【完結】TS連邦士官ちゃんは、人殺しがやめられない!   作:むにゃ枕

10 / 20
Chapter2 Jane Doe
10.ベル・ベリングが死んだ! この人でなし!


 光があった。死の恐怖に怯えてそのまま意識を失ったことは覚えている。しかし、死んでも人間は光を知覚できるものなのだろうか。瞬きし、ブレる視界の端に人を捉えた。

 

「死人が生き返ったね。本当に死んでいるのかと思ってヒヤヒヤしたよ」

「わたし、いきてる?」

「ああ。生命としてのキミは生きているよ。こうしてボクと喋っている。それとも、哲学的な問いかい?」

「ちがう」

「ふん。まあ良い。モルモット君。キミを生きたまま実験して、解剖するために、わざわざこのボクがグレイヴさんに頼んだんだよ。死んでたら大損だ」

 

 キラキラと光るメスに鉗子。白衣を来た目の前の女はいかにも頭がおかしいというような感じだった。フケまみれの清潔感の全くない髪に、変色した白衣。三白眼の斜視で、私のことを見ているようで見ていなかった。

 

「レイゼン研究員、彼女を勝手に解剖されては困るな」

「グレイヴさん? この女に利用価値なんて無いでしょう? ボクのために貰ってきてくれたんじゃないのかい?」

「違う。彼女は、腕利きのエースパイロットだ。社会的には死亡した存在だが使い道はある」

 

 元々、グレイヴという男は極刑を言い渡された軍人を私兵として使い、今の地位を手に入れた人物だ。スレイブ・レイス隊、ゴースト隊といった彼の元私兵はペイルライダーの経験値として消費したものの、手法やノウハウは未だに保たれたままである。

 裁判の過程には介入できなかったものの、私を処刑するという結果には介入することが出来た。グレイヴの手足は保守派が考えるよりも長かったのだ。

 

 グレイヴが私を使ってすることといえば、敵対派閥や邪魔な人間の暗殺。もしくは、そういった類いの正規軍を使えない後ろ暗いことのはずだ。

 

「ルサルカといったところか」

「は?」

「レイス、ゴーストとくればゾンビでも良いな。しかし、それではつまらん。ルサルカにしよう。ジェーン・ドゥ大尉、貴様をルサルカ隊の小隊長に任命する。目的はコロニー落としだ」

「は?」

「軟弱な連邦政府に鉄槌を下す。平和ボケしたモグラ共にはコロニーでもくれてやれ。私に実権が渡るならば市民など幾ら死んでも構わん。ジャブローのモグラ共を殺し、私とジャミトフで軍部を支配する。危険なスペースノイドは処分しなければならない。君と私は、思想的に共感しているだろう。そう、連邦の安寧のためには危機が必要なのだ。ジオン残党が脅威であるということを示さなければならない」

「え?」

 

 グレイヴ少将の話は狂気的すぎて意味が分からなかった。副官から話を聞くことで、ようやくその全貌が伺えた。

 

 グレイヴ少将は、軍保守派のジャミトフ・ハイマン准将と密かに通じていたという。そして、処刑に介入し仮死状態にした私を他の死体とすり替え、ムラサメ研究所へ輸送したのだ。

 グレイヴとジャミトフ、カス同士波長も合うだろう。カスの手先となっている私が言えた義理ではないが……

 

 私に下された任務はデラーズ・フリートへの潜入だ。そして、デラーズ・フリートをコントロールし、連邦政府や連邦軍保守派にダメージを与えることである。

 グレイヴ少将は、日和見的な連邦政府や軍保守派に相当腹を立てているらしい。もう一度ジオンにコロニーでも落とされれば、自分たち改革派が軍の主導権を握れると考えているようだ。

 

 マッチポンプという言葉が脳裏をよぎったが、気にしないことにした。ジーン・コリニー大将の部下であるジャミトフ准将は、ジオン残党であるデラーズ・フリートが起こす最悪の事態をコロニー落としと考えたらしい。

 グレイヴ少将は、コロニーを落とせば連邦政府の目が覚めるだろう。むしろ落とせと思っていそうだ。権力への執着が彼を狂わせたのだろうか?

 

 その後、私は顔を整形され元ジオン軍大尉としての偽の軍籍を手に入れた。そして鹵獲されていたザンジバル級ユリシーズを強奪したように見せかけてデラーズ・フリートへ向かった。

 頼れるクルーは、ほとんどみんな犯罪者である。ちらほらグローブで一緒に虐殺した顔も見える。スレイブ・レイス隊と違い、冤罪の人間はいない。私含めて、カスの集まりだ。

 

 こんな連中の指揮をするとき、どうすれば良いかみんなは分かるかな? そうだね。粛清だね。

 生意気にも突っかかってきた奴をMSで掴んで宇宙空間に投げ捨てて、ビームで塵にしたらみんな黙ったよ。グローブ虐殺組が何故か私のシンパになっていたこともあり、艦内は平穏無事だ。

 

 ジェーン・ドゥ大尉は、ペズン出身で強化人間の教導をしていたパイロットという設定だ。なので、合法的に強化人間を連れていける。

 HADESをシステムにぶち込んだガルバルディが今の愛機となっている。OSに無理やりHADES入れてるから使いにくい。ムラサメ研に鞍替えしたアミア中尉が作ったシステムなんだが、これはダメだ。使う人間のことを考えていない。

 

「クロエちゃん、このシステムめっちゃ使いにくくない?」

「ぴぃ」

「なんで、逃げるの??」

 

 強化人間のクロエ・クローチェちゃん、チームメイトなのに私と全く打ち解けようとしない。

 

「タリアちゃん、甘いもの奢ってあげるよ。何もしないよ〜。怖くないよ」

「…………いや」

 

 もう1人のキャバルリーのパイロットだったタリアちゃんも、私のことが苦手なようだ。

 

「貴女が怖いらしいですよ。なんでも死神が見えるとか」

「ふ〜ん。死神ねぇ。戦場で人殺ししてるのに今さらじゃない?」

「怖いものは怖いんでしょう。ジェーン大尉の怖いものは?」

「自分の死かな」

 

 クロエとタリアのお世話係であるサラ・シャノン軍曹にも、私の身分が偽ったものだということはバレていない。

 グローブ虐殺組は、私の声でなんとなく察しているようだ。声帯を変えてないから仕方ないな。MSから虐殺の指示をしてた声なんて忘れようが無いだろう。

 

 第364パトロール艦隊の大佐と、打ち合わせ済みの砲撃戦を行い、暗礁宙域に入った。設定としては、ペズン計画の生き残りが、パトロール艦隊に追われ逃げてきたということなのだが、行けるだろうか?

 わざわざ月面から来たような航路に、見せかけているのだ。スパイだと見抜ける頭があればジオン残党なんて非生産的な活動はしていないはずだ。

 

「アナベル・ガトーだ。君が、部隊長か?」

「はっ。ジェーン・ドゥ大尉であります。ガトー少佐殿!」

「楽にして良い。私の階級も終戦時は大尉だった。いわば同輩のようなものだ」

「いえ、軍とは規律で成り立つものです。デラーズ閣下のもとジオニズムの実現に向けて取り組むのです。どうして規律なくして軍が成立するでしょうか」

「ジェーン大尉は真面目なのだな。同じジオン軍人として胸襟を正さなければな」

「ガトー少佐ほどのお方にそのようなお言葉を頂けるとは、恐縮です」

「嬉しいことを言う。改めてデラーズ・フリートは、ルサルカ隊を歓迎しよう。ジーク・ジオン!」

「ジーク・ジオン!」

 

 ガトー少佐の目は節穴でしたね。ユリシーズとルサルカ隊は疑われることなく、茨の園へ入れてしまった。

 しかし、がっつりジオン残党をやってしまうと戦後に影響が出る。連邦軍人がスパイをしてました。これは、あくまでスパイ行為でした〜という体面が必要なのだ。

 

 なので、私たちはデラーズや彼のお気に入りであるガトーとは、綿密な関係を築かない予定なのだが、ガトーの好きそうな武人ロールプレイをしたら彼に気に入られてしまった。

 お前の目の前にいるやつは、ソロモンでお前をボコボコにした奴だよ。そう言ってやりたかったが、任務なので黙っていた。

 

 私は人間を殺せれば、陣営はどうでも良いと思っているのだが、そうはいかないのが世の中だ。カルト宗教の勧誘ってこうなんだろうな〜と思いながらガトーとデラーズの話を聞く羽目になった。

 お前らの先祖が棄民で酷い目に遭った話とか知らん。戦争の正当性とか知らねぇ〜勝手に居酒屋で話してろって感じである。

 

 なんなら、こっちもTS転生したらネグレクト受けて壊れた話とかしようか? あの時の私はホームレスの家を焼いてヤバいってなるくらいの理性は有ったが、戦時中は、お前らのコロニー落としのせいで完全に狂ったからな。

 

「デラーズ閣下、そろそろお開きとしましょう。ジェーン大尉にも都合が有ります」

「うむ。そうだな。大尉の人類の未来に関する話は非常に興味深いものだった」

「はっ。光栄であります。閣下の御高説を聞き勉強させて頂きました」

 

 カルト宗教の勧誘とか思って聞いていたが、デラーズのやつ、かなり話が上手い。特に専門であろう戦略については、面白く聞いてしまった。ニュータイプ論についても議論してしまったし、組織の長というものは魅力が無いと務まらないのだろう。

 私、ジオン残党やろうかな。連邦軍には処刑されかけた恨みがある。死の恐怖に震えながら失禁した恥辱を全く忘れていない。

 

 シミュレーターで強化人間ズと無双したり、ガトーとシミュレーターをやったりしているうちに、星の屑計画の準備が整ったようだ。

 クロエとタリアも、多少は部下として扱えるようになった。強い薬を無くしても安定するようになったので、世話役のサラが喜んでいた。手を繋いで軽く感応するくらいしかしていないが、二人のニューロンの何かが向上したらしい。

 

 感応キメセクしてないので、人間を殺したい欲求はあるのだが、そんな時は処刑されかけた時のことを思い出すようにしている。私は、恐怖によって思い留まれるタイプなのだ。 

 

「ガトー少佐、何故私も地球に降りることになっているのでしょうか?」

「大尉は、優秀だ。君なら私の僚機を任せられると思ったまでだ」

「私は部隊指揮官です。部下がいてこその私です。単機では役に立ちません」

「謙遜は美徳だが、過剰な謙遜は周囲を不快にするぞ。私が君の腕を認めているんだ」

「ありがとうございます……了解しました」

 

 ガトーは、偽装身分証を使いシャトルで地球に降りた。私はガルバルディと共にコムサイで地球に降りることとなった。

 部下という盾がなくなってしまった。盾でガードしつつ、弱いやつを倒すというのが基本戦術なのにどうしてこうなった。

 

 星の屑作戦が成就すれば、グレイヴ少将の願望も自動的に成就する。風向きが変わり、革新派が権力を握れる。ティターンズの誕生だ。

 勝ち馬に乗りたいタイプなので、デラーズ・フリートもティターンズも参加したくないが、私の生殺与奪とキャリアはグレイヴ少将に握られている。哀れな猟犬である。

 

 ガトーと並んでデラーズの両腕と称されるようになってしまったが、本当に戦後は大丈夫なのだろうか? まだ、味方を殺していないからセーフなはずだ。全部グレイヴ閣下が悪いんです。私は言われたことをやっただけなんです。

 

 ジェーン・ドゥという身分はどうせ戦後に消滅するのだ。世論が反スペースノイド寄りになれば、連邦軍籍を得られる手筈になっている。

 私のやることは、デラーズ・フリートに星の屑作戦を成就させること。崩壊のどさくさに紛れて逃げることだけだ。簡単な仕事である。戦後の心配など不要なはずだ。

 

 不安になってきたので、ユリシーズの艦長を呼びつけた。ミリ艦長は元マゼランの艦長でエリートだった。しかし、ホストクラブに傾倒し、予算を横領。横領を指摘した味方を殺害するという素晴らしい経歴を持っている。

 胸がデカい上に色情狂なので、タイミングが合えば楽しく遊べるセフレだ。部隊指揮官と艦長がセフレな軍隊終わっている。私たちジオン残党の民度なんてこんなものだ。

 

 第364パトロール艦長を通して、デラーズの計画をグレイヴに流しているのだが、彼は計画を知ってなお止めようとしていない。むしろ推進している。上層部を排除できればなんでも良いようだ。

 味方殺しで出世した人間が、私兵を使って敵と内通し味方を殺す。規模が明らかに大きすぎるという点を除けば、不思議はない。

 

「グレイヴ閣下の元から離れたい。やってることが完全に悪役だよ。なんていうか、私は確実に安全な立場から一方的に弱者を殺したいだけなのに〜。ねぇミリちゃん」

「えぇ。そうよ。私だって横領を指摘してきた同僚を殺しただけなのに、ジオン残党の仲間入りよ。懲役刑の方がマシだったわ!」

「……そうかな? ……そうかも」

「コロニーなんて地球に落としたら、私の元推しが死ぬじゃない。私を騙して金だけ奪ったアイツラは死んだ方が良いんだけど、でもコロニー落としで死ぬのは何かが違うというか」

「んにゃぴ」

 

 阿呆を見ていたら、どうでもよくなってきた。味方に核撃って、コロニー落とすだけだ。戦後は多分保証される。楽しい仕事なのだから、楽しまなければ損だ。よし、頑張ろう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。