学園一の美少女に脅されて付き合うことになりました。   作:赤瀬 涼馬

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6話 ユウマの恩返しと本音

 九音たちがお見舞いに来てくれてから数日がたった放課後のとある日。俺は手にした商品を交互に見つめながら悩んでいた。

 

「どっちにした方が良いんだ?」

 

 右手にはヨーグルト、左手にはプリン。

 

 なぜ、俺がこんなことをしているかと言うと話は二日前に遡る。

 

 

 

 

「ちょっと!ユウマ訊いた――――!?」

 

 クラスメイトである赤沢胡桃が登校早々にウザ絡みしてきたのが事の発端だった。

 

「朝からどうしたんだよ」

 

 彼女が騒がしいのはいつものことのため既に慣れているが今日は特に騒がしかったのでその理由を訊いてみると。

 

「九音が風邪で学校休むって…………」

 

 すごく落ち込んで様子で俺に言ってくる。

 

「元気出せって胡桃!二、三日もすれば治るだろうしそんなに気にするなって」

 

 何とか励まそうとするが…………。

 

「ユウマは心配じゃないの?」

 

 涙交じりの声で訊かれて答えに窮する。

 

「この薄情者――――!冷血漢―――――!!」

 

 教室の中で叫び始める。何事かとクラスメイト達の視線が俺たちに集まりあれやこれやと噂が立ちそうな雰囲気になる。

 

「落ち着けって胡桃」

 

 ため息交じりにそう言うと、「じゃあ九音のお見舞いに行ってくれるの?」

 

 鼻声で訊かれたので断ることも出来ずに「わかった、わかった。行くから」と返事をしてしまい、半ば強引に押し切られる形で西園寺のお見舞いへ行くことが決定する。

 

「それで何時に何処へ集合すればいいんだ?」

 

 仕方ないので渋々訊くと…………。

 

「私は行かないよ…………っていうか何で私と一緒に行く前提なの?そもそもユウマが一人で行けば良いだけじゃん」

 

 大真面目に言ってくる胡桃に困惑してポカーンとしていると。

 

「確かにお見舞いに行ってくれるのかは訊いたけれど一緒に行くとは言ってないわよ」

 

 完全な不意打ちに言葉を失ってしまう。

 

「お前な、いくら何でも無責任すぎるだろ!どっちが薄情者なんだ」

 

 少しイラっとして強めの口調で言ってしまうが、胡桃は動じることなくヘラヘラしながら、「そんなに怒らないでよ。それに私が行くよりあんたが行った方が九音も喜ぶのよ」

 

「…………」

 

「どうしたのよ。黙りこくちゃって」

 

―――確かに九音は俺のことを好いてくれているのは知っているが

 

「ちょっとユウマってば~~~!」

 

 胡桃の声を訊いて我に返った俺はその本人の顔がまじかに迫っていることにびっくりして仰け反る。その反動で椅子から転んで尻餅をつく。

 

「痛ってぇ――――」

 

 ぶつけた尻をさすっていると「もう――何やってんのよ」と胡桃がケラケラと笑い声を上げていた。

 

 その言葉に殺意が沸くが一旦、深呼吸をして落ち着く。

 

「そんなに笑うなって、これでも結構痛いんだからな」

 

「うん、知ってる。すごい音だったもんね」

 

 人の気も知らずに目尻に溜まった涙を指先で拭きながらそんなことを言ってくる。

 

―――本当にこいつは

 

 そう心の中で思っているとそれが顔にも出ていたのか、胡桃が申し訳なさそうにそんなに怒らないでよ。と顔の前で両手を合わせて謝ってくる。

 

 こうやってからかわれるのは日常茶飯事なので、うまく受け流すことにする。

 

「はぁ――――それで、西園寺にアポイントはとってあるのか」

 

 俺の時みたいに寝ているところだったら、申し訳ないので西園寺が確実に起きている時間帯に訪ねたい。それにお嬢様の西園寺のことだから身の回りのお世話とかもお手伝いさんがやってくれていると思うが…………。

 

 余計なお節介かと思いもあるが、前回してもらった恩義があるためしっかりと報いたいし、施されたら施し返す、恩返しの精神は大事だしな。

 

 そんな自己満足にも近い考えで西園寺に迷惑をかけないか心配になったが、ぐだぐだと考えても仕方ないためとりあえず行ってみることにする。

 

「もちろん取ったよ。ユウマが行くからって伝えたら、すっごく楽しみにしているって―――――」

 

 胡桃が嬉しそうなにニコニコしながら話すのを訊いて何となく想像がついてしまう。

 

 詳しいことはまた放課後に考えればいいかと呑気にそう考えてホームルームに臨む。担任である南野先生から西園寺が風邪のため欠席だという旨が知らされ、クラス中が騒然となりあちらこちらで西園寺を心配する声が溢れだす。

 

「うるさいぞ。静かにしろ!」

 

 するとクラスメイトの一人が、「先生!西園寺さんは大丈夫なんですか?」と挙手をして質問する。

 

 クラスメイトの言葉を聞いた菜月がまたその話かとうんざりとした様子で肩を落とす。

 

―――なにやってんだ、南野先生に殺されるぞ!!と思っていると。

 

 意外なことに面倒くさそうにしながら「家からの連絡ではさほど重症ではないようだ、二、三日もすれば登校可能らしいからくれぐれも騒ぎ立てるなよ」

 

 と、心底面倒くさそうにしつつも念押しするように俺たちに話す那月を見て見かけによらず生徒想いのところもあるんだなと感心する。

 

 お昼休みなり胡桃たちとご飯を食べために普段は使わない学生食堂に来ていた。この食堂はメニューが豊富にあり値段もリーズナブルで質も量も良いと学生のみならず教師陣からも好評らしい。

 

 どれにしようかたくさんあるメニューに目移りしていると目の前からイチャイチャしている声が聞えてくる。

 

「このグラタン美味しい―――――!ねぇ透哉も食べてみてよ」

 

 例の如く、人目もはばからずにイチャほらしているバカップルが俺の前にいる。

 

「おぉ―――確かにこれは美味いな。俺のも食べてみろよ」

 

 お互いに食べさせ合っている透哉たちを横目に何を食べよう考えている最中だ。

 

 だが、これ以上は色々と耐えられないため、おススメと銘打ってあるから揚げ定食に決める。しばらくして、お待ちかねの定食が目の前に運ばれる。そのときにおばちゃん店員から「お連れさんお熱いわね。あんなに見せつけられると若い頃を思い出すわ」

 

 そんなことを耳打ちされ恥ずかしい気持ちになる。

 

「どうした?ユウマ」

 

 もぐもぐと口を動かしながらそう訊いてくる透哉に「頼むから全部食べてから話してくれ」

 

 と注意してからやれやれと一息ついて昼食にありつく。

 

 出来立てのホカホカとした湯気が立ち込め美味しそうな匂いが食欲をそそる。

 

 手を合わせて食べ始める。揚げたてのから揚げとご飯を頬張る。ピリッとした味付けがご飯と絶妙でバランスで絡み合い気が付けば完食していた。

 

「おぉ――――すごい食べっぷりだったね」

 

 いつも間に見ていたのか胡桃が感嘆の声を上げていた。

 

 さて、お腹いっぱいなったことだし、そろそろ教室に戻ろうとした矢先。

 

「そういえば、ユウマ…………九音に持っていくお見舞いの物はもう決まったの?」

 

「もちろん決まっているさ」

 

「へぇ――――ちなみに何にしたの?」

 

 やたらと食いついてくる胡桃。そんなに気になるものなのかと不思議に思いながらも「別に大したものじゃないがポカリスエットのゼリータイプとヨーグルトにしようとおもっているところだ」

 

「もしかして九音のために調べたの」

 

 ニヤニヤと意地の悪い笑みをむけながらそんなことを訊いてくる。

 

「俺はただ、西園寺に恩義を返すため―――――」

 

「はいはい、わかった、わかった」

 

 両手で耳を塞いでいかにも適当に流している感じで受け答えをしてくる。

 

―――こいつ絶対分かってないだろう

 

 本当に正しく理解されているのか大いに不安になり胡桃の顔をちらっと見る。

 

「ちらちら私の顔を見てどうしたの?もしかしてなにかついてる?」

 

 両頬をペタペタ触りながら不安げに確認してくる胡桃。なんだがその光景がおかしてくて思わず笑みが零れる。

 

「ちょっと!?人の顔を見て笑うなんて失礼じゃないの」

 

 フグのように頬を膨らませて不満を抗議してくる。

 

「ごめんな。胡桃が必死なのかが面白くてつい…………」

 

 素直にそう言うと、「そういうことなら許してあげる。そろそろ行かないと次の授業に遅れるわよ」と言って席を立つ。

 

 学生食堂を出て教室へと向かう。

 

 

 

 

 放課後、近くのスーパーで西園寺に渡すためのお見舞いの品を探す。目的のドリンクコーナーに足を運んで何か良い物はないかと棚の上から下まで見渡すが、さして種類が豊富というわけではなくよく見かけるゼリー状のパッケージの物が陳列されているだけだった。

 

 仕方なく、これにするかと惰性で決めようとしていたその時………。

 

「ユウマじゃないか。こんなところで何してるんだ」

 

 背後から声をかけられ振り返るとそこには…………。

 

「ッ!姉さんか、脅かさないでくれよ」

 

「別に脅かしてはないさ。お前が私の目の前にいただけだ」

 

 声のする方向に視線を向けると実姉である琴音がデニムホットパンツに胸元が開いたリネンシャツ姿で立っていた。

 

 いつもながら物凄い恰好をしているおり、そんな恰好で外出できるなって感心してしまう。

 

―――まったくコンビニ行くんじゃねんだぞ。もう少し自分の外見に気を使ってほしい…………いろいろな意味で。

 

「それでお前はなにをしているんだ?」

 

 いつもは来ないのに今日に限ってどうしたんだとジト目を向けられて誤魔化すためにそっぽを向くが、「おい目を逸らすな」と顔を掴まれてしまう。

 

 有無を言わさない圧力に根負け事情を説明する。

 

「西園寺が風邪を引いたらしいからお見舞いに行くんだ」

 

「ほぉ?例の彼女さんのところに行くのか」

 

 片眉を上げ興味津々に訊いてくる。

 

「だだのお見舞いだって言っているだろ。それと彼女じゃないからな」

 

「そう恥ずかしがることじゃないか。それに付き合っているのは本当なんだろ?なにせこうして彼女へ渡すお見舞いの品を選んでいるわけなんだからな」

 

 もはや否定するのも疲れたので「まあ、当たらずとも遠からずと言った感じだな」と言っておくことにする。

 

「いいかユウマ、女っていうのは興味や好意がない奴は家には招き入れないし、男もそれと同じでなにかしらの思惑か純粋な想いがないと相手に家には行かないものだぞ」

 

 諭すようなことを言う琴音。

 

「確かに西園寺は綺麗で美人だと思うが、異性として好きだとは今の段階では言い難い」

 

 俺の言葉に納得したのかそれ以上は追及してこないため商品選びを再開する。ドリンクコーナーを見渡しながらめぼしい物がないかを見る。

 

 するとちょうど右側に事前に調べたポカリスエットのゼリータイプが置かれているのか目に入る。

 

 それを手に取って見ていると。

 

「………それ買うのか」

 

 琴音から背中越しに訊かれるが買おうか迷っていると、「ちょっと待ってろ」

 

 そう言って何かを調べ始める。

 

「ほお―――なるほどな」

 

 何やら感心した様子でスマホの画面をスクロールしている。何を見ているのかと不思議に思っていると、「ほら見てみろ」

 

 と画面をこちらに向けてくる琴音。

 

 どうやら、風邪などの体調不良のときは必要な栄養を補給するために効果的らしいとやり事前に調べた通りのことが書いてあった。

 

 その他に追加の情報がないか食い入るように記事に見入っている俺に「そういうことらしいからそれ買ったらどうだ?」

 

 手に持っているポカリスエットを指さしてそうアドバイスしてくれる。

 

「ああ、ありがとう。姉さん」

 

「私は行くからな。頑張れよ」

 

 左手をヒラヒラさせながら去っていく琴音。いったい何しに来たんだと思いながらその他に買っていく物を選ぶ。

 

「さて、あとはプリンかヨーグルトでも買っていくか」

 

 いざ、売り場に来てみるとまたしても迷ってしまう。とりあえず、九音も女子ということを踏まえて甘い物にしようか、身体に良さそうなヨーグルトにするべきか。

 

 右手にプリン、左手にはヨーグルトを持った状態であーでもないこーでもないと悩むこと数分後、「よく分からないしこれでいいや」と半ば投げやりで買い物かごに商品を入れレジへと進む。

 

 結局、九音の家の前に着いたのは放課後から三十分後が経ったころだった。目の前に聳え立つ立派な豪邸に感嘆の声を上げる。

 

 人差し指でインターホンを押す。するとすぐに「はい、どちら様でしょうか」と女性の声が聞えてきた。

 

 お手伝いさんかなと思いながら「西園寺さんの知り合いで昼神ユウマと言います。お見舞いに来ました」

 

 用件を伝えて相手の反応を待つこと数秒後、玄関のドアがガチャリと開かれる。

 

「昼神様ですね、お待ちしておりました。お嬢様からお話は伺っております」

 

 メイド服のお手伝いさんがそう言って丁寧なお辞儀しながら出迎えてくれる。

 

「こちらへどうぞ。お嬢様のお部屋へご案内致します」

 

 中へ入るように促されて進んでいく。ふかふかな絨毯が引き詰められた階段を上がって左右にいくつもの扉があるうちのいちばん奥の扉に案内される。ここが九音の使っている部屋のようだ。

 

 お手伝いさんが、コンコンとノックをして「昼神様がお見えになりました」と入室させていいか許可を求める。

 

 部屋の中から「はいどうぞ」という返事があり、チラッとお手伝いさんの顔を見るとにこやかな笑みを浮かべながら「どうぞお入りください」と言われる。

 

「西園寺、入るぞ」

 

 ガチャリと扉を開けて中に入と同時に驚きの光景が目に飛び込んでくる。

 

 なんとそこには広々したベッドの上にちょこんと座ってパジャマに手をかけている最中の九音がいた。

 

「さ…………さ、さ、西園寺!? なんて恰好しているんだ」

 

 あたふたとする俺とは正反対に九音は「ユウマくん!来てくれてありがとう、って…………どうしたの? そんなに慌てて――――」

 

 屈託のない笑みを浮かべた後にきょとんと小首をかしげている。

 

(―――っていうか、早く服を着てくれ!)

 

 そんな俺の様子を見た九音が「もしかして私の下着が見えそうだから慌てているの?」とサディスティックな表情をしながら詰め寄ってくる。

 

「恥ずかしいけれどユウマくんなら見せても良いよ?」

 

 陶器のように白い肌をほんのりと赤らめさせながら止めかけのボタンをはずしてはだけさせる。

 

「ちょっと待って。落ち着け西園寺!」

 

 急いで手を掴んで暴走しかけている九音を止める。

 

「どうして止めるの? 女の子の下着姿だよ、興味ないの?」

 

「そういうのは本当に好きになった者同士がすることだ」

 

「何を言っているの。私たちは付き合ってるんだし別に問題ないでしょ」

 

「確かに形式上は付き合っているが、俺はまだ何も西園寺のことを知らない。だからこういうのはもっとお互いことを知って心から愛し合うときにすることだと思う」

 

 俺の説得を黙って訊いているが心なしかどこか不服のような感じが見て取れた。

 

「…………」

 

「おーい西園寺?」

 

「――――かった」

 

 か細い声で上手く聞き取れなかった。

 

「わかったって言ったの」

 

「わかってくれたみたいで良かったよ」

 

「絶対、ユウマくんに私のこと好きだって言わせてみせるから」

 

 突然、意を決したようにそう宣言する九音。その表情から決意の固さと本気度が窺える。

 

「マジか――――!」

 

 心の中でそう思っているとやはり顔に出ていたらしく、ぐいっと覗き込むようにしゃがみながら「覚悟してね。ユウマくん」と蠱惑的な笑みを浮かべている九音。

 

 それを見たユウマは「元気そうだし俺はそろそろ帰るから買ってきたものはここに置いておくから気が向いたら食べてくれ」と言って扉に向かって回れ右をする。

 

「………っえ? もう帰っちゃうのユウマくん」

 

 そう寂しそうな声を漏らす九音。

 

「西園寺も大丈夫だしあまり長居すると家の人にも悪いからさ」

 

 と言って、ポケットからスマホを取り出して時間を確認する。ちょうど三十分くらい経ったようで時刻は十七時を回ったところだった。

 

「早く元気になって学校来いよ。胡桃がめっちゃ寂しそうにしているからさ。それに俺も元気な西園寺の姿を見たいしな」

 

 ありのままの言葉を口にする。

 

「…………」

 

 九音からの返事がこないことを不思議に思って振り返ると。

 

 端正な顔を茹蛸の如く赤くさせていた。

 

「ユウマくんのばか………いきなりそういうこと言うの反則だよ」

 

 近くに置いてあったクッションで口元を隠しながら言い返される。

 

 その仕草にまたしてもどきりとさせられてしまう。一瞬、ドキッとしてしまうが何とか誤魔化して九音の部屋を出る。

 

「じゃあ帰るからお大事な」と去り際にそう言い残して扉を閉める。

 

 それから案内してくれたお手伝いさんにお礼を言って九音の家を後にする。

 

 帰り道にでさっきの九音のしぐさを思い出して「………ったく、どっちがバカなんだよ」と帰り際に口元を覆いながらそう独り言を零す。

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