【完結】TS連邦士官ちゃんは、人殺しがやめられない! 作:むにゃ枕
久しぶりの地球は空気が不味かった。思わずくしゃみをしてしまう。コムサイが巻き上げた土ぼこりのせいだ。コロニーやら基地に籠もりきりだったせいか、病弱になったかもしれない。
ガルバルディに乗り込み、連邦軍の哨戒線ギリギリまで近づく。敵に警戒している様子はない。トリントン基地の連邦軍は、気が緩みすぎじゃないか? 大丈夫か? 敵ながら心配になってしまう。
トリントン基地は、ジョン・コーウェン中将の息が掛かった場所である。コーウェン派は、ほどほどの改革派といったポジションだ。失脚したグレイヴ派は、スペースノイドを差別するレイシストでゴリゴリの極右改革派である。コーウェン派はそれを保守派に寄せマイルドにした感じだ。
現状維持が大好きなジャブローのモグラからしたら、コーウェン派も目の上のたんこぶのような存在だ。ジャブローのモグラこと保守派の主張は、軍縮しその分を経済に投資してそれにより、民力回復を図るといった真っ当なものである。彼らが主張するように、ジムでジオン残党は片付けられるし、このまま大きな事件が起こらなければ新型MSは必要ないかもしれない。経済力を回復し、コストパフォーマンスに優れるジムシリーズで軍を構成し、経済を良くする。経済が良くなれば怨恨も減り戦争は起きないといった考えだ。
何も起こらなければ、保守派の考えで問題はないだろう。その何かを起こそうとしているのが私たちルサルカ隊なのだ……
スペースノイドが大嫌いなレイシストで、軍拡して強化人間と新型MSで宇宙人共を抑え込もうというのがグレイヴ派だ。
グローブ事件を切っ掛けに粛清されたが、まだ軍内には影響力を残している。ちなみに、保守派と思われていたジャミトフ准将もこちらに加わりそうである。思想が強いくせに、ジオンの行動のせいでそこそこ支持されている。
コーウェン派は、差別には反対だが、ジムだとこころもとない。抑止力は必要であり、現状維持だけでは不十分であるといった派閥だ。おそらく正しい選択肢なのだが、人気がない。中途半端で、大衆には支持されていない。軍内部にはそれなりに支持者はいる。
保守派は、軍縮してそのお金で経済を回し、戦争で負った傷から人々を回復させようと考えている派閥だ。貧すれば鈍するということが分かっているようで、とにかく経済を優先している。民衆からも人気のある派閥だ。連邦政府がこの路線を採択している。
他にも大小、様々な派閥があるのだが、この3派閥が特に大きい。特徴を列挙してみるとグレイヴ派がかなり過激だ。連邦軍の健全化のために、こいつらを軍から完全に追放した方が良いと思う。私もグレイヴ派の末席なのが問題だけれど。
さて、トリントン基地の話題に戻ろう。コーウェン派は他派閥に比べて規模が小さいのだ。グレイヴ派が露骨に妨害し、保守派もやんわりと足を引っ張ってくる。そのような状況では、トリントン基地の防備が薄くなるのも仕方がないだろう。
コムサイも、すんなりと地球に降りられてしまった。連邦軍の警戒システムに引っ掛かっているはずだが、追手が来ていない。グレイヴ派か保守派が、見て見ぬふりをしたのだろう。
「おっ。始まった」
ジムスナイパーⅡのものを流用したロングレンジ・ビームライフルのスコープを覗き込む。
ガトー少佐がパクった二号機を阻むように、一号機が突っ立っている。しかし、一号機が棒立ちすぎる。私の位置取りが良かったため、簡単に狙えてしまう。
「ファイエル」
ロングレンジ・ビームライフルを撃つ。コクピットを狙ったのだが外してしまった。結果としては、ガンダム一号機の脚が融けた。
ガトー少佐は華麗に逃げ出した。ソロモンの時もそうだが、こいつ逃げるのだけは得意だよな。流石、現実から逃げてデラーズ・フリートをしているだけはある。
自分の思考で、将来に対するぼんやりした不安が発生したため、ロングレンジ・ビームライフルを捨てビーム・マシンガンに持ち替えた。
「ひよっ子でもMSに乗る以上、殺される覚悟は有るんですよね?」
「なんで、戦争は終わったのに!?」
「平和っていうのは、次の戦争までの猶予期間ですからね!! 遺言は以上で良いんですか? つまらないですね」
後ろからジムが襲ってきたが、見え見えである。後ろ手に持ち替えたビーム・マシンガンで蜂の巣にする。
「バニング大尉ィ!! うぉぉぉっ、動け! 動けよガンダム! キース!! 逃げろ!」
「コウ! お前こそ!」
脚の吹っ飛んだ一号機と、腕をもがれた鹵獲ザクで庇いあう麗しい友情をぶち壊したかったが、時間がそれを許さなかった。
アルビオンにビームを連射して推進系にダメージを与えると、私はコムサイに戻った。
核弾頭も二号機も丸っと無事だった。そして特に妨害もなく茨の園に戻れてしまった。そのうちガトーが、ソロモンの観艦式で核弾頭をぶっ放すらしい。
それまでは、暗躍タイムだ。しかし、ルサルカ隊が暗躍するとシーマ艦隊と微妙にバッティングする。
貴方がシーマ・ガラハウ中佐ですか? と聞かれた時には取引相手をぶっ殺しそうになった。私はまだ二十代だぞ! 年増のババアに間違えやがって……
最近の私のマイブームは、茨の園の食堂のメニューを片っ端から食べることである。だってなくなる場所だよ。限定という言葉に弱い。
強化人間ズにパフェを奢っていると、保護者が出てきた。サラは、子供が好きなのでフォレスタルの頃からクロエとタリアの世話をしている。ここにいるということは、彼女も犯罪者なのだが、比較的まともだ。
「ジェーン大尉、どうしていつも彼女たちにパフェを奢るんですか?」
「子供って甘いもの好きでしょ? それに強化人間だし」
「強化人間だからということは無いでしょう……それを言ったら貴女も、いえ、失言でした」
「ん……???」
シリアスな空気が流れているが、多分、サラ軍曹は勘違いをしている。私は強化されてないぞ!! 元々これなんだよ……
ちょっと不安になったので、自室のバスルームで裸になり、全身をくまなく見てみたが、手術痕などはなかった。
「落ち着け。私は強化されてないはず……元々こんな感じだったはず……」
ムラサメ研で目覚めた時に、研究員が手をワキワキさせていたが、弄られてはないと思いたい。しかし、心当たりが全くないとは言えない。処刑されかけてから、何故か少し肌が弱くなったのだ。元々、そんなに肌が強い方ではなかったし、綿の下着を愛好してきたのだが、もっと美肌だった気がする。
「というわけで、ムラサメ研が私を強化したんじゃないかと思っているんだ!」
「は〜アホくさ。ただの老化でしょ。シーマ・ガラハウに間違えられたアラサー女が何を言ってんのよ」
「うるさいぞホス狂い。三十路は黙ってろ」
「ハァ!? 私まだ29なんですけど!」
ミリ艦長に悩みを打ち明けたら馬鹿にされた。誰がシーマ・ガラハウだよ……あんなババアと私は違う。
「お前の方がシーマだろ。ザンジバル級の艦長」
「虐殺に手を染めたB級戦犯で、ジオンの部隊長なんでしょ。ねぇ、ジェーン大尉。ファミリーネームはガラハウだっけ?」
「うざ。あんな女と一緒にされたくないね」
ルサルカ隊と、シーマ艦隊は似たもの同士と言える。指揮官は両方とも女で、スペースノイドを虐殺したB級戦犯。旗艦はザンジバル級。有力なMS隊を持っており、どちらも連邦と通じている。
「シーマ、邪魔だな。殺すか」
「え? 私がからかったから?」
「あっちは、ワイアット大将や保守派と内通している。こっちはグレイヴ派だ。やりたいことが違う。障害は少ない方が良い」
第364パトロール艦隊と接触し、砲撃戦を行ったが幸運なことに両者に被害はなかった。いや〜不思議だな〜。そして、何故か私の手元にはシーマ艦隊と連邦が接触している証拠が! 不思議だな〜。
デラーズ閣下のグワデンと、シーマ艦隊の旗艦であるリリー・マルレーンが会合をしている。ここで、シーマ艦隊を正式にデラーズ・フリートに加えようという話し合いがされるらしい。
ルサルカ隊のユリシーズが、遠距離からメガ粒子砲でリリー・マルレーンを狙っているが、グワデンが邪魔だという。グワデンごと撃ったら面白いだろうなと思ったがそうはいかない。
会合は終了したらしい。リリー・マルレーンの周囲に控えていた護衛機が、ガイドビーコンに従って収容されていく。ガイドビーコンなんか出しちゃってさぁ。
うちのガルバルディ3機とゲルググ4機はガイドビーコンなしでも収容出来る程度には鍛えている。
「デラーズ閣下を裏切る獅子身中の虫がッ! 沈め!」
「話が違う! 裏切ったかデラーズ! 収容中止! ゲルググを出せ!」
グワデンの主砲でリリー・マルレーンが半壊する。慌てて出てきたゲルググも、強化人間ズが片付けている。
シーマの乗機であろうゲルググ・マリーネが乱数回避を続けているが、既に帰趨は決している。
「誰がシーマ・ガラハウだよ!! 私はまだ二十代だ! 死ねぇ!!」
「くっ! 何の話だい!? よくもアタシの艦隊を!!」
ガルバルディの方が機体性能が高い。それに加えて、操縦者の腕も違う。私の方が上だ。
「私の肌はまだシーマじゃない!!」
「このッ、小娘が」
武器を失ったゲルググが、逃げに転じた。捕虜にしようか迷う。後々面倒になりそうだが、利用価値は有るのだ。
「なぜ!? なぜアタシがッ!?」
「黙れ、裏切り者! ジーク・ジオンッ!!」
実はシーマとの会合前にデラーズ閣下に、シーマが裏切り者であるという証拠を提示していたのだ。その時の閣下は、かなり動揺していた。証拠の真偽を確認し終えると、デラーズは落胆していた。
証拠をどのように手に入れたのか、尋ねてきたが、かつてのキシリア機関による影響力の成果だと強調した。ペズン計画はキシリア派の計画なので、ギレン派であるデラーズにはよく分からないはずだ。
これも全部キシリア機関の残党ってやつの仕業なんだ。キシリア機関の残党ってスゲーって言っていたら、それもそうかとデラーズは納得した。納得してしまった。
デラーズ・フリートの身内に私以外の裏切り者がいなくなったので、計画は順調に進むはずだ。ルサルカ隊は、グレイヴ派の狗なので、上の計画が変わらない限りコロニー落としのサポートをする手筈になっている。
つまり、実質的にはデラーズ・フリートである。上が唐突にデラーズを殺せとか、コロニー落とすなとか言わない限りはジオン残党ごっこをしていられるのだ。
「お前は誰だ? シーマはどうした?」
「は? 私がシーマ・ガラハウなんだが? 殺すぞ!」
「何を言っているんだ?」
結局、生け捕りにしたシーマを拷問に掛けたら色々喋ってくれた。助かったよ。流石はグローブ虐殺組。手慣れている。
オサリバン常務に、GP04を寄越せと言っているのだが彼は錯乱しているようで、話を聞いてもらえない。私は、彼にシーマ・ガラハウしか知らない回線からコンタクトを取った。このことから、私がシーマ・ガラハウである。もしくはその代理人であることは明らかだというのに…!
「私は、虐殺事件の犯人で、B級戦犯で、ザンジバル級が旗艦で、優秀な部隊指揮官で、MSにも乗るし美人だぞ! 私が私をシーマ・ガラハウだと言っているんだ。そういうことですよ。理解しました?」
「……」
切りやがった。アナハイムのオサリバン常務に通信を切断されたので乗り込むことにした。
シーマ中佐は無事だ。顔や人に見られる部分は綺麗な状態のままである。チョーカーを首に巻いているが問題はない。普通のものだ。シーマ様は何故か、遠隔で爆発するものだと信じているようだ。
「やめてください。アタシが悪かった、です。部下は関係ないんです。お願いします……」
「それはシーマ様の頑張り次第ですよ。頑張ってくださいねシーマ様!」
オサリバン常務は、シーマ様と私の顔を見るとギョッとした表情になった。
「何のことだ? 何を言っているか分からないな。シーマ・ガラハウ? 初めて聞いた名前だな」
「オサリバン! 貴様! このシーマを裏切ろうって言うのかい! アタシの顔を知らないとは言わせないよ!」
「知らないと言っている。警備員、コイツらをつまみ出せ!」
オサリバン常務との交渉は決裂した。取り付く島もない。完膚なきまでに決裂した。シーマ様、言ったよね! 交渉は上手くいくって! もう良いよ。私、交渉やめる!
「全然ダメじゃねーか! シーマ様よぉ、全然役に立たねぇなぁ! お前も部下も、使えねぇ。もう良いよ。私の部下の遊び道具になってもらうわ。アイツら綺麗な顔を殴れないって嘆いてたからなぁ!」
シーマ様とシーマ艦隊にいた女の子が、部下のペットになっていたが、そこら辺は私の責任じゃない。なんか、アイツらが生ゴミを宇宙に捨ててからシーマ様を見ていないけど、知らないなぁ。