【完結】TS連邦士官ちゃんは、人殺しがやめられない!   作:むにゃ枕

12 / 20
12.星の屑

 エギーユ・デラーズの演説が地球圏に響き渡る。電波ジャックによって流された宣戦布告は、地球連邦政府に大きな衝撃を与えた。しかし、単に衝撃を与えただけだった。

 テロリストが核弾頭をたった一発手に入れただけである。これにより、地球連邦軍が敗北し、政府が瓦解するということは全く考えられなかった。

 

 連邦軍および政府の主流派である保守派は、中道寄りの革新派であるコーウェン派を追い落とすに丁度よい口実が出来たと思っただろう。

 この事態は重大とは認識されていたが、危機的であるとは認識されなかった。更に連邦政府の存続に関わる事態であるとも認識されていなかった。

 

 コーウェンの肝入で建造されたアルビオンは、この演説の後にようやく宇宙へ上がった。コーウェン派の将校が、各自で艦を動かしてはいるものの、目立った成果がなかった。

 アルビオンが宇宙へ上がれなかったのには理由がある。オーストラリアのトリントン基地において、ジオン残党と思われるテロリストに襲撃され、推進系に重大なダメージを負ってしまったのだ。

 

 アルビオンMS隊の隊長と見込まれていたサウス・バニング大尉は戦死した。トリントン基地において生き残ったMSパイロットは、コウ・ウラキとチャック・キースのみだった。ガンダム一号機の脚部は破損しており、予備部品であったジムの下半身を着けている有様だった。

 元不死身の第四小隊を構成していたパイロットと、ジム・カスタムなどのMSを受領し、修理を何とか終えることは出来た。しかし、アルビオンの内情は烏合の衆だった。

 

「ジェーン、本当にアルビオンってのは重要なの?」

「とても重要だとも。沈めておいた方が後々楽になる」

「で、いつ来るの?」

「さあ? トリントンから宇宙へ上がるならこの宙路を通るはずだけど……」

「つまり、時期は分からないと。もう2日経ったわ! 全然、来ないじゃない!! 連邦軍に見つかったら面倒なんだから! もう諦めなさい!」

 

 ルサルカ隊を乗せたユリシーズは、地球軌道艦隊のパトロール経路からは離れた航宙路で、アルビオンを待ち伏せしていた。2日間待ち伏せているのだが、サラミスの1隻も来る気配がない。

 スパイであるブラウエンジェルも二日前に連絡を寄越したきりだ。ブラウエンジェルが裏切ったかもしれない。もしくは、拘束されたか。このまま待ち伏せを続けていたら、連邦軌道艦隊と接触してしまう。そうなったらマズイ。残念だが、茨の園へ撤退しなければならない。

 

「は??? ガトー少佐、今、なんと? アルビオンがガンダム3号機を受領した??」

「AE社の内部からの情報だ。情報の確度は高い」

 

 茨の園に戻り、デラーズ閣下に報告をする。その時、ガトー少佐から衝撃の事実を伝えられた。

 

 あり得ない。本来ならばGP03は、ドック艦であるラビアンローズにあるはずなのだ。アルビオン隊が強奪することで、手に入れるのだ。

 ソロモン攻撃を前に、アルビオンに強力な戦力が渡ってしまったのだが、これはどういうことなのだろうか。

 

 聞くところによると、オサリバン常務の態度が変化し、社内力学が変化したため、アルビオンにGP03をすんなり引き渡せたそうだ。

 私のせいだな。これは。ちょっと責任を感じる。しかし、最後にオサリバン常務に接触したのは記録上ではシーマ・ガラハウということになっているはずだ。デラーズにバレても問題はない。

 

 モノアイよりツインアイの方がカッコいいので、ガンダムタイプが欲しい。特にGP04が欲しい。しかし交渉材料がない。月にコロニーを落とすと脅す。それくらいしか考えられなかった。

 色々と考える。それでも、結論は出ない。ガルバルディも悪い機体では無いのだ。無いものねだりをしていても仕方ない。仕方ないが、欲しいものは欲しい。

 

 ということで、通信回線でグレイヴ閣下に相談した。私は、報連相のできる人間なのだ。グレイヴ閣下は、名案を思いついたらしい。後で命令書を送ってくださるという。

 

 連邦軍は予定通りソロモンで観艦式を行うようだ。私は、デラーズ閣下から貰ったムサイを連れて、コロニージャックに向かった。二正面作戦を仕掛けるのだ。

 グレイヴ閣下は正気を多少取り戻したようで、コロニーをジャブローに落とすことは中止した。代わりにデラーズの案に賛成し、北米の穀倉地帯を潰すという。

 

 デラーズ・フリートの襲撃部隊がコロニーへと向かっていく。私の艦隊は輸送中のコロニーを乗っ取りに行くのだ。

 健闘を祈るとの発光信号が送られて、思わずニヤついてしまう。

 

 コロニージャックは簡単に成功した。輸送中のコロニーを強奪するような人間はいないと考えたのだろう。コロニーの進路は月面都市フォン・ブラウンだ。

 

 これが、フォン・ブラウンに落下すればそれはそれで良い。ジオン、ひいてはスペースノイドの脅威を訴えることが出来、グレイヴ閣下の目的は達成できる。

 

 オサリバン常務が、自分可愛さに推進レーザーをコロニーに撃った場合、コロニーは地球に落下する。デラーズの目標は、北米の穀倉地帯であり、それはグレイヴ閣下も了解している。地球にコロニーが落下した場合、フォン・ブラウンにコロニーが落下するよりも、より強力なメッセージを発することが出来るだろう。それは、グレイヴ閣下の権力の拡大に繋がる。

 

「ガトー少佐が戦死? 星の屑が失敗だと? 本当か?」

 

 旧ソロモン、現コンペイトウで連邦軍は観艦式を行っていた。それに対する核攻撃を行う。それが、ガトーらの目的だった。だが、それが失敗したという。

 目の前が真っ暗になった。死の恐怖がよぎってきた。

 

「落ち着け。落ち着け。落ち着け。大丈夫だ。私は。大丈夫なんだ。大丈夫だ」

 

 過呼吸になりそうになった。グレイヴ閣下から渡された鎮静剤を飲み込む。

 

「うぇ、苦っ」

 

 思わず、吐き出しそうになる。セックスの時に飲んでいたハッピーになれる薬は甘くて好きだったのに、こっちは苦いから嫌いだ。

 最近、たのしい気分になれるドラッグを飲んでいない。だからか、精神的に苦しい。

 

 鏡に映る自分の顔も、まるっきり他人で気持ちが悪くなる。鏡の中の他人の首を絞める。そいつは嬉しそうな顔をしていた。こいつは誰だ?

 

「誰だよお前!? 誰なんだよ?」

 

 他人を殺すのは好きだが、自分が痛い思いはしたくない。しかし、鏡に映る私は他人だった。自己同一性の崩壊だ。ジェーン・ドゥ(身元不明死体)なんてふざけている。私は、安全圏から一方的に人殺しをしたかっただけなのに。私という存在が揺らいできている。

 元の私の名前は、なんだっけ? 思い出せない。記憶に靄がかかっている。私は私だ。名前が、私には名前があったはずだ。ジェーン・ドゥなんて名前じゃなかったはずなのに。この顔が、顔が違う。私ってなんだ?

 

「うぅぅぅ。頭が痛いぃぃ。ぁー。くすり。飲まないと」

 

 指示されている用量よりも、多く錠剤を飲み込む。それでようやく落ち着いた。

 

「命令を果たさないと。グレイヴ閣下の命令は絶対だから」

 

 とにかく、グレイヴ閣下の命令には従うべきだ。送られてきた命令書を開く。満面の笑みを浮かべてしまった。これは、素晴らしい。ようやく、私を取り戻せる。

 

 命令書にあったようにコロニーに細工をするよう指示をする。予定通りならそろそろ、連邦軍の艦艇が現れるはずだ。

 

「ジェーン大尉、敵艦です!」

「私のガルバルディを出せ。他の連中は不要だ。ジェーン・ドゥ、ガルバルディ出る!」

 

 さようなら、私。

 

 

 

 時間は少し遡る。

 

 デラーズ・フリートはアクシズより支援物資を受け取っていた。その中には大型MA、ノイエ・ジールの姿も有った。また、ノイエ・ジールの前身となったビグ・ラング突撃型も有った。

 Iフィールドを装備したラングに核を搭載したGP02を内包し、ソロモンの警戒網を突破する。それが、ガトーらの出した結論だった。

 

 ノイエ・ジールはコロニー落としの際に使用し、ガトーが戻らなければジェーン・ドゥ大尉が搭乗する。そういう予定が立てられた。

 

「いやはや、バカげた大きさに推力だ」

「ガトー少佐、こんな大型機を乗りこなすとは流石です。やはりエースは違いますな」

 

 護衛のドラッツェのパイロットが、ガトーに気さくに声を掛ける。死地に突入するというのに、彼の声は弾んでいた。ガトーの頬も無意識に緩んでいた。それに気付き、頬を引き締める。

 ソロモンの外縁部では、志を共にする戦友が、ジオンという灯を後世に残すために奮闘しているのだ。緩んだ気持ちではいられない。

 

「懐かしいな。ソロモン。散った英雄たちよ」

「彼岸までお供します。少佐」

 

 護衛のドラッツェが、敵の防衛装置やMSによって、1機、また1機と減っていく。

 

「ご武運をッ! ご一緒できて光栄でした。ジーク・ジオンッッ!」

 

 また1人、同志が還った。それでも、ガトーは止まらない。ジオニズムの実現という未来を、連邦政府に奪われるわけにはいかないのだ。

 

「あと一層だ。そこを破れば中枢へ辿り着く」

 

 巨大な影が2つ、防衛線に浮かんでいた。巨石のようなその姿に、ガトーは歯噛みする。内通者のもたらしたソロモンの防衛線データでは、ここに小要塞はなかったのだ。

 溢れんばかりのビームと、ミサイル。各種実弾がガトーのラングを襲った。それが要塞ではないことを、ガトーはようやく理解した。

 

「ッ、あれはビグ・ザム、おのれ、ドズル閣下の死をも愚弄するのか、連邦軍!」

「ガトーッッ!!」

「なんだお前は??」

 

 もう一機の巨大MAをガトーは全く知らなかった。そして、そのパイロットに恨まれる心当たりもなかった。大方、自身の悪名でも聞いたのだろう。

 

「うん? ああ、話に聞いていたGP03か。デカいだけだな……パイロットの技量が全く伴っていない」

 

 ガトーはラングを切り離し、GP02を加速させる。強烈な加速がガトーをシートに打ち付けるが、高揚しているガトーにとってはそれさえも快感だった。

 

 ラングの自爆に巻き込まれた鈍重なMA2機には、咄嗟に打つ手がなかった。一瞬の間隙が、連邦軍艦隊を星の屑に変えようとしていた。

 

「ソロモンよ、私は帰ってきた!」

 

 ガトーは高らかに宣言し、核のトリガーを引いた。バズーカから核弾頭が発射される。バーミンガムを狙ったそれは、観艦式に出場した連邦軍艦隊を壊滅させるはずだった。そう。本来ならば。

 

 白い稲妻が、ガトーの撃ち出した核を撃ち落とす。ソレが放った次弾は、GP02を一瞬で高価なデブリに変えてしまった。アナベル・ガトーという男は、ソロモンで散った英霊の仲間入りを果たした。

 

「試験機で警戒任務に当たれなんて、父さんも人使いが荒いな。だけど、間に合って良かった」

 

 プロペラントタンクを増設したフルアーマー・ガンダムのアムロ・レイ中尉は、ワイアット大将の乗艦であるバーミンガムに敬礼し、流星のように去っていった。

 

「流石は特級のエースパイロットだ。彼に救われたな」

 

 バーミンガムのブリッジクルーに、ワイアットはそうこぼした。

 

「デラーズ艦隊を粉砕する! バーミンガム! 機関全速!」

 

 アムロ・レイが撃ち落とした核弾頭は、観艦式のため球状に展開していた連邦艦隊の上方で炸裂した。連邦艦隊の20%が轟沈、もしくは大破したが、バーミンガムをはじめとする艦艇は無傷だった。

 

 アムロがここにいるのには理由がある。彼は、ソロモンでテストパイロットをしていた。父親であるテム・レイが人質、もしくはストッパーとして働くと判断したワイアットらの計らいだった。

 一部の保守派は、元ホワイトベースクルーを危険視していたが、ワイアットはタカ派であり、同調しなかった。保守派と少しばかりの縺れを生んでも、アムロというカードを保持しておくことが重要であると認識していたのだ。

 

 たった二撃。それだけで、アムロはワイアットの生命と連邦艦隊の危機を救った。ワイアットが、アムロを取り立てたのは、紛れもない慧眼であった。

 

「ニュータイプ、強化人間か。そのような存在など、戦場伝説の類いだと思っていたが、命を救われたとなると考えを改めなければならないな」

 

 悪名高いグレイヴ派が、人体実験を繰り返し、そういった存在を生み出そうとしていることは、ワイアットも知っていた。一部が既に実用化されているとまでは、彼の耳には入って来てはいない。

 MSが戦争の主役となったように、戦後の戦争の主役が強化人間やニュータイプになるということを、ようやくワイアットは認識した。

 

「嫌な時代が迫っているな。レイ中尉は、本当に良い拾い物だった」

 

 副官に用意させた紅茶に手をつける。だが、その香りすら、ワイアットの気分を明るくするには不十分だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。