ゴジラ、異世界に現る。   作:小鳥 戯遊

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 ゴジラとはなにか。異世界の人たちへ説明を始めるユーリ。
さらに、ランドールたちも異世界ならではアプローチを考えていくのであった。


7:共有される情報

 「それで、君たち騎竜はドラゴンの討伐も可能なのか?」

 

ランドールは騎竜の1人、ザセリに問いただした。すると、彼は目までかかっていたぼさぼさの髪を救い上げてみせた。その額には複数の傷があり、さらには眼帯がされていた。

 

 

「この傷は、暗黒竜『ヲロチ』とやりやったときのものだ。そして、この目は邪龍に食われた。だが、そいつを殺して、その皮でこの眼帯をこしらえてやったわ!」

 

 

黒い眼帯は龍の鱗で艶やかに光りだし、ザセリは満面の笑みを浮かべた。

反対に、ランドールはとても信じられないという気持ちと、この男がおぞましいと恐怖さえ感じていた。

 

「ああ、わかった。だから、髪の毛をおろしてくれ」

 

ザセリはゆっくりと髪の毛を下すと、悩むように顎に手を当てた。

 

「......だが、わしが対峙したのは『死』の概念を持つ竜たちだった。それで、不死の竜ってのは本当なのかい?」

 

白熱する二人の会話に、フレアムは少し疲れ気味だった。

他の人間も、疲れが顔に出ていることも察知した彼は余裕そうな口ぶりで提案した。

 

 

「まあ、落ち着け二人とも。腹も減ったことだし、飯にしないか? 我々もいまから食事にするのだが」

 

 

「そんな時間はないでしょう? 確かに空腹ではありますが......。どうでしょう、栄養補給しながら会議というのは」

 

 

ランドールの言葉に、フレアムは苦笑いを浮かべた。

 

 

「栄養補給とは、仕事人間の君が言いそうなことだ。まあいい。そこの君、私達に料理を恵んでもらえないだろうかもらえないだろうか」

 

 

近くにいたエルフに言うと、エルフは笑顔で会釈してそそくさとどこかへ消えていった。

しばらくすると、おにぎりのような白い塊が平たいお皿に小山のように積まれて会議を開いた壊れかけの机の上に置かれた。

 

 

「おにぎり?」

 

 

「これはエルフの郷土料理で、ニリギというらしい。 淡泊な見た目ながら、栄養単価が高い。王都では完全栄養食とも言われている。ありがとう、ご婦人」

 

 

フレアムはニリギを掲げると、エルフの女性は再び笑みをこぼして去っていった。

 

 

「さて、青空会議を始めよう。では、あの黒き竜について知ってるものはいるのか?」

 

 

フレアムの言葉で、最初に手を挙げたのはやはりユーリであった。

彼はニリギを一口噛みしめて、おにぎりと似てるなと思いつつも自分の知りうるゴジラの情報を共有し始めた。

 

「まず、僕はこことは別の世界の記憶を持っている。あの生物はその世界の架空の生物だ。俺の世界では、あれをゴジラと呼称していた。ゴジラは並大抵の攻撃では太刀打ちできない。たとえ超兵器であってもその回復力ですぐに再生してしまう。彼のエネルギー源は『核エネルギー』。どう説明したらいいかわからないけど、科学的な物質で、扱いを間違えると有害物質を生み出すものなんだ。その影響か、ゴジラは特になにも食べずに生きていける。要は個体で完成された生物なんだ」

 

 

「なんと素晴らしい生き物なんじゃ! あのゴツゴツとした不気味な見た目と反して完全生物とは驚いた! お手上げじゃ!!」

 

ザセリはゆっくりと空を見上げた。空はすでに星々が煌めていた。

更けた夜のようにランドールは暗い顔つきで指の付いたニリギの粒を舐める。

 

 

「それに『核』という存在が不明物質すぎる。草木も生えてこない現状、有害であることは間違いなさそうではあるが......。ここまで無知だと、自分が情けなく感じる」

 

 

「エルフの中で原因不明の病に伏せてるのも、その『核』とやらが原因の可能性があるな......。それを浄化する方法があればいいのだが」

 

絶望的な中、魔王がポツリと言い放つ。

 

 

「闇の魔法の、いやそれは無理だ......」

 

 

「なにか思いついたのか? デスペラード」

 

「いや。言わない」

 

 

「そうだったな。君は傍観を続けると言ったな。こんな時にも。なら、今食べているニリギすべて回収させてもらうが?」

 

 

そう言ってランドールが魔王デスペラードの持つニリギに手を伸ばそうとすると魔王はその手から守るようにゆっくりと体の軸を回してから口の中に一気に含んでしまう。ランドールは少し笑みを浮かべて、魔王の目の前にまだ温かいニリギをちらつかせた。

 

 

「もっと食べたいなら、君も協力しろ。君だって、部下をやられて腹の立たないほど落ちてはいないはずだ。元はエルフの王だろ?」

 

魔王は目の前のごちそうに目を白黒させて、よだれを垂らす。

唾を飲み込んだ音が響きそうになり、少しだけ考えたあと魔王は静かに答えた。

 

 

「......。闇の魔法を対策する唯一の方法とは何か、分かるか?」

 

 

「光の剣......。聖剣であのゴジラの規格外の光線に迎え撃てと? しかも、剣の所有者はとっくに死んでいるのだぞ!!」

 

 

「ふん、残念だったな! 人間の衰退する様が目に見えるわ!!」

 

魔王の喜ぶ顔など、だれも見向きもせずザセリは無視したかのように視線を横にずらした。

そこには、地面をずっと眺めるキールの姿があった。

 

 

「外でぼんやりしてる兄ちゃんはどうなんだ」

 

 

 

「難しいだろう。彼は、すでに戦意喪失している」

 

「どうだかな。案外、焚きつければいける質かもしれねえぜ。俺だってこれまでの話聞いて初めてドラゴンに恐怖を覚えたよ。でもな、騎竜である以上俺はドラゴンと意地でも向き合わなきゃなんねえ。だから、俺は戦うぜ。んな風に、男には戦うと決めたときは腹据えてんだ」

 

 

ユーリは少し考えた後に、ニリギを持って立ち上がった。

 

 

「僕、少し様子を見てきます」

 

「お! いいね、少年! 俺も乗った!」

 

 

ザセリもまた立ち上がり、ボーっと夜空を見つめるキールに話しかけた。

 

 

「少し、食べませんか?」

 

 

「いい......」

 

 

「食べておけ! ここがまた死地になるかわからん」

 

ザセリの言葉で、キールは頭を抱え始めた。

 

「や、やめてくれ! もう、放っておいてくれ!! 私は戦わない! あんな化け物と戦いたくない!!」

 

 

「別に、戦ってほしくて僕は話しかけたわけじゃない。まあ、ちょっと戦ってほしさはあるけど......。それでも、生きるために食べてほしいんですよ」

 

 

「うるさい!」

 

 

キールはユーリの腕を振り払ってしまう。そのせいで、ニリギは地面に落ちてしまう。ユーリは少し残念そうな顔つきで地面を見つめていると、キールは続けてユーリたちに罵声を浴びせた。

 

 

「第一、君のことなんて誰も信用していないんだよ! その、ゴジラ? とやらのこと詳しいし、一時は魔王とともに世界を混沌に陥れようとした。そんなやつらと、どうして同じ釜の飯を食えるのか! 彼らの神経が理解できない!!」

 

 

「偉く威勢がいいな、この野郎」

 

 

ザセリは突然、キールの首根っこを掴み地面に落ちたニリギの元まで彼の顔を押し付けた。

キールは必死に抵抗するも、ザセリの腕っぷしは国王直属の騎士団でさえ敵わないものだった。何か言おうにも、キールの口に土がつくばかりで言葉が聞き取れなかった。その代わり、ザセリが自分語りを始めた。

 

 

「戦わねえのは構わねえ。命はあったもん勝ちだ。だがな、命と食いもん粗末にするやつは許せねえなぁ......! 殺し、殺されの場で一番嫌いなタイプだぜ。お前。よりによって、国抱えの騎士と来たもんだ。そら魔王に及び腰になるってもんよ」

 

 

「勝てぬ戦はしない! それに、貴様とてあの怪物の殺す妙案を一つも出しておらんではないか! 私に八つ当たりしないでいただけるか?」

 

 

「上等じゃボケ。サシで勝負せんかい!」

 

 

「ちょっと! 二人とも、今は俺達で争ってる暇はないって! それに、ゴジラの倒し方なら少し知ってる」

 

 

ユーリがそう言うと、全員が彼の方を向いた。

 

 

「ほう、聞かせてくれないか?」

 

 

 

「まず、海水の酸素を全部壊す兵器でしょ。あと、口の中に血液凝固剤を注入して凍らせる。もう一つが水圧を利用して圧死させる作戦」

 

 

 

「それで、ゴジラは殺せたのか?」

 

キールの言葉に、返す言葉が見つからず詰まるユーリ。そう。どの映画の世界のゴジラであっても、完全に殺した例はオキシジェンデストロイヤーの他にない。さらにはこの異世界であの技術を再現する力も、時間もないとユーリは思っていたからだ。それ以前に、ザセリはユーリの言葉に匙を投げるように大声をあげる。

 

 

「いや、3つも作戦が出てる時点で殺せてないだろ!!」

 

 

「ゴジラを体内から冷やす作戦であれば、魔法を使えば再現できそうだが、問題はゴジラを縛っておく必要があるということだな。一つ目は原理が理解できない上に酸素を消す魔法など存在しない。三つ目も、我々は海へ出るすべを持っていない。騎竜と魔法使いでゴジラをおびき出し、海上で浮上しながらの作業は厳しいだろうな......」

 

悩んでいると、魔王が少し冷静な声で全員に語り掛ける。

 

 

「いっそのこと『不死の生物』という点からアプローチするのはどうだろうか? 古くの伝説、フェニックス討伐あたりからヒントは得られないだろうか」

 

 

その言葉に、ランドールはハッとした。

何かを思い出したかのように、自分の右人差し指につけていた指輪の宝石にそっと触れた。すると、空中からプロジェクターのように本がずらりと並び始めた。

 

「すげえ、なにしてるの?」

 

 

「アカシックレコードで今閲覧している。だが、不気味だな。突然態度を変えて、何を企む」

 

魔王は、自分の魔力で体をふわふわと浮かせて、ゆっくりとゴジラの方を見つめた。

ゴジラは今だ動きがなく、夜の影と混じりそうになっていた。だが、じんわりと光る緑の体色が不気味さを演出していた。魔王はそのゴジラを見て自分の中で自分の弱さを見つけていた。

 

 

「奴を使えば容易くこの地を我が物とできただろう。だが、それでは空しい。君らへ同情しようとしたのは、そういう想像をしてしまった、私の弱さからだ。これで、満足か?」

 

 

「魔王様は弱くないよ、自分の弱さを認めたんだから。......それで、フェニックス討伐のときはどうしたの?」

 

すると、ランドールは空を指さした。

 

 

「え、もしかして宇宙に放り出したの??」

 

 

「不死鳥の翼の飛翔力と、ホロウを最大限まで照射して天に還したと書かれていた。だが、ゴジラにもうホロウは使えない。というより、ホロウ自体もう使用できない。だから、ゴジラを空へ転送する!」

 

 

「転送魔法か! だが、あれは正確な位置情報でなかれば不可能だ! どうやってゴジラを空のさらなる外へ突き離すのだ!?」

 

 

「私が、大空近くまで行く......」

 

「自殺行為だ! 神の怒りを買うぞ!」

 

「それでも、我々は成し遂げなければならない! 自然の摂理を破った生命を生かす方がそれこそ神の怒りを買うと私は思う!! これしか方法がないのだ! 神もお赦しになられるはずだ!! では、これより本作戦を『ゴジラ追放作戦』とする! 無理強いはしない。志願するものは私についてこい!!」

 

ランドールは立ち上がり、息巻いて城の外へと歩き始めた。その背中をフレアムはただ見つめる。

 

「ザセリ君、君に彼の監視を任せていいか?」

 

「わしがか? まったく、自分でいけばいいだろうが」

 

「私には、この国を立て直す責任がある。それに、彼はまだ若い。指南役としては君が適任だ。私はどうも、彼とは馬が合わない」

 

 

そう言うと、フレアムは寂しそうにランドールを見つめた。その目線に気付いたザセリは少しため息とついたあと、何も言わずランドールの後を付けていった。魔王もまた、自分の思うままに彼らの後をついて行った。

 

 

「みんな狂ってる......」

 

ユーリは足も動かすことのできない自分自身に歯がゆさを覚えながら裾をギュッと握りしめて彼らを見つめた。

キールは彼らに一瞥もせず、ずっとうつむいたままであった。

そんな中、ついにゴジラの閉じられていた瞼がゆっくりと開き始めた。

 




ゴジラ追放作戦が、強行された。
彼らは無事、ゴジラを追い出せるのだろうか。
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