12月21日
クリスマスまであと4日!
◯兎妖精
簡単説明
→妖精のシンクレアと交わり人間を半分やめてるクローマー二人を親として、お互いを食べないようにするために子株の植物達をお互いの顔で生み出し、ウサ耳をつけさせることで兎肉として食べているお屋敷の話。いろんな性格のシンクレアとクローマーがいる。
◇
冬空の下。皆でわらわらと集まりながら庭の大きな木を飾りつけていた。
父さんや母さん曰く、人間の変わった習慣?みたいなものをやってみるということらしい。なんで僕らが人間の真似事なんて?と思ったら、母さんのほうがこういうイベントを好んでいるからだということだった。
みんなで擬似餌の光源を飛ばして木を飾りつけて、手作りした鈴や木で削って作ったお互いの胸像みたいなものをぶら下げる。
しまいには、妖精の力の強いクローマーが翅が生えていることをいいことに自分のツガイまで高いところに飾りつけて困らせていた。
高いところから降りられなくなった他の部屋の僕……シンクレアは、これまた他のシンクレアに救出されて泣いている。翅がない子には高い木の上だとどうしようもないもんなあ。
「皆、あんまりふざけないようにね」
一番体格の大きい……教育係と呼ばれるクローマーが呼びかける。彼女が木に向かって歩き始めると、みんな一斉にその道を開けた。花束を持ってゆっくり歩く彼女に近づく子は一人もいない。
「ねえ、シンクレア。飽きちゃった」
「そう? 早いよクローマー。まだあの木の下でパーティやるって」
「ねえ、それよりお部屋に帰ってしよ?」
「えぇ……」
そんな光景を尻目に、僕のツガイから声がかかる。飽きてしまった彼女は、僕の腕を掴んでそのまま翅で浮かび上がった。引っ張られた僕は宙ぶらりんになったけど、僕らはどちらも翅があるから問題にはならない。翅を震わせて自分でも風を掴み、二人で外壁のほうから自分の部屋へ向かう。
「寒いからあたたかくしましょ」
「そうだね」
僕らの離脱を皮切りにしたのか、飽きてしまったらしい組が次々と広場から抜け出していく。眼下を見れば、教育係が花を飾っているところに両親が手を繋いで現れたところだった。けれど、途中で飾りを放棄して離脱した僕らを叱りに来ることもない。
ふわりと浮かんで、手を繋いだままクローマーと空中で散歩する。
「あら? なにか降ってきた。なにこれ」
気がつくと空から白い雪がしんしんと降ってきたところだった。はじめて見る雪に、クローマーが興味深げに手を伸ばして捕まえている。手の中ですぐに溶けてしまうそれに、彼女はびっくりしていた。
「雪っていうんだよ、これ」
「へえ〜、なんかの本に書いてあった?」
「うん。冬の定番だって」
「ママ達嬉しそ〜にしてるね」
「そうだね」
木の下で、教育係のクローマーとともに空を見上げる僕らの親株達。雑な飾りつけをされた木の下で、手を繋いだ二人が寄り添ってキスをするのが見えて、クローマーが僕を急かした。
「早く早く!部屋に戻って私達も!」
「わ、分かったからあんまり引っ張らないでよ!バランスが……わっ!」
窓を開けて僕を引っ張ったクローマーのほうに倒れ込み、そのまま部屋の中へなだれ込む。
「きゃ♡ シンクレアのえっち〜♡」
「君さあ……まあいっか、このまましよう」
倒れ込んだ僕の下敷きになり、胸を鷲掴みにされたクローマーは悲鳴をあげるふりをしつつも僕の腕が離れないようにガッチリと掴んで固定していた。誘われているのにしないのはどうかと思うし……そのまま彼女の服を捲り上げる。
「特別な日らしいけど、結局いつもと変わらないね」
「特別なのはママ達にとってでしょ? 私達には関係ないもーん」
「それもそっか」
雪が降る中、いつもと変わらない日常が始まる。
◇
妖精シンクロのおまけ話
(妖精の箱庭―教育係の記憶―のキャプションにて書いた、上記エピソードの続きのクリスマス小話です。シンクレアをストレスで食べてしまって一人きりになっちゃったクローマーちゃんのお話)
「ねえ、シンクレア。見て。今日は雪が降ってる」
窓辺からしんしんとふりしきる雪を眺めながら話しかける。腕の中のジョウロからそっと水をやり、鉢植えの土を湿らせる。もうすぐ夜になるから、そうしたらこの鉢植えも部屋の中まで移動してあげないといけないな。窓辺に置いていると、部屋を暖かくしていても凍りついてしまうかもしれないから。
街から買ってきたストーブの電源をつけて、ベッドに入って布団に潜り込む。自分で縫って作ったシンクレアのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめれば寂しさは少しだけ紛れた。
「下ではママ達がクリスマスパーティしてるけど、私が行くとお邪魔になっちゃうからね」
みんなで飾ったクリスマスツリーに、私も花を飾ってから部屋に帰ってきたから窓から眺めれば多分キラキラと輝くツリーと、ご飯を楽しむみんなが見えることだろう。
一人で余った肉を食べ、血で乾杯をして、もうなんの意味もない水やりをしながら、ベッドの中に入り込んで窓から見える星空をそっと見上げる。
クリスマスは、正確にはどんな由来のあるイベントなのかは知らない。でも、いい子にしていたら、プレゼントがもらえるらしいってお話だけは本で見たことがあったから、滲む視界に願いを乗せる。
「シンクレアに、あいたいな……」
ぎゅうっと抱きしめたぬいぐるみにはぬくもりがない。偽物で満足なんてできない。私のシンクレアはもうどこにもいないから、他のシンクレアに親しくされたところでただ虚しいだけで悲しくなる。
だからせめて、夢の中だけでも私のシンクレアに会いたかった。
目を瞑る。
深呼吸をして、心を落ち着かせる。
枕に吸い込まれていく涙が冷たかったけれど、我慢をして必死に数をかぞえながら、早く楽しいみんなの聖夜が終わることを願った。
「……」
まぶたに柔らかいなにかが触れる。
――やっぱり泣いてる君は可愛いね。
――ずっとずっと後悔をしていて。どれだけ時間が経ったとしても、あらゆるものに宿った僕との思い出に傷ついて、クローマー。忘れることは許さない。
耳元で懐かしい声が囁いて、目を開ける。
「……しんくれあ?」
わずかな希望に縋って声をかけてみるけど、辺りを見回しても誰もいない。寂しい一人の部屋がそこにあるだけだ。
けれど、まぶたに軽く触れた熱が残っているような気がした。
「うん」
気のせいかもしれないけれど、返事をする。
元からそのつもりだったから。
「おやすみなさい、シンクレア」
返事はかえってこなかった。