の中に入っていく胡桃。
「ちょ、勝手に入るなって」
ユウマが慌てて止めようとするが構わず入っていく胡桃の神経に驚きながらも尊敬の念を抱く。
「さぁ西園寺さんも遠慮せずに入って、入って」
なぜか分からないがユウマではなく透哉に促されて「お邪魔します」と恐る恐る家の中に入る。
意外にも一人暮らしをしているようで玄関や部屋の中はきちんと掃除が行き届いている様態だった。
「少し待っていてくれ」
言い残してユウマが自室に戻る。しばらくたった頃に小奇麗になったユウマが戻ってきた。おそらく着替えてきたのだろう。そんなことを考えていると。
「いきなりどうしたんだ?」
私たちにそう訊いてくる。
確かにだよね。約束もなしにいきなり訪ねてくるなんて非常識だよね、と申し訳ない気持ちでいっぱいになっていると胡桃が、「だってユウマが風邪で休みだって言うから心配でお見舞いに来たけだよ」
「そうだぞ、親友が風邪で休んだって言うんだから、お見舞いに来るのは当然だろ?まあ、でもアポを取ってなかった俺たちにも悪いけどな…………」
バツが悪そうに頬を掻く透哉。
「………」
そんな私たちを見たユウマがぷいとそっぽを向く。もしかして、怒っちゃったと思い、ちらりとユウマの横顔を見るとほんのりと耳まで赤くなっていた。
「かわいいなーもう」
と、照れているユウマをニコニコした笑みで見つめる私だった。