タイトル通り
連載小説の「ナイン・レコード」の世界線、こういう設定の方がよかったかなってだけの小話()

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ナインレコード、こういう展開でもよかったかなってお話

 

 

 

 

 

 

始まりは、小さな違和感だった。

 

「あれ……?」

 

大学に入ってすぐに借りた、アパートにしてはなかなかお洒落な部屋の一室。

一目ぼれした照明に照らされたリビングで、お気に入りのアイスを頬張っていたパタモンは、そんなパートナーの声を拾って振り返る。

寝起きでだらしない恰好をしたタケルが、寝ぼけ眼ながらも怪訝な表情を浮かべて、パタモンを見つめていた。

 

『どうしたの、タケリュ?』

 

もごもごとアイスを口に入れたままタケルに問えば、ぼーっとパタモンを見つめていたタケルは我に返り、苦笑しながら頬を掻いた。

 

「あはは、ごめん、ごめん。寝ぼけてたみたい。何でもないよ」

『そう?』

 

ならいいけど、とパタモンはアイスを再度食べ始める。

うまうま、とアイスを頬張って表情を蕩けさせるパタモンを、タケルは微笑ましく見守る。

 

先ほど過った疑問は、とっくにタケルの中から消えた。

 

 

 

テキストを見て、問題を解いていた賢は、ふと机の時計が視界に入る。

時刻は12時少し前。

今日は休日だからと、朝から勉強をしていたのだが、調子がよかったのか問題をサクサク解いていたら、気が付いた時には4時間以上ぶっ続けで机に向かっていたようだ。

どおりで妙に疲れたわけだ、と手を組んで、掌を天井に向けながらぐーっと腕と身体を伸ばす。

ずっと机に向かっていたせいで、身体中がバキバキになっていたらしく、筋肉が悲鳴を上げていた。

いてて、と苦笑しながら肩を押さえ、立ち上がる。

時間を認識した途端、身体が正直に空腹を訴えたので、何か食べようと部屋を出た。

何を食べようか、冷蔵庫に何が残ってたっけ。

休日だし、近くのレストランやカフェは混んでるかな……。

 

『あ、ケンちゃん!やっと出てきたね?お勉強お疲れ様!でも4時間も部屋から出てこなかったから、僕心配したよ?何度かノックしたけど、気づかなかった?』

「……ワーム、モン?」

 

テレビを見ていたらしいワームモンは、部屋の扉が開いた音を聞きつけて、見ていたテレビを消し、ソファからぴょこんと飛び降りた。

ニコニコしながらぴょこぴょこと賢に近寄ってきたワームモンを、賢は硬直しながら目を丸くして見下ろす。

 

『ケンちゃん?どうしたの?』

「……何してるの、ワームモン?」

『何って……?ケンちゃんがお勉強してるから、テレビ見てたんだけど……』

「……………あ、あー、うん。そっか。ごめんね、ほったらかしにしちゃって」

 

こてん、と首を傾げるワームモンに、賢は何かに気づいたように苦笑し、謝罪した。

そんな賢を、ワームモンは笑って許す。

 

『いいよ。ケンちゃんの将来のためだもん。でも僕お腹すいちゃった。何か食べよっ!』

「そうだね。せっかくだから、気分転換に何処か食べに行こうか」

『やったぁ!僕この前行ったカフェのパンケーキ、もう一回食べたいな!』

「それはおやつにしよう?僕はハンバーガー食べたくなっちゃったから、その後でカフェでいいかな?」

『いいよー!』

 

ちょっと待ってね、と寝室に戻る。

クローゼットを開け、外出用の服を取り出す。

今着ているのは室内用の、ちょっとよれている服なのだ。

流石にそれで外には行けないので、最近京からもらったシンプルな紺色のシャツに着替える。

ズボンも替えて、薄手のカーディガンを羽織って、玄関で待っていたワームモンを抱き上げ、マンションを出た。

 

 

 

 

 

 

おーい、と向こうの方から親友が手を振るのが見えたので、賢は手を振り返し、小走りで駆け寄る。

久しぶり、って声を掛け合い、賢が最後の1人だったので、目の前の居酒屋に入る。

今日は、2002年にデジタルワールドを冒険した仲間達と一緒に、月に1度の飲み会だ。

一足先に大人の階段を昇った太一達は、仕事が忙しくてなかなか集まれないらしいのだが、まだ大学生の大輔達は時間の許す限りこうして集まっては、飲み会を行っている。

食べて呑んで、夢を語り合って、次の日の予定がなければ次の店でまた飲む。

とは言っても、最年少の伊織はまだ酒が飲める歳ではないので、潰れるまで飲むということはない。

でも最後の1人が成人になったら、きっと太一達も集まって全員で吐くまで飲み明かすことになるんだろうなぁ、と賢は思っていた。

だって大輔達が成人した日も、太一達6人が突撃してきて、翌日二日酔いで半数がダウンするまで飲んだのだ。

伊織が成人した日には、丈や光子郎すら羽目を外すかもしれないことは、容易に予想が出来た。

 

「そろそろ帰るか」

 

3軒目の居酒屋で酒を楽しんでいた面々だったが、そろそろ京が限界らしいのを見て、大輔が言った。

伊織は10代後半でも未成年であり、本人の真面目さも手伝って1軒目が終わった時にはもう帰宅した。

時刻を見れば、深夜の1時はとっくに過ぎていたので、タケルとヒカリも大輔の意見に賛成する。

一緒に連れてきたパートナー達は、とっくに夢の中だった。

 

「ヒカリちゃん、よかったら送ろうか?」

「大輔くんの家、ここからだと私の家と反対でしょ?遠回りになっちゃうの申し訳ないから、大丈夫だよ。ありがとうね」

 

最後に全員で水を頼み、少しずつ補給して酒の成分を薄めながら、大輔はちょこーっと下心を見せた提案をするも、見事に玉砕。

がっくり項垂れる大輔に、しつこく言い寄らないだけ大輔は本当にいい男だ、と賢は苦笑しながら慰めてやった。

ちなみに京は顔を真っ赤にして、いびきをかいている。

これはどこかでタクシーを拾って送った方がいいな、とタケルが言うと、じゃあ私が送る、とヒカリが言った。

同性同士の方が安全だろう、と全員の意見が一致したので、ヒカリはスマホを取り出して、タクシーを呼ぶアプリを起動する。

会計を済ませ、いざ外へ出よう、と言ったところで、大輔がとある異変に気付いた。

 

「……タケル、賢。お前ら酔ってんのか?」

 

珍しいな、とすっかり夢の中にいるブイモンを背負い、更にへべれけになっている京を支えながら、大輔は怪訝な眼差しをタケルと賢に向ける。

へ?と目をパチパチさせたタケルと賢に、大輔は、やっぱ酔っぱらってんな、と半目になって指さした。

 

「パートナー。間違ってんじゃねぇか。何やってんだよ」

「………………」

「………………」

 

タケルと賢は、大輔が何を言っているのか分からなかった。

確かにしこたま飲んだが、これでもアルコールには強い方だし、合間合間に水も飲んだから、そこまで酔っていないはずだ。

2人とも肌が白いから、顔は赤くなるタイプだが、足元はしっかりしているし、思考だってちゃんとできている。

鞄も、財布も、出る前に確認はした。

それなのに、何を根拠に、と2人が腕の中で眠るパートナーを見下ろして……。

 

「……あ、れ?」

「あれぇ?」

 

2人して素っ頓狂な声を上げるもんだから、大輔はやっぱ酔ってんじゃねぇかって笑い飛ばしてきた。

タケルと賢が抱いているのは、たしかにそれぞれのパートナーだ。

互いの、と言う言葉が頭につくが。

 

「何やってんだろ、僕」

「ごめん、大輔の言う通り酔ってたみたい」

 

あはは、って笑って誤魔化し、賢はパタモンを、タケルはワームモンを互いに返す。

2体ともぐっすり眠っているようで、身じろぎはしたが起きることはなかった。

 

「ごめん、お待たせ~。トイレ混んでて……どうしたの?」

 

1人遅れて外に出てきたヒカリが、様子のおかしいタケルと賢を見てキョトンとなる。

いい話題ができた、とばかりに大輔はにやにやしながらヒカリに、先ほど起きたことを告げた。

ヒカリは、苦笑しながらタケルと賢を見やる。

 

「珍しいわね、2人にしては」

「ほんと、一瞬大輔が何言ってるのかと思ったよ……」

「どうかしてたのは、僕達だったね」

「お前らもタクシー呼んだ方がいいんじゃね?途中で倒れても、助けに行けねぇぞ」

「えー?大丈夫だよ?」

「今回は大輔くんの言う通りだと思いまーす」

「うーん、否定できない……タクシー呼ぼうかな……」

 

後日、酒でほぼ意識がなかった京は、酔っぱらった賢くん見たかった!と悔しそうに机を叩いたし、1軒目で離脱した伊織は、僕が成人するまでしないでくださいよ、そんな面白そうな失敗、と目をキラキラさせていた。

 

 

 

 

ピピピピ、ピピピピ

 

目覚まし時計のアラームが鳴る。

暗闇の中に沈んでいた意識が急速に引き上げられたタケルは、頭まで被っていた掛布団からにゅっと手を出し、ベッドラックに置いてある目覚ましを探して、左右に動かす。

数秒ほど目覚まし時計を探して、やっと見つけてアラームを止める。

うーあーと言葉にもならない呻き声をあげながら、布団の中で何度も寝返りを打つ。

今日は3限目からだから時間に余裕はあるが、1度寝るとなかなか起きられないタケルは、早めにアラームをかけておかないといけないのだ。

共に寝ているパートナーも同じで、時々一緒になって寝坊して、互いに責任を押し付け合いながら、朝からバタバタするのもしょっちゅうだった。

 

「ん~……起きるかぁ……」

 

アラームが鳴ってから、10分経とうとしている。

身体は眠いと訴えているのに、一度意識が浮上してしまうと、再度沈めることは難しい。

況してや窓から差し込む朝日が部屋の中を照らしているのなら、タケルの意識が誘われるのは仕方がなかった。

うつ伏せになり、枕に顔を埋める。

ゆっくりと脚を前に移動させ、正座をするような体勢になる。

んー、とまた言葉にならない呻き声をあげ、息苦しくなってきたところで、がばっと顔を上げた。

よし、起きるか、と気合を入れ、上半身を起こす。

パートナーのことも起こそうと思って、布団をはぎ取ったが、パートナーは既に起きていた。

タケルがもぞもぞしているのが布団越しに伝わって、目が覚めたらしい。

眠い目をこすりながら、おはよー、と声をかけてきたパートナーに返事をしようとして……。

 

「………………」

『………………』

 

一瞬の沈黙が、寝室を通り過ぎた。

穴が開くほどに、互いを見つめ合うタケルとパタモン。

その目は、まるで“何で君がここにいるの?”とでも言っているような眼差しであった。

 

ピピピピ、ピピピピ

 

時計のアラームが再度なった。

ビックーン!とタケルとパタモンの身体が跳ねる。

寝坊助のタケルのために、母が後ろにあるスイッチをオフにしない限り、10分毎にアラームが鳴る時計を買ってきてくれたのだ。

慌ててボタンを押して止め、更に後ろのスイッチをオフにして、タケルはパタモンの方を向き直った。

 

「おはよー、パタモン」

『おはよ、タケリュ』

 

何事もなかったかのように、2人は挨拶を交わした。

タケルはパタモンを抱き上げ、リビングの方へと向かう。

今日の朝ご飯はどうしようかーなんて他愛のない会話をしながら……タケルの心臓は激しく鼓動を打っていた。

 

──さっきのは、何だったの……?

 

漠然とした不安が、タケルの脳裏を過った。

 

 

 

 

 

ふあ、と賢は大きな欠伸をした。

今日は長期連休の、丁度真ん中の日だ。

勉強も一区切りついたので、連休に入ってから久しぶりに実家のある田町へと帰った。

大学に入ってから勉強やデジモン関連の事件で忙しくしていた息子が帰ってきたことを喜んでくれた両親が、自分とパートナーのために沢山の好物を作ってくれたのは、苦笑した。

賢の使っていた部屋は、母親がいつでも帰ってこられるように、と気を利かせて2日に1度の頻度で掃除をしてくれているようで、実家に住んでいた時と空気が変わっていなかった。

お陰でパートナーと一緒にぐっすりと眠ることが出来た。

連休とはいえ、規則正しい生活を心掛けている賢は、アラームが鳴る前に目を覚ます。

一息つき、隣を見やるとパートナーがいなかった。

もしかしたら、お腹が空いて一足先に起きたのかもしれない、と思い、ロフト型のベッドを降りる。

昨日のうちに用意しておいた服に着替え、パジャマを畳んでベッドに置いた。

部屋を出る。

リビングに向かえば、母が賢のために朝食を用意していてくれていた。

 

「おはよう、賢ちゃん」

「おはよう、母さん」

 

変わらない母の優しい声。

中学校に上がってから、大輔に指摘されて矯正した母の呼び方は、最初こそ驚かれたが、賢ちゃんも大きくなったんだものね、って成長を喜んでくれた。

微笑み合い、朝食を取るために席に着こうとして……はた、と気づく。

 

()()()()?」

 

賢の席に目玉焼きを置いた母に、賢は尋ねた

何でもないように、当たり前のように、聞いてきたものだから、母は一瞬何を言っているのか分からなかった。

テレビを見ていた父も、妻と子の会話を聞いて、目をぱちくりさせた。

 

「……賢ちゃん?」

「え?」

「どうしたんだ、賢?何かあったのか?」

 

母は今にも泣きそうな顔をしながら、キョトンとしている賢の頬に自身の手を添える。

父も、変なことを言い出した息子を心配して、見ていたテレビを放って駆け寄ってきた。

頭上に沢山の『?』を浮かべながら、心配そうな顔を向けてくる両親を見つめて……自分の失言に気づいて、慌てて口元を押さえる賢。

何を言っているんだ。兄は、治兄さんはもう15年近く前に亡くなったではないか。

自分の目の前で、飲酒運転をしていた車に跳ねられて。

あの日から、一乗寺家はまるで火が消えたような静けさに包まれたではないか。

なのに、それなのに……。

 

「賢ちゃん?」

「賢?」

「……ご、めんね、ママ、パパ。あの……夢の中に、治兄さんが出てきた気がして……つい……」

 

これ以上両親を傷つけたくなかった賢は、咄嗟に嘘を吐いた。

あまりにも唐突だったので、せっかく矯正した呼び方が小学生の時に戻ってしまったほどだ。

しどろもどろな口調だったが、両親を安心させるには十分だったようで、2人ともほっと胸を撫でおろす。

 

「……そう、治ちゃんが」

「そうか。治がいるって勘違いするぐらい、きっとリアルな夢だったんだろうな」

「もしかして、賢ちゃんが頑張りすぎているのを心配して、賢ちゃんの夢の中に出てきちゃったのかしら?ふふ、いいわねぇ。ママも見たかったわ」

 

狼狽えている賢を宥めるように両親は、今は亡き兄についての話に花を咲かせる。

咄嗟に吐いた嘘だったが、思いのほか両親が悲観的にならなかったことに、賢は安堵した。

 

ちなみにワームモンは、早く起きすぎてソファーで寝こけてしまい、賢の異変に気づけず泣きながら賢に謝罪した。

 

 

 

 

 

 

異変は水に垂れたインクのように薄く、しかし確実に広がっていく。

 

 

ヤマトは、イライラとした様子で壁にもたれかかっていた。

腕を組み、目を伏せ、黙って壁に寄りかかっている様は、通り過ぎる女の子達が思わず目を奪われるほどに、様になっていたが、空という恋人がいるヤマトにとって女の子からの視線など、鬱陶しいだけだった。

苛立たし気にジャケットのポケットに手を突っ込み、スマホを取る。

約束の時間を30分も過ぎていた。

 

「アイツ……!」

 

いい加減にしろよ、と思いながらもスマホを操作して、アドレス帳から目的の人物を選択し、電話番号をタップする。

スマホを耳に当て、コール音を聞きながら待っていた。

今日、ヤマトは太一と待ち合わせをしていた。

遊びにでかける、ためではない。

デジモンに関係することで、だ。

今や世界は、デジモンとの共存の道へと舵を切り始めている。

特にデジタル関連の会社は、何処もデジモンという存在に興味津々で、自分達の会社で利用できないだろうか、と考えているようだ。

デジモン達と苦楽を共にして、長年の付き合いや知識があるヤマト達は、積極的にデジモンに関する出来事に関わってきたためか、そういった企業の方々に認知されており、たびたび相談されるのである。

今日も、とある通信会社がデジモンに関する話を聞きたいと光子郎にコンタクトを取り、会社業で忙しい後輩に代わって太一とヤマトがその会社に赴くことになっていたのだが……太一が待ち合わせ場所に、なかなか来ない。

親友の遅刻癖は分かり切っていたので、1時間早い時刻を教えていたのだが、まさかその時間にまで遅刻するなんて……!

 

「……あっ」

 

なかなかコール音が途切れず、イライラを更に募らせていた時である。

何気なく顔を上げた時に、特徴的なカニ頭が、ヤマトの視界に入った。

後ろ姿ではあるが、間違いない。

ちらりとスマホを持っているのが見えたので、スマホ持ってるなら電話出ろ、と思いながら電話を切るのを忘れて、ずかずかと太一の下へ大股で歩み寄り、太一を呼ぶ。

 

「太一!」

「……………」

「おい、太一!」

 

しかし太一は、何故かヤマトの声に反応せず、スマホを見つめている。

苛立ちが最高潮に達したヤマトは、がし、と強めに太一の肩を掴んだ。

 

「うわっ!?なん、」

「テメェ……俺の電話も呼びかけも無視するとは、いい度胸じゃねぇか……!」

 

半目で太一を睨み、口元を引きつらせ、今にも殴り掛かりそうなオーラを背負うヤマト。

いつもならそんなヤマトを見ると、瞬間的に土下座をして謝罪をしてくるのだが……今日の太一は違った。

ヤマトを見つめる目が、いつもと違う。

“何でこいつがここにいるんだ?”とでも言いたげな眼差しだったので、ヤマトは爆発寸前だった怒りが少しだけ治まった。

 

「……太一?どうした?」

「……………………あ、いや、ごめん、何でもねぇ。ってか悪ぃ!寝坊した!」

 

じ、とヤマトを見つめた後、我に返ったように肩を震わせ、誤魔化すように普段の豪快な笑い声をあげながら、そんなことを言ったので、治まりつつあったヤマトの怒りに再度火が点いた。

 

「お~ま~え~はぁあ~!!んなこったろうと思ったぜ!歯ぁ食いしばれ!殴る!」

「ちょっ、ばっ、止めろ莫迦!今からクライアントに会うのに、顔腫らして行けるわけねぇだろっ!」

「問答無用っ!!」

「ぎゃああああああああっ!!」

 

 

 

 

 

アメリカと日本を行ったり来たりしながら、光子郎同様自分の会社を持っているミミは、1年ぶりに日本の地に降り立った。

仲間達には昨日の内に、日本に来ることは伝えている。

すると大輔から、集まれる人は集まりましょー!と言う提案があったので、時間に余裕がある仲間達は光子郎の会社に集まることになった。

何で僕の会社なんですか、と言い出しっぺの太一に、光子郎がメッセージで抗議したら、大勢が集まれて、迷惑かけない場所っつったらお前の会社しかねぇもん、と一歩間違ったら暴君と取られかねない発言により、会場は光子郎の会社に強制決定となった。

日本にあるミミの会社に寄り、社員達と軽く会議をして、時間を見計らって会社を出る。

近くにあるケーキ屋で、今日集まるメンバー分のケーキを買い、タクシーを呼んで光子郎の会社へと向かう。

その途中でも、ミミのスマホにはひっきりなしに仕事に関連するメールやメッセージが届くから、その全てに目を通し、急ぎの返事が必要なものだけ返信した。

買ったケーキはパルモンに持ってもらい、返事をしている間に光子郎の会社に到着する。

代金を払い、タクシーから降りて、会社のエントランスにいる受付の人に要件を言えば、どうぞと笑顔で通された。

何だかんだ言いながら、ちゃんと仲間達を迎える準備をしておいてくれたようだ。

幼い頃から上手い、と言われていた歌を小声で歌いながら、一部の職員しか通ることを許されない通路を歩いていると、少し前を歩く仲間の後ろ姿を捉えた。

特徴的ないがぐり頭と、青い小さな竜の子ども。

2代目のリーダー、本宮大輔とそのパートナーであるブイモンだ。

声をかけようとして、ミミはふと思い立つ。

小さくくふふ、と笑うと、ケーキを持っているパルモンにしー、と静かにするように、口元に人差し指を当て、歩いている大輔にそうっと忍び寄った。

大輔とブイモンは何か持っているのか、歩みが遅い。

だからミミとパルモンが気配を消して、忍び足で近寄っても十分間に合った。

 

「どーん!」

『ばあっ!』

「どわっ!?」

 

ぽん、とミミは大輔の両肩に、パルモンはブイモンの背中に手を当てる。

大輔は思った通りの反応をしてくれた。

が、その後大惨事が起こる。

 

『っ!?』

 

よほど驚いたのか、ブイモンは大袈裟に身体を跳ねさせただけでなく、手に持っていたらしい飲み物が入った紙コップを乗せたお盆をひっくり返し、更に驚かしてきたパルモンを突き飛ばしてしまったのである。

ガシャーン、と誰もいない廊下にひっくり返ったお盆が落ちて、紙コップに入った飲み物がぶちまけられてしまった。

 

「うっわ、何やってんだよブイモン!」

「きゃー!大変!」

 

大輔は慌てて給湯室へと走る。

ミミはブイモンとパルモンに飲み物がかかっていないかと、2人の身体を確認した。

パルモンにはかかっていないようで、ミミはよかった、と息を吐く。

突き飛ばされた衝撃で、買ったケーキが多少崩れてしまったようだが、味に問題はないだろう。

ブイモンは、とそちらを見て……ミミは硬直した。

 

『っ……!……っ、は……っ!』

 

小刻みに震える全身をぎゅうっと抱きしめながら床に目を落としている、ブイモンがいた。

2本の角はピーンと立っており、見開いた目は揺れている。

詰まった息を懸命に吐き出そうとして、過呼吸のような息遣いに、ミミは慌ててブイモンの背中を摩ろうとしたのだが、ミミが伸ばした手を見て、ブイモンは何故かさらに身体を震わせ、後ずさってしまった。

 

「……ブイモン?」

『ど、どうしたの……?』

『……………ぅ、え?あ、あれ……?』

 

普段のブイモンとはかけ離れた様子に、ミミもパルモンも流石に様子がおかしいと気づく。

恐る恐る、と言った様子で問いかければ、我に返ったブイモンは震えも止まり、呼吸も正常なものとなった。

自分自身を抱きしめていた腕をそっと外し、掌を見つめる。

 

「おーい、雑巾あった……どうしたんだ?」

 

給湯室にある雑巾を持ってきた大輔は、その場を包んでいる異様な空気に気づいた。

ミミは膝をついたまま、大輔を見上げたものの、先ほどまであったことを説明するのは難しい、と判断し、何でもないと曖昧に微笑んで、大輔から雑巾を受け取って、床に零れた液体を拭いた。

 

その日集まったのは、12人の仲間のうちの半数だったが、先ほどの気まずい空気なんか忘れてしまったほどに、とても賑やかだった。

 

 

 

 

ただいまー、と久しぶりに帰ってきた自宅の玄関で呼びかければ、帰ってきたお帰り、は母のものではなかった。

あれ、と思いながらコートを脱いでリビングに向かえば、そこにいたのは普段はなかなか会えない父がいた。

 

「あれぇ?お父さんがいる」

「何だ、いちゃ悪いか」

「そういう訳じゃないけど。珍しいなって。何?どういう心境?」

 

いつもいつも忙しいって言って、滅多に帰ってこないのに、とからかえば、まあ色々な、と気まずそうな顔で父は誤魔化した。

台所で夕飯の支度をしていた母がクスクス笑った。

 

「お父さんね、職場の同僚さんに年末年始ぐらい休んでください!って無理やり有給取らされたんですって」

「へー。とうとう言われたんだ」

『タケリュ達がどれだけ言っても休まなかったのに?変なの!』

「そういうなよ……タケルだって知ってるだろ?俺の仕事はそう簡単に休めないって……」

「そう言って去年だか一昨年だか、職場でぶっ倒れちゃったのは、何処の誰でしたっけ?」

 

図星を母につかれた父が、肩を竦めてそっぽを向くもんだから、タケルとパタモンはおかしくてついつい笑ってしまった。

こら、って父に睨まれたけれど、それが本気じゃないことぐらい分かっているので、タケルはクスクス笑いながら母の手伝いをするために台所へと入る。

 

「ただいま」

 

がちゃり、と玄関の扉が開く音がした。

次いで聞こえてきたのは、兄のクールな声。

ただいまー、ってパートナーであるガブモンの声もする。

示し合わせたわけではないが、おかえりーという返事が父と被った。

え、って驚いたような兄の声に、タケルは兄の心情を悟る。

 

「親父、帰ってたのか?何で?」

「お前もか……」

 

もう少し帰るべきか……?と父が本気で悩み始めてしまったので、このままでは夕飯にありつけなくなると察したタケルは、ヤマトを強制的に台所に引っ張っていくのだった。

 

 

夕飯の席は、和やかに進んでいく。

仲間達の他愛ない近況報告と言うほのぼのしたものから、最近大学内で起きた、パートナーデジモンを持った学生達による乱闘事件という、両親が食いついてきそうな話題まで、幅広い会話を繰り広げた。

大学に入り、一人暮らしをするようになってから、こうして家族で集まる機会も年末年始ぐらいしかないので、皿はとっくに空になっているはずなのに、話題はなかなか尽きなかった。

 

「……あら、もうこんな時間?」

 

話し込んでいたら、ふと母が壁にかかっている時計を見て、そんなことを言い出した。

つられて、ヤマトとタケル、それから父も時計を見やる。

時刻は11時を過ぎていた。

幾ら年末年始の休みとは言っても、規則正しい生活は心掛けなければならない。

夕飯の片づけをみんなでして、歯磨きをして、寝支度をして、とやることをやれば、あっという間に30分経った。

ガブモンとパタモンは既に夢の中である。

お前、幾ら俺が大人になったからって、軽々と背負えると思うなよ、とヤマトが恨み言をガブモンに言いながら、どうにかしてガブモンを背負おうと四苦八苦している兄を、ニコニコしながら見守っていると、気づいた兄に手伝えと目線で訴えられた。

しょうがないので、しゃがむ兄の背にガブモンを寄りかからせる。

ずし、っとした重みに負けることなく、頑張って立ち上がったヤマトを、おー、とか言いながら拍手したら、脚を蹴られた。

煽ったつもりは全くなかったのだが、お気に召さなかったらしい。

 

「お休み、兄貴」

「ああ、お休み」

 

そういうと、()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()2()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

8月1日は、太一達元選ばれし子ども達にとって、とても大切な日だ。

1999年の、あの夏の日。

地球全体の環境がおかしかった、あの年に太一達は生涯のパートナーとも呼ぶべき友と出会った。

大人の助けが期待できない、異世界での大冒険。

時に助け合いながら、時にぶつかり合いながら、子どもだった彼らは2つの世界を救うために、ただひたすら前へと進み続けた。

辛いことも哀しいことも沢山あったけれど、今なら“そんなこともあったな”って笑い合えるぐらいには乗り越えている。

その3年後、2002年の事件にて、世界にデジタルワールドのことが知られ、子どもを中心に少しずつ、パートナーデジモンを得る人間が増えている世の中で、太一達はデジモンやデジタルワールドのことをよく知る人間として、企業やら政府やら色んなところに引っ張りだこだ。

特に光子郎は、パソコンを中心としたデジタル機器に詳しいために、他の子ども達と比べると多忙を極めている。

それでも、この日だけは絶対に仲間達と会うのだ、と光子郎は決めていた。

この日のために仕事を前倒しして、関係各所にもこの日だけは絶対に、何が何でも仕事を持ってくるなと通達するほどだ。

その鬼気迫る顔たるや、ベリアルヴァンデモンにも匹敵する、と京がこっそりヒカリに耳打ちして吹き出してしまったことを、光子郎は知らない。

 

「あと来てないの誰だ?」

 

待ち合わせ場所兼一次会の会場である飲み屋の前。

続々と集まってくる仲間達を見ながら、太一が問う。

 

「大輔が乗った電車が人身事故に巻き込まれて、少し遅れるそうでーす」

 

京が呆れながら言った。

いつもの寝坊ではなく、事故による遅刻なので、多めに見てあげましょ、とヒカリが苦笑しながらフォローする。

 

「丈さんも、出がけにトラブルがあったようです」

 

先に店入っててとメッセージ来ました、と光子郎がスマホを見ながら告げた。

目の下にある隈は、見なかったことにしよう、と思いながら太一は会話をしているタケルと賢の方に顔を向ける。

 

「あいつは?」

「明日期限のレポートが終わらないって、泣き言メールが届きました」

「……ってことは、あいつは来れそうにないな。しょうがねぇ。予約時間過ぎてるし、さっさと入ろうぜ」

 

いつも俺には遅刻すんじゃねーって殴ってくるくせに、と少々物騒なことを言いながら、太一は居酒屋の暖簾をくぐった。

予約してくれていた京が店の人に名前を言い、個室へと入っていく。

挨拶もそこそこに、早速みんなでアルコールや食べ物を頼み、当時の思い出を振り返りながら酒を飲んだ。

5分ほどしてから丈が、更に10分ほどしてから大輔が来る。

呑んで食べて、思い出話に花を咲かせること、約3時間。

かなりのハイペースで吞んでいた京は早々にダウンし、今は机に突っ伏して凡そ女の子らしくない鼾をかきながら寝こけている。

酔うとキス魔になるミミは、顔を真っ赤にしながらも黙々と酒を飲んでいる光子郎に絡んで、その頬にぶちゅぶちゅとキスをしていた。

我に返った光子郎が頭を抱えながら奇声を発しそうな光景に、太一とタケルは面白がってスマホの録画機能をオンにして、その様子を撮っていた。

いつもならストッパー側になるはずの空と丈は、笑いを堪えながらその光景を見ているだけ。

唯一アルコールを摂取しておらず、素面の伊織が、何とか太一とタケルを止めようとしていたが、果たして仲間内一悪ノリに全力を出す2人を、最年少の伊織が止めることができるだろうか。

 

「………………」

 

そんな光景を、ジョッキに入ったビールをチビチビと吞みながら眺めているのは、大輔だ。

目の前にある軟骨のから揚げも時々口にしながら、目の前の喧噪に小さく笑みを浮かべている。

それに気づいたのは、喧噪には参加しなかった賢とヒカリだった。

いつもなら率先して混じるであろう人物が、それをせずにただ黙って眺めているだけなのだから、賢達が不思議に思うのは当然だった。

 

「どうしたの、大輔くん?」

 

太一とタケルが更に悪ノリし始めたので、ヒカリは巻き込まれまいとこっそり大輔の隣へと移動した。

持っていたグラスの中は半分ほどで、それを見た大輔があまり減っていないビールの入ったジョッキを持って、ヒカリの持っているグラスに向ける。

意図を理解したヒカリは、グラスを傾けてカチン、と大輔が持っているジョッキに軽くぶつけた。

同時に賢も、これ幸いとばかりに騒ぎから逃げて、大輔とヒカリの下へと移動してくる。

同じように大輔のジョッキと自分のグラスを軽くカチンと鳴らして、賢は殆ど残っていないビールをあおった。

 

「いやぁ……色々あったなぁ、って……」

「……そうだね」

「うん……」

 

しんみりと言い放つ大輔に、ヒカリと賢は大輔が見つめている喧噪に目を向ける。

今日の集まりに来られなかった者が何人かいたが、それでも大輔達にとってはあの日の出来事を思い出させるのに、十分であった。

毎年8月1日は、酒をあおりながら、時々つまみを口にしながら、あの日の出来事を昨日のことのように面白おかしく話して、心のアルバムをめくる日なのである。

ちらり、とヒカリは喧噪の中心から部屋の隅へと目線を移した。

騒ぎ疲れてしまったのか、一緒に連れてきたパートナー達の内の何体かは隅の方で眠りについていた。

そこには、自分達3人のパートナーもいた。

大輔のパートナーであるブイモンを中心にして、団子のように固まって眠っているパートナーを見つめながら、ヒカリはくすりと笑った。

 

 

そろそろ解散しようか、と言い出したのは誰だったか。

時計を見れば深夜の2時である。

未成年の伊織は、とっくのとうに帰っていた。

幾らもう大人になったとは言え、流石にこの時間まで呑むのはやりすぎたな、と太一はすっかり寝こけているアグモンを背負い、更に口から魂が出ている丈を支えながら苦笑する。

と言うか、パートナーデジモン達は、全員寝てしまっていた。

元子ども達は支払いを済ませ、各々パートナーを抱きかかえたり背負ったりして、店を出る。

子どもの時は重たくて抱えるのも必死だったが、大人になった今では何でもないのが、少し寂しい。

と、感傷に浸る間はなかった。

酒に弱いくせに雰囲気に流されて、酒をかっぱかっぱ呑んで最後には顔を真っ赤にして酔い潰れてしまう京、酔っぱらうとキス魔になって、誰かれ構わずキスしてぱったり眠ってしまうミミ、俺の酒が呑めねぇのかと絡む太一を断り切れず、文字通り吐くまで呑んでグロッキーになってしまう丈の世話で、余韻に浸る暇などないからだ。

分かっているはずなのに、毎回こうなってしまうのだから質が悪いというものである。

 

「丈さんに関してはお兄ちゃんのせいでしょ?」

 

反省しなさい、と非難するような眼差しを向けてくる妹から、苦笑いしながら目を逸らした時、ぐったりしていた丈の身体が一瞬だけ痙攣した。

 

「う゛……っ」

「……おいちょっと待て丈、待て、待てって、おい、じょ」

「うぉろろろろろろろろろろろ」

「ぎゃあああああああああっ!!!丈てめぇええええええええっ!!」

 

丈が顔を真っ青にさせて、頬を膨らませたのを見た太一は、一瞬で嫌な予感が脳を過り、丈を放り投げてやろうとしたが、一足遅かった。

盛大にぶちまけてしまい、コンクリートに落ちたそれが跳ねて、太一のズボンを汚してしまった。

思わず自分の肩に回していた丈の腕を放してしまい、哀れ丈は顔面と地面がこんにちはしてしまった。

それを見た他の面々(酔いが少しだけマシになったらしい顔がまだ真っ赤なミミや、吞みすぎて普段より饒舌になっている光子郎、へべれけになって焦点が合っていない京等)がぎゃあぎゃあ騒いでいるのを、道行く人達が迷惑そうだったり、怪訝そうだったりする目で見つめてくるから、ヒカリは全力で他人のフリをしたくなった。

実際、太一が助けを求めるように見てきたので、ヒカリはニッコリ笑って見捨ててやった。

 

「ここは私に任せて、みんなもう帰っていいわよ」

 

他人のフリをしたいほどに騒いでいる太一達を、呆れながら見ている空が大輔達に言ったので、大輔達は遠慮なく帰宅することにした。

だって空が怖い。

笑っているのに、背負っているオーラが真っ黒いのである。

大輔達は顔を引きつらせながら、真っ黒いオーラを背負って太一達の下へ行く空を見送り、更に太一達の未来も容易に想像できたので、こっそり合掌してから目を背ける。

空の怒号と太一の悲鳴が聞こえるなど、絶対に気のせいだ。

 

「空さんもああ言ってるし、私達は帰りましょ?」

「……そうだね」

「うん……」

 

ニッコリと底の知れない笑みを浮かべるヒカリに、大輔と賢の口元が引きつるが、言及はしないでおいた。

藪蛇はごめんである。

 

「京さーん。おーい、おーきーてー」

「んーあー?」

「ダメだ、こりゃ」

 

空から京を預かったタケルが、彼女の肩を軽く叩くも、焦点の合っていない目は完全に酔っぱらっている。

早々に諦めたタケルは、ヒカリに丸投げすることにした。

 

「お願いしていい?」

「もちろん」

「おーい、ホークモーン。……ダメだ、完全に寝てんな」

 

しゃーねぇ、と大輔はブイモンを右腕で支え、空いた左腕でホークモンを抱っこしてやる。

ヒカリがアプリで呼んでいたタクシーがすぐに来たので、酔っぱらって力尽きている京を4人がかりで後部座席に座らせた。

その隣にヒカリとテイルモンが座り、助手席にブイモンとホークモンを抱えた大輔が乗り込む。

 

「じゃーな、()()()()()

「気を付けて」

『バイバーイ!』

「またね、()()()()()()()()()()

「またねー」

『また遊ぼうね~!』

 

バタン、と扉が閉まり、走り出したタクシーを見送りながら、賢とタケルは手を振った。

 

 

 

 

 

この世界の物語はいつだって、デジタルワールドから始まる。

世界を救った元選ばれし子ども達は、その日もいつも通りの日常を過ごしていた。

ある者は次から次へと舞い込んでくる仕事を捌くためにパソコンと睨めっこしていたし、またある者は休日を満喫するために惰眠を貪っており、更に別の者はパートナーとショッピングを楽しんでいた。

三者三様の過ごし方をしていた中で彼らに届いた、日常を引き裂く1通のメール。

そのメールを見た彼らは、仕事を、休日を放り投げて光子郎のオフィスへと集合した。

全員が集まったことを確認した光子郎は、パソコンを操作してディスプレイの前から退く。

ディスプレイから光が漏れ、そこから黒い陰が現れた。

黒い陰は少しずつ大きくなっていき、徐々に人の形へと変化していく。

光が治まったころ、黒かった人影に色が付き、彼らのよく知る者が姿を現した。

 

「……それで?」

 

腕を組み、真剣な表情を浮かべながら太一は陰……ゲンナイに尋ねる。

デジタルワールドの安定を望む者・ホメオスタシスに仕えており、最初は選ばれし子ども達のサポートを、今は太一と共に人間界とデジタルワールドの橋渡しを担っているエージェントである。

ここ数年は平和そのものであったため、最近の仕事は年々増えていく“パートナーデジモンを持つ人間”のサポートであり、メールのやり取りもほぼ光子郎が担っていた。

それが今日、突然、太一達へと一斉メールが送信された。

内容はシンプルで、大変なことになったから、光子郎のオフィスに至急集まってほしいというものだった。

それだけで理解した太一達は、自分達の仕事も休日も全てほっぽって、光子郎のオフィスに駆け付けたのである。

これまでの経験上、間違いなく何かろくでもないことが起こっているはずだ。

だから太一達は、ゲンナイが何を言ってきてもいいように身構えていたのだが……。

 

「……何人か来ていないようだな」

 

太一達の顔ぶれを見て、人数が足りないことを指摘してきたゲンナイに、太一はああ、と溜息を吐いた。

 

「ミミちゃんはアメリカだし、丈は研修。()()()も、試験勉強が佳境に入ったとかで、どうしても抜けられないって……」

「……そうか」

 

そう言った後、ゲンナイは更にぐるりと見渡し……は、と目を見開く。

ゲンナイの視線の先に居たのは、賢とタケルだった。

 

「……もうここまで侵食しているのか」

 

何かあったのだろうか、と賢が口を開く前に、ゲンナイが何故か悔しそうな表情を浮かべ、ぽつりとそう呟いた。

そして賢達が何かを言う前に、太一の方に向き直った。

 

「太一、今から尋ねる質問に、正直に答えてくれ……()()()とは、誰だ?」

「は?」

「先ほど人数が足りない、と私が言った時に言っていただろう。()()()というのは、誰のことだ?」

「……誰って、そりゃあ」

 

太一は、言った。

 

()だよ」

 

太一がそう言い放った瞬間、ゲンナイは素早く彼らを見る。

特に何の反応も見せていない。

みんな、何でもないように、じっとゲンナイを見ている。

 

そう、()()()()()()()()()()()()

 

「何でそんなこと聞くんだ?」

「……本当に?」

「あ?」

 

突然何を言い出すんだ、と言いたげにゲンナイを見やる太一に、ゲンナイはじっと太一を見据える。

様子のおかしいゲンナイに太一は、他の仲間達は怪訝な表情を浮かべた。

ぐ、とゲンナイは拳を握る。

 

「本当に、それは()なのか?」

「ゲンナイさん?」

「太一の言う()()()は、()で間違いないのか?」

「そうだってば。どうしたんだよ、ゲンナイさん?」

 

念を押すように、ゲンナイは何度も尋ねるが、太一の答えは変わらない。

ゲンナイは目を閉じ、ゆっくりと深呼吸をすると、視線を再び賢とタケルに向ける。

 

「……賢、君のパートナーは誰だ?」

「え?」

「タケル、君のは?」

 

賢とタケルは戸惑いながら互いを見やり、それから自身のパートナーを見やった。

大輔が何か言いたげに口を開きかけたが、光子郎がそれを止めた。

何かを探るように、光子郎はゲンナイをじっと見つめている。

知りたがり屋の彼が、ゲンナイの不思議な問答に対して何も言わず、ただ見つめているだけに留めているのを見た太一は、ゲンナイの問答に意味があるのだと悟り、賢とタケルとのやり取りを見守ることにした。

 

「……()()()()、です」

「……()()()()()、だけど」

「本当に?」

 

先ほど太一に言ったのと同じセリフを、ゲンナイは賢とタケルに言う。

じ、と睨みつけるように見つめてくるゲンナイに戸惑った。

何故、ゲンナイはそんなことを聞いてくるのだろう。

賢は戸惑いの眼差しを向けてくるパタモンを見下ろす。

賢が最初にデジタルワールドを冒険したのは、1()9()9()9()()8()()1()()

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

夏なのに雪が降って、直後に吹雪いたから、キャンプ場から離れたところにあったお堂に避難した時、空にオーロラが見えて、そこからデジヴァイスが降ってきて、それから………。

 

「……………………ち、がう」

 

賢は、ぽつりと呟いた。

目を見開き、肩や腕を震わせ、勢いよく隣のタケルを見やる。

タケルも、似たような反応を見せていた。

 

「タケルくん?」

「賢……?どうし」

「違う!僕じゃない!()()()()()()()()()()()()()!」

 

錯乱したように叫ぶ賢に、仲間達は戸惑うが賢はそれどころではなかった。

どうして、どうして僕は何の疑問にも思わなかったのだろう。

どうして今日までおかしさに気づかなかったのだろう。

自分じゃないのに、自分は違うのに。

パタモンとワームモンも、自分達のおかしさに気づいて、さあっと顔を青ざめさせた。

それを皮切りに、仲間達もまるで夢から覚めたみたいに、目をパチパチさせる。

特に太一は、先ほど自分が言ったセリフを覚えており、とんでもないことを言い放った自分の口元を押さえた。

 

「……………」

 

そして、最後に。

ゲンナイは大輔と、京と、伊織に視線を向ける。

周りにいる仲間達と顔を見合わせたり、頭を抱えたりと忙しく、ゲンナイの視線に気づいていない。

しかしゲンナイはそれに構わず、す、と音もなく歩を進め、大輔達に近寄っていった。

大輔が気づいたのは、ゲンナイが自分の前に立ち止まった時。

じっと大輔の足元を見つめたかと思うと、下の方に手を伸ばす。

大輔の足元にいたのは、ブイモンとホークモンとアルマジモンだった。

他のパートナーデジモン達と同じように戸惑っていたブイモン達だったが、陰が差し、じっと見下ろしてきたゲンナイに気づいて、キョトンとした表情でゲンナイを見上げた。

突如として伸ばされた手。

それを見たブイモン、ホークモン、アルマジモンは………。

 

『っ!!』

 

ひゅっと息を飲んだかと思うと、恐ろしいものを見たような表情を見せ、身体を大袈裟に跳ねさせたかと思うと、頭を庇うように両腕を構えたのである。

 

「……ブイモン?」

「ホ、ホークモン……?」

「ア、ルマジ、モン……」

 

パートナー達の見たことない反応に、大輔達は狼狽えるしかない。

ブイモン達も、自分の行動に驚いているのか、そのままの体勢で硬直してしまっていた。

それを見たゲンナイは、きゅっと唇を真一文字に引き締めると、ゆっくりと上体を起こした。

目を閉じ、静かに深呼吸をした後、目を開けて太一達を見やる。

戸惑いは収まっていないが、自分達の身に何かが起こっていることは察したようで、みんな真剣な眼差しをゲンナイに向けた。

 

「……これから話すことは、信じられないと思うだろうが、本当のことだ」

 

先ほどのやり取りがなければ、きっと彼らはその話をあり得ないと笑い飛ばしていただろう。

それほどまでに、ゲンナイが教えてくれたことが信じられなかった。

 

ことの発端は、小さな綻びだった。

1999年のことをノンフィクション小説として発表したい、とタケルに聞いた時から、ゲンナイは少しずつ記録の整理をしていた。

自身のコピーでもある他のエージェント達にも手伝ってもらいながら、記憶と記録を照らし合わせていた時、1人のエージェントが疑問を口にしたのである。

それは、書き出した記録の中での異変。

最初の冒険の、最初の出来事に、ヒカリの名前が刻まれていたのだ。

8人目の選ばれし子どもであった八神ヒカリは、太一達を召喚した8月1日の時点で風邪を引いていたことと、彼女のパートナーデジモンであるテイルモンが、ゲンナイの手違いで行方不明になっていたこともあって、冒険の最初期のほうには参加していないのだ。

人数が多いから、資料を手分けして制作をしていたせいだろう、とコピーされたエージェントが言ったので、他のエージェント達もそうなんだろうな、とその時は納得した。

しかしそれからも、資料に誤りをちょいちょいと見つけて、その度にゲンナイとコピー達は修正していた。

色々と仕事を掛け持ちしているから、疲れているのだろうなとゲンナイは考えたのだが、ほぼ毎日資料に誤りを見つけては、修正する、を繰り返している。

何かがおかしいな、と思い始めた時、コピーの誰かがゲンナイの下に慌てて走ってきた。

手に持っていた資料をゲンナイに押し付け、とにかく確認してくれとだけ繰り返して言うので、言われた通りに資料に目を通す。

 

「……なっ!?」

 

思わず大きな声を出してしまった。

そこに書かれていたのは、冒険初期の出来事。

ヒカリの名前が誤って記載されていた、あの資料に、今度は()()()()()()()()()()()()のだ。

大輔だけではない。

ヒカリの名前も再び記載されていたので、エージェント総出で資料を確認したところ、1999年時の冒険の資料に全て、大輔とブイモンのことが記載されていたのである。

更に資料を確認していくうちに、これまで修正した個所が再び改竄されていることに、エージェント達は気づいた。

慌ててデータ化した資料を見れば、そちらも同じように改竄されており、エージェント達はホメオスタシスを含めた緊急会議を、何度も開くことになった。

しかしその間にも記録の改竄は進行し、ゲンナイは自身のコピーを更に増やして対処しなければならなかった。

 

そのうち、エージェント達にも異変が起こり始めた。

 

エージェントのうちの1人が、こんなことを口にしたのだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

それを別のエージェントから聞かされた時の、ゲンナイの心情は推して知るべし、と言ったところだろう。

他のエージェント達にも聞いて回ったところ、何人かが同じような症状になっていた。

断腸の思いで、ゲンナイはおかしくなったエージェントを消去(デリート)したのだが、焼け石に水であった。

まるでウイルスの感染のように、爆発的におかしくなっていくエージェントが増えたのである。

その度にゲンナイはコピーを消去(デリート)しては、別のコピーを生み出したのだが、その作業が追い付かないほどに次々とエージェント達はおかしくなった。

ついには、新しく生み出したコピーのエージェント達でさえ、生まれてきた瞬間におかしくなる。

このままではまずい、とゲンナイは一旦コピーの増減を中止し、まずは原因を突き止めることにした。

データ化しておいた記録を調べ、当時のことを知るデジモン達から話を聞き回ったが、なかなか有益な情報が得られない。

それどころか自分自身にも、最近その兆候が見られ始めてきた。

()()()()()()()()()()()()()()()()()1()0()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、という疑問まで浮かぶようになり、その度に我に返って(かぶり)を振っているのだが、その疑問に思う時間が少しずつ伸びていっている。

記録に残そうにも、書いた傍から記録が改竄されているため、最早無駄な抵抗だった。

完全におかしくなってしまう前に何とかしたいのだが、いかんせん情報が全く集まらない。

これも、記録と記憶がおかしくなっていく弊害なのだろうか、それともこの弊害こそが、おかしくなっている原因なのだろうか。

最早これまでかと諦めかけていたゲンナイの下に差し込んだ、一筋の光。

それは希望か絶望か。

ホメオスタシスの下に転がり込んできたのは、時の守護者と呼ばれ、デジタルワールドでも現実世界でもないところで時の管理をしていると言われている、クロックモンというデジモンだった。

1900年から1999年の間であれば、自在に時間を進めたり戻したりできるという、非常に危険で恐ろしい能力を持っている。

そのために光にも闇にもつかない、中立の立場を保っているのだが、そのクロックモンが顔を真っ青にしながらホメオスタシスとゲンナイの下にやってきたのだ。

滅多にその姿を現さないものだから、ホメオスタシスですら何があったのかと焦った。

そしてもたらされた情報は、ゲンナイが一番欲していたものであり、一番いらなかった情報であった。

 

「……それが、“何者かが歴史を変えようとしている”、というものなのですか?」

 

ゲンナイの説明を受けた光子郎が、表情を強張らせながら言った。

クロックモンによると、とてつもなく大きく、邪悪な何かが2000年と1999年の壁を突き破って、未来から過去へと遡ってきた。

最初は対処しようとしたらしいのだが、それはあまりにも大きく、あまりにも強力で、時を操る能力を持つクロックモンでさえ、まるで赤子のようにいとも簡単に放り投げられたそうだ。

その力はまるで、究極体そのものだったとクロックモンは言った。

いくら時間を自由に操る能力を持っていると言っても、クロックモンは成熟期である。

もしも相手が本当に究極体ならば、成熟期のクロックモンが敵うはずがないのだ。

しかし時間を遡る存在を管理者として放っておくことは出来ず、その陰の後を追った。

何処まで遡る気なのか、幾らクロックモンが時間を自由に行き来できるとしても、1900年以前では手も足も出ない。

かと言って、力づくで止めることが出来ないのは、先ほどの戦闘で実証済みだ。

クロックモンにできるのは、その正体不明の陰が何をしようとしているのかを、見届けることだけである。

自分でもそれをよく分かっているから、歯がゆい。

悔しさで歯を食いしばっていたら、突然陰が動きを止めた。

反射的に、クロックモンも止まる。

陰は、時間の壁を破って、その時代に姿を現わそうとしていた。

まずい、とクロックモンは咄嗟に攻撃したのだが、やはり陰には傷一つつかず、効いた様子がない。

それでも、クロックモンは攻撃を止めなかった。

未来から2000年と1999年の壁を突き破って遡り、更にその時間の、その時代に現れようとしているのだ。

このままでは過去が、歴史が改変されてしまう。

過ぎ去った時間の出来事は、既に事実として存在しているのだ。

それなのに、その時代に存在しなかった者がその時間に姿を現わせば、未来にどんな影響を及ぼすか、分かったものではない。

クロックモンは必死に陰の気を引くために攻撃を仕掛けたが、陰はクロックモンに全く興味を示さなかった。

 

バリンッ

 

そしてとうとう、時間の壁が破られる。

積み上げられた歴史という石が崩れる瞬間を、クロックモンは垣間見てしまった。

時間の管理者として、その時代に姿を現わすことができても、クロックモンが手を出すことは禁止されている。

例え目の前で犠牲者が出たとしても、クロックモンが助けることは決して許されないのだ。

それがそのデジモンの運命なのだから。

しかし過ぎ去った時間に、自分の存在を割り込ませた陰は、その運命すら破壊してしまった。

死ななくていい命が死んだ。死ぬはずだった命が逃げたことで死ななかった。

悲鳴を上げ、逃げ惑うその時代のデジモン達を、しかしクロックモンが助けることは出来ない。

陰が時間に自分の存在を割り込ませたせいで、その時間の歴史は陰の存在を受け入れてしまった。

このままでは運命が、未来が変わってしまう。

蝶の羽ばたきですら、遠い何処かで運命を変える事象となっているのに、こんなに大きな存在が歴史に割り込んできたら、未来は一体どうなってしまうのかなんて、想像もできない。

 

だからクロックモンは、生まれて初めて規則を破った。

その時代のデジモンを助ける、のではなく、1999年の壁を、自分が活動できる時間を突き破って、遥か未来へ助けを求めることにしたのだ。

直近の未来では恐らく手遅れになる。

だから自分が活動できる年代よりも、ずっと先の未来へとクロックモンは行ったのである。

だがあまりにも未来では、この時代に起こったことを知る者がいなくなり、対処も難しくなるだろうということも分かっていた。

1999年は、デジタルワールドにとって重大な年代であったことは、時間の管理者として知っていたから、あの年代を知る者が生きている時間が一番いい。

そうしてクロックモンがやってきたのが、“今”だ。

 

「……歴史が、書き換えられている?嘘だろっ!?何で、そんな……!」

「すまない、そこまでは流石に分からなかったようだ……しかし現実として、歴史が書き換わっているのも事実なんだ。現に、君達は今日私が来るまで、何の疑問も持っていなかっただろう?」

 

ゲンナイにそう言われた太一達は、反論する言葉を持ち合わせていないようで、ぐっと押し黙った。

 

「じゃあ……じゃあ、どうするんすか……!?」

 

このままでは歴史が書き換えられ、自分達の知る自分ではなくなってしまうかもしれない。

皆と過ごした時間が、なかったことになってしまうかもしれない。

大輔が一歩踏み出し、突っかかるように、縋るように、ゲンナイに問いただす。

ゲンナイがここに来たのは、世界を救った12人の元選ばれし子ども達に、何とかしてもらうためだろう。

そうでなかったら、姿を現わしてまで異変を伝えることはしないはずだ。

大輔の声は震えていたが、その目は昔と変わらない、真っすぐで意志の強い目。

太一も、同じだった。

自分達が積み上げてきた歴史を、これから手にするであろう未来を壊そうとする者を、絶対に許さないと言わんばかりの、ギラギラとした目に、ゲンナイは小さく溜息を吐いた。

やはり彼らに頼って正解だったな、と口元を微かに吊り上げ、そして真剣な表情を浮かべる。

 

「……君達に、過去に行ってもらいたい」

「……過去?」

 

空がゲンナイの言葉を繰り返すと、ゲンナイは小さく頷いた。

 

「過去……正確には時間を遡ってもらいたいんだ」

「……何故、と聞いても?」

 

光子郎が鋭い眼差しをゲンナイに向ける。

ブレーンの質問の意味が分からなかった仲間達だったが、ゲンナイは分かっているようで、顔色を変えずに言葉を続けた。

 

「元凶と戦うだけなら、その時代の君達に任せればいい。だが事態はそう単純ではなくなってきている。元凶を倒しても、恐らく歴史が戻ることはないだろう。何故なら既に書き換えられた影響が、この時代にも出ているからな」

「……それじゃあ、何のために?」

 

パタモンを抱きしめながら、賢が尋ねた。

自分のパートナーではない、と分かった今でも、タケルに返すことはしなかった。

それほどまでに、事態は進行してしまっていることが伺える事態だ。

だからホメオスタシスとゲンナイが取る手段は、ただ1つ。

 

「……過去が書き換えられる前まで遡り、そこで原因を叩くんだ。そうすれば書き換わったという事象がなかったことになる」

「……へ?」

「ん?ん??どういうことだ?」

 

ゲンナイの言っている言葉の意味が分からなかった太一と大輔の頭上に、沢山の「?」が浮かぶ。

2人だけではない。他のメンバーも、パートナーデジモン達も、ゲンナイの言葉の意味が理解できないのか、困惑したように仲間と顔を見合わせている。

理解できたのは、光子郎と賢、そして伊織だった。

 

「なるほど……つまり、原因が過去の歴史を書き換えることを防げばいいんですね?」

「そうすれば、僕達の世界で起こっている異変がなかったことになる……」

「ですがどうやって?僕達は過去を遡る術は持っていませんし、知りません……」

「え?ちょっと待ってくれよ、どういうことだ?」

 

分かるように説明してくれ!と喚く大輔に、賢は苦笑しながら大輔に説明した。

 

「漫画やアニメでも、よくタイムマシンで過去や未来に行ったりする話はよくあるだろ?あれと原理は一緒さ。つまり今僕らの世界で起こっている異変の原因を防ぐために、僕達はこれから過去に行かなくちゃいけないんだ」

「……ああ、うん。なるほど……ん?でも異変は起きちまってんだろ?どうやって防ぐんだ?」

「過去に遡る、ってことは、原因の何かが遡る前に僕らがそこに辿り着くことも出来る、ってことさ」

「………んー?」

 

分かりやすく言ったつもりだったが、大輔には難しかったようだ。

ブイモンと一緒になって、同じような顔と腕組のポーズをして考え込んでいる。

その姿がおかしくって、賢はパタモンと一緒に吹き出してしまった。

笑うな、と怒られたので、何とか呼吸を整える。

それを苦笑しながら見守っていた光子郎は、2人から目を離し、先ほど尤もな疑問を口にした伊織の方を向いた。

 

「伊織くん、多分ゲンナイさんが知っていると思うよ。そうじゃなかったら、全員を集めることはしなかったと思うし……」

 

ちらり、とゲンナイを見れば、ゲンナイは小さく頷く。

 

「異変を知らせに来てくれたクロックモンに、連れて行ってもらう手はずになっている。本来クロックモンは1900年から1999年の間しか移動できないんだが、ホメオスタシスが特例として認めてくださったんだ」

 

そもそも2000年を10年以上過ぎているこの時間軸に、危険を知らせるためとはいえクロックモンはやってきたのだ。

今更ルールも規則もない。

 

「相手は自力で時間を移動できるほどの、強力な存在だ。君達が束になっても敵わないかもしれない……それでも、この事態をこのままにしておくわけにはいかない。何度も無茶を指せてすまないが、よろしく頼む」

 

頭を下げるゲンナイに、太一達は今更だ、と苦笑する。

ゲンナイに、戦う力はない。

戦えないから、異世界から人間を呼び、デジモン達とともに戦ってもらうという手段を取ったのだ。

何か危機や事件があるたびに、太一達に頼むことは忍びない、とは思っていたようだが、初めてデジタルワールドを冒険し、その存在を知ってから無茶ぶりなんか何度もされたし、厄介ごとは全て押し付けられていた。

でも、太一達は1度だって、嫌だと思ったことはない。

やりたいから、やる。やりたいから、ここにいる。

それだけだ。

 

「俺達に任しとけって」

「俺達の過去も未来も、俺達で守ってみせますよ!」

 

頭を下げるゲンナイに、頼もしいことを言ってくれるのは、いつだって太一と大輔だ。

2人が先陣切って走ってくれるから、他の仲間達も迷わずに済むのだ。

仲間達もそれを分かっている。

太一と大輔の周りに佇み、力強く頷く仲間達を見て、彼らが選ばれて本当によかった、とゲンナイは安堵した。

 

「……事態が事態だ。今回のことは今までのように簡単ではない。ミミと丈とヤマトにも、何とか来てもらえるように連絡をしてくれ。準備もあるだろうから、そうだね。1週間後に再度集まってくれ」

「…………何でヤマト?」

 

キョトン、とする太一に、これは早めに決着をつけないとまずいな、とゲンナイは苦笑するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

.




よく分かんねぇよ、って方いると思いますが、大丈夫、菫もよく分かってません(おい)。
要するにド○ゴ○ボ○ルの未来から来た青年みたいなことをしようとしていると思ってください。
この後、12人は時空を遡って原因と戦ったり、原因がその時間の歴史に逃げ込んで、1999年の時の自分達と共闘したり、書き換えられた歴史を消すために未来から来たと言ったら、お前らにとっては偽物でも、俺らにとっては本物なんだよ!と小学2年生の大輔にガチ泣きされたり、それにつられて小学2年生の賢とヒカリも泣いちゃったり、大人の光子郎と子どもの光子郎がどうにかして2つの世界を分けられないかを考えたり、パートナー達がみんな究極体に進化して原初の世界と書き換えられた世界を頑張って分けたり、という展開になる予定ですが、力尽きたのでここまで。
最近になってこっちの世界戦の方がよかったかなぁと思い始めているんですが、書き直す余力はないので、ここで供養しときます。
むしろ誰かこの設定で書いてくんねぇかな……

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