【完結】TS連邦士官ちゃんは、人殺しがやめられない!   作:むにゃ枕

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03.落着

 小惑星ルナツー。巨大な小惑星を軍事要塞としたこの基地は、今や連邦宇宙軍唯一の拠点となっていた。サイド1、サイド2、サイド4は既にジオンの支配下にある。残されたのは、サイド5、そして中立を表明したサイド6とサイド7だけだった。

 地球連邦は巨大組織であり、図体が大きい分動きが遅い。しかし、巨大である分その手足は長い。ジオンにより行われた蛮行を、連邦軍は捉えていた。サイド2首都バンチ。アイランド・イフィッシュ。ゆっくりと、しかし着実に地球周回軌道へと向かっているソレを迎撃するために、連邦宇宙軍の総力が結集されようとしていた。

 

「艦長、セイバーフィッシュ隊の補充が間に合っていません。我が隊は、出撃など出来ません」

「マイヤー少佐、今は地球の危機なんだぞ。セイバーフィッシュ隊の定数は、どうしようもないだろう」

「セイバーフィッシュの出撃可能機をご存じですか? 12機です。我が隊の定数は24機です。今や、往時の半分も有りません」

「まさか、少佐。ジオンに絆されたでもしたのか? そこまで己がかわいいかね? 保身もいい加減にしたまえ」

「艦長こそ。私腹を肥やすのはもう十分でしょう」

 

 私と、オーベルは顔を見合わせた。艦長と飛行隊長が言い争っている。シュマイツァー大佐への用事があったのだが、このままではどうしようもない。仕方がないので、ノックをして艦長室に入った。

 

「ベリング中尉、ユング中尉。よく来てくれた。少佐、下がりたまえ」

「その死神と、お坊ちゃんが、私の用事よりも優先されると。結構。私は、()()()を上に報告させてもらう」

「そうか」

 

 艦長は、少佐に向けていた冷淡な表情を一瞬で崩し、私たちに笑みを投げかけた。

 

「すまない。間が悪かったな。いきなりだが、本題に入ろう。ベリング中尉。貴官には連邦十字勲章と星付き十字勲章が授与される。ユング中尉は、十字勲章だ。君たちはよくやってくれた。まさしく英雄だ」

「勲章ですか!? 俺に。ありがたく頂戴します」

「はあ、要りませんよそんなもの」

「おい、ベル。貰っとけよ」

 

 オーベルは、私の脇腹を肘でどついた。普通に痛い。あとで覚えていろ。

 

「私は、大佐の駒ではありません。単に私は、味方に被害を押し付けて後ろから敵を撃っただけです」

「ほう。そうか。で、それの何が悪い? 連邦軍は英雄を欲しているんだよ。君のトータルスコアは、艦艇1隻、ザク7機だ。エースだよ。過程は問題じゃない。結果こそが真実になる」

「お言葉ですが、大佐。俺は、軍人たるもの仲間を助けるべきだと考えます」

「はぁ、ユング中尉。君は己を万能の超人か何かだと思っているのか? 単に役割分担だよ。2隻のフリゲートは、そもそも空母エンタープライズの盾だった。だから、それを有効に使っただけだ」

「ですが……」

「そうそう。セイバーフィッシュ隊も、盾に使っていい。どうもマイヤー少佐は、思い上がっているようだ。彼は、名誉の戦死を遂げるかもしれないなぁ」

 

 オーベルが物凄い顔をしていた。辺境の部隊なんてそんなものだろう。大佐に怒っても仕方がないというのに。

 

「ベルに、ベリング中尉にマイヤー少佐を殺せとおっしゃっていますか!? シュマイツァー大佐!!」

「私は、そんなことを言っていない。想像力が逞しすぎるのではないかな? お父上も嘆かれるだろう」

「ステイ。ステイ。オーベル。落ち着いて」

 

 怒りを抑えられぬと顔に書いているオーベルを引っ張って艦長室を後にする。このままでは、暴れそうなので無理やり頭を抑えつけ、撫でる。ざらざらした髪質で、なんとなく大型犬を撫でているような感触になった。端から見たらいちゃついてるカップルじゃないか。そう思って、周囲を見渡すとオペレーターのミミンと目が合った。違う。これは違う。やめろオペ子、目を輝かせるな。あああああ。クソボケがぁ。

 

 補給を終えたエンタープライズは、ルナツー艦隊に混じり、アイランド・イフィッシュの阻止に動くこととなった。阻止作戦の目標はシンプルだ。ジオンの護衛艦隊を排除して、コロニーに直接乗り込んで爆破する。単純明快である。

 

「やっぱ、お二人ってデキてたんですね。オーベル中尉、良物件ですよね。連邦議員の息子で顔も性格もいいですから」

「だ か ら。違うと言っている。聞けよ」

「え~またまたそんな~」

「誤解だからな」

「整備の子も、距離が近いって言ってましたよ。ベルさん。クール系なのに、恥ずかしがりやなんですね」

「あいつは、ただのバディでそんなことは、全くない」

「じゃ~そういうことにしときますね」

 

 うぜえ。あの私は、分かってますって目がうぜえ。ちょっと殺意が湧いた。いや、殺していいのは敵だけだから殺さないが。

 

 

「ルナツー艦隊、艦載機発進しました」

「よし、セイバーフィッシュ隊全機発艦。ザニーも続け」

 

 計器越しに見える宇宙は、砲撃の軌跡で照らされていた。イルミネーションのようで、綺麗だと思った。あれが、死の光だからこそ、より一層魅力的に見えてしまうのかもしれない。セイバーフィッシュ隊の直上を2機で向かっていく。ルナツー艦隊のセイバーフィッシュと合流し、魚の群れはより大きくなった。

 

「サーディン・ランって知ってる?」

「イワシか? 俺はそういうのには、詳しくないから分からないな」

「そう。正解。イワシの群れが集まる現象のこと」

 

 円錐状に綺麗に編隊を組んだセイバーフィッシュが、アイランド・イフィッシュだったものの周囲に展開するジオン艦隊に突入していく。

 

「乱戦が狙い目。落伍したザク。もしくはムサイを叩く」

「コロニーの落下阻止が目的だ! 敵艦隊を突破しなきゃ、コロニーが地球に落ちるんだぞ!」

「たった2機で何が出来るというの?」

「それでもだ。それでも俺はやらなきゃならないんだよ!」

「はぁ……」

 

 オーベルが今日は、やけに熱っぽい。コロニーが落ちて、地球がめちゃくちゃになっても私はどうも思わない。いや、歴史遺産とか壊されたら嫌だな。故郷を守るというモチベーションは皆無だが、まあ、付き合うくらいはしてもいいだろう。

 

「わかった。援護する。目標は?」

「目標は、敵の中枢だ。コイツなら、セイバーフィッシュよりも機動力が高い。やれるはずだ」

 

 ザニーのセンサが、敵陣を見回し画像識別をする。

 

「見つけた。多分あれ。チベ級がいる」

「座標、送ってくれ」

「はい。これ」

 

 ザニーのスラスターが、空を割る。まばゆい光の中を、私たちは駆けた。

 

「邪魔だぁ!」

「オーベル、これ以上は危険。味方から突出する」

 

 ザクを2機落とし、味方の先頭に立ったオーベルは、興奮を隠そうともしなかった。

 

「俺は、英雄になりたかった。ヒーローになりたかった。だから、地球を守って死ねるなら本望なんだよ」

「バカみたい。前から馬鹿だと思っていたけど」

「じゃあ、俺を止めるのか?」

「別に、止めはしない」

 

 コイツを見殺しにしてもいいが、腕はいいから勿体ない精神が働く。議員の息子だし、敵に殺されるくらいなら私の手でぶっ殺すのもいい案かもしれない。

 

「あと、20分だけ。それが過ぎたら補給に撤退する」

「はっ、上等だ」

 

 ザクを数機と、ムサイを1隻沈めた。けれど、それが限界だった。

 

「もう時間。このままだと味方から、完全に孤立する」

「あと、少しなんだ。もう少しで敵の旗艦に届く。頼む、時間をくれ」

「頼む。これっきりだ」

 

 弾が切れた、バズーカを捨て鹵獲したザクマシンガンと、ヒートホークを弄る。問題はなく使える。オーベルのザニーも同様だった。

 

「オーベル、退くよ! これ以上は、本当に無理!」

「まだだ。あと少しで」

「もういい! 置いていく。一人で死ね!」

 

 ジオン軍は、立ち直りかけている。セイバーフィッシュによる突撃効果も、私たちのザニーによる奇襲効果もほとんどなくなっているのだ。これ以上闇雲に突撃すれば、デブリになるのは私たちの方だった。

 

「…………わかった。補給を受ける」

「もう、遅いみたい」

 

 綺麗に編隊を組んだザクが8機。私たちを睨んでいる。だから、やりたくなかったんだよ。こうなるから。

 

「べ、ベル。これ不味いんじゃないか?」

「そう。だから、味方に押し付ける」

「そんなこと許されない! もっと他のやり方が・・・」

「無いから言ってるの! 突撃バカが突っ込むから!」

「で、でも」

「うるさい。一人で死ね!」

 

 オーベル機の右腕が吹っ飛んだ。敵さん、かなりやり手である。バカを見捨てた私は、マシンガンをばら撒きながら、必死に味方にザクを押し付けた。

 

「死神ィ。貴様ァァ!! シュマイツァーの狗ガァアァ」

 

 あー知らない。知らない。愉快な断末魔と共に、我らがエンタープライズの飛行隊長マイヤー少佐も吹き飛んだが。私は何も知らない。ちょっと安全そうな位置を編隊で飛んでたから仕事してもらっただけだ。

 ジオンも連邦も、ノーガードで艦隊戦をしたから双方被害が大きい。だからだろう、ジオン側は這う這うの体で逃げ出した連邦軍艦隊を追撃しなかった。小破やら、中波したサラミスを掻き分けて、母艦へ辿り着く。格納庫は、えらくガランとしていた。閑古鳥が鳴いている。

 

「ベリング中尉! 無事だったんですね!」

 

 整備兵ちゃんが、私に抱き着いた。セイバーフィッシュはまだ、1機も戻っていないらしい。どこかの誰かが、腕利きのザク小隊を擦り付けたから仕方ないね。

 

「推進剤ヨシ。じゃ、ちょっと哨戒に出ま~す」

「はい。皆さん無事だと良いんですが……」

 

 拾ったヒートホークをぶら下げて、私は哨戒に出た。味方を探すというのは、方便である。沈んだムサイやら何かから、逃げ遅れたジオン兵をぶっ殺そうと思っただけだ。

 

「おっ。ビンゴ。発光信号だ」

 

 ムサイ級の残骸から発光信号が送られてくる。ははーん。これは攻撃ですね。間違いない。拾ったザクバズーカを残骸に向けてぶっぱなす。完全なデブリへと変わったムサイを見ると、そこには粉々になったランチがあった。この内火艇、サラミスのやつだ……マズイ、多分、酸素を求めてムサイの残骸に避難していた味方を殺してしまった。まあ、いいか。これもコラテラルダメージというやつだ。

 

「また、発光信号。ザク? いや、ザニーだな」

「助かった。ああ。ベル。助かったよ。ありがとう」

 

 さらっと、オーベルが生き残っていたらしい。このまま、ヒートホーク振り下ろそうかな? そう一瞬迷ったが、やめた。さっきも味方誤射しちゃったし、味方殺しを疑われて死刑になるのは嫌である。

 

「ベル。ありがとう。みんなは? 無事か?」

「残念ながら、セイバーフィッシュ隊は私たちを助けて全滅しました。マイヤー少佐は、物凄い戦闘を繰り広げて敵と相打ちに……」

 

 お前のせいで、味方が死んだぞという念を込めてオーベルを見ると、彼の顔面がすごいことになっていた。阻止限界点を越えた……とか言いそうな顔だ。まあ、アイランド・イフィッシュは阻止限界点を越えたんですけどね……

 

「狭いんで、大人しくしててくださいよ」

「ああ」

 

 心ここにあらずといった様子のオーベル。狭いコクピットがぎゅうぎゅうだ。またまた、発光信号を見つけたので近くまで寄ってみた。ムサイの残骸だ。乗員らしい奴らがめっちゃ、小銃を撃ってきやがる。

 

「やめろ。戦いはもう終わったんだ。やめろ」

 

 オーベルが、通信機を私から奪って敵に呼び掛けている。敵もその言葉に感化されたのか、ぽつぽつと銃口の数が減る。このまま、なんかいい話風に終わるのが嫌だったので、私はヒートホークをぶん投げた。重量物により、敵はすりつぶされた。

 

「ベル、相手は降伏するつもりだったんだぞ……」

「あれを、見ても同じことが言えますか?」

 

 ザニーのセンサの先には、大気に灼かれ赤熱し、三つに別たれ落ちていくコロニーの姿があった。神秘的な大量虐殺の姿に、私は一種の美術品に対する強烈な憧れのようなものを抱いた。美しい。これ以上の芸術は存在しない。あれの落ちた先でたくさんの人が死ぬなんて、素晴らしい光景である。

 

「あんなことをする相手と理解し合えるなんて幻想です」

「そうだな」

 

 とはいえ、私は内心では美しい光景だと思っていた。ギレンと私は結構、趣味が合うのではないだろうか。下半身ぐちょ濡れだったが、ここでイったら終わりだ。社会的に終わってしまう。私にもなけなしの羞恥心はあるのだ。

 

「俺は、もう、ジオンの奴等には容赦しないよ。ベル。お前が正しかった。あいつらは駆除しなきゃならない害虫だ」

「お゛ぉ。そうでずねっっ」

 

 至近距離から生じた殺意で、私は絶頂した。

 

「震えているのか? そうだよな。あんな光景見たら誰だってそうなる」

 

 違う、単に性的興奮から絶頂を迎えているだけだ。しかし私には、常識があるので、そうは言わなかった。

 

 エンタープライズの格納庫は、もぬけの殻で、私とオーベル以外のパイロットの姿は無かった。コロニーが地球に落下した衝撃もまだ消化できていないのだろう。艦内には、鬱々とした重い空気が流れていた。

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