【完結】TS連邦士官ちゃんは、人殺しがやめられない! 作:むにゃ枕
サイド3に駐屯しているロンド・ベル。その駐屯本部に客が来た。秘密裏に訪れたその男の名は、アクシズからの使者クワトロ・バジーナだった。
「クワトロ・バジーナだと? お前はシャア・アズナブルだろう。自首でもしにきたのか?」
「単刀直入に言う。協力したい。我がアクシズの兵力と技術をロンド・ベルへ提供する。ティターンズは強力な組織だが一つ欠陥がある。アレキサンドリア隊だ。アレが存在する以上、連邦政府とスペースノイドの共存などない。我々には協力できる余地が有るのではないか?」
ブライトは目眩がした。目の前の男は何も分かっていない。ロンド・ベルは有力な組織であるが、それはアースノイドの支持があってこそのものだ。アクシズのようなテロ組織と組んだと知れれば、アレキサンドリア隊により粛清されるだろう。奴らは法の隙間を突くのが得意なのだ。ロンド・ベル隊は清廉潔白で居続けなければならない。
「アムロ、どう思う?」
「決まっている。論外だ。相変わらずだな。シャア」
「バカな!? 貴様らは選択を誤ったぞ! グレイヴ派を打破するためにはロンド・ベルだけでは戦力が不足するはずだ! このアクシズが、協力すると言っているのだぞ! ティターンズの増長を許せば、スペースノイドには未来がない! アムロ、お前には分かるだろう!」
「ロンド・ベルは、ティターンズの内部からグレイヴ派を掣肘してきた。奴らは危険だ。それは認めよう。だが、連邦軍の他派閥を裏切ってまで貴様らアクシズとは協力しない」
シャアは、机を殴った。
「何故分からん!? サイド3で虐殺事件を起こし、条約を破りアクシズ艦隊を全滅させた奴らだぞ! 主導権を渡せばスペースノイドに、人類に未来は無い!」
ブライトとアムロは、溜め息を吐いた。
「コロニーに毒ガスを注入し、それを地球に落としアースノイドとスペースノイド双方を虐殺した。勿論、国際法違反だ。条約違反の虐殺だ。それを行ったのがジオンだ。アクシズはそのジオンの末裔だ。アクシズを信頼することはできない」
「我々アクシズは、ジオンとは違う!」
「アムロ、もう良いだろう。安心しろ。我々は、ジオンともグレイヴ派とも違う。すぐに貴様を銃殺したりはしない」
「アムロ・レイ! 貴様となら
「死んだ女にいつまで取り憑かれている! ハマーンはどうした? お前はハマーンをきちんと見たのか…?」
「黙れ…! ハマーンは違う! あの子は違う! ハマーンは純粋な子供だ。彼女は私を導いてくれなかった。私に頼るばかりで、とにかくあの子は違うんだ」
「……はぁ……もういい、話すことはない。衛兵、捕らえろ」
アクシズは、サイド3内部にMSを配置し交渉決裂に備えていたようだが、それらは今頃ベル・ベリングとその配下に蹂躙されているだろう。あの女は異常に敵を捉える能力が高い。会談途中に、アレキサンドリア隊のMS部隊がサイド3に侵入したとの報告があったのだ。おそらくベリング隊だ。
クワトロ・バジーナを名乗った男は衛兵を人質にとり抵抗し、味方を待っていたが、誰一人として彼を助ける者はいなかった。味方の全滅を悟ったのか、抵抗をやめ散々顔を腫らし留置所に移送されていった。
「ねぇ! シャアが帰って来ないんだけど! ロンド・ベルを説得してくるってサイド3に行ったきりで帰ってこないわ! これって浮気じゃない!?」
「恐らく違います。ハマーン様。シャアは捕まったのではないかと……」
「はぁ? なんでよ? だって絶対に説得してくるって言ってたのよ!」
ツインテールでゴスロリ姿の女の子然としたハマーン・カーンがシャアの行方について、腹心のナタリー・ビアンキと話をしていた。
ナタリーは、シャアと肉体関係を持っているが、ハマーンは許している。ハマーンが第1夫人で、ナタリーは第2夫人だ。良い妻の条件とは度量が広いことなのである。
赤い彗星の二つ名を持つエースにして、ジオンの英雄シャア・アズナブル。そんな彼がバブ味を求めてきたことは、ハマーンの脳裏に強烈に焼き付いている。
書類の山の中で、アムロ・レイに怯え、ララァ・スンという女性にシャアは助けを求めていた。
寝惚けた彼が、ハマーンに、導いてくれるのか? と抱きつき甘えてきたのだ!
ハマーンにとって、シャアは憧れの人ではあった。しかし、その日から完全に恋愛対象へと変化した。
ハマーン・カーンはシャア・アズナブルとの赤ちゃんプレイすら許容しようと覚悟したのである。オムツやおしゃぶりを用意したハマーンを見て、シャアの表情は抜け落ちていた。
ハマーンは自身の誤解にようやく気が付いた。だって、甘えたいって伝わってきたから……責任感のある人だから、赤ちゃんに戻りたいのかなって……そう、言い訳したが、しばらく、ハマーンはシャアから避けられた。
サイド3で虐殺事件が発生したため、ハマーンとシャアはずっとアクシズにいた。そのため、カーン派の権力基盤は安定し内乱は発生しなかった。単純接触効果で、シャアはハマーンに心を許すようになっていった。
ハマーンは押しに押した。シャアが渋面を作るのを見て見ぬふりをし、好意を押し付けまくった。
サイド3だったり、反連邦軍組織のような、シャアが逃亡するような場所は無い。ティターンズに全て潰されてしまった。
シャア・アズナブルに残された選択肢は二つ。アクシズから逃げ、ティターンズに追われる身となるか。ハマーンの熱烈なアタックに屈するかだ。
周囲はハマーンとシャアが結婚することを暗に勧めている。反カーン派への睨みを利かせるという意味も有るが、純粋な少女であるハマーンの真っ直ぐさに心を打たれてのものだった。
アクシズからの逃亡も、ハマーンとの結婚もシャアは選ばなかった。彼が選んだのは、第三の道である。
ハマーンの親友でもあり、アクシズ屈指の技術者ナタリー・ビアンキとの交際だ。シャアはハマーンが来ることを理解していながら、裸のままのナタリーとベッドにいた。
シャアの寝室のドアを開けたハマーン。気丈な彼女でも親友と想い人がデキていた現場を見せられては、硬直することしか出来なかった。
親友のナタリーが、裸でシャアとベッドにいたのを目撃した時は全身を殺意が巡った。しかし、ハマーンは留まった。
シャアには自分だけを愛してほしいが、ベッドに乱入し無理やり一緒に寝たときも(シャアは手を出して来なかった)、アムロという男と、ララァという女のことばかり寝言で呟いていた。自分だけでは、シャアの傷を癒せないと分かったハマーンは、ナタリーだけならばと、恋人をもう1人作ることを認めたのだ。
シャアは狼狽した。親友が裸でベッドにいることを目撃したのに、ハマーンの攻勢は止まらなかった。それどころか、2人でシャアを支えると言う始末だ。
ナタリーも罪悪感から、ハマーンを擁護していた。シャア・アズナブルは折れた。ハマーンは、彼の好みではないが、自分のことを想う無邪気さをこれ以上無碍にすることが出来なかった。
シャアと、ハマーンそしてナタリー。新郎1名に新婦2名の奇妙な結婚式は盛大に行われた。
ナタリーは、彼の子供をもうけている。ハマーンはまだだ。けれど、子供が欲しいとは思っている。
ハマーンはシャアがいるならば、ずっとアステロイド・ベルトでの生活で構わなかった。しかし、シャアが嫌だと言うからアクシズを動かしたのだ。
ジオン共和国とロンド・ベルを説得すると息巻いていたが、結果としてシャアは捕まってしまった。
「もう! どうするのよ! シャアのバカ! 騎士団を動かして、私もキュベレイで出るわ! 非戦闘員とミネバ様は、降りてるわね? ナタリー、貴女もアクシズから離れなさい。もしかしたら戦争になるかもしれないから……」
アクシズは、ロンド・ベルとジオン共和国軍の立ち会いのもと非戦闘員を降ろしている。厳重なチェックが行われるが、ロンド・ベルの風評を信じ、無体なことはしないと信頼しての行いだった。
これが、ロンド・ベル以外のティターンズ部隊であったら、非戦闘員は処刑されていたかもしれない。特に悪名高いバスク・オムとベル・ベリングの率いるアインザッツグルッペン。奴らなら、確実に全員を殺している。
「今度は何だ!?」
「ハマーン・カーンが会合を求めてきています! なんでも、夫が家出したので捜索して欲しいと……?」
「なんなんだ! ジオンの連中は!」
ブライトは、発狂しそうだった。
バスク・オムとベル・ベリングが、ジオン共和国に圧力を掛け、マハルコロニーを強奪し、コロニーレーザーに改造していたこと。これは、いつもの奴らのやり口だ。だが、重要な対処すべき問題である。
ジオン共和国側がアクシズに内通し、シャア・アズナブルやその麾下のMSを国内に入れたこと。これも重大な問題だ。
ベリング隊が、コロニーに乱入しエア漏れを発生させながらも、敵MSを仕留めたことも、面倒な問題となっている。
夫が家出した? アクシズ側は巫山戯ているのか? 会合を求めるにしてももっとマシな理由が有るだろう! バカにするのにも程がある! ロンド・ベルはわざわざアクシズの非戦闘員を保護しているのだ! 舐めた口をきかれる覚えは無かった。
アクシズの求めに応じ、地球連邦軍との会合が行われることとなった。連邦軍の出席者は、ティターンズ会議のメンバーに加え、ジオン共和国と、一般連邦軍部隊の指揮官だ。
「はじめまして! ハマーン・カーンよ! よろしくね! いきなりだけど、シャアがそっちに伺ってないかしら? あの人、バカなのよ。浮気するし、食べ物にうるさいし、政治の話ばっかりしてるわ! だから、ジオン共和国とロンド・ベルに、交渉しに行くって言って戻ってきてないのよ! 事故に巻き込まれていたら大変だわ! 探さなきゃ!」
ゴスロリに身を包んだハマーン・カーンの、あっけらかんとした主張に、連邦軍の出席者はほとんど全員が呆気に取られていた。あのバスク・オムでさえ、間抜け面を晒していた。唯一、ベル・ベリングだけが苦々しい顔をしていた。
「ねぇ、あなたジオン共和国の偉い人でしょ!? うちのシャアを知らないかしら?」
「ははは……存じ上げませんなぁ」
ジオン共和国首相は、ポーカーフェイスでハマーンを逸らす。
「嘘つきね。知っているじゃない。シャアと会っているわね。アクシズ勝利時の安全保障なんて頼んだの? 場合によっては味方を裏切るつもりだったのね」
「なっ、なんのことだか? ははは、いや、これは全く……」
連邦軍関係者から首相は睨まれていた。
「ロンド・ベルのブライト・ノア大佐だ。クワトロ・バジーナという人物なら拘束している。彼が、シャア・アズナブルではないかな?」
「多分、そうね。そのバカを返してくれないかしら? 旦那なの」
「クワトロは、我々の兵士を人質とし暴力を振るった。刑罰が下されるはずだ。場合によっては、死刑かもしれない」
「そんな……出来ることは何でもするわ」
バスク・オムが言葉尻を捉え、発言する。
「ほう。ならば、アクシズの武装解除と無条件降伏でも良いのかな?」
「ええ。武装解除も降伏についても、貴方みたいな愚連隊以外にならしても良いのよ。勿論、条件については考えたいけれど」
ハマーンの発言に、議場がざわつく。アクシズとは力をもっての決着しか考えられていなかった。そのため、彼女の発言は、衝撃を伴った。
「バカな……恨みはないのか?」
「有るっちゃ有るけど、そんなことって明日のご飯よりも重要なの? アクシズは困窮しているわ。貧しい民は、その日暮らしがやっとなの。私たちは、自分たちを守るためには命を賭してまで戦うけれど、交渉できるなら交渉するべきよ。命はなくなったらお終いなんだから」
「ふざけるな! コロニーに毒ガスをばらまき、地球にコロニーを落とし、人類の半分を殺したお前たちがそんなことを言うのか! 俺の妻と子は貴様らに殺されたんだぞ!」
ハマーンの言葉に、連邦軍部隊の指揮官が激昂する。
「辛かったわね。でも、まだ未来に希望を持っているんでしょう。だから軍に残った。バスクに迎合せず、銃後を守るために戦っている。あなたの働きで、命を奪われなかった人はきっといる。
私たちは、未来を見るべきよ。ブライト・ノア、貴方を信じます。ハマーン・カーン麾下のアクシズ艦隊はロンド・ベルに降伏し、武装解除を受け入れます。マシュマー、リストを出しなさい」
ハマーンの腹心であろう、薔薇をタバコのように咥えた男が、アクシズの兵員リストを提示した。
「私に賛同してくれた軍人は少ないわ。でも、これだけの人が未来を見てくれたのは、とても嬉しい」
軍人にとって最も屈辱である降伏を、すんなりと受け入れたハマーン・カーンのお花畑ぶりは、アクシズにとって最も幸福な選択肢だった。
なぜなら、戦いを選んだ者には、軍内から蔑まれるベル・ベリングとその麾下の部隊が、舌舐めずりをして待っているのだから。