【完結】TS連邦士官ちゃんは、人殺しがやめられない! 作:むにゃ枕
ハマーン・カーンの乗機を見たときから、私は何か取り返しのつかない失敗をしてしまったのだと悟った。
ハマーンの乗機はピンク色に塗装され、少女趣味なハートマークで可愛らしくラッピングされていた。女子高生のスマホじゃん! しかも、彼女が会談への足として使ったチベ級もピンク色だった……
護衛機も白いキュベレイに深紅の薔薇のデカールを入れている。センスがヤンキーなんだよ! こっちは戦争をやってるんだぞ! ふざけてんのか!
会談に現れたハマーン・カーンは黒いゴスロリ衣装に身を包み、桃色の髪をツインテールに纏め、メイクをバチバチにキメていた。可愛いけど、軍人や政治家がする格好じゃ無いだろ。
私が迎撃したサイド3政府が招き入れたアクシズのMSは、ミリタリーカラーだった。ピンク色でもなければ、ふざけたデカールを貼ってもいなかった。
そして、あれよあれよと言う間に、ハマーン麾下の部隊の武装解除が決まった。シャアはロンド・ベルにコンタクトを図って拘束されていたらしい。私が全く予想していない展開だ。恐らく、ロンド・ベル以外はシャアが拘束されている事実を知らなかったはずだ。
「ふざけるな! ロンド・ベルの連中め! 奴らを処刑すらせず受け入れるだと! スペースノイドに甘すぎる!」
「ですよね! 少なくともシャアとハマーン、ミネバ・ザビ、そしてアクシズの将校は処刑すべきです。また、ジオン共和国もアクシズと取引をしています。ジオン共和国に軍も政府も必要無いですよ」
ふと、私は良いことを思いついた。それをバスク大佐に話すと、彼は大賛成してくれた。ハマーン派の武装解除を、ロンド・ベルとジオン共和国軍が担当する以上、私たちにはフリー・ハンドが生まれるのだ。
我々の支援部隊である連邦軍部隊と、我がアレキサンドリア隊は、コロニー・レーザーを中心にアクシズの残党と対陣した。ハマーンの命令に応じ、武装解除した艦は、両手の指の数にも満たない。つまり、アクシズの残党を合法的に殺し放題というわけである。
今回は、ムラサメ研が用意した強化人間が3人揃っている。コロニー・レーザーの射出後に、そいつらを私が率いて突撃するのだ。
私の機体はGP04を近代化したGP04タナトスだ。バイオセンサーとバイオコンピューターを備えた高性能機である。タナトスに搭載されたシステムは、カサンドラ・システムの発展型であり、高い索敵能力を持っている。
ベリング隊の3人の強化人間は、量産型サイコ・ガンダムに詰め込んでいる。ワンオフ機は私だけだ。ローリスク・ミドルリターンの強化人間運用を目指した部隊なのだ。
反ハマーン派のアクシズ艦隊、つまりは殺して良い連中が、バカ正直に正面から展開した。バスク大佐が、コロニー・レーザーを発射するように命じる。敵のバカデカいMAが障壁を貼ったが、出力に負けてそのまま溶けていった。
「クソ! アジールが…! 敵にあんな兵器が有るなんて聞いていないぞ!」
このコロニー・レーザーは十分に拡張されているので、余裕で即座に二発目を撃てるのだ。
「放て!」
バスク大佐の命令で、二発目の収束した光が、アクシズのメインゲートに刺さっていく。
アウトレンジからの攻撃である。虐殺とすら言えない。単なる作業だった。
「ジーク・ジオォォン!」
「フォウ、一機撃破」
「この化物どもめ!」
「アイン、一機撃破」
「ドライ、一機撃破」
アイン、ドライは第3世代。フォウは第2世代目の強化人間だ。整形手術によって顔も変えられているし、投薬により記憶も曖昧になっている。名前が数字呼びで可哀想。
そこそこ強いが、そこそこ止まりである。私のほうが強い。初代のクロエとタリアは自我が有ったが、彼女たちは自我も曖昧で、基本的には部品扱いされている。すごい可哀想。ムラサメ研には、人の心とか無いんだろうか?
五月雨式に襲ってくる死に損ないのアクシズ残党を蹴散らし、G3ガスの注入艇がゲートに取り付く。護衛は量産型サイコ・ガンダムだ。突破できる奴はいない。
生存者がいると不味いので、市街地に突入する。予想通り、死体は転がっているが、敵はほとんどいない。ビームで制圧射撃して、アクシズを占拠していく。
降伏してくる奴も敵。アクシズにいる味方以外の人間は敵である。非戦闘員はロンド・ベルが引き取ったし、降伏したハマーン派もロンド・ベルが引き取った。
つまりアクシズにいるのはテロリストだけだ。G3ガスを流し込んでから10時間も経たないうちにアクシズは制圧できた。
しかし、不思議なことにアクシズの核パルスエンジンが止まらない。それどころか、より速度を上げてサイド3方向に進み始めた。このままの軌道では、首都バンチであるズムシティに衝突してしまうだろう。
「案外、制圧は簡単だったな。ジオン星人共は今頃、怯えているだろうな」
「ええ。自分たちがしたことの清算ですよ。無傷な本土がアクシズにより、滅びてしまう。私たちアースノイドがされたことです」
「ククク。違いない。良い気分だ」
バスク大佐は喜悦を浮かべていた。満面の笑みだ。ロンド・ベルには止めるような手段がないはずだ。このままでは、36時間ほどで、ズムシティにアクシズが突っ込んでしまう。
「大佐、ロンド・ベルが抗議してきています。アクシズを止めろと言っていますが?」
「アクシズのジオン残党が、ヤケを起こしたのだ。我々はどうにかしようとしたが不可能だった。制御装置は壊されていた。そう伝えろ」
「了解しました」
「介入してくるようなら、レーザーで滅ぼしてやれ」
ロンド・ベルがブチギレているが、我々としては全力を尽くしたのだ。アクシズにちまちまビームを撃ったり、ちょっとずつ爆破したりしているが、止まらない。
ティターンズは頑張ってアクシズを止めようとしているのに…! 止まらない! おのれ! ジオン残党!
「なんということをしてくれたんだ!! バスク!!」
アクシズが、サイド3に向けて加速したと聞いたとき、ブライトは己の耳を疑った。ジオン共和国市民は、かつてはジオン公国として敵対していた存在ではあるが、今では守るべき市民なのだ。
バスク・オムとベル・ベリングは、その守るべき市民をアクシズという小惑星をコロニーに衝突させることで殺害しようとしている。明らかに虐殺だ。事故ではない。
「市民を救援する。全艦をサイド3の救援に回せ! 1人でも多く救うんだ!」
「落ち着けブライト。奴らの手にはコロニー・レーザーが有る。アレを俺と部下で破壊する。そうしなければ、避難民を乗せた艦艇がレーザーで沈められる。
ジオン共和国が、警告を発令したはずだ。港は市民で溢れているだろう。少しでも多くの市民を救ってやってくれ」
ロンド・ベルは核ミサイルを保有していない。また、アクシズに爆薬を仕掛け、破壊するという手段を取るためには、敵艦隊の排除が必要だった。コロニー・レーザーを敵が保持している以上、艦隊戦での勝利は見込めない。
また、コロニー・レーザーにより、市民を満載したロンド・ベルの艦艇が沈められる可能性もあった。
今回は、市民を救助することしか出来ない。だが、敵のコロニー・レーザーを破壊すれば、次からは違う手段が取れるはずだ。
ブライトには、次が有るという予感があった。バスクの憎しみは留まるところを知らないだろう。ここで、自分たちが折れてしまえば、守るべき市民が守れなくなる。
バスク・オムとベル・ベリングの思う守るべき市民には、サイド3の住民など入っていない。彼らは、彼らを支持する市民以外を守る気など無いのだ。
「アムロ。頼んだぞ」
「任せろ」
Zガンダムが、白い流星となってコロニー・レーザーへと吶喊する。プロペラントタンクとジェネレーターの追加パックを増設し、副腕化されたサブアームにハイパーメガランチャーとメガバズーカランチャーを連結した姿は巨大であった。
かつて、デラーズ紛争でアナベル・ガトーを撃墜したフルアーマーガンダム。そのフォルムに酷似したZガンダムは、その異形に似つかわしい速度を発揮し、敵の追従を許さなかった。
「敵、迎撃します」
「強化人間か。すまない許せ」
アムロには、目の前の生体部品となった強化人間への同情はあった。だが、軍人としての非情さでそれを切り捨てる。
「あ、りが、とう」
コクピットを穿かれ、行動不能となった量産型サイコ・ガンダム。死んでいく強化人間が残した声が、アムロに義憤を起こさせた。
「分かってる。ララァ。俺は死神になったりしない。俺は、俺の守るべきもののために戦う」
合計3機の量産型サイコ・ガンダムを撃破したアムロは、ランチャーの全弾をコロニー・レーザーに投射した。
流石のコロニーも、熱量に耐えかねたようで、枯木が倒れるようにゆっくりと崩壊していった。
「アムロ中佐、撤退しますか?」
「まだだ。アクシズの推進ノズルを直接破壊する」
「しかし、それは……」
「俺のZガンダムならやれる!」
精鋭部隊だけあって、ZガンダムとジムⅢの軌跡は見事なものだった。
「ぐぁぁ!」
「グエン中尉ッ! 下がれ、俺がやる」
アクシズへと向かう、ロンド・ベル隊を妨げたのは、漆黒のガンダムだった。大柄な量産機を連れた、異形のガンダムだ。サブアームではなく完全に副腕化された4本の腕。大型のスラスターを積んでいる。
「邪魔するか! 死神!」
「やだなぁ。私たちは同じ連邦軍だよ」
「戯言を!」
Zガンダムは、アーマーをパージし、サーベルを抜いた。
「受けて立とうじゃないか。その機体で、私のタナトスに勝てるかな?」
「抜かせ! Zガンダムは伊達じゃない!」
漆黒の機体も同様に、副武装をパージし、巨大な鎌を取り出す。
「クソッ、重い! だが、まだだ」
「それだけ? そんなんじゃ私を殺して、アクシズを止められないよ」
「黙れ。お前は倒す。アクシズは止める。俺たち連邦軍の仕事は市民を守ることだ。ベル・ベリング、貴様はなぜ虐殺に手を染める?」
「簡単だよ。たのしいから。楽しいし愉しい。みんなの恨みを代わりに晴らしてあげるんだ。良い仕事だよ。
アクシズだって、アースノイドの恨みを代わりに晴らしてあげるために進めているの。地球圏の人口を半分にしたジオンをみんな憎んでいる。だから、憎悪を晴らしてあげるんだよ」
Zガンダムが赤く輝いた。
「サイド3には、市民がいるんだぞ。何の罪のない赤ん坊も子供も、その母親だっているんだ。だから、止めなければならない!」
「サイド3の市民は、ギレン・ザビを支持して、毒ガスでコロニーを、コロニーを地球に落とした奴らだよ。私の家族もコロニー落としで死んだ。人々の怨念がこの私。それでも、止めると言うの?」
GP04タナトスが、赤く輝く。バイオセンサー同士が共鳴し、憎しみの赤い光が広がっていく。
「それでもだ! それでも! 俺はお前を倒し、コロニーを救う! そこに住む奴らが独裁を支持したクズでも、関係ない! 俺は、軍人としてすべきことをする!」
「くっ、このタナトスが、押し負ける!?」
「憎しみの連鎖を、俺がここで断ち切る!」
Zガンダムのバイオセンサーが停止した。Zが操縦を受け付けなくなる。タナトスのバイオセンサーがZガンダムを圧倒しているのだ。
「なんだ!? 動けZ!」
「はい、残念。私が備えていないとでも思った? 外付けの出力安定機だ。私のクローンだから同調率も高い。ベルシリーズは、カスタムメイドだからね。お前が倒したローリスク・ミドルリターンの強化人間とは違うんだよ」
「卑劣な真似を…!」
「とはいえ、制限も有ってね。使い勝手が良くない」
「あの量産機か!?」
「そうそう。アレらはこのタナトスとネットワークを形成し、負荷を受け止めるんだ」
タナトスが離れると、Zガンダムの操作が復活した。
「チッ、限界か。使いすぎたな……仕方ない、部下共々、見逃してあげるよ。これから最高のショーがはじまるんだ。余興に時間を使いすぎては勿体ない。それに、英雄アムロ・レイを殺したら、同情からロンド・ベルの味方が増えてしまう。コロニー・レーザーの破壊は見事だったよ。素晴らしい活躍だった」
ベルは舐め腐った態度をとっていた。弱者をいたぶるのが、彼女の悪い癖だった。ここで、アムロを排除しておけば別の未来があったはずだ。しかし、そうはならなかった。
アムロは撤退を余儀なくされた。無念が残る戦闘だった。
アムロ隊は、アクシズに打撃を与えることが出来なかった。損失は無かったが、成果も無かった。
ロンド・ベルやジオン共和国軍、そしてジオン国民自身による決死の救出によってズムシティからの避難は6割が完了した。しかし、不幸な残りの4割はコロニーと運命を共にした。
ズムシティとの衝突後、アクシズは自壊した。膨大な数の死者と莫大な経済的損失によりサイド3は暗黒時代を迎えざるをえなかった。
この事件はアクシズ・ショックと呼ばれることとなる。ジオン残党の拠点アクシズが、コロニーに衝突したことが原因であり、ティターンズによる宣伝も相まって、アクシズは虐殺事件を起こした組織として知られるようになった。
コロニー落とし、デラーズによるコロニー落とし未遂、そしてアクシズ・ショック。世論は完全に反スペースノイドへと傾いた。
このことが切っ掛けとなり、地球連邦軍は、徹底的な軍拡路線に舵を切った。彼らは地球圏の警察を強く自負するようになる。
ティターンズが、グリプス戦役でロンド・ベルに敗北し、その悪事が暴露され、組織が解体された後もそれは同様だった。