【完結】TS連邦士官ちゃんは、人殺しがやめられない! 作:むにゃ枕
平時の軍は金食い虫である。戦争で肥大した地球連邦軍もその例に漏れなかった。
ジオンという最大の敵は倒したのだ。どうして強大な軍を持つ必要がある? 必要なものは軍縮と民力の回復である。連邦政府内のみならず、民衆や軍内部でもそのような考え方は支配的だった。
軍の右翼勢力、中でも極右勢力からは強い反発が起きた。彼らは、強力で強大な軍が有ってこその連邦軍であると主張した。しかし、戦後復興のため軍需よりも民需を優先する官僚、軍事費を削減したい政府、戦争アレルギーとなった民衆にとってその主張は受け入れがたいものだった。
過激化したレビル閥の残党の排除が必要である。この点で軍保守派と連邦政府の見解は一致していた。
革新派といえば聞こえは良いが、彼らは過激派で極右勢力だった。戦争が終わり束の間の安息を得たい民衆は、彼らを支持しなかった。
「私のHADESが必要ないだと? バカな。あのシステムを取り入れれば次期量産機は一般機の数倍の性能を持つのだぞ」
「工廠には、次期量産機の計画は有りません。連邦軍に必要なものは、新鋭機ではなく、コストパフォーマンスに優れた経済的な機体です。我々にはペイルライダー・キャバルリーのような機体は求められていません」
「ジオンは必ず牙を剥く。その時にジムで戦えと言うのか!?」
工廠の技術中将は溜め息を吐いた。グレイヴ少将の思想が強いことは知っていたが、これでは全く話にならない。
「ええ。そうです。ジムで十分でしょう。現にジオン残党やテロリストを連邦軍部隊はジムで鎮圧しています。ジオン共和国が成立した以上、大きな戦いが起こるとは考えにくい」
「貴様。コロニーを落とされたのだぞ。奴らは危険なのだ。連邦軍には強大な軍が必要なのだ」
「どうやら、我々には認識の差が有りますね。貴方の考えを議会が認めたなら、また会合を設けさせて頂きたい。失礼する」
技術中将の対応に、グレイヴは憤りを隠せなかった。人体実験や味方の暗殺といった悪事に手を染め権力を求めた男であったが、それは単純に彼が権力欲に憑りつかれていたからではない。連邦軍人としての思想もそこにはあった。
オーガスタ研究所の予算規模も縮小されることとなった。グレイヴの権力の源泉である強化人間に、捜査の手が及ぼうとしていたのだ。もはや戦時中ではない。後ろ暗い実験を容認するような空気は消えかかっている。
「連中、本性を出したな」
グローブ事件の報道を聞き、ジーン・コリニー大将はそう呟いた。リベラル派の新聞が大々的に報じた記事では、民衆を踏み潰す黒いガンダムの姿が鮮明な写真で捉えられていた。
「こんな絵を見せられた民衆が、軍をどう思う? そんな簡単なことすら想像できない連中が主導権を欲していると考えると、恐ろしいとは思わんか?」
「全くその通りかと」
コリニーは腹心の部下であるジャミトフ・ハイマンにぼやいた。彼らとしては、グレイヴ少将に思うところはない。しかし、時期が悪かった。グレイヴの派閥は反連邦感情をやみくもに煽るのみで、連邦政府へ利益をもたらさなかった。
「鎮圧の指揮官は、英雄ベリング中尉か。ふむ、ホワイトベース隊の連中と同列の英雄だな。が、今は英雄が必要とされる時代ではないな」
「利用価値はないと?」
「民衆が求めているのは堕ちた英雄の死だよ」
連邦軍中枢では、グローブ事件によりグレイヴ派の粛清が決定した。グレイヴ少将は、ジオン共和国駐留軍から外され、彼の息がかかった将校も左遷された。少将に言い渡された新たな赴任地は、日本のヨコスカ基地司令であった。明らかな降格である。
グレイヴ少将の腹心とみなされた、シュマイツァー大佐は新編の第364パトロール艦隊の司令官としての辞令が下った。三隻のサラミス級から構成される新編艦隊の司令官といった人事は、明らかな左遷だった。グレイファントム隊は解散され、大佐の腹心であったクルーは散り散りになった。
一年戦争の英雄であったオーベル・ユング中尉は、軍を辞し政治家を志した。連邦議員の息子であった彼だが、常に後ろ暗い噂が付きまった。ナショナリストの極右政治家として、徐々に頭角を現すことになるのだが、これは後の話である。
グレイヴ少将によってサイド6に設立されたニュータイプ研究所は閉鎖された。ペイルライダーやペイルライダー・キャバルリーも軍保守派に証拠物件として押さえられることを恐れ、廃棄されることとなった。グレイヴ派がジオンから得た研究員や強化人間は、ムラサメ研究所に迎え入れられることとなった。
グレイファントムに搭載されたカサンドラシステムも証拠隠滅のために消去された。
グレイヴ派は分かりやすく失脚したのだ。連邦軍の膿と化していた彼らは、パージされた。
保守派が志向したのは、過激派とは異なる穏健的な外交だ。サイド3を含めた経済圏を打ち立て、民需を回復し経済成長へとつなげる。財界とも繋がりの強い、保守派らしい政策だった。
「おーい。出してくださいよ~。おーい」
「19号、静かにしろ。他の囚人の迷惑だ」
「ちっ、うっせーな。反省してまーす」
看守を煽って遊んでいるが、留置所の環境は思ったより悪くなかった。看守たちとグレイファントム隊の民度を比べたら、雲泥の差がある。普通に殴られたり、犯されたりするものだと思ったが、MPは手を出さないのだ。連邦軍人なのに、まとも過ぎる。お前ら、本当に宇宙世紀の人間か?
「ベリング元中尉、上層部は貴女の罪状を重く見ています。しかし、私にはあなたに精神的な問題があるように思えます」
「はい。先生よろしくお願いします」
「弁護士として、私はあなたの味方です」
上層部は、私を殺す気満々だ。グレイヴ派に落とし前を付けさせる生贄としては、丁度良かったのだろう。私の階級は中尉であり高すぎない。それに、エースパイロットとしてある程度の名声はある。しかも、明らかに有罪に出来る証拠付きだ。処刑して罪を擦り付けるには便利過ぎる人材なのだろう。
リベラル系の新聞で報じられた、私の乗ったガンダムが市民を踏み潰す写真は、早くも報道なんたら賞を受賞したという。写真を撮ったジャーナリストは鎮圧に巻き込まれ死亡したが、彼の友人がネガを見つけ、現像したそうだ。感動的なエピソードも相まって、世間ではすごく話題になっている。このMSに乗っていたパイロットに処分を与えたとなれば、連邦政府へのヘイトは間違いなく下がるだろう。
弁護士の先生が教えてくれたのだが、私の醜聞が暴露されまくっている。グローブ事件での民間人の虐殺。正しい。ドラッグの使用。正しい。友軍の殺害。これも正しい。捕虜殺害。当たっている。同性とのセックス。なんでバレた???
ゴシップ誌には、Mさんの証言という記事があった。ミミンが私を売りやがった。
さらには、スコアのほとんどが降伏したMSを攻撃したことによって獲得したものという記事まであった。これは、違う。いや、間違ってはない。味方を囮にしたとか、偽りのエースとか物凄い書かれようである。
「先生、私、医師の診療が受けられないんですか??」
「はい。残念ながらそうなってしまいました。世論や上層部の圧力がかかっています。速やかに軍事法廷に上がることが求められているようです。大丈夫です。私は、あなたの弁護を果たします」
「私には、情状酌量の余地があると思います。精神疾患です」
「ええ。しかし、それを法廷が認めるか……」
弁護士先生と一緒に、なんとか自身の延命を図ったがどうにもならなかった。組織が私を殺しにきている。助けてグレイヴ閣下……彼の派閥は散り散りになってしまったのでこの裁判に介入できる権力がないのだ。このままでは、本当に死刑になってしまう。無期懲役なら、助かるのに……
「明日、私は死刑になるんですね……」
「力が及ばずに申し訳ない。おそらく上告も棄却されます。せめて、あなたの最期が安らかであらんことを」
弁護士先生にも、見捨てられてしまった。もうどうしようもない。私は、気が付いたら号泣していた。
「嫌だ。死にたくない。嫌だ。ここから出してくれ。嫌だ」
これからは、人を殺しません。本当です。改心します。なので助けてください。神様。壁に頭を打ち付けると、黒衣の女が高い窓の外から私を見下ろし、嘲笑っていた。死神。あいつのせいだ。幻覚に対して、怒りを覚えた。そうだ。死んだら、死神になってこの世界に不幸を振りまいてやろう。
「や。やだ。しにたくない。やだよ。かみさま」
一人ぼっちで冷たい留置所の中で、死の恐怖に震えることしか出来なかった。
裁判は、つつがなく進んだ。弁護士は一言も発しなかった。検察側が積み上げた証拠は膨大でありながら正確だった。精神疾患も否定された。あがく術は残っていなかった。
「主文は理由を述べた後に言い渡します。ベル・ベリング。あなたはサイド3の住民を虐殺しました。また、戦時中に友軍に対する攻撃、捕虜の虐殺など、様々な罪を犯しました。よって内乱誘致罪、国家反逆罪、平和と人道に対する罪、殺人罪などにより、被告を死刑に処します」
判決を聞いた瞬間、私は目の前が真っ暗になった。吐くもののないはずの胃から胃酸が込み上げてくる。足が失禁した尿で温かくなった。そこから先の記憶は残っていない。
「いや。いやだ。いや。いや、いやいやいやいやいやいや」
いつの間にか処刑台に座らされていた。手首に刺された点滴のルートから、液体が私に侵入しようとしてきている。連邦軍の処刑は薬物で行われるのだ。あれが体内に入ったら私は死ぬ。幼児退行し、必死に逃げようとするが拘束具は外れない。口は言うことを聞かずに、必死に生きようと酸素を吸い込んでいる。アンモニア臭のする液体が、処刑台を流れ落ち、ルートから私の体内に液体が入り込んでいった。あ。あああ。いやだ。いやいやいやいやいや
「16時34分、ベル・ベリングの死亡を確認しました」
法務官は真面目な顔を崩し、欲に溺れた表情を見せた。それから
「これで良いんですか? グレイヴ閣下?」
堕ちた英雄、ベル・ベリング元中尉の死は、各種メディアで大きく取り上げられた。民衆は、記事を見てから3日後にはそのことを忘れ、政府でも、大きく話題になることは無かった。軍保守派も現状を維持することに邁進し、処刑は忘却された。一部のアングラサイトでは美人パイロットの死ということで人気を博したが、それだけだった。
過激派の領袖、グレイヴ少将は保守派に対しての憎しみを滾らせたが取れる選択肢は多くなかった。
「時代さえ、風向きさえ変われば、我々にはまだ機会がある。ルサルカよ、好機をもたらせ」
グレイヴの目はまだ死んではいなかった。