ゴジラ、異世界に現る。   作:小鳥 戯遊

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 キールの逃げた先は、奇しくも彼の生まれた街であった。
そこでもまた、彼はゴジラと遭遇する。


3:空想対虚構

 騎士団たちの敗走が王の耳に入る前、瘴気の森に一番近い町ではもっぱらうなり声の噂でいっぱいだった。さらに、ボロボロの甲冑で倒れていたキールがこの町に現れて街中は騒然とした。すぐにキールは教会に運び込まれ、治療が行われた。

 

「大丈夫、ですか?」

 

青年の目がゆっくりと開いた。看病をしていた町娘の一人が、細々とした声で彼に呼びかけた。彼は瞬時にベッドから飛び起きてその町娘に問いかけた。

 

 

「ここはどこだ! 君は何者だ!!」

 

 

「お、落ち着いてください!! ここは、教会です!! 私はオリビエ。怪しい者ではありません! あなたが倒れているのを見つけて、ここに運び込んだんです!!」

 

 

赤毛の少女オリビエは、怯えながら青年に早口で答えた。青年は荒くした息を整えていき、やがてベッドに座り込んだ。

 

「そ、そうか......。すまない、殺気立たせてしまって」

 

 

「い、いえ。無理もありません。魔王の住む森へ行ったのでしょう? その甲冑に、ボロボロの剣......。あなた、王国騎士団の方ですよね?」

 

 

「ああ......。キールという。よろしく」

 

 

キールは逃亡の末、奇しくも自分の故郷である街にたどり着いていたのである。

 

キールがそれに気づいたのに時間はかからなかった。

 

 

「キール君、お帰りなさい......。大変だったでしょう」

 

 

「神父様、ご無沙汰しております」

 

 

「やめてください、よそよそしい。昔見たく、フリオおじさんでいいですよ」

 

 

教会の神父、フリオは幼くして両親を亡くしたキールの育ての親でもあった。彼の顔を見てキールは安心したと同時に、あの巨大不明生物がここに災禍をもたらしてしまうのではないかと焦り始める。

 

 

「そんなことより、大変なんだ。森に、大きな化け物がいたんだ!」

 

 

「それは大変ですね......。でも、騎士団であるあなたがいるなら問題ないでしょう?」

 

「俺じゃだめなんだ! 騎士団は俺以外全滅したんだよ! その化け物に!!」

 

「ええ!?」

 

キールの言葉に、思わずオリビエは悲鳴を上げてしまう。フリオは彼女の背中をさすりながら、声を震わせながらゆっくりと疑問を投げかける。

 

 

「では、町の噂は本当ということでしょうか? 噂では、騎士団が森で消息を絶ったと聞いています。それが本当なら、大変なことですね......」

 

 

「ああ。だから、あいつが来る前に、みんな逃げるんだ!!」

 

 

そう言った瞬間、ドンという地鳴りのような音が響き渡った。

 

「奴だ! あいつの足音だ!! オレを殺しに来たんだ!!  うああああ!!」

 

 

「落ち着きなさい、キール君!! 私からジュレイン町長に話を付けてきます。パニックにならないように、住民を避難させていきます。君も、騎士なら手伝うことができますね?」

 

キールは怯えた表情で顔を横に振る。だが、フリオは顔を強張らせながら、彼の頬を叩いた。

 

 

「キール! 駄々をこねてはなりません! 神に選ばれし聖騎士団長に選ばれたのであれば、あなたもまた神に選ばれし騎士なのです!! 勇気と知恵で、我々を導くのです! 今は、あなたが騎士団長だと思いなさい!!」

 

胸倉を掴まれたキールは少しうなだれ気味に頷いた。フリオとキールそして、オリビエと共に町長の元へ向かい、実情を話した。すると、ジュレイン町長は落ち着きはらった表情で頷いた。

 

「恐ろしい森の近くに街をつくるのですから、そう言った覚悟はできています。それは、ここで暮らす住民も同じ。避難誘導はお任せします。私は、町全体に警戒警報を鳴らします!!」

 

 

けたたましいサイレン音と共に、町長の凛とした声が住民を導く。当然、フリオ、オリビエ、そしてキールが安全区域に達するよう住民たちを誘導していく。だが、その時間も限られているようで、黒い影がいよいよこちらに迫ってきた。

 

 

「化け物め、もうこっちに来たかっ!!」

 

キールの睨む先には、すでに家屋を潰して降り立つゴジラの姿であった。教会の天井よりも高い位置にある顔は人々を蔑んでいるようにも、憐れんでいるようにも見える。だが、その真意はゴジラにしかわからない。わからないからこそ、人は恐怖するのだ。キールもまた、ゴジラの深淵を覗くかのような大きな瞳に吸われ、足や手を震わせる。

 

 

「キールさん!!」

 

 

オリビエの一声で、キールは我に返り住民を一人でもはやく逃げるよう叫んだ!!

 

 

「急げ!! もっと遠くへ! 遠くへ逃げるんだ!!」

 

 

住民が逃げる方向へ、ゴジラもまた歩き始める。森や木々を倒すように、今度は住宅街や教会をも壊していく。

 

 

「ああ!! 私の教会が!!」

 

 

「おじさん、ここは危ない! あんたも早く逃げるんだ!!」

 

 

「ああ、そうですね......。それで、町長さんは......」

 

フリオをオリビエに引き渡し、キールは町長の住んでいた大きな屋敷へと向かった。屋敷の中では必死に声を上げる町長の姿が見えた。キールはすぐに町長に駆けつけていった。

 

 

「町長、あなたも早く逃げるんだ!!」

 

 

「私は、この町の名に我が名を記すと決めた時より、ここに骨をうずめる覚悟にあります! それに、この町には、いや私は少しでも多くの情報を、迅速に王国へ知らせる義務があるのです!! さあ、私など捨ておいてあなたも逃げなさい! お父様も、神父もあなたが死ぬことを望んで騎士にやったわけではないのだから!!」

 

町長に腕押しされて、引き離されるとキールは一言

 

「死なないでくださいね」

 

と言い残し、屋敷を後にした。すると、その瞬間オリビエがキールの前に現れた。

 

 

「オリビエ!? 神父と一緒じゃなかったのか!?」

 

「キールさんが、心配で......」

 

「俺なら心配いらない。はやく離れるぞ!!」

 

 

彼女の手を引き、キールは走っていった。また何もできない自分を心の中で叱責しながら。

そうすると、屋敷の方からゴジラに向けて何かが発射された。

 

 

「な、なんの光だ!?」

 

 

「町長の対巨大魔物用の攻撃魔法『ホロウ』です。これであらゆる魔物は一掃されてきました。でも、私はあの光が嫌いです......。戦いの匂いがするから......」

 

「戦いの、匂い......」

 

ホロウ攻撃は、ゴジラに直撃しパックリと切り傷のようなものが首から顎にかけて開いていた。だが、その傷はすぐに細胞の活性化によって再生されていった。ゴジラは完治した直後、地面に向かって口を大きく開き始めた。その口内から、突然炎が勢いよく吐き出されていった。その爆炎の影響か、自分やオリビエ、他の家屋の瓦礫が吹き飛ばされていく。

 

 

「オリビエ!!」

 

「キールさん!」

 

キールは離れそうになったオリビエの腕をしっかりと掴み、自分で覆いつくすようにかがんだ。

瓦礫が自分たちに当たらないように、最低限の防御魔法を球形に張った。吹き飛ばされる最中、ゴジラの発した炎が、さらに高温になり青色へそして細くも勢いの強い紫色の熱線へと変貌し屋敷を襲っていく。

キールは鳥肌を立たせて目をつぶった。

そこにはただ、爆音と瓦礫が魔法陣に擦れる音が聞こえるだけで何が起こっているのか理解できなかった。

 

「終わった......。のか?」

 

 

ゴジラの吐き出した放射熱線は、町を火の海に変えて町長を焼き殺した。ゴジラの口元は焼けただれていたもののすぐに再生していった。キールはまたも体を震わせていた。

 

「やはり、不死身なのか......」

 

迫る絶望感に息が詰まりそうになるキールに、オリビエは自分の方に注目させる。

 

「あなたは、騎士団の人なんでしょ! なら、お父さんの仇を取ってよ!!」

 

「え!? おと......。でも」

 

 

オリビエの鬼気迫る表情に、キールは眩暈を起こしそうになりながら自分の剣を取った。でも、聖剣でさえ傷をつけるのがやっとであったあの化け物を倒せるのだろうかと内心不安でしかなかった。だが、やるしかなかった。

 

 

「オリビエ、君は魔法を使えるか?」

 

 

「ええ、少しだけ。でも基礎だけよ」

 

 

「十分だ。あいつを少しだけでいい。抑えてくれ......。俺が、いや私があの化け物の脳天を穿つ! 殺して見せる!!」

 

 

キールの覚悟の決まった視線に、オリビエは震えた手を押さえながら頷いてみせた。しばらくして、二人は前に出ていき、オリビエはゴジラに魔法をかけた。ゴジラは歩き出そうとするも身動きが取れない不思議な状態に怒りで吠え散らかしていた。キールは立ち往生するゴジラのしっぽから火事場の馬鹿力で上っていった。そして、そのままゴジラの脳天まで辿り着く。 

 

「今だけでいい! 聖剣の力だけでもいい! なんでもいい! 神よ、力を貸してくれ!!」

 

だが、ゴジラは動きが鈍っているだけで頭をゆっくりと振り、キールを振り落とそうとする。蠢くゴジラの体表に足元を掬われ、キールはゴジラの頭から転げてしまう。だが、ただ転ぶだけにはしたくなかった。

 

「うああああ!!」

 

キールの剣はぐっさりとゴジラの目に深く刺さった。

そのせいで、ゴジラはオリビエの魔法でも制御が効かなくなり暴れだしてしまう。その荒ぶりに耐えられず、キールは剣を放してしまう。剣はゴジラから超自然的に吐き出されていく。目の周りの傷は若干塞がれたものの、ゴジラの目は潰れたままで傷跡も残っていた。

 

「再生、しない? でも、助かった......」

 

キールは奇しくも魔法がクッション替わりになったお陰で助かって、地面に叩き落とされずに済んだ。キールは助けてくれたであろうオリビエに感謝しようと、オリビエのいた方へ体を向けた。

 

「君のお陰で光明が差した! ありがとう、オリビ......」

 

そこには、ゴジラの足と少しだけ魔力の帯びた腕が血をにじませて地面に埋もれていた。

キールはその光景に嘔吐した。キールは、初めて騎士に入ろうとしたときのことを思い出した。

あの時も、両親を亡くし半壊した町の真ん中で嘔吐しながら号泣したことを思い出した。その時は魔王の侵攻によるものだった。だが、今回は違う、たった一匹の怪獣の手によってすべてを失ったのである。

キールは、声にもならない悲鳴と怒声をあげた。

 

 

ゴジラはそのことなど、気にも留めず自身の傷ついた身体を癒すため、三度姿を消したのであった。




今回のゴジラ
ep3ゴジラ

ゴジラ(第2形態)
体長:50.1m
体重:2万t

体長は「-1.0」と同様だが放射熱線の吐き出し方はシン・ゴジラと同じ。
威力はないものの、その被害は絶大。
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