【完結】TS連邦士官ちゃんは、人殺しがやめられない!   作:むにゃ枕

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19.死神

 グリプス宙域に侵入したゼダンの門を包囲するように、ロンド・ベル艦隊が布陣した。戦力比は1対4とティターンズが圧倒的に不利だ。しかし、こちら側には、私のタナトスがいる。準コロニー・レーザー級の大量破壊兵器が有るのだ。

 

「ベリング中佐? この戦い、勝てると思うか? 敵戦力は我々の4倍だ。要塞に篭り、防衛戦を行ったとしても厳しい。我々はどこで道を誤ったのだ?」

「パーフェクト・タナトスが有ります。私と、カートリッジを搭載したこの機体が有る限り、ティターンズは不滅です」

「そう思いたいのだがな……」

「不安ですか? では、私一人でロンド・ベルを皆殺しにします。バスク大佐は、防衛戦の指揮を取るだけでいいですよ。万が一、私が敗れた時は降伏でもすればいい」

 

 バスクが何に不安になっているか、私には分からなかった。簡単なことだ。私と、タナトスが健在である限りロンド・ベルにも連邦軍にも勝機はない。私とタナトスこそがティターンズだ。

 あのニュータイプであるアムロ・レイも、Ζガンダムでは、バイオシステムの前には手も足も出なかった。たとえ、アムロがサイコミュやサイコフレームを機体に取り入れていても、カートリッジを使用すれば単純に出力で押し勝てる。

 

「この戦いで勝利した暁には、地球圏はティターンズのものです。私が、大佐に勝利をもたらしますよ」

「くく。中佐がそう言うのならば、そうなのだろう。勝てよベリング!」

「ええ。もちろんですとも」

 

 ようやくいつもの調子を取り戻したバスクが、私を送り出す。

 

「ベル・ベリング。パーフェクト・タナトス、出る」

 

 タナトスが、最前線に躍り出る。他のMSは防衛戦に終始するようだ。オフェンスは私だけである。暴れ甲斐があるというものだ。

 

「質量弾、核ミサイルを含めた斉射か。そんなもので、この要塞を落とせるとでも思ったのか!」

 

 カートリッジを使用し、拡散させたシュヴァルト・メガ・レーザーを放つ。バリア状に展開されたレーザーが、ロンド・ベルの斉射を無意味なものにした。

 

「さて、こちらもお返しといこう」

 

 目標はロンド・ベル艦隊だ。カートリッジにより即座に充填されたレーザーを、ロンド・ベル旗艦を中心とした艦隊に放つ。

 

「これで、終わりだ。あっけないものだな。大量破壊兵器は味気ない」

 

 レーザーは、ロンド・ベル艦隊を飲み込むはずだった。それで、敵は終わるはずだったのだ。

 

「なんだ? レーザーが跳ね返されるッ!?」

「人間には、可能性がある。それをお前に見せてやる! ベリング!!」

 

 サイコフレームの赤色に包まれたガンダムが、レーザーを跳ね返した。後方に布陣していたティターンズ艦隊が、それに飲み込まれ消えていく。

 

「バカな! Ζガンダムにそこまでの能力はないはずだ!?」

「νガンダムは伊達じゃない!」

「チッ、生意気な! ファンネル!」

 

 タナトスのファンネルが、νガンダムのファンネルにより全て撃墜される。

 

「何故だ! 何故、敵わない! お前のガンダムは完封した。お前など、脅威になりえない存在だというのに!?」

「それが、貴様の命取りになる。俺を見逃した、その傲慢さこそが、貴様を破滅させる。落ちろ! ベリング!」

「ビームなど、無駄だ。Iフィールドがっっ。ぐぅぅぅ」

 

 νガンダムのビームライフルがIフィールドを貫通した。

 

「カートリッジ! クソ! 作動しないだと! 動け! このポンコツがッ!!」

「ファンネル! このデカブツを落とせ!!」

「ぐぅぅぅぅ。クソ! クソォォォ!!」

 

 タナトスの拡張ユニットが、爆発する。

 

「やったか!?」

「まだまだぁ!! アムロ・レイ、よくもやってくれたな。このタナトスには、サイコフレームが組み込まれている。カートリッジではなく、私を燃料としサイコフレームを暴走させる。この手は使いたくなかった。ロンド・ベルもお前もおしまいだ!」

 

 タナトスの漆黒の機体が、サイコフレームの赤い光に包まれる。

 

「貴様の思い通りにはさせん!!」

 

 νガンダムもアムロの意志に呼応し、刻に接続される。

 

 

――幼女が泣いていた。彼女の頬には傷があった。ふらふらと歩いている幼女の母であろう女の瞳には、正気の色がなかった。女は、娘に手をあげてしまったことに動揺しているようだった。狭苦しいアパートには、男の影は無い。貧しい母子家庭であることが見て取れた。

 

――女は、ベランダへと続く窓を開くと、そのまま吸い込まれるように消えていった。

 

――少女が泣いていた。部屋の内装はうってかわって豪華なものとなっていた。窓からは沈みかけている太陽が見える。冷たいままのスープを少女は啜っていた。愛人の娘であった少女は、ほとんど父親と会えなかった。金銭で買えるもので手に入れられないものは無かった。けれども、少女は孤独で、愛情に飢えていた。

 

――見かねた侍女が、少女に小鳥を与えた。小鳥は病弱だった。少女は懸命に世話をした。けれども、小鳥は死んでしまった。遺骸を少女は庭に埋めた。口さがない妹が、少女を嗤った。妾の子が小鳥を殺したと。

 少女は、妹が飼っていた子犬に毒を盛った。子犬は死に、妹は泣いた。それを見て、壊れかけた少女の自尊心は満たされた。

 

――子犬に毒餌を与えたことから、少女の欲望はエスカレートしていった。だんだんと大きな生き物を殺していき、ついには、人間を殺したいと願うようになった。

 けれども、彼女はそれに耐えた。

 

――大人になった少女は、軍に入った。そして人を殺した。女の欲望が叶った瞬間だった。人を殺せば賞賛される異常な世界で、彼女は頭角を現していった。人を殺して褒められ、殺して殺して殺して殺して、虐殺に手を染めた。

 

「ベリングの記憶か。胸糞悪いな」

 

 アムロは、ほとんど彼女に同情しなかった。過去に何があろうとも、彼女は大量虐殺犯で、喜んで人間を殺している存在だ。

 刻の中をアムロは歩いた。小さな光が、アムロを導いている。ベリングの居場所はすぐに分かった。俯き座っている彼女の周りを影が覆っているからだ。

 

「見たな! 私の心を見たな!」

「ああ。見た。だが、それが貴様を容認する理由にはならない」

 

 ベリングは、悪鬼のような表情を浮かべた。

 

「私は刻の向こうから来た。貴様に、向こうを見せてやる!」

 

 ベリングの思念越しに見た世界は、現状よりも少し酷いものだった。アムロは、そのイメージを切り捨てた。

 

「それが、なんだ? 俺たちはここで生きている。そして、貴様は不幸を撒き散らす。それだけで、貴様を排除する理由になるだろう」

「私に同情しろ! お前は、私を見てなんとも思わないのか!」

「貴様の境遇には、同情する余地があるかもしれない。だが、それが理由で楽しんで他人の命を奪っていいはずがない!」

「お前ぇぇ!!」

「それだけか?」

 

 ベリングは、半分泣きそうだった。

 

「お前が言う、平和とはなんだ!? お前が言っているのは、単なる理想論だ。被害者に泣き寝入りしろというだけだろう。そんなものでは、平和は訪れない! 私が、この宇宙世紀の人々の怨念だ。コロニー落としで、大切な人を失った怨念の具現が私だ!」

 

「貴様は、そんなことをほとんど思っていないだろう。快楽殺人鬼の戯言に付き合いたくはない。

 だが、そうだな。平和とは人々が少しでも明日を夢見ることだ。怨みを忘れろとは言わない。耐えろとも言えない。だが、少しでも良いから、より良い明日に向かって生きたいと思う。そんな世界を俺たちが作り上げる」

 

「そんなもの不可能だ!」

「やってみなければわからない!」

「やってみて、失敗したらどうする? お前のせいで取り返しがつかなくなったらどうする?」

「そうならないために仲間がいる。失敗しないとは言えない。だが、失敗しても立ち上がれば良い! この世界から去れ! ベル・ベリング!」

 

 アムロを導いた光が、大きく広がる。アムロの背後に広がったビジョンには様々な人間の影が映し出された。ベリングの黒いオーラがだんだんとしぼんでいく。彼女の背後のビジョンに現れた様々な人々の憎しみが消えていく。

 

死神(タナトス)ッ! 奴らを殺せ! 飲み込め!!」

「往生際が悪い!!」

 

 ベリングの背後に広がった、彼女のものとは違う静謐な死。それがアムロのオーラを蝕んでいく。アムロには、ベリングではない黒衣の女がほくそ笑んでいるのが見えた。

 

「これが、死神かッ。俺が恐れていた影は!」

「殺せッ! 死ね! アムロ!」

「クソ。これまでか!」

 

 手足が凍え、感覚がなくなっていく。1羽の白鳥が、アムロを導くように飛んでいる。

 

「ララァ。まだ、俺はそっちには行かない……まだ、俺にはやらなきゃならないことが残っているんだ……」

「はははは。死ね。アムロ・レイ!! そのまま刻の向こうまで行ってしまえ!! 私の勝ちだ!!」

 

 ベリングは、アムロの死を確信し醜く嗤った。

 

「ベルちゃん、全然悔い改めませんね。他の女の子と浮気しなかったのは褒めてあげますけど、ずっと人を殺してばっかり。見守る私の立場になってくださいよ」

「死神が止まった?? 誰だ?」

「アムロ・レイ中佐。お久しぶりです。私はタナトスに積載されたバイオシステム。人間だったころはミミン中尉と呼ばれてました」

 

 ベリングは、大きく目を見開き静止している。

 

「ミミン? なんで? 死んだはずじゃ……?」

「私は、タナトスのシステムだったんですよ。ずっと一緒だったのに、鈍感なベルちゃんは全然気が付かないんですから。カサンドラシステムをベースにしたタナトスシステムってところで、私に気が付くと思ったのに」

「そんな。嘘だ。だって、ミミンは私を見捨てて」

「私の肉体は、もう有りません。レイゼン研究員にバラされてしまったんですよ。脳波だけをバイオシステムが取り込んでいるんです。精神体ですけど、ずっとそばで見ていましたからね」

 

 アムロを蝕んでいた死の気配が遠のいていく。ベリングは、立つことすら出来ず蹲って泣いていた。

 

「ベルちゃん、私と一緒に向こうに行きましょう。アムロ中佐。死神もララァさんも私が向こうに持っていきます。ほら、ベルちゃん行くよ!」

「嫌だ。私は死にたくない。だって、まだ誰にも愛されてない。もっと私を見て欲しかった。わたしを愛してほしかった」

「わがままですね。あんなに私と身体を重ねたのに、まだ言うんですか?」

「愛されたかった。お母さんが、お父さんが、まともだったら、戦争が無かったら私はこんなんじゃなかった」

「わがまま言わない。ほら、行きますよ」

「嫌。いやいやいやいやいやいや」

 

 ベルは、這いつくばりながらアムロに手を伸ばす。思わず、アムロはその手を掴んでしまった。そのまま、アムロにベルは縋り付いた。

 

「アムロさんも迷惑してますよ。ほら、立って。行きますよ」

「や。やだ。ぜったいにやだ。だっていやなの。やだやだやだ」

 

 ミミンは溜息を吐いた。

 

「もう、残り時間はありません。じゃあ、特別ですよ。はぁ。私ったら甘いなぁ。ベルちゃんに欠けていた部分を足してあげます。生きること。それが、あなたへの罰です。自分がしたことと向き合って存分に、苦しんでください」

 

 刻は去っていった。残されたのは、コクピットユニットが欠け、動作を停止したタナトス。そして、緑の光を湛えるνガンダムだった。

 

 

「ベリング中佐が敗北したか。無条件降伏だ。降伏文章を送れ」

 

 ロンド・ベルに降伏文書が送付されたことを見送ったバスク・オムは、拳銃を口に咥え、その引き金を引いた。死んでいくバスクはとても心安らかな気持ちだった。怨念に囚われていた彼に、ようやく安息が訪れたのだ。

 徹底抗戦という選択肢をバスクが選ばなかった理由について、未来の歴史家は、グリプス戦役における最大の謎としている。

 

「アムロ。無事なんだな?」

「ああ。だが、ニュータイプとしての能力は向こう側に持っていかれた。俺はただの凡人だよ」

「それなら、皆がそうだ。歴史っていうのは、ニュータイプなんかではなく、凡人が作るものなんだよ」

 

 ロンド・ベルはほとんど無傷で、グリプス戦役を勝利した。ベル・ベリングとバスク・オムが地球圏にもたらした戦禍は決して小さなものではなかった。それでも人々は、未来を信じ明日を切り拓いていく。

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