白いドレスの少女に好かれました   作:聖成 家康

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劫炎に駆られるリオレウス希少種①

 

 

 

 スノウ達との合流は諦め、一度ユクモ村に帰還したアルメリア。

 アーキは、そんな彼女からずっと離れなかった。腕をがっちり掴んでくる彼女の温もりだけが、アルメリアの脳を休ませる唯一無二のものだった。

 

 

 村に帰ると、憔悴した様子の自分を、村人たちがお化けでも見るような目で出迎えた。

 

 

「アルメリアちゃん……無事だったの?!」

「……はい」

 

 

 村人の異様な心配から、アルメリアはなんとなく状況を察する。

 スノウ達はきっと、無事に帰還したんだろう。四人で出発したのに、三人で帰ってきた。だから、自分を死んだと思っていた村人たちはこんなにも驚愕しているのだ。

 

 

 少し、安心した。

 スノウも他の皆も悪者ではない、とてもいい人たちだったから。

 

 

 ――愛せないが。

 

 

「お嬢ちゃんが助けてあげたのかい?」

「えぇ。危なかったよね、アルメリア」

 

 

 いつの間にか村人と馴染んでるアーキは、可愛らしい笑みを浮かべながらこちらを向いてくる。

 

 その赤い瞳には、やや冷ややかな印象を覚えた。

 

 

 この子は一体、何者なんだろう。

 

 

 アルメリアはそんな考えが一瞬頭をよぎるが、すぐに振り払う。

 この子を邪険に扱うのは間違っている。こんなにも愛してくれているこの子の思いを、二度と無下になんてしたくない。

 

 

 さす、と彼女の頬を擦る。

 綺麗な髪の束が手の甲をくすぐって、とっても愛おしい気持ちにさせてくる。

 

 

 アーキはそうされると、目と口を三日月のようにして嬉しそうに笑っていた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

――

 

高難度:唸る焔は凪をも滅す

 

 

依頼主:白いドレスの少女

 

 

 

私ね 古いお友達を亡くしたの

 

つい最近 もう忘れてあげたいの

 

でも あの焔はそれを嫌でも思い出させる

 

アルメリア 私のお願い、叶えてくれるわよね

 

 

 

――

 

 

 

 彼方の地に広がる霊峰。

 そこからどれくらい荷車を引いてもらっているのだろうか。

 

 ぐらん、ぐらんと揺れるガーグァが引いてくれる荷車の中で、アルメリアはひたすら考え込む。

 

 アーキは鼻歌交じりに、幾度も揺らぐ外の景色を眺めていた。

 

 

 その横顔は、竜人族でありながらも、人間と何ら変わりない、非常に可愛らしくて愛おしいもの。

 

 

「アルメリア、依頼書読んでくれた?」

 

 

 見惚れていた彼女は不意に話しかけられ変な声を漏らした。

 それをくすくす笑われながら、アルメリアは質問に答えた。

 

 

「……見たよ」

「これはね、今までとはちょっと違う……力を見せてほしい、じゃなくてその力を見込んでお願いしたいこと。でも、()()()はあるからね」

 

 

 アーキはこちらの心を見透かすように微笑んだ。

 でも今回ばかりは、彼女の負けだ。

 

 今のアルメリアはご褒美第一に行動していない。

 

 亡くした古い友達――その記憶に苦しまされる彼女を解放するために、自分は戦うのだ。

 ようやく、ハンターらしい狩りへの赴き方になることができた――いや、これまで自分は、唯一誇りに思っていたハンターという職業でさえも、()()()()()()()()()()としか思っていなかった気がする。

 

 アーキも心の何処かでは、()()()()()()()()()()()と思っていた。

 

 でも今は違う。

 人としても、ハンターとしても、自分は昇華することができた。

 

 この子には感謝してもしきれない…とアルメリアは彼女を見ながら、内なる感情を綻ばせるのだった。

 

 

 アーキは吹き出して、笑いを堪え切れなくなると大声で笑い出す。

 

 

「な、なに?」

「ふふふふふ……ははははは……いや、アルメリア、じぃっと見つめてきて可愛いなって」

 

 

 理由を述べた後も、アーキは笑いを抑えきれていなかった。

 

 大切な人をこんなに笑わせることができて、自分はどれほど幸せなのだろう、とアルメリアは楽観的に考えた。

 

 

 誰だって人の脳を覗くことはできない。

 

 人ならざるものだって例外ではない。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 荷車から降り、雑木林に入った。

 

 だが――そこは雑木林というには、木々が焼け爛れたように荒れており、至る所から煤の香りが漂うような、痛々しい傷跡の残った場所であった。

 

 触れるだけで木々の表皮が剥がれる。

 

 歩く度に足元に生えていた草花が、黒い粉末になって散ってゆく。

 

 空は、雑木林の奥へ進むにつれてその灰色具合を増してゆく。

 

 

 ――劫火に駆られるリオレウス希少種。

 

 銀火竜自体、アルメリアは幾度か狩る機会があった。

 通常の火竜とは比べ物にならない火炎の使い手であり、焔を体内に溜め込み、ブレスの威力を増すという戦法さえ取ってくるようなモンスターだ。

 

 

 アーキはドレスの裾を上げて、布を汚さないように歩いていた。

 

 ――正直、ここまで着いてきてほしくなかった。

 

 多分、今回のターゲットは今まで以上に危険な存在だろう。

 

 

 暫くすると、朽ち果てた木々の隙間から人工物らしき影が伺えるようになってきた。

 

 彼女はそれを見ると、足元の草花に配慮する気も忘れ、一心不乱に走り出す。

 

 白いドレスの少女は、それを見てまた笑いを堪えるのに必死になっていた。

 

 

 

 小さい頃。本当に小さい頃だ。

 

 きょうだいの世話で忙しかった母親を横目に、アルメリアはよく近所の子供とかけっこをしていたのを覚えている。

 

 がむしゃらに走り回る中の景色も、よく覚えている。

 

 

 まばらに連なる家々。その集落には結構な人がいた。

 集落のシンボルである水車。住民が総勢になって作ったらしい。

 かくれんぼには絶好のスポットだった観測塔。結局役に立つことはなかった。

 

 

 

 その全てが、この荒れ果てた集落の景色と一致する。

 

 呼吸が荒くなるのを抑えられなかった。

 

 

 この集落に愛着はない。

 自分の相手をしてくれなかった母親にも、母から自分を引き離したきょうだいたちにも。

 

 

 でも、どうしてこんなにも――。

 

 

 焦燥感に駆られていたアルメリアの頬を、あり得ないほどの熱気が襲う。

 それだけで皮膚が焼け爛れるような感覚を覚え、即座に現実に引き戻された彼女は二、三歩後退りする。

 

 

 スイッチを入れた彼女は、背中に負った武器――チャージアックスを構えた。

 獄炎斧アムガリオン。火竜の体言かのような盾と、燃え盛る溶岩が、その滾りを保ったまま硬質化したような剣。

 

 

 凄まじい風圧の後、鼠色の空に()()が降臨する。

 

 

 

 穢れなき(しろがね)

 翼膜に傷跡が刻まれた巨翼、至る所が欠けている鱗、そして一際目立つ頭部の傷はその左眼を使い物にならなくしていた。

 

 口から漏らす蒼炎は、奴の力の証明。

 

 

 リオレウス希少種――の特殊個体。

 劫炎に駆られるリオレウス希少種。

 

 

 けたたましい、野獣の咆哮が空を轟かせれば奴はアルメリアを獲物と認識。

 急降下し、身体を投げ出したアルメリアのすぐ脇を通り抜けていき着地する。

 

 

 翼を広げ威嚇する奴に、怖気づくことなく武器を構えた。

 

 

 赤き竜鱗が使われた、彼女が持つ武器を――自らを傷つけ、追い詰めてきたハンターという存在が持つそれを見て、奴が何を思ったのかは定かではない。

 

 アルメリアの心中には、吐き気を催すほどにあらゆる感情が渦巻いていた。

 

 

「私はお前を……狩る!!」

 

 

 唸るリオレウス希少種は、唐突に口内を灼熱させ、轟炎の塊を吐き出した。

 斜め前へ前転し、その勢いに身を預け彼女は駆け出す。

 

 背を灼けるような空気が後押しし、それすらも刃に乗せ、奴の甲殻を引き裂いた。

 

 

 チャージアックス――盾と剣、そして斧。二つの要素を併せ持つ極めて複雑な武器。

 近接武器全般を好む彼女のようなハンターでなければ、なかなか扱おうと思う者はいない。

 

 

 二発、三発斬り刻んだところでアムガリオンの刃が黄色く発光。

 彼女はそれを見据え、素早く盾と剣を合体させ、ビンへそのエネルギーをチャージした。

 

 盾から剣を引き抜くと同時に切り払い、血飛沫を浴びることなく奴を斬る。

 

 途端に噛みつきを繰り出してきた奴の攻撃を盾で防ぎ、反撃に袈裟斬りをお見舞いする。

 

 また黄色く発光した刃を縦に収め、そのエネルギーをビンへ集めた。

 

 

 次なる一手を撃とうとした途端、奴の動きに変化が見えた。

 

 凄まじい風圧を伴う飛翔に、アルメリアは一時攻撃の手を止める。

 

 飛び上がったリオレウス希少種に見下されながら、アルメリアは警戒する。

 

 

(なぜ頭上に来る……? まさか……)

 

 

 銀火竜に動きが見えたのを境に、アルメリアは血の気が引く感覚を覚え、すかさずその場から退散した。

 

 

 大地を灼き払う、青みを含んだ灼熱の炎。

 瞬く間に、かろうじて形を保っていた集落の跡地に火がついた。

 

 その場は一瞬のうちに火の海と化し、()()()()()()()()()

 

 

 アルメリアは腹を括り、奴の眼を見た。

 

 

 殺してやる。

 

 

 そんな意志がひしひし伝わってくる、野性味に満ちた恐ろしい眼だった。

 

 

 

 

「……忌々しい焔」

 

 

 天まで黒煙昇らせる、その焔を木の上から眺めながら、アーキはぽつりと呟いた。

 

 

「アルメリア、よぉく見えるよ。今日の貴女はいつにも増してカッコいいわ」

 

 

 アーキは愛する人形へ労いの言葉をかけた。

 

 本当にかっこよくて、可愛くて、彼女からすれば理想の遊び道具だった。

 自分だけの物にしたい、()()はおろか他の人間にすら渡したくない。

 

 それを実現するためにも、アルメリアにはこの依頼を達成してもらわなければならなかった。

 

 正真正銘最後の見定め――その意図もこの依頼にはある。

 でも一番は、彼女を縛り付ける物を()()()()()()()()()()()()()()

 

 それが成功すれば……アーキはたまらなくなり、思わず身を震わせた。

 

 

「こんな所で死なないでね、アルメリア」

 

 

 アーキの顔から笑顔が消える。

 今回ばかりは、彼女とて緊迫せずにはいられない。

 

 

 

 

 リオレウス希少種の尻尾が、目前にまで迫る。

 

 攻撃――すると見せかけて、彼女は盾でその攻撃を受け止める。

 凄まじい衝撃になると思われたが、アルメリアは勇ましさを保持したまま、盾と剣を連結。巨大な斧へと変形させて、秘めたエネルギーを奴の頭部に解放した。

 

 ぶつけられたエネルギーは、刹那の時を経て爆破。

 それを頭部に当てられて、怯まない竜はいない。

 

 

 獄炎斧アムガリオンの盾が、赤々と光り輝いている。

 ビンのエネルギーを盾に纏わせた、属性強化状態。

 

 この状態になると、盾にはあらゆる攻撃をも防ぐことのできる”角度”――ガードポイントが発生する。

 それは攻撃の最中、ごく僅かな瞬間しか存在し得ないシビアなもの。

 

 アルメリアはそれを用い、いとも容易く反撃をしてみせた。

 

 

 斧モードから、素早く剣モードへ移行。

 その背中にも切り払うことで攻撃することは怠らない。

 

 奴の血飛沫が蒸発した瞬間――銀火竜の様子が一変する。

 

 

 天に向かって轟く咆哮。

 押し出された風圧に、肌が爛れるかのような熱気が混じる。

 

 口内から漏れ出す青白い焔と、赤熱する喉。

 

 ”劫炎状態”と呼ばれる、一昔前の銀火竜には見られなかったが、今となっては常識となった銀火竜の形態。炎の威力が増し、行動パターンが僅かに変わる。

 

 

(普通の希少種と変わりない……何か、何かが違う……?)

 

 

 アルメリアがそんな疑問を抱く間もなく、銀火竜は飛び立って、獲物を焼き払わんと火球を吐き出す。

 

 大地で爆ぜる火球は彼女を穿つことなく、アルメリアは全力で疾走し、奴の動きを探った。

 

 

「墜ちろっ!!!!」

 

 

 ぴん、と歯で栓を引き抜き、彼女は閃光玉を放り投げた。

 束の間、目を覆わざるを得ないほどの光が辺り一帯を覆い尽くし、晴れる頃には銀火竜が地に叩き落されていた。

 

 

 無防備になった奴の頭部。

 

 盾と剣を合体させると同時に、白煙が噴き出すほどの高出力エネルギーの解放準備を整える。

 

 変形させながら、思い切りアムガリオンを振りかぶって、斧刃とそこに纏われた高出力のエネルギーを一気に奴へぶつけた。

 

 頭部に命中し、あり得ない量の血飛沫が辺りへ飛散する。

 銀火竜は唐突に起き上がり、不意打ちを仕掛けてくるも、アルメリアは素早い変形をし盾で防ぐ。

 

 しかしガードポイントには届かず、大きく退くのを強いられる。

 

 その隙を突いたのか、それとも怒りで我を忘れているのか検討もつかないが、至近距離から火球を放った。

 

 爆炎が爆ぜ、黒煙が立ちこめる。

 

 

 リオレウス希少種は獲物を見失い、隻眼を凝らす。

 

 立ち込めた黒煙を貫き、高エネルギーを纏った斧が奴の首筋をぶった斬った。

 斬撃の後にエネルギーが炸裂し、リオレウス希少種は血を吹き出しながら大きく仰け反る。

 

 

 煙の中から現れるアルメリア。

 盾と剣を構え、まだ見ぬ攻撃に備える。

 

 ここまで攻撃すれば、追い詰められ、奴もそろそろ秘めた手を出さずにはいられないだろう。

 だが、それは裏を返せば()()()()()()()()()()()()()()()()ということ。

 

 

 奴は特殊個体。

 わざわざ通常個体と区別するのには、相応の理由が存在する。

 

 ただ単に、全身に傷を負ってまで生き残った歴戦のモンスター――という訳ではない筈だ。

 

 

 リオレウス希少種はまた飛翔する。

 

 

 すかさず閃光玉の用意をしたが、どうにも様子が怪しい。

 

 

 高度をどんどん上げていく。

 かといって逃亡する気かと言えば、そうではない。

 

 高みの見物をするかのように、銀火竜は空高くに舞い上がった。

 それを追随する火炎の軌跡が、綺羅星のようにぎらぎらと輝いてから消えていく。

 

 

 何をする気か――それは、すぐに分かった。

 

 

 奴の口から溢れ出す火炎。

 その全てが、臨界点に達していることを示す青白い色を帯びていた。

 

 

 奴の行動理由を理解したアルメリアは、周囲の高熱にも関わらず、背筋が凍りつく。

 

 

 刹那の静寂。

 立ちこめる炎、煙、空で滑空する銀火竜。

 

 そのすべてが、走馬灯のように感じられた。

 

 

 

 直後――リオレウス希少種は溢れんばかりの炎を天空から降り注がせる。

 

 

 それはまさに、世界を焼き尽くす焔と言っても過言ではなかった。

 

 

 

 

 

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