賢者は使い魔   作:超高校級の切望

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王族来たる

「つまりだ、同じ魔法でも効果に差があるのは魔力量のみならず操作技術で、この点で言えばギーシュのワルキューレは………」

 

 ふむふむ、とメモをとるギーシュとコルベール、それからルイズ。

 現在は土系統の授業。火の家系のツェルプストーには関係ないと欠伸をするキュルケと自身の系統には関係ないものの応用が利くかもと聞くタバサもいる。

 

「以上を踏まえ、ギーシュが練習するべきは………」

 

 ケントは言う。ワルキューレ1体1体をメイジ殺し並みに強くして、かつ連携を覚えろと。

 

「一先ず、ギーシュには宿題として機密じゃない程度の軍事関連の本を………グラモン家は軍事家系だったな? 詳しい事は父に聞け」

 

 ドサ、と置かれる大量の本。何処から出しているのだろう? とコルベールが気になって聞いたことがある。

 

 その時ケントは指輪を見せた。賢老に与えられる秘宝『箱庭』を模した『箱』と言うマジックアイテム。城一つ二つ程度なら収納出来る。既に独立した術式なので魔法封印の影響もないのだ。

 

 

 

 

 そして夜は大人だけの時間。

 年は秘密。でも30年以上生きている吸血鬼のエルザと200歳以上生きる韻竜シルフィード。

 

「此方の精霊の力の使い方は、その場にあるのだけを使う」

「キュイ? 当たり前なのねお兄様。大いなる意思は世界に満ちているのよ? きゅいきゅい」

「………………」

 

 エルザもシルフィードに同意なのか、特に何か言ってこない。

 

「そう、お前達はその絶対性を疑わない。だからその場の力しか使わない」

「きゅい。でもお兄様、大いなる意思を疑うなんていけないことだわ」

「大いなる意思、ねえ。価値観の違いだな。そもそもお前達から頼み事をして、向こうから何か頼まれたことはあるのか?」

 

 エルザとシルフィードは顔を見合わせる。確かに自分達は精霊の力を借りることはあっても、一方的。精霊が何かをしろと言ったことはない。

 

 人間の昔話では精霊の怒りなんてあったが、森を切り開いて造った石の城には石の精霊が宿るし、池を埋めれば土の精霊が宿るだけ。精霊は精霊の力を扱う誰かの声がなければ何もしない。

 

「そこに意識があると思うのが、俺としては理解できないね」

「ふけい! ふけいなのね〜! ガブゥ!」

 

 シルフィードはケントに噛みついた。甘噛みだ。

 大いなる意思を侮辱する不敬者をよだれでベトベトにしてやる!

 

 しかし視えない薄い膜に阻まれるように舌が届かない。

 

「そもそもお前達の概念で言うと大いなる意思が俺の言葉も決めてるんだろ?」

「はう!」

 

 ガン、と固まるシルフィード。

 

「だってのに、エルフは人間を愚か者、始祖を悪魔と蔑むらしいな」

 

 『ハルケギニアの妖魔図鑑』と書かれた本を開くケント。まあ誇張や推測、願望に差別なども入ってはいるだろうが、他にエルフに関する本を読めば、正しいのは判断できる。

 

 人間より遥かに強く、寿命と耳が長く、自分が一番偉いと思っている。他は全て蛮族だから話を聞く必要がないと見下し、そのくせ自分の話を聞かない種族を野蛮と見下す。

 

 そう思えるだけ、エルフは強いのだ。この世界で一番精霊の力を扱うのに長けている。

 

「そのエルフが悪魔と言うブリミルも、精霊は何だとも思ってないだろうがな」

「どうしてそういい切れるのねー、るーるる」

「この前エルザを洗脳して一時的に敬虔なブリミル信徒にしたけど精霊は力を貸したし」

「そっか。コボルトなんかも、独自の神を崇めてるのに精霊の力を………待って、今なんて言った? 洗脳? は? え? は? 何時? は? え?」

 

 エルザが聞き返すがケントは気にせず授業を続ける。

 

「そして意志のない、体の外にある力に方向性を与えるのが精霊魔法の初歩で、そこに意識を与えようとしたのが俺の居た場所の精霊魔法と呼ばれるものだ。成長させるところから始まる」

「聞かないし、この人………」

 

 エルザは諦めた。

 

「ええと、つまり大いなる意思とは名ばかりの力の流れが海なら、そこから水を器にすくい取って使うのが私達の使う精霊の力で、すくい取った水に意志を与えて器の大きさを無視するのがご主人様の精霊の力の使い方?」

「よく解ったな。褒美に俺の汗を舐めていいぞ」

 

 吸血鬼は、一応汗も食料になる。栄養が足りず、取り敢えずしのぎにしかならないけど。それでもケントの味が大好きなエルザにとってはご褒美だ。

 

「きゅうう〜、そんなの邪道なのね」

「じゃあお前は、こいつらは邪悪だと言うか?」

 

 その言葉とともに現れるのは烏と巨大な水の蛇。

 風の精霊鴉嵐(あらん)と水の精霊蛟水(こうみ)だ。

 

 正真正銘の精霊の登場にきゅうう、と唸るだけになるシルフィード。

 

「精霊と契約し、その精霊に魔力を与えて流れから切り離す。そしてその流れと己の魔力を注いでいき成長させたのが此奴等だ。まあ、稀に自然発生するのも居るが」

 

 調べた限り、ハルケギニアだとラグドリアン湖に住むという水の精霊がそれに近いだろう。

 強さはピンキリ。強いものだと土地神として崇められ神性を持つこともある。

 

「初期の強さは当然自然発生に比べれば弱いが、資質次第でそいつ等にも負けない力を得る」

 

 精霊魔法の開発者であり賢老として世界から去った『精命の賢者』は72柱の神クラスの精霊を従えていたらしい。

 

「精霊に力って、どうやってあげるの?」

「きゅい! お前、やる気なのね!?」

「私がそう考えるのも、大いなる意思の導きでしょう?」

「うっ!」

 

 エルザの言葉に黙り込むシルフィード。エルザはそもそもこれを話された時点でやらせる気だとは思っていたし、実際力は欲しいので精霊の作り方を尋ねる。

 

「まずは契約した精霊に魔力を………そうだな、水の魔力を流し込む感覚が近いかもな」

「………………」

「シルフィードもやってみろ。気になる」

「嫌なのね! 大いなる意思への冒涜だわ!」

「…………もらってばかりの大いなる意思に、魔力をお返しするだけだ。そしたら向こうから語りかけてくるかもしれないぞ?」

「本当なのね!? 里の長老様でも出来ないことが出来るのね!?」

 

 きゅいきゅいと大喜びのシルフィード。チョロ、と吸血鬼が呟いた。

 

「あ、そうだご主人様。昔のメイジに聞いたんだけど、ブリミルへの信仰心が魔法の強さの秘訣なんだって。今度あのお姉ちゃんと会ったら、試してみれば?」

「そうだな。やってみるか」

 

 ケントの言葉にエルザはニッコリ微笑んだ。とても嬉しそうだ。孤独の中、仲間を見つけたみたいな顔してる。

 

「あ、そうだご主人様これ」

 

 と、不意にエルザが思い出したかのように何かを取り出す。

 

「メイドのお姉ちゃんが、落とし物だって」

「うわっ」

 

 ケントはそれを見て顔を歪める。

 

「なんであるんだよ」

 

 それはこの世界に来る前に捨てたはずのネックレスだった。

 

 

 

 

 放課後にはギーシュやルイズ達に授業、夜はエルザ達に授業を行うケントだが、意外にも昼は学院の授業に出ている。

 

 異世界魔法が遅れていようと、学ぶのは好きだ。今回の教師はギトー。此方では珍しい黒髪を長く伸ばし漆黒のマントを纏った姿は何とも不気味。

 

 おまけに性格も悪いので生徒から人気がない。

 

「では、授業を始める。知っての通り、私の二つ名は『疾風』。疾風のギトーだ」

 

 教室からは囁き声すら上がらない。ギトーは満足したように続ける。

 

「最強の系統を知っているかね、ミス・ツェルプストー」

「『虚無』じゃありませんの?」

「伝説の話などしていない、現実的な答えを聞きたいのだ」

 

 いちいち引っかかる言い方にキュルケはカチンと来た。

 

「なら、ミスタ・ギトー。それは『火』に決まっていますわ」

 

 火のメイジであり火の家系のキュルケは当然そう言う。

 

「全てを燃やし尽くすのは炎と情熱。そうじゃございませんこと?」

「ふむ。残念ながらそうではない。では、ミスタ・ルイミニア、異国のメイジの意見を聞かせてくれないかね?」

 

 これは満足のいく答えが出るまで正解と言わないな、と生徒達が嫌そうな顔をする中、ケントはニコリと笑い答える。

 

「簡単です。『土』」

「君の国では、魔法が正しく発展していないようだ。残念に思うよ」

 

 厭味ったらしく言うギトー。よせばいいのに。

 

「おや、では、何故貴方はあの時杖をあげなかったので?」

「………なんのことだ?」

「フーケ討伐隊の有志を募る時、貴方は杖を掲げなかった。トライアングルとされるフーケより格上の、スクウェアの貴方が。私はその光景を見て『ははぁ、この国で土とはランクの差を覆す最強の系統なのか』と感心したものだがね」

「っ!! そ、それは……体調が、優れず」

「それはそれは。厄介事を前にすると体調が悪くなる体質なら、年下の生徒達に威張れる教師は天職だったわけだねえ君」

 

 プッ、と笑い声が何処から漏れた。クスクスとあちこちから笑い声が聞こえた。

 

 ギトーは顔を赤くして憎々しげにケントを睨みつける。そして、杖を引き抜いた。

 

「良いだろう。辺境の未開のメイジに、風が最強たる所以をお見せする。ユビキタス・デル──」

 

 ケントは無視して教室の扉を見る。ガラッと開きコルベールが現れた。

 

 馬鹿みたいな格好をしている。頭にデカい、ロールを巻いた金髪のカツラを被っている。ローブの胸にはレースの飾りや刺繍が見える。

 

「ミスタ?」

「あやや! ミスタ・ギトー! 失礼しますぞ!」

「授業中です」

「おっほん。本日の授業はすべて中止であります!」

 

 ギトーが睨むも気にした様子もなくコルベールは重々しく告げた。教室から歓声が上がる。

 

「えー、皆さんにお知らせですぞ」

 

 歓声を浴びながらコルベールは仰け反った。仰け反ったので、カツラが落ちた。

 

「滑りやすい」

 

 皆が笑いをこらえる中、タバサがコルベールのツルツルの禿頭を指さした。

 教室は爆笑に包まれた。

 

「黙りなさい! ええい! 黙れ小童どもが! 大口開けてゲラゲラと、貴族にあるまじき下品な行い! 貴族はおかしい時は下を向いてクスクスと笑うものですぞ! これでは王室に教室の成果が疑われる!」

 

 取り敢えずその剣幕に皆がだまり込む。

 

「えー、おほん。皆さん、本日はトリステイン魔法学院にとって、良き日であります。始祖ブリミルの降臨祭に並ぶ、めでたい日です」

 

 コルベールは横を向くと後ろで手を組んだ。

 

「恐れ多くも先の陛下の忘れ形見、我がトリステインがハルケギニアに誇る可憐な一輪の花、アンリエッタ姫殿下が、本日ゲルマニアご訪問からのお帰りに、この魔法学院に行幸なされます!」

 


 

みんな色んな意味で大好きなお姫様。今日もオトモダチを戦場に派遣しにきたよ。

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