キールは光の中で目を覚ました。
見渡す限り、白い世界だったが足元にはうっすらとゴジラと戦うランドールたちがいた。だが、彼らの時間は流れておらず停止した状態であった。キールは死後の世界なのかと不安になっていた。だが、その時声が聞こえた。
「継承するものよ」
「勇気を示し、よくここまで耐えて来た」
「我らは勇者。そして、これからお主も勇者である」
「勇者の剣を継承し、人々を導くのだ」
キールに呼びかける声は様々であった。
ある時は女性、ある時は男性。若い声、老いた声。
それらは、歴戦の勇者と呼ばれる存在であった。キールはその歴史を知っていたが、人物像については全く知らなかった。だが、一瞬でその声の主たちがそうであると理解したのだ。理屈ではなく、心で理解したのだ。
「私は死んだわけではないのか?」
キールが声の主に尋ねると、声は静かに答えた。
「勇者は、死ぬことはない。人が希望を持つ限り勇者は選ばれ続き、継承される」
「これからは、君が勇者となり、すべての秩序を正しなさい」
そう言うと、声の主たちの意識のようなものが集合していった。
その集合体は剣の形をかたどった。剣は、聖剣グラディウスであった。オルフェウスの死後、森で消息を絶っていた剣が今キールの元へと渡されたのである。瞬間、キールは大空から落ちて行っていた。初めて感じた重力の不自由さと浮遊感に、不安を感じながらも彼は目の前のゴジラに集中する。ゴジラに着地した瞬間、彼はまたも光を纏い、装いを改めて白と金の鎧を着ていた。
「なんなんだ、あの姿は......」
魔王は勇者を始めてみるような口ぶりでキールを見つめた。新たな勇者に沸き立つ騎竜たちとは反対に複雑さを抱えていた。だが、今は目の前のゴジラを優先するべきだと気持ちを切り替えた。
「おお! あれが待ち望んだ勇者の姿か!」
「関心している場合ではないぞ! 全員、ゴジラ追放作戦をもう一度やるぞ!! 騎竜! 大型兵器の方についてゴジラの注意を引け!!」
「人使い、いやドワーフ使いの荒い魔王め。完遂した際の報酬は高いぞ!!」
ザセリを中心とする騎竜隊たちも疲労困憊になりながらも、立ち上がっていく。
ゴジラは絶望した人間がまたも立ち上がる姿に、さらにギアを上げて細長い熱線で騎竜を撃ち落とそうとするが、その攻撃さえもドワーフたちの指示で華麗に躱していく。そして、ド・グゥを駆るユーリの元にたどり着いた。
「どっから湧いてきよったか知らんが、仕事を手伝ってもらうぞ!」
「わかってます! もう俺は、役立たずなんかじゃない!」
ド・グゥを駆るユーリは騎竜たちと共に王宮へ歩み寄るゴジラを海の方へ押し出していった。ゴジラはその力に抵抗するもどんどんと海の方へと後退させられていった。踏みにじってきた小さな生き物たちが活気あふれる瞬間、これだけはゴジラは学習しても解読できない行動であった。忘れてしまっただけかもしれないが、ゴジラにはそれが欠落していた。彼は完全なる個体生命ゆえに、人間の不完全さに負けて来たのである。
だからこそ、結束の力を利用する勇者の力が希望の光となる。キールはそれを知ってか知らずか自分に課された使命を果たすべく剣を天高く掲げた。
「剣よ、我ら人間に。この世界に生きるすべての種に力を!! 不完全でも、生きるすべての種にもう一度生きる希望を与えてくれ!!」
ゴジラの上に立つキールの持つ剣が光りだすと、ゴジラの力は弱体化していったように感じた。現に、ド・グゥ一体でもゴジラを押せるくらいにはゴジラの腕に力が入っていなかった。
「やはり、勇者の剣には闇の魔法を浄化する力があったか」
ランドールが感心していると、キールが転送魔法をトランポリンのように使って飛び回りながら彼の元にたどり着いてきた。ランドールは息を呑みながらそれに見惚れていたら、キールは神妙な顔つきでランドールを見つめる。
「時間がない。人の結束の力で強化されている状態でいられるのは数分もない。だから、私とあの兵器の力、そして君たち魔法使いの力でゴジラを吹き飛ばす!!」
「やれるのか?」
「やるしかあるまい。魔法陣の方は?」
「時間がかかる。君の力で、ゴジラを鎮静化できるか?」
「わかった。やってみよう」
キール彼らの話を聞くと、すぐにユーリのいるド・グゥの肩の上にまで一瞬で移動していった。キールはド・グゥの頭部に触れると、念を込めて話しをコックピット内のユーリに届け始めた。
『聞こえるか、ユーリ』
「き、キールさん!?」
『君の操るこの兵器の力で、ゴジラをフッ飛ばすぞ。君にしかできないことだ。やってくれるかい?』
「もちろんです!」
そう言うと、キールは聖剣を構え始めた。すると、ユーリのコックピット内にも同じような剣が現れ始めた。ユーリはそれを受け取ると、キールとリンクされたかのような幻覚に陥った。
ユーリは不可思議な現象に混乱させながらも、コックピットで聖剣を構えた。
すると、ド・グゥの腕部に備え付けてあった砲門からサーベル状の光の粒子が現れ始めた。
「ゴジラ、これで終わりだ!」
ユーリの掛け声と共に、キールは叫んだ。
「ここから、出ていけぇ!!!」
ド・グゥ全体が青白く光り、キールを乗せて加速していった。
腕のパーツが有線を通じて伸びていき、ゴジラの身体へ攻撃していく。
「こんなこともできたのか! ド・グゥ!!」
ユーリは驚きつつも、ド・グゥの頭部を動かし頭部の装飾品に備え付けられていたバルカンポッドでゴジラを威嚇しながら頭突きした。ゴジラは熱線を吐くと、その熱線はド・グゥの頭部を焼ききった。だが、それが不運にもゴジラの命運をわけた熱線であった。熱線はロケットの推進剤のようにド・グゥを加速させたと同時にゴジラの活動を停止するほどであった。その先には、始まりのオード村の海辺であった。そこには、ランドールが転送魔法を砂浜に描いて待っていた。
「行け!! 後の転送は、お前に任せるぞ! 勇者!!」
「任せろ!!」
ユーリたちは浜辺の転送魔法に着地した瞬間、そこから姿を消した。キールとユーリは同じ世界を見ていた。遠い宇宙。闇黒が包む、生物の住むことのできない世界を想像した。一瞬にしてド・グゥは彼らの住んでいた世界、惑星から飛び出していた。ド・グゥは腕を放して、その無重力の中にゴジラを放棄した。
「あばよ! ゴジラ!!」
ユーリの言葉通り、ゴジラは宇宙の深淵に飲まれていった。さすがのゴジラの体表も凍り付いて破壊されていった。だが、その瞬間に再生し、また破壊されていく。その再生と破壊を繰り返し、ついにゴジラは活動を停止した。ド・グゥもそれに合わせたかのように機能を全停止しそうになっていた。瞬間、外にいたキールはすでにコックピット内に体を移動させていた。不思議な事の連続で、ユーリはツッコミすら忘れて自分たちの帰還の心配をしていた。
「これ、帰れるの??」
「帰れるさ。私たちが希望を持ち続ける限り、奇跡は起こるさ」
しばらくすると、キール達の生まれた世界の重力にド・グゥが引かれていき、火を噴きながら落下していく。
ド・グゥは隕石のように落下していき大気圏を突破。中破しながらもパイロットとなったキールとユーリの保護はしっかりとされたまま海へと墜落したのだった。ランドールたちはそれを見てすぐに落下地点へむかった。二人は無事に生きて、アルルタン王国への帰路についたのだった。
ゴジラの脅威は去った。だが、被害はまだ残っている。
その中で、異世界の住人達はなにを望み、生きるのか。
数年では癒えないものを抱えながら、彼らは前向きに歩き出す。
次回、最終回。