白いドレスの少女に好かれました   作:聖成 家康

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劫炎に駆られるリオレウス希少種②

 

 

 降り注ぐ火炎が大地の全てを灼き焦がす。

 

 青白き微睡みのような景色と化した視界に、アーキは微かな嫌悪感を示していた。

 

 

「本当に……目障り」

 

 

 彼女はその赤き網膜に、かつての古い、古い記憶を蘇らせていた。

 

 

「……私はあなたのように、空虚な伝説では終わらないから。退屈しのぎに無謀な真似をするようなお馬鹿さんとは違うの」

 

 

 アーキはガラス細工のような表情を、珍しく歪めていた。

 彼女にとっては屈辱的だったが、衝撃的で、すべてが終わった時は喪失感に襲われるような出来事だったのだ。

 

 

 導きの蒼い星、そう呼ばれた狩人に一頭のモンスターが敗れた。

 

 その伝説とも言える快挙は、外部への公開が一切秘匿されて、誰の目にも触れることのない――否、触れてはならない()()()()()()

 

 だってそうだ。自分たちは()()

 並の人間は、名を呼ぶことすら許されないような圧倒的な存在なのだから。

 

 

 

 

 肺が灼けそうになる熱気が辺りに立ち込めた。

 喉はヒリヒリと痛み、露出した頬は所々が焼け爛れていた。

 

 だが、あれだけの攻撃をアルメリアは殆ど無傷で生き延びた。

 集落の残骸には幾らか石造の建物の跡も残されている。あれほどの火力を前にすれば一瞬のうちに焼け溶けてしまうが、彼女から劫炎を退けるには申し分ない。

 

 地上に舞い戻ってきたリオレウス希少種の姿を見て、アルメリアは喉が灼けるのも構わず息を呑む。

 

 

 その様は、まさしく邪神。

 体内から溢れ出す灼熱は、喉のみならず全身を激しく赤熱させ、メラメラと焔が燃えている眼に至ってはもはや視力を保てているのか怪しい。

 

 

 炎を纏いしその竜は荒れ狂う。さながら、激昂した金獅子や怒り喰らう恐暴竜を彷彿とさせるような様だった。

 

 これからの攻撃が、一瞬の油断も許されないような苛烈な物へ変わるのは、容易に分かることであった。

 

 

 三連続の火球を放ちながら飛翔するリオレウス希少種。

 火球回避直後のアルメリアに、悍ましいほどに発達した爪を突き立ててくる。

 

 先端を頬に掠め、血が噴き出て蒸発。

 

 血管へ入り込んだ毒液の蝕みに悶え、歯を食いしばってアムガリオンを変形。

 斧刃となった紅の盾へエネルギーを乗せて、その膨大な力と共に叩き斬った。

 

 爆ぜるエネルギー。

 されど、銀火竜は怯むこともしなかった。

 

 気が狂っている――そう揶揄するのが正しいが如く、リオレウス希少種の猛攻は留まることを知らない。

 

 

「よくも……私の故郷をっ!!!!」

 

 

 不意に出たその言葉を、アルメリアは呑み込みたくなった。

 

 ――似ているだけかもしれないじゃないか。

 

 遠い日の情景と重なっただけ。たまたま場所が近いだけ。

 

 

 でも……誤魔化しようがない。

 

 

 次々に溢れ出てくる子供の頃の記憶は、間違いなくこの集落跡地と合致して、焦燥感と懐古感で頭の中を掻き乱してくる。

 

 

 その気持ちを斬り裂くように、アムガリオンを振るう。

 盾から剣を引き抜き、奴の甲殻を滅多刺しにしてから、盾を用いて噛みつき攻撃をガードポイントに命中させ、そこから属性解放斬りを顔面に叩き込む。

 

 弾け飛ぶ奴の甲殻と血飛沫を浴びながら直進し、その喉仏を斧で深々と斬り上げて、大量の血を吹き出させて、蒸発させた。

 

 

「こんのぉぉぉぉっ!!」

 

 

 普段冷静沈着に狩りをする彼女は、声を荒々しく吐き出しながら剣を振るっていた。

 その声音に含まれるのは、果てしない憎悪ただ一つ。

 

 よくも故郷を、よくも家族を。

 

 そんな怨みを剣に乗せ、リオレウス希少種の甲殻を斬りつける。

 

 銀火竜は首をぶん、と振るいながら、前方を薙ぎ払うように火炎放射を放つ。

 

 耐火性能に優れたアムガリオンの盾で焔を防いでから、斧を頭部に叩き込む。

 奴は負けじと飛び上がり、直下を焼き払わんとまたしても火炎放射を放った。

 

 しかし、奴の目論見は激しい閃光によって防がれ、待ち構えていた怒り狂う狩人の高出力属性解放斬りを顔面に貰って、エネルギー解放の反動で翼までも破壊される。

 

 

 視力を取り戻したリオレウス希少種は、大量の血を体中から垂らしながらも、ここまで自分を追い詰めた狩人を殺さずには死ねない、と言わんばかりに空高く舞い上がる。

 

 

「あの攻撃っ……!!」

 

 

 大地の全てを焼き払わんとするあの焔は、アムガリオンの盾だけでは防ぎ切れない。

 

 奴が焔を溜め込むのを横目に、アルメリアはまだ辛うじて残存している建物の残骸の陰へ飛び込み、保険としてアムガリオンの盾を構えた。

 

 

 青白き焔が、夕暮れの空を紅に染め上げながら大地へと到達。

 草木が、土が、あらゆる物が焼き払われていく最中、アルメリアが身を隠す瓦礫はみるみるうちに融解していく。

 

 

 焔が消え去ると、形も残らなかった瓦礫を踏みしめながら、降りてくる獲物に攻撃を叩き込む。

 

 集落跡地は、最早存在しなくなった。

 

 次あの攻撃をされたら防ぐ術はもうないかもしれない。

 

 だったら、ここで倒すしかない。

 

 

 盾と剣を連結させ、回転する刃にビンのエネルギーを纏わせながら、それを奴の頭部にぶつける。

 噛みつき攻撃をスレスレで回避し、喉仏へ変形からの回転斬りを叩き入れる。

 

 弱々しいうめき声を漏らすリオレウス希少種。その瞳には、出会った直後のような野性はもう見られなかった。

 

 

 咆哮するリオレウス希少種の肉体から、さらなる焔が溢れ出す。

 その命は今にも燃え尽きそうなのに、猛々しい揺らめきを見せていた。

 

 

 凄まじい豪火球を回避しながら、奴の頭部へ的確に高出力解放斬りを叩き込む。

 二連続の火炎放射を目視で避け、直下型の火炎放射を避け、空中からの奇襲を避け、その度にアルメリアは溜めこんだビンのエネルギーを解放し、奴にぶつけた。

 

 

 銀火竜は火炎の軌跡を描きながら飛翔した。

 

 

 閃光玉はもうない――が、奴の翼から鑑みるに、高所まで飛ぶ気力はもうないように見えた。

 

 

 空中から火球を何度も放ってくるが、アルメリアは目視でそれを回避。

 

 無駄だ、と思ったのかリオレウス希少種はアルメリアは目掛けて突撃してきた。

 

 

 アルメリアはそれを見切り、奴の爪をガードポイントへ命中させながら身体を捩る。

 

 

 リオレウス希少種が着地したらすかさず、剣と盾を合体。

 ありったけのエネルギーを斧へ溜め込みながら、それを一気に解放する。

 

 雄々しい雄叫びと共に繰り出された属性解放斬りは、リオレウス希少種の胴体を貫き、解放されたエネルギーの爆破は頭部に命中した。

 

 

 刹那の静寂の後、それを銀火竜の弱々しい咆哮が切り裂いたのを皮切りに、銀色の竜の死骸が焼け焦げた大地に転がる。

 

 

 アルメリアは獲物の沈黙を確認すると、膝から崩れ落ち、熱を帯びた大地に膝をつく。

 

 

「勝っ……た」

 

 

 彼女はそんな文言を吐露しながら、今にも倒れそうになった。

 

 

 故郷を焼いた、家族を殺したいわば仇とも言える相手をこの手で殺した。

 

 でも――。

 

 アルメリアは振り返る。

 

 自分は家族に、何か感謝をしているだろうか?

 

 父親は物心ついた頃からおらず、母親は多い弟や妹たちの世話ばかりで、自分には目もくれてくれなかった。

 ハンターとして旅立ってからは、多少お金を入れていた程度で、顔を合わそうという気にもなれない。

 

 そんな家族の仇を取った所で、何になるのだろう?

 気持ちは、晴れるのだろうか?

 

 

「アルメリア」

 

 

 愛しい人の声がして、アルメリアは顔を上げた。

 

 灰が飛び散る中、恐ろしいまでの白さを保っていたアーキは微笑ましい顔をこちらに向けてくれている。

 

 

「ありがとう。アルメリア」

 

 

 その小さな体躯で、彼女はアルメリアをぎゅっと抱きしめた。

 なんてことない力なのに、身体がへし折れそうになる思いを覚えた。

 

 

 彼女の息遣いが、温もりが、鼓動が一意に感じられて、アルメリアの中は幸せで一杯になる。

 

 

「アーキ……私……私……」

 

 

 アルメリアは泣きそうになりながら、彼女の耳元で言う。

 何も言わず、彼女は聞き入れてくれた。

 

 

「家族の仇を討ったのに……何も、何も感じない……家族のために戦ったのに、私、何も……何もあの人たちにしてもらってない……!」

 

 

 つい口走って、また叱られるかと思ったらアーキの白くて細い手が、アルメリアの頭を優しく撫でた。

 

 

「うん……つらいね。でも、あなたは私のために頑張ってくれた。あなたがこの子を倒したから、私は、忌まわしい記憶を忘れることができた。ありがとう、アルメリア」

 

 

 一層抱きしめる力が強くなって、アルメリアはその反動で泣き出した。

 清らかな雫が、焼け焦げた地面に確かなる染みを作り上げていく。

 

 子供のように泣き喚くアルメリアを、アーキが「大丈夫、大丈夫」と宥めてやっていた。その瞬間だけ、年齢が逆転しているように見えなくもない。

 

 

「本当にありがとう、アルメリア」

 

 

 アルメリアは見えなかったが、その時のアーキはこの上なく嬉しそうに、だけれどもまるで胸元に抱き寄せているアルメリアが無いものかのように、目を三日月のように細ませながら笑っていた。

 

 

「ごほうび、あげようね」

 

 

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