賢者は使い魔   作:超高校級の切望

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学院の教師

 取り敢えず、一晩かけて20の封印術式を解呪した。比較的術式が単純なものだ。

 術式を介さない魔法……ルイズの爆発などは簡単に使えるが、それ以外は発動に時間がかかる。使い魔のルーンの術式は健在。

 

 当然だ。これは標的の魔力を拘束するもので、外的要因は無関係。だから精霊の力も使える。

 魔法がうまく使えない以上、捕まえたところで暫く実験は不可能。じゃあ良いかな、と興味を失ったケントはふぁ、と欠伸をする。

 

 目の前では教職員が言い争っていた。

 

「まったく、衛兵は何をしていたのだね!」

「所詮は平民、役に立つものかね。それよりも当直の貴族は誰だったかね?」

「ミス・シュヴルーズ、当直は貴方でしたな!」

「も、もうしわけありません!」

「泣いたって、お宝は戻ってこないのですよ! それとも貴方が『破壊の杖』と『魔神の心臓』を弁償するというのですかな!?」

「わたくし、家を建てたばかりで」

 

 これで22枚目。ここまでは半日でも出来るんだよなあ、とケントは思った。

 

「女性一人を寄って集って責めるものではないぞ」

「オールド・オスマン!」

 

 機兵の核さえ無事なら解除させられたのに、たかが一人の魔法を不完全に押さえつけるだけで壊れるとは。まあ作ったのだいぶ昔だし。

 

「さて、この中でまともに当直をしたことのある教師は何人おられるかな?」

 

 そもそも今回のケントのように自動防壁をあえて剥がさない限り上位の魔法使いには封印術式など効かないのだ。

 

「で、犯行の現場を見ていたのは誰だね?」

「この4人です」

 

 漸く有意義な話が始まったのかと思考を現実に引き戻すケント。

 因みに4人とはケント、ルイズ、タバサ、キュルケだ。エルザは扱いとしては平民なので数に入っていない。

 

「ふむ、君たちか………」

「ロバ・アル・カリイエの高名なメイジと聞いていましたが、たかが盗賊に後れを取るとは」

「そのたかが盗賊に恐れるに足らずと判断された学院教師に言われると、自分の未熟さを思い知る」

 

 ふん、と鼻を鳴らす陰鬱な雰囲気のギトーと言う教師にケントは宝物庫を見回しながら肩を竦めた。他にソフィア製のマジックアイテムがないかの確認だ。ギトーに欠片程の関心も向けていなかった。

 

「よさんか。それで、詳しく説明してくれんか」

 

 語ったのはルイズ。昨夜、少し帰りが遅くなった彼女達は壁を破壊しようと殴りつけるゴーレムを発見。ケントが速攻で破壊してゴーレムの使い手、恐らくフーケを追い詰めたが突如として壁を破壊し現れた人形に何かされ、その隙にフーケは宝物庫に侵入して逃げた。

 

 そして、とタバサを見るルイズ。

 

「私とキュルケが、風竜の背に乗って追いました。途中、砂煙を発生され、逃げられました」

 

 後を追おうにも情報はないわけか、と髭をさするオスマン。ふと、集まった教師達の顔ぶれに、教師ではないが毎日見ている顔が居ないのに気付く。

 

「時に、ミス・ロングビルはどうしたね?」

「それが朝から姿が見えなくて」

「この非常時に何処へ言ったのだね」

「何処へ行ったんでしょうね」

 

 噂をすれば影が飛び込んできた。緑髪の美女、オスマンの秘書ロングビルの登場にこれまで全く会話に興味を持っていなかったケントが視線を向けた。

 

「ミス・ロングビル! 何処に行っていたのです! 大変ですぞ! 事件ですぞ!」

 

 興奮し捲し立てるコルベール。ロングビルは落ち着き払った態度でオスマンに告げる。

 

「申し訳ありません。朝から、急いで調査していたものですから」

「ふむ、調査とな?」

「そうですわ。今朝方、起きたら大騒ぎじゃありませんか。そして、宝物庫はこの通り。近くの地面の錬金された後をみて、これは貴族達を騒がせる大怪盗フーケの仕業に違いないと、直ぐに調査したのです」

 

 盗賊フーケは錬金を得意とする。そして、メイジが集う学院に押し入る程の自信がある。なるほど、王都の衛士が守っていても相手するフーケと断ずるに、早計ということはない。

 

「で、結果は?」

「はい。フーケの居場所が分かりました」

「なんと!」

「誰に聞いたんじゃね? ミス」

 

 近在の住民に聞い及んだところ、近くの森の廃屋に入る黒ずくめローブ姿の人影を見たとの事。遠くで男か女かは分からなかったそうだ。

 

「黒ずくめのローブ? それはフーケです! 間違いありません!」

 

 ルイズが叫んだ。オスマンは目を鋭くしてロングビルに尋ねる。

 

「それは近いのかね?」

「はい。徒歩で半日。馬で4時間と言ったところでしょうか」

 

 直ぐに王宮に連絡し王室衛士隊………ようするにエリート軍人に兵士を派遣してもらおうと言う教師を横目に、エルザは首を傾げた。

 

 狡猾、残忍、搦手が得意で騎士のメイジすら狩る彼女は指を折りながら壁から覗く太陽の位置を見る。

 

「馬鹿者! 王室なんぞに知らせている間に、フーケが逃げてしまうわ! その上、身にかかった火の粉を己で払えぬようで、何が貴族か! 魔法学院の宝が盗まれた。これは魔法学院の問題じゃ! 当然我等で解決する!」

 

 老人とは思えぬメイジの気迫に肩を震わせるエルザ。ルイズがそっと肩を抱いた。

 ロングビルは微笑む。それは如何なる心境か。

 

「では、捜索隊を編成する。我と思う者は、杖を掲げよ」

 

 誰れも杖を掲げない。困ったように顔を見合わせるだけ。ケントがコルベールに目を向けると、コルベールはオスマンと顔を見合わせ俯いた。

 

「おらんのか? おや? どうした! フーケを捕らえ、名を上げようと思う貴族はおらんのか!」

 

 オスマンは学院長。ここから簡単に離れられない立場。ならば教師が杖を掲げなければならないが、誰も戦う気はないようだ。

 

 そんな教師達を見て、ルイズがスッと杖を掲げた。

 

「ミス・ヴァリエール! 何をしているのです! 貴方は生徒ではありませんか! ここは、教師に任せて………」

「誰も掲げないじゃないですか」

 

 ルイズはきっと唇を強く結んで言い放った。そんなルイズを見てキュルケはしぶしぶ杖を掲げる。

 

「ツェルプストー! 君は、生徒じゃないか!」

「ふん。ヴァリエールには負けられませんわ」

 

 そんな親友を見て、タバサも杖を上げる。ケントも手を挙げると、エルザは一瞬だけ面倒くさそうな顔をして、すぐに怯えた顔を作りオズオズ剣を掲げる。

 

「タバサ達は関係ないじゃない」

「心配」

 

 キュルケは感動した面持ちでタバサを見つめた。

 

「マジックアイテムを使用され……悪用されるのを見逃、見過ごせません」

「お、お兄ちゃんが行くなら………私、従者だもん」

 

 そんな彼等を見て、オスマンは笑った。

 

「そうか。では、任せるとしよう」

「オールド・オスマン! 私は反対です! 生徒達をそんな危険な目に晒すわけには!」

「他国の、生徒でもない貴族に頼るなど………」

「では君達が行くかね、ミス・シュヴルーズ、ミスタ…………ギター?」

「い、いえ、私は体調が優れませんので」

「ギトーです。同じく、今朝から熱があって」

「彼女達は敵を見ている。その上で、ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を得た騎士だと聞いているが?」

 

 実力のみで与えられる称号だ。まあ、昨今は箔付けで金で買う貴族も増えているらしいが。

 

「ミス・ツェルプストーは、ゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系で、彼女自身の炎の魔法も、かなり強力と聞いているが?」

 

 やはり血筋。努力以上に、積み上げられた品種改良が重要なのか。魔法を使えることが尊ばれるなら、優秀なメイジの血を地位を持つ家が取り込むのだろうし。

 

 前の世界でもその辺りは同じだ。だから貴族が力を持つし、ケントだって混ぜられたし。まあ、在野に突然変異の如く発生する奴もいるが。

 

 ルイズは次は自分の番だと可愛らしく胸を張った。オスマンは困った。何処を褒めよう?

 

「あ〜………その、ミス・ヴァリエールは数々の優秀なメイジを輩出したヴァリエール家の息女で、その、うむ、なんだ。将来有望なメイジと聞いているが? そして、その使い魔は!」

 

 と、オスマンはケントに視線を向けた。

 

「ロバ・アル・カリイエから訪れた! 我々教師陣でも謎だったミス・ヴァリエールの魔法の失敗の理由を解き明かし、コモンマジックに関しては成功させた優秀なメイジである!」

 

 そうなのだ。実はルイズ、コモンマジックなら使えるようになっている。

 

「そして従者のエルザちゃんは将来有望なび……将来を有望視される剣の一族にして、幼くしてメイジ殺しの称号を得たと聞く」

 

 メイジ殺しは嘘ではない、とタバサはエルザを見る。ザワザワ騒がしくなる教師達に、オスマンは杖で床を叩き黙らせる。

 

「この者達に勝てると思うものは、前に一歩出たまえ」

 

 コルベールが前に出た。予想外の行動に、オスマンが目を見開く。

 

「………ミスタ・コルベール」

「オールド・オスマン。私も行きますぞ。あの様な幼い子まで行くのですから」

 

 これは、フーケよりエルザが警戒されてるな。ケントがエルザを見てみれば、エルザもそれを察したのか身を竦ませる。

 

「あら、研究肌のミスタが私達に勝てると? 同じ炎の使い手として、私に上回ると? 不愉快ですわ、臆病者」

 

 キュルケは普段の頼りないコルベールを思い返し、勝てると思われることに不快感を覚える。ここで決闘をしてやってもいいとばかりに睨むが、不意にコツンと後ろで音が聞こえ、ほんの一瞬意識が向く。

 

「これでも頼りないかね?」

「え………」

 

 その一瞬でキュルケとタバサから杖を奪い、キュルケの顎を棍棒としても使えそうな杖で待ち上げるコルベール。

 

 無刀取りならぬ無杖取り。鮮やかだったが、ルイズは無理だった。正確にはケントを抜いてルイズから取るのは不可能と判断した。

 

 実力も判断力も、きっちり備わっている。

 

「うむ。コルベール君………儂は君を信頼しておるよ。その実力を疑ったことなど無い。しかし、だからこそじゃ。フーケがまたこちらに現れる可能性もある。彼女達ほど優秀ではない他の生徒を、守ってほしい」

「……………………………」

「それに、優秀なメイジは君だけじゃなかろうて」

 

 燃える炎のような威圧を放つコルベール。一瞬エルザを見る。

 

「………分かりました。では、もし賊に出会ったらお伝えください」

「ん? 俺が?」

「たとえ貴方が何者だろうと、私の生徒に傷一つ負わせようものなら、灰すら残さず焼き尽くしてやる、と」

 

 ようするにエルザをしっかり見張っていろと言うことだろう。殺気を向けられたエルザはゴクリと唾を飲む。

 

「ああ、解った。大変だな、お前も」

「私は、君ほど研究のために何もかもを無視してしまえるようになることが怖いよ」

「そうか」

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