ヒロアカの世界に異物を一つ 作:きょうぞうちゃん推し
『今朝のニュースです。今度は長崎県長崎市で“ナイトメア”による犯行と思われる遺体が発見されました。遺体からは複数の銃弾が見つかっており、警察は……』
「またですか。この報道にも飽き飽きしてきましたわ」
宮城県の地方都市、その郊外にある一軒家にて今まさにニュースで流れているヴィラン、“ナイトメア”こと時崎狂三の姿はあった。ドレスではなく、黒い制服に蒼いスカートという学生のようないでたちをしており、ツインテールは下され、清楚なお嬢様という雰囲気であった。
彼女は優雅にカップに並々と注がれたコーヒーを飲みながら朝食用に用意されたトーストを食べる。表面が軽く焼かれ、マーガリンが全体に塗られたそれはまさに朝食に相応しいと言えた。
「それにしてもオールマイトの話は聞きませんわね。やはり今は
転生先こそ選んだが時期までは明確に指示しなかったことを若干後悔しつつ彼女はトーストを食べ進める。彼女の選んだ特典の副次効果で食事をしなくともいい体にはなっているが元は人間であった以上何かを食べないと落ち着かないのも事実。故に彼女はこうして朝昼晩は可能なら食事をとるように心がけていた。
「となればいずれ接触されるのも時間の問題でしょう。せめて、時期がいつ頃なのかが判明してくれればよかったのですが、難しいですわね」
そもそも、彼女は原作をそれほど熱心に見ていたわけではない。複数作られた外伝は一切ノータッチであり、本編も覚えていないものが多すぎた。精々、主要メンバーと最後に読んでいた最終巻の中身くらいなものだった。それだけに彼女は自分の意思で原作改変をする事をあきらめていた。そもそも覚えていないのだから改変も何もないからだ。
「……そうですわ。どうせなら外国へ行くのもいいかもしれないですわね。日本よりも危険が多いと聞きますが私にどうこうできる存在がいるとは思えませんわ」
そんなのがいれば原作にも登場しているはずだと彼女は本格的に海外旅行を考え始めた。今の彼女に距離はあまり関係ない。密入国なんて朝飯前であり、コンビニに行く感覚で外国に行くことさえ可能だった。
「そうと決まれば早速準備をしないといけませんわね。先ずは何をしましょうか……」
彼女はトーストを食べ終えると気分よさげに部屋を後にする。そんな彼女の下には、住人であったであろう幸せそうな家族の遺体が転がっていた。
数日後、この家は“ナイトメア”に殺された被害者の家として警察の捜査(実況見分)が行われることとなった。
『今朝のニュースです。今度は長崎県長崎市で“ナイトメア”による犯行と思われる遺体が発見されました。遺体からは複数の銃弾が見つかっており、警察は……』
「新たなヴィランの誕生、か……」
山梨県甲府市、そこには雄英高校の教師を引退したグラントリノが事務所を構えていた。とはいえ彼は
「全く、こちらの戦力は増えていないってのにあちらさんはどんどん増えやがる」
彼は吐き捨てるようにそう言った。数年前、彼は教え子の生徒とその師匠と共に巨悪へと立ち向かい、惨敗した。その巨悪、AFOは生徒、八木俊典の師匠志村奈々を殺害した。そのことからAFOに現段階では勝てないと判断したグラントリノは八木をAFOから逃がす意味も兼ねて渡米させ、武者修行をさせた。それから早数か月。グラントリノの耳にも入る程八木はアメリカで大活躍をしていた。
しかし、そうなればこそ八木が帰国するまで日本は暗黒の時代となるだろう。そして、その中で芽吹いた新たな悪の誕生。誰だって辟易としてしまうだろう。
「とにかくこいつがAFOの部下かそれにシンパされなきゃいいが……」
いくらAFOが悪の頂点に君臨していても彼の下に靡かないヴィランは一定数いる。それだけではなく彼を嫌ったり、その座を狙う者から狙われる事もあった。グラントリノはそうやってヴィラン同士で同士討ちをしてくれれば最高と考えていた。悲しい話だがヒーロー側からすればその方が向こうが少しでも消耗してくれるのだから。
「む? ……ちっ、ヴィランは何処に行っても現れるもんだな!」
外から聞こえてきた悲鳴と爆発音を聞き、グラントリノは思考を切り替えヴィランを退治するべく事務所から勢いよく飛び出していった。
いずれ武者修行を終えた八木、オールマイトがAFOを打倒できる力を得て帰国するだろうと信じて、その日まで少しでもヴィランを減らすべく奮闘するのだった。
『今朝のニュースです。今度は長崎県長崎市で“ナイトメア”による犯行と思われる遺体が発見されました。遺体からは複数の銃弾が見つかっており、警察は……』
「フフフ。新たな悪がまた一つ芽吹いたようだね」
テレビにて報道される“ナイトメア”の犯行。それを確認したAFOは機嫌よさげに微笑んだ。我が世の春を謳歌している彼は長年の悩みの種ともいえる人物たちを打倒したことで上機嫌であった。
そもそも、個性を持たないと思われていた弟に気まぐれで個性を渡したことから始まる因果。それはOFAという形で彼に牙をむいた。当初こそ弱い牙だったそれは時間と、継承者と共に強く硬くなっていた。それらに一応の決着がついたのだ。継承者は死に、その弟子は国外へと逃亡した。今、彼に歯向かう者等おらず、夢にまで見た魔王として日本に君臨していたのだ。
「それにしても今度の悪は中々にやる事が飛びぬけているね」
それ故に、AFOは新たに発生したヴィランについて思考を巡らした。望んだこととは言え魔王として君臨するのはいささか退屈でもあった。最近のOFAとの戦いは彼を悩ませる一方で素晴らしい退屈しのぎになっていたのだ。
「ふふふ、今の私は気分が良い。新たな悪にご挨拶といこうじゃないか」
退屈しのぎに、AFOは動き出した。新たなるヴィランに会うために。その結果として起きる惨劇はすぐそこまで近づいていた。