それでも、黒き竜の正体がわからない彼らにはただパニックの元になるだけだった。
瘴気の森近くの町であるジュレイン町の陥落の報を受け、とうとう王国で王や民が分け隔てなく混乱した。立て続けの消息不明事件に頭を悩ませていたのは、他でもないアルルタン四聖であった。
「もうこの国はおしまいじゃああああ!! 皆が死ぬ! わしも死ぬ!! 死にたくなーーーい!!」
狂乱する王帝に、魔法大臣ルードは王を静かに治める。
「聖帝陛下、どうかお気持ちを静めてください。お忘れですか? ここは魔法大国です。 その防衛力は、建国から千年経ち、今でも不落城と言われたこのフルール城を見れば明らかです。そう簡単に落とされるわけはありません」
さらに政務大臣のフレアムは重ねてなだめの言葉を投げかける。
「左様にございます。不明生物であろうが、政は不動でなければなりません。私も、新たに軍を整備するため一走りしてまいる所存でございます」
泣きじゃくっていた王も、二人の大臣による励ましで、何回か深呼吸するだけで落ち着き払いいつもの調子に戻っていった。
「そ、そうだな......。おまえさんの言う通りじゃ......。わしも、民に語り掛けてくる。君たちはそれぞれ、兵力と魔力の総動員を急いでくれ」
「お任せください、陛下」
「火急的、速やかに対処します」
そう言うと、ルードたちは玉座の間から去り廊下を歩いていく。その中で、二人は大臣同士の話し合いを進めていく。
「この案件、どう思う?」
「あの大きさの魔物だ。王宮のホロウでさえ通用するかどうか......。フレアム殿、そちらの首尾はどうだ。騎士団はどれほどで集まる?」
「時間がかかりそうだ。それより、あの再生力をみたか? どうにか、生け捕り路線でどうにかできないだろうか?」
「......私は目下、あれを敵と判断している。私から協議はするが、防衛ラインを超えたら即『ディン・ホロウ』を照射する」
そういうと、ルードとフレアムの二人は別れていった。廊下を曲がった先の禍々しい扉を開けると、そこは書斎のようになっていた。書斎の本の一つをルードが傾けると、床から隠し戸が現れる。その隠し戸を開けて、地下階段を降りて、長い燭台のついた廊下を歩いていき、その奥の大きな扉を開くとそこには魔法使いたちがすでに円卓を囲んで座っていた。
「さすがは私のランドール。仕事が早いな」
扉に一番近い椅子に座り、その右横に座る青年ランドールの肩にルードは手を置いた。
「恐縮です。話の概要は皆に伝えてありますので、本題に入りましょう」
「わかった。では始めよう」
二人の会話の終わりを伺いながら、水晶に移る王国の様子や本に目をやっていた魔法使いたちが一斉にルードの方を向き直った。静寂の中、ルードは話を始めた。
「ではまず、私の見解だが町を陥落させた不明生物は漁村、瘴気の森それぞれの事件と関連性があるとみている。それに対して相違を聞きたい」
「キオ、相違なしです。ただ、魔族を一掃したとなると、戦力は魔王以上ということになります」
眼鏡の青年キオは、持参していた魔族をすべて網羅した図鑑を手にしながら語った。
また、キオの言葉を皮切りに、ルードの対面にいた魔女であるジュエルが手を挙げた。
「アタシも相違なしね。共通点がないような3つの地域に見えるけど、襲われた漁村にある洞窟には魔水晶の原石があるし、瘴気の森は言わずもがな。ジュレインには王宮制には劣るけど、ホロウを照射できるほどの魔力エネルギーがあるものね」
「つまり、次に狙われるのはこの国であるという線も?」
「否定できないわね。だから、魔力の源もしくはそれと同等のものを食らうためにあれは漂っていると推測するわ」
彼女の言葉に、ルードとランドールは頭を抱えた。次に狙われるのが魔力の高い者が住むこの国だと断定された以上、この国での戦闘は避けられないということである。それも、まったく予測のしようもない場所、時間で現れるとなると次にいつ狙われるのかもわからないのである。大勢の魔法使いたちの不安をよそに、キオはなるべく明るい声で話し始めた。
「でも、なんだか初めて会った敵っていうのも新鮮ですね。ほら、いままでは戦闘データに沿った魔物にしか遭遇しませんでしたから......」
彼の場を和ませようとした発言は少し、過激で不謹慎にも聞こえた。そのせいで、老人たちはキオを睨みつけていた。
「あれ。ぼく、なんかまずいこといいました? なんか、すいません......」
キオの天然的な性格で場が和むも、一人だけ眉をひそめて魔水晶を睨みつける老人がいた。
老人はランドールやルードよりも長く王国に仕えていたという重鎮、ポルンであった。
「どうしました? ポルンさん」
「不穏な気配が、こちらに迫っておる......」
その言葉に、その場にいた魔法使いたちの背筋が凍りついていった。
彼の気配察知能力は、魔王到来を予見した時より正確であった。すると、ポルンは自分の持っていた魔水晶を円卓の真ん中に置いた。すると、ポルンの視た映像が映し出されていた。そこには、ずしずしと海から王都へと向かっているゴジラの姿であった。 その大きさは、町で確認されたときよりも大きくなっており聖剣によって負った傷も回復していた。
「あの巨大な生物、報告より大きくなっていないか? あれだと、バハムートより大きいぞ......」
ランドールが口にすると、魔法使いたちが次々と各々の場所へと転送していった。ルードもまた、ローブを羽織り、準備をしつつランドールに声をかけた。
「奴を防衛ラインに入れさせるな! どうにせよ、照射するには時間がかかる。ランドール、現地へ赴き時間を稼いでくれ!」
「承知しました! 何者であろうと、王都の敷居は跨がせません」
「頼んだ」
ルードはランドールの肩をポンポンと軽く叩いて、走って王の元へ向かった。それを確認した後、ランドールはポルンに嫌な気配の位置を伺おうと口を開こうとした。だが、それさえもポルンは予見していた。ポルンは、ランドールに人差し指を向けて言葉を遮って語り始めた。
「北西、50キロメートル。王国を囲む二つの壁、その最果てに向かっておるのう」
「第2防壁!?」
「急げ。防壁は兵に強くとも、かのような巨大な魔物にはただの石ころ同然じゃ!」
そう聞いた途端、ランドールはそのまま転送魔法でアルルタン王国の王城および城下町含む王都を守る壁、その一番遠方の第2の壁へと向かった。その壁を境に住民街と自然平原とが分離されている。平原の上に着地したランドールが見たのは、こちらへ向かうゴジラであった。当然、ランドールがその黒き竜をゴジラだと認識できていない。
「実物で見るとさらに大きく感じるな。70mはありそうだが、果たして対話はできるのだろうか......。いや、ドラゴンであれば対話は可能なはずだ!!」
ランドールは小言のように呪文を唱えた。すると、羽織っていたマントが意思を持ったかのようにひらひらと動き始めてランドールをも浮き上がらせていく。そのまま彼はゴジラの顔の前にまで浮かび上がった。
「黒きドラゴンよ! 私の名はランドール! 貴方は今、清き聖地アルルタン王国を許可なく侵入している! 願わくば、立ち止まり目的を述べよ! 魔物でもドラゴンならば、話くらいできるだろう!?」
だが、ゴジラはうんともすんとも話すことはない。念話を通じてもゴジラは語ることを知らない。いや、たとえ会話できたとしても拒絶するだろう。ただ、彼のオーラには常に「怒り」「恨み」そして「哀しみ」が渦巻き混沌としていた。
「何をそんなに怒っている? そして、なにが悲しいのだ? 君を動かすのはなんなのだ?」
考えているうちに、ゴジラは歩き続ける。何かを求めているように、常に何かを壊して進んでいった。
「考えている場合ではない! この壁が壊される前に、この巨大なドラゴンをどうにかしないと!!」
そう言うと、ランドールは自分の腰にぶら下げていたいくつかのひし形に近いクリスタルの一つを取り出した。
「ドラゴンにはドラゴンだ。我が召喚に応えよ。サモン! バハムート!」
クリスタルに息を吹きかけると、そのクリスタルが光始めてその中から小さなドラゴンが一瞬現れたかと思うとそれはぐんぐんと成長していきやがて白くて大きなドラゴンとなった。だが、その大きさはゴジラに到底及ばない。とはいえバハムートは、この世界で最大を誇るとされている。バハムートはランドールを少し瞳に捕らえた後、大きな翼を広げた後口から炎を噴き出した。だが、ゴジラの表面には焼け跡一つつくことは無い。それどころか、攻撃したバハムートに頭突きをしたかと思うと小さな腕でバハムートの羽を掴み、投げ飛ばしてしまう。
『この醜悪な竜、なんという力だ......。このバハムートの翼を穢すとは! 万死に値する!』
バハムートは自身の鱗をすべて逆立たせて、ランドールの意識内に自分の『声』を聞かせた。
ランドールはバハムートの声を聞いて、どうにかして案を練りはじめた。
「力づくでは無理か、バハムート! 君の催眠能力で、彼を眠らせることができるか!?」
『かの者に眠るという概念があればの話だがな。やってみよう』
バハムートは自分の角の付け根の部分にあるコブを光らせたかと思うと、角にある1ミクロン以下の無数の穴から催眠ガスを噴出した。そのガスは見事、ゴジラの顔面に当たり、ゴジラは目をシバシバとさせながら、数歩歩いたのちにドスリと音を立てて地面に突っ伏した姿で寝入った。
「これで時間稼ぎになるといいが......」
ランドールは少し不安になりながらも、ゴジラの近くで待機することにした。
今回のゴジラ
ep4ゴジラ
ゴジラ ‐異‐(70th.ver)
体長70m
推定体重:2万8千t
ジュレイン町での攻撃で傷を負ったゴジラが再度海に戻った後、さらに大きくなって現れた姿。姿そのものはマイナスワンと同様マッシブな体格と凶悪な目つきと歯が特徴。放射熱線もまた強化されており、シンと同じような細い熱線とマイナスワンの強力で無慈悲な熱線を使い分けることもできる。マイナスワン仕様の熱線を吐くと、エネルギーの浪費により一定時間活動停止するデメリットがある。
次回、ようやくすべてが繋がっていく。