殲滅天使『エンジェル☆たん』。
ソフィアの作品は、ソフィアの弟子達が量産可能な物からソフィアにしか造れない物に別れる。機兵は前者、これは後者。
なんならケントも開発に関わった。一ヶ月ぐらい徹夜してた期間、最後の一週間で酒飲みながら作った。そのせいでぼちぼち不具合が見つかり回収、破壊を行ったのだが………まさかその内一機がこの世界に紛れていたとは。
『破壊の杖』といい、早い段階でこの世界の他の世界の繋がりを知る事になるとは、些か運命の悪戯を感じる。
特に破壊の杖なんて、普通のゴーレムなら名に恥じぬ威力で吹っ飛ばしていただろうし。
「きゃあああ!」
先程の山を破壊する程の威力はないが連射性は遥かに上の攻撃が飛んでくる。ハルケギニアの住人ならば当たれば消し飛ぶ威力だ。
「デルフ」
「おう! え、何すんの?」
「吸え」
迫りくる光線をデルフで切り裂く。爆発は起きない。光線は吸い込まれた。
「ああ、あったねえ、こんな力。いやぁ、忘れてたぜ」
「説明してたろ」
「そうだっけ?」
6000年も生きるとボケてくるようだ。まあ機能に変化がないならそれでいい。
「でもどうするよ相棒。彼奴、ずっと飛んで撃ってくるぜ」
「魔力増幅機能もあるが、発生機能はない。種火が必要だ。あれに魔力を与える奴が魔力切れになれば残存魔力を使い切って止まる」
「へえ、そいつはどのぐらい?」
「残存魔力だけで3日かな」
「じゃあ駄目じゃない!」
一人と一本の会話を聞いていたルイズが叫んだ。
「フーケを探す」
「そっか! 操られてるなら、操ってる本人を見つければ!」
タバサの言葉にキュルケが名案と叫ぶが、ケントはエンジェル☆たんを見つめる。
「無理だな。完全に暴走状態だ」
エンジェル☆たんの不具合その一。一定以上のダメージを受けると暴走し敵味方関係なく攻撃を開始する。
「お兄ちゃんの爆発とか森を破壊したあれは?」
「魔力吸収素材が使われてる。自身の構成する仮の体も錬金でそれに変えてるから、稼働時間が延びるだけだ」
もちろん普段のケントならば吸収限界を超える魔力で吹っ飛ばしたり、氣による攻撃など手段はある。
しかし今は魔法を封じられ、魔氣混合という離れ業を生み出した副作用として魔法を封じられると錬れる氣の総量が低下する。
「弱点はないの!?」
「過剰な魔力か、或は彼奴の素材は純粋な物理攻撃で破壊可能」
と、ルイズが念力で木を引っこ抜きエンジェル☆たんに投げつける。エンジェル☆たんに触れる前に砕けた。
「ただし城壁25枚級物理障壁に守られてる」
「どうしろってのよ!」
「そこで破壊の杖だ」
ケントはそう言って破壊の杖を指差す。
「これね!」
「あ」
「ルイズ!?」
ルイズがエルザから奪い取るように破壊の杖を手にして、両手で抱えながら振る。しかし何も起こらない。破壊の杖は沈黙したまま。
「チッ!」
隙だらけのルイズに放たれる光線。氣で強化した腕で弾く。
「何してんだ、死ぬ気か」
「だ、だって………!」
ルイズを抱え走りながら文句を言うと、ルイズは悔しそうに俯く。
「貴族が敵から逃げるなんて…………」
「貴族のプライドって奴か。それで死んでいたら世話ないな」
ルイズはボロボロ涙を零した。
「彼奴を倒せれば、誰も私を『ゼロ』なんて言わない! 貴族って、認められると思って………」
「……………」
気丈に振る舞っていても、やはり誰も彼も馬鹿にしてくる環境は、彼女に決して小さくない傷を残したらしい。
「………くだらねえ。言わせておけルイズ。お前は、最初に杖をあげたんだぞ?」
「え?」
「教師が誰も杖を挙げない中、お前は挙げた。なら、あの教師達よりも、その生徒達よりも、お前は貴族に相応しい。それに、お前はもう魔法を使えただろ。封印のせいで遅れるが、もうすぐ系統魔法だって使わせてやる」
その言葉にルイズがケントを見上げる中、ケントはその名を呼ぶ。
「
巨大な水蛇が現れる。角を持った、ハルケギニアの感覚からすると竜の首だけを伸ばしたかのような蛇は一鳴きするとルイズ、タバサ、キュルケが水の球体に包まれ浮き上がる。
「……………あれ?」
一人残されたエルザが困惑する中エンジェル☆たんはこの中で最も魔力を持つケントを脅威と判断し攻撃を続ける。殲滅天使の名に恥じぬ大規模攻撃に吹き飛ばされかけた。
「エルザ。今からあのガラクタの障壁砕くから、それ打ち込め。やり方は解るな?」
「う、うん………」
「よし」
スゥ、と空気を吸い込み氣を捻出。先程とは比べ物にならないエネルギーが周囲の火を揺らす。
エルザも安全ピンを抜く。リアカバーを引き出す。インナーチューブをスライドさせる。
その概念を理解しないまま、使用方法を理解できる。■■の担い手が使い魔に与える特別な力、その複製たる力を刻まれた吸血鬼は、その恩恵を発揮する。
ケントの足元が爆ぜ、姿が消える。否、一瞬で天に佇む人形の背後に回ったのだ。
天より来る神の使いを模した人形は、天翔ける竜が己の領域に侵入した羽虫を地に叩き落とすかの如き一撃を喰らう。
物理障壁が砕けそこそこ硬いはずの全身に罅を刻みながら大地に落ちる。瞬間、シュポという栓抜きのような音と共に放たれた鉄の塊。
物理障壁を再び張ろうとするも間に合わず、炎に飲まれた。
落雷の如き轟音が響き、身体であった欠片がバラバラと散らばる。その中に混じる魔神の心臓をケントが回収した。
「なるほど。その概念を一切知らないまま、それでも完全に理解するのか」
「お兄ちゃん………本当に勝てなかったの?」
ケントの呟きを聞き、思わず尋ねるエルザ。ケントは悪びれる様子も見せずに笑う。
「奪還任務である以上、これ壊しちまったら負けだろ?」
「…………………」
エルザはジトリとケントを睨んだ。
「ケント! エルザ!」
と、ルイズが叫ぶ。
「すごいわ! 流石ダーリンね!」
キュルケが抱きついてきた。
「エルザも凄かったわ」
ルイズかエルザの頭を撫でた。
「これは何?」
と、タバサは
シルフィードは目を見開いて固まっている。
「俺の使い魔みたいなもん。戻れ」
ケントの言葉に
「使い魔………?」
「ロバ・アル・カリイエの使い魔…………」
つまり自分達は何一つ知らない、と言外にタバサが言う。ルイズとキュルケも取り敢えず納得した。
「後はフーケを捕まえるだけね。ミス・ロングビルが何か見つけてないかしら…………ミス・ロングビル?」
3人はハッと顔を見合わせ森を見る。抉れ、吹き飛び、焦げ、砕けている地面。大慌てでロングビルを探しに森に飛び込む。
少しして、白目をむき泡吹いてぶっ倒れたロングビルを見つけた。時折ピクピク痙攣しているから、生きてはいるのだろう。
「『天使ちゃんコア』………魔神の心臓の起動のために魔力を吸いつくされたんだろう」
と、ケントがいえばそういうものなのか、と納得する。かなりの美人なロングビルをこんな目に合わせるとは、土くれのフーケ、なんて悪い奴なのだ。
「土くれのフーケは逃がしてしまったか。何、こうして皆が無事で、学院の宝も戻ってきた。今はそれを喜ぼう」
マジックアイテムの暴走と森の破壊から考えて、フーケは巻き込まれて死んだか逃げたという結論になった。ロングビルは運が良い。
「君達にはシュヴァリエの爵位申請を。と言っても、ミス・タバサは既にシュヴァリエの爵位をもっておる。代わりに精錬勲章の授与を申請しておいた」
ケントは爵位とかいらないけど、と思った。エルザは扱いは平民なので関係ないな、と窓の外を眺める。夕日綺麗。
「さてと、今日の夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。この通り破壊の杖と『魔神の心臓』が戻ってきたことだし、予定通り執り行おう」
「そうでしたわ! フーケの騒ぎですっかり忘れておりました!」
キュルケの顔がパッと輝いた。
「今日の主役は君たちじゃ。用意をしておきたまえ、精々着飾るんじやぞ」
3人は、礼をするとドアへ向かった。ケントは先に行ってていいと断りを入れる。ルイズは頷くと出ていった。
「何か、ワシに聞きたいことがおありのようじゃな。言ってご覧なさい」
「魔神の心臓。あれ、俺にくれません?」
「………なんじゃと?」
「知人と造ったものでして、この国じゃ俺以外にまともに使えないと思うので」
オスマンはコルベールを見る。視線の意図に気付いたコルベールは渋々出ていった。
「破壊の杖に関しては知らんのかね?」
「これは俺の生まれ故郷の武器ですね」
「そうか………」
オスマンは暫し考え込む。
「………君は、ここではない世界で生まれたのかね?」
「…………何故?」
オスマンは語り始めた。今から30年前、森でワイバーンに襲われた彼を助けたのが破壊の杖……ロケットランチャーの所持者。2本持っていたうちの1本らしい。
ひどい怪我を負っていた彼は看護のかいなく死んてしまった。『何故月が2つある』『ここはどこだ』『元の世界に帰りたい』……そんな言葉を残しながら。
「私は彼が使った1本を彼の墓に埋め、もう1本を破壊の杖と名付け、宝物庫にしまった。恩人の形見としてな………」
その男は、何故この世界に現れたのだろうか?
「魔神の心臓は、それより昔、盗賊討伐の際の戦利品じゃよ。あの時は術者を殺して手に入れたんじゃ。持ち主を転々として、多くの者がその力に魅せられ破滅するか、或は奪われてきた。この学院ならば、賊に狙われぬと思っておったんじゃがなあ」
「舐められてましたね、この学院。まあ俺も今舐めてますけど。弱いからじゃなく、情けないから」
「返す言葉もないわい………ま、下手に誰かが持っとるより、使い方を熟知しておるお主が持てば少しは気も楽になる」
つまり持っていっていいと言うことだろう。
「何につかうんじゃね?」
「これは魔力を増幅する効果がある。使い道は色々ありますよ」
「危ないことに使わんよね?」
「さあ? あ、そうだ。壊れた機兵はどうなったんです?」
「あれも君の国の兵器かね?」
「まあ警備が目的ですけど」
攻撃魔法の魔力を短時間で感知し非常事態と判断して機動したのだろう。
「君の国怖くない?」
ロングビルは目を覚ます。まず視界に映ったのは保健室の天井。
何があったのだったか? 確か、魔神の心臓を核にゴーレムを生み出して………それから?
「あ、起きた?」
「貴方は……ミス・ヴァリエールの使い魔の従者の」
「エルザだよ」
にぱ、と微笑むエルザ。見舞いなのか、花束を持っている。
なんとなく昔の妹分を思い出し、ロングビルも微笑む。
「あのね、お姉ちゃんに提案があるの」
「? 提案?」
「うん! このままご主人様の奴隷になるか、私のお人形になるか、どっちがいい?」
「…………は?」
「私としては、私のお人形がお勧め! お姉ちゃん、綺麗だし。かわいい服も着せてあげる」
「何を………」
「あ、他にも、フーケとして監獄に捕まる道も、あるにはあるね」
その言葉にロングビル……否、土くれのフーケは目を見開く。
「全部、お見通しってわけかい。でも、杖も奪わないとは油断し過ぎじゃないのかい、お嬢ちゃん」
「花弁よ、水に変わる力を得て刃となれ」
瞬間、花束の花弁が全て落ちた………かと思えば風もないのに宙を舞いロングビルの右手をズタズタに切り裂く。
「っ!?」
メイジの使う系統魔法ではない。これは………
「先住魔法!」
「貴方達って不思議ね。私達が先に住んでると認めてるのに、ここを自分達の世界みたいに」
まさか、エルフ? その考えは、無邪気な笑みからのぞく白い牙に掻き消される。
「吸血鬼!!」
「やだ、怖い顔しないで。話し合いましょう? ミルクは如何?
天使のように無邪気に、悪魔のように悪辣に吸血鬼は笑った。
エルザ可愛い! エルザ可愛い! エルザ可愛い!
お前もエルザ可愛いと言いなさい