白いドレスの少女に好かれました   作:聖成 家康

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白いドレスの少女

 

「あなた、ハンターなんでしょう?」

 

 

 

 騒々しいドンドルマの中であれどはっきりと聞こえて、つい足を止めてしまうような声。

 淡い光のような儚さがあるのに、ハンターらしく例えるならば、目の前に突如顕現した古龍のような威圧感のある不思議な声音だった。

 

 声のした方を見てみれば、そこのテーブル席に一人の少女が座っていた。

 

 純白のドレス。シワもシミも一切ない、雪景色のように綺麗な布に身を包んだその少女。

 アルビノの髪に赤い瞳――そして、三角形の耳は彼女が()()()()()()()()()()()()ことを体現している。

 

 

「私の話聞いていかない? きっと、退屈なんてさせないから」

 

 

 にこ、と魔性の笑みを浮かべる少女。

 その三角に尖った耳は、間違いなく()()()である証だった。

 

 

 その視線の先に立つのは、紛れもない、防具と武器を持ちしハンター。

 

 真夏の陽光を思わせる、きらびやかな銀火竜の防具に身を包み、頭部と胸部は軽量化のために特殊加工を施している。

 背負う武器は大剣――蒼火竜の素材が用いられた輝剣リオレウス。

 

 美しい白の長髪は三つ編みに束ねられており、凛とした蒼穹の瞳は蒼火竜の甲殻かのような色彩だ。

 

 

「……依頼をくれるの」

「まぁ、話が早い。そこに座って、どうぞ」

 

 

 白く華奢な手を合わせ、嬉しそうに笑う少女。無邪気さの中に垣間見える大人っぽさに、ハンターのアルメリアは異様な感覚を覚える。

 

 新米や昇級したてのハンターで溢れるドンドルマ。

 中途半端な優しさを持つ彼女は、彼彼女らの依頼を取りたくなくて、ここ最近クエストに行けていない状態だった。

 

 

 十二歳の頃から十三年……ハンター一筋でやってきた彼女は、もう狩りをしないと生きた心地がしないのだ。

 

 

「私ね、強いハンターさんに解決してほしい依頼をたくさん持ってるのよ。まぁ……お金は私が払うわけじゃないんだけど」

「どんな依頼? 見せてほしいな」

「うーん……いっぱいあるんだけど」

「手頃なやつ」

 

 

 アルメリアの注文に、少女は唇を尖らせながら応じた。

 スカートをひらりと捲りあげ、その中から何かを探す。

 

 見てみれば彼女の太もも辺りにベルトが巻かれてあり、そこに沢山の紙が収納されてある。

 ――それよりも、アルメリアは少女特有の柔らかそうな肌に釘付けになっていたが。

 

 

「あ、お姉さんエッチなんだ〜。私の脚にメロメロ?」

「違う」

 

 

 否定はしたものの、思うように反論が出てこなかった。

 くすくす笑いながら、丸めた紙を取り出した少女は自慢げに見せてくる。

 

 

――

 

高難度:狂の爆ぜる臨界点

 

メインターゲット

ブラキディオス一頭の狩猟

 

サブターゲット

なし

 

”生態未確定”

 

――

 

 

「生態未確定って……」

 

 

 ブラキディオスか――と思った彼女の顔を青白くさせたのは、その文字だった。

 

 

「ふふ……お姉さん、やっぱり強いハンターなのね。これはね、ギルドから出たばかりの危険な依頼なのよ?」

「これが手頃って……貴女、一体?」

 

 

 生態未確定。それは、生物の域を超えたモンスター――〈極限個体〉のモンスターの狩猟依頼に、警告の名目で添えられる言葉だ。

 

 狂竜ウイルスと呼ばれる外界からの侵蝕を我が物にし、力を持て余した超危険生物。

 しかし、砕竜の極限個体など報告には無かったはずである。

 

 

「どぉ? やる? やらない?」

「……大人をからかうのはやめなさい」

「あら、見た目に見合わないけど、お姉さんよりは年上なのよ? それに、これは正式にギルドから貰ったの」

 

 

 少女が指差したのは、確かにハンターズギルドマークの押印だ。

 ――一体何者なのか。

 

 

「報酬金だけじゃなくって、私からも特別なご褒美があるのよ」

「ご褒美?」

 

 

 含みのある言い方に、アルメリアは眉をひそめた。

 少女はまた微笑んでから席を立ったかと思えば、思わぬ行動に出る。

 

 

「ぎゅぅ〜っ!!」

 

 

 少し背伸びして、防具を纏ったアルメリアの身体に言葉通りぎゅうっと抱きしめたのだ。

 銀火竜防具は棘があって危ないからと引き剥がそうとしたが、胸辺りは軽量化のために省いているから、黒のインナーが露出していて安全であった。

 

 何より――そこから感じる少女の体温と柔らかさには、抗えなかった。

 

 

「いい子、いい子……よしよーし」

 

 

 小さい身体で、まるで母親のような包容力を持つ少女は耳元で囁くように言った。

 背筋がゾクゾクと震える感覚に襲われ、彼女は悶えた。

 

 

「お姉さん、いつも頑張ってるでしょ。お手々の凝り固まり具合を見れば、分かるよ」

 

 

 反論も反抗もする気が起きない。

 湧き上がってくるのは、懐かしさと愛おしさのみ。

 理性が辛うじて止めてはいたが、この少女を抱き返してやりたい思いでいっぱいだった。

 

 ――こんなふうに、抱きしめられたのはいつぶりだろう。

 父は早く亡くなり、母もきょうだい達の世話で長女に構ってくれなかった。

 

 

「あぅ……あっ、ちょ、ちょっと」

「はぁーい、おしまーい!」

 

 

 ようやく抵抗を見せた頃、彼女の声をかき消すように少女はそう言いながら離れた。

 

 

「どぉ? こういうご褒美付き、報酬も悪くない。命の危険はあるかもだけど、私に実力見せてみない?」

 

 

 白いドレスの少女はにこり、と微笑む。

 

 

 子供の頃味わえず、無意識にそれに飢えていた欲望と腕利きのハンターが欲しいという謎の彼女の要望とのギブ・アンド・テイク――。

 

 

 狩りは遊びじゃない。普通の狩人なら、こういう取引は断るのが筋なのだろう。

 

 

 でも、アルメリアは断れなかった。

 

 

 欲望に忠実になった――というのもあるが。

 

 

「ふふ、なぁに? まだ欲しいなら、私に相応の実力を見せてね」

 

 

 妖美に微笑む少女――彼女が、何か()()()()()()気がしてならなかったからだ。

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