賢者は使い魔   作:超高校級の切望

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ラ・ロシェール

 風を切り走るバイク。ギーシュはその速さに当初は騒がしかった。手摺を用意してやらねばケントに飛びついていただろう。

 

 ワルドは上空からそれを見下ろす。

 ロバ・アル・カリイエのマジックアイテム。一瞬、『神の本』が頭に過るが恐らくエルフと争い発展した遥か東の国で普及しているのだろう。

 

「時にルイズ、使い魔の彼はともかく、グラモン家の子息まで危険な旅路についていくなんて、君はモテるなあ」

「違うわ! ギーシュは、姫様にいいところを見せたかっただけ」

「それは良かった、かわいい婚約者に、勇敢な若者が惹かれてしまったら僕程度では君の心を止められないかもしれないからね」

「からかわないで…………」

 

 恥ずかしそうに俯くルイズ。

 確かにワルドとルイズは婚約者だが、2人の父親が戯れに決めた事だ。

 

 ワルドの父が死に、爵位を継いで衛士隊になって以来会うことも殆どなかった。

 魔法の使えぬ自分とスクウェアメイジでメイジの憧れの衛士隊、その隊長。婚約なんてとっくに破棄されているとばかり。

 

 ルイズはチラリとケントを見る。異国より現れた強大な魔法使い。自分と真逆としか思えない、偉大なる大公。そんな彼が自分を系統に目覚めさせてくれる………ワルドと言い、自分には不相応な相手ばかりが現れる。

 

 

 

 

「これ、凄いなあ。ロバ・アル・カリイエに行けば僕も買えるかな?」

「まずは自転車で練習するんだな。二輪で立つ確信があるのとないのでは話が違う」

「自転車?」

 

 なんだい、それはと尋ねるギーシュ。スピードにもなれてきて、すっかりバイクが気に入ったらしい。

 半日以上走っていて、衰えを見せない。座り心地だって馬より遥かにいい。

 

 

 

 

 本来なら2日は掛かるであろうラ・ロシェールまでの道のりをその日の内に走り終えた。

 月夜の下、峡谷に挟まれるようにして街が見えた。

 

「………待ち伏せか」

「何?」

 

 ケントの言葉にギーシュが訝しんだ瞬間、何本もの松明が崖の上から投げ込まれる。明るく照らされた崖の下にめがけて矢が飛んできた。

 バイクを横向きに地面を擦りながら速度を落とす。

 エルザが飛び出し飛んできた矢を弾く。

 

 吸血鬼の身体能力にガンダールヴのルーンの力の相性はいい。ケントも剣を抜き、2人揃って左右の崖を駆け上る。

 

「な、なんだて──!」

 

 首が飛ぶ。

 

「仕事か、相棒!」

「仕事だ、デルフ」

 

 飛んでくる矢を全て切り落としながら呟く。火薬の炸裂音が響く。銃を持っているようだ。球を弾いて本人の頭に返してやる。

 

 そのまま魔力を飛ばして弓を構えた男達を挽肉にする。

 

「く、くそ!!」

 

 後ろから切りかかった男は、しかし風の塊に吹き飛ばされた。ワルドの魔法ではない。

 

「追い付いてきたか、速いな、シルフィード」

「きゅい♪」

 

 現れたのは蒼い鱗を持つ竜、シルフィード。その背に乗るのはタバサとキュルケ。竜の登場にメイジの居ない賊は大混乱。あっという間に鎮圧された。

 

 

 

 

「エルザちゃん、強いのねえ」

 

 竜の上からその戦いぶりを見ていたキュルケはエルザに声を掛ける。彼女はワルドを追ってきたのだが、ちっとも靡いてくれない。ならばとケントに迫るが構ってくれるが子供扱いされたのだ。

 

 自分の番を楽しみにしていたギーシュは項垂れている。

 

「それで、お前等はなんの目的で俺達を襲った?」

 

 ケントが尋ねるが男はペッと唾を吐いた。

 

「尋問するなら、あっちのかわいい子にやらせろよ」

「あまりの可愛さに、口が滑っちゃうかもなあ!」

 

 こういう連中って、なんで立場をわきまえないんだろうと首を傾げるエルザ。実力で負けたのに、脅せば勝てると思っているんだろうか?

 

「エルザ」

 

 ケントがパチンと指を鳴らすとエルザが前に出る。幼いながらも怪しい魅力を持つエルザにニヤニヤと笑う男達。

 

「へへ、どんな拷問をするんだい?」

「おじちゃんの彼処を踏んでくれるかい?」

 

 エルザはニコッと微笑み、男の一人の顎を蹴った。ビチャリと湿った音を立て下顎が地面に落ちる。

 

「………? おごぼおおお!?」

 

 一瞬何が起きたか分からなかった男はしかし直ぐに激痛にのたうち回る。

 

「蹴るのは腹でよかったろ。これじゃあ話も出来ない。じゃあ、次はお前」

「ひっ!?」

 

 と、視線を向けられ震え上がる賊。我が身おしさに語りだした。

 

「や、雇われたんだよ! これから来るガキどもを襲えって!」

「ガキ………? へえ、既に情報が」

「ふむ。既にアルビオンの手の者が?」

「使者を送ることは予想していても、それがガキって知ってるのは不自然だろ」

 

 何せ昨夜、姫が突発的に行ったことなのだから。

 

「わからないよ。僕の隊に裏切り者がいれば、僕が突然休暇を取ったことを訝しむかもしれない。目のいい使い魔を使えば、僕達が揃って出た事も把握出来るだろう」

「ま、その可能性はあるか。傭兵ともなると厄介だな。殺しておくか」

「ま、待ってくれ!」

 

 ケントの躊躇いもない言葉に男達は顔を青くする。特に、ケント側に居た傭兵は彼が自分の仲間も地面のシミにするのを見ている。

 

「おお、俺達は雇われただけなんだ! ここで俺達を殺しても、別の奴が雇われるだけだ!」

「俺達が嘘の報告すれば、時間も稼げる筈だ!」

「ふむ、一理あるな………」

 

 傭兵の言葉にワルドは考え込む。

 

「此奴等がまた襲ってくる可能性もあるけどな」

「もう襲わねえ! こんなに強いなんて、知らなかった! あの程度の金で!!」

「そうか、そんなに金が好きか」

 

 ケントは杖を取り出し詠唱を唱えるふりをする。錬金のルーンだ。ワルド達が首を傾げる。

 

「さ、行くか」

「あ、ああ………」

 

 傭兵達は何も言わない。罵倒も懇願もしない。

 物言わぬ金の彫像へと成り果てたのだから。

 

 ケントは己の手を見る。

 封印もだいぶ解けてきた。得難い経験。次はもっと早く解除できるだろう。

 

 

 

 

 

 ラ・ロシェール一の宿、女神の杵亭。

 ケント達が一階の酒場で寛いでいると『桟橋』へ乗船の交渉をしに行ったワルドとルイズが戻ってきた。

 

「アルビオンへの船は、明日にならないと出ないようだ」

「急ぎの任務なのに」

 

 明日の夜は月が重なる『スヴェル』の月夜。その翌日の朝がアルビオンが最も、ラ・ロシェールに近付く日。

 

 明日一日は休むことになりそうだ。

 

「さて、じゃあ今日はもう寝よう。部屋は取った」

 

 ワルドは鍵束を机に置いた。

 

「キュルケとタバサは相部屋だ。そして、ケントとエルザ、ギーシュが相部屋」

「ギーシュ、俺が寝ている間にエルザに手を出すなよ? 死にたいなら別にいいが」

「出さないよ!!」

「そして、僕とルイズが同室」

 

 ルイズが驚きで目見開く。

 

「婚約者だからな、当然だろう?」

「そんな、駄目よ! 私達、まだ結婚してるわけじゃないじゃない!」

「婚前交渉とかしない感じ、この国」

「そうでもないみたい、男の方は、ね」

 

 ケントの言葉にキュルケは妖艶に微笑んだ。

 

「2人っきりで話したいことがあるんだ」

 

 ワルドは真剣な顔でルイズを見つめる。ルイズはケントをちらりと見た。

 

 話が終わったと判断したのか、一人の女が近付いてきた。

 

「旅行かしら、貴族様。よければ、私と飲まない?」

 

 フードをかぶっているが美人だとは解る。胸もデカい。デレデレ鼻の下を伸ばすギーシュだが、女が腕を絡めたのはケント。

 

「いい店を知ってるの。宿でもあるのよ、ここよりは狭いけど、人は少ないわ」

「そうか。じゃあ、案内を頼もう」

「えー、ちょっと、ダーリン!」

 

 ケントは女と手を組み宿から出ていった。

 

 

 

 

「で、何か見つけたか?」

「殆どがガラクタだね、魔神の心臓と同等のアイテムは見つからない。あったとしても、あたし一人には荷が重いのがチラホラと」

 

 ミノタウロスの巣だったり、オークが住み着いた講堂跡地だったり、暴走したガーゴイルが犇めく森もある。

 

 ケントは()()()の言葉にそうか、と返す。

 

「そう言えば最近アルビオンが騒がしいな」

「これから向かうんだっけ? 気を付けな、反乱軍には『虚無』の使い手がいて、死を覆し心を操るって噂だ」

「ほう、虚無」

 

 ケントがピクリと反応した。

 

「ちょうどいい、現王家に恨みがあるって言って参加してこいよ」

「はあ? 冗談じゃないよ、何でわざわざ危険を冒して──」

「フーケ」

 

 ケントはニコリと微笑む。

 

「参加してこいよ」

「………………」

 

 断ったら殺す気だ。

 

「わかったよ」

「ところでフーケ、お前始祖ブリミルを信仰してるか?」

「はあ? あいにく、してないよ。魔法を作ってくれたことに感謝してるけどね。それが?」

 

 

 

 

 魔法を作ったのがエルフと記憶を改変しても普通に魔法は使えていた。やっぱり信仰とか全く関係ないな。

 

 

 

 

「名前?」

「ああ、切り離され独立しかけたそれに名前を与え、完全に切り離す。それでそいつは微精霊になる」

 

 エルザは水の入った壺を見つめる。揺らさず、風もないのにチャプチャプと波立っている。

 

「因みに俺は生まれ故郷で属性と動物の名を意味する言葉を繋げている」

 

 と、蝮サイズになった蛟水(こうみ)の顎下を撫でるケント。

 

「成長した精霊の力を通せば、周囲の意思なき精霊を従わせることも出来るようになる。お前にも分かりやすく言うなら、エルフみたいな力も使えるってことだな」

「なるほど………」

 

 エルザの脳裏に過るのは散々準備して土地と契約したのに一方的に破棄され、奪われたあの時の光景。

 

「名はそいつの方向性を決める。此奴等の姿も、名前を着けてから変化していったしな」

 

 結構重要な儀式だった。

 

「ご主人様が契約している精霊、全員故郷の言葉なの?」

「いや、一匹だけ貰い物。以前話した精霊魔法の創始者が72柱の精霊の1体」

 

 師匠(せんせい)にほれ、と渡された精霊。まあ戦闘力は高いわけではないが、精霊としての格で周囲と精霊を支配出来るのは大きかった。こっちじゃ他の精霊で事足りるけど。

 

「お前も早いとこ名前を決めな」

「う〜ん………じゃあ──」

 

 

 

 翌朝。ドアがノックされた。

 ギーシュは寝ているのでケントが出る。

 

「おはよう、ケント」

「どうした? 今日は1日休みだろ」

「ただ何もしないで1日を過ごすのも退屈だろう? よければ、手合わせをしてくれないかな?」

「手合わせ?」

「昨日の剣を見れば解る、エルザは、君の弟子だろう? 『ガンダールヴ』を鍛えた剣士の腕、興味がある」

「『ガンダールヴ』…………」

 

 実はオスマンから少しだけ聞いているケント。伝説の使い魔だったらしい。しかし、コルベールも調べねば分からず、オスマンだって長い人生一度も見たことがない、伝説の彼方の使い魔だ。

 

「僕は歴史と、(つわもの)に興味があってね。過去の剣士について調べていたら、『始祖の盾』と称されるあらゆる武器を使いこなす使い魔について知ったのさ」

 

 あんなに小さな子とは思わなかったけど、と笑うワルド。

 

「とはいえ、あんなに小さな子に剣を向けるわけには行かないからね。そこで、ガンダールヴの師匠の君に頼みたいのだけど」

「面倒」

 

 扉を閉めようとするが、ワルドが止める。

 

「本音を言うなら、愛しの婚約者が求婚してもどうにも心此処にあらずでね」

「ルイズが俺に惚れてるかもって? 別に、貴族なんだから愛のない結婚だってあるだろ」

「あ〜、うむ………いや、だけど」

「ルイズの心が欲しいなら正面から口説けよ。欲しいならな」

 

 今度こそ扉を閉め、ベッドに転がるケント。

 

 

 

 

 

 さて、その頃のトリステイン、ヴァリエール領。

 国境、つまり辺境。そこを任せられるということは中央からほぼ独立軍を任せられているようなもの。強さと忠誠に絶対的な信頼を持たれているのだ。

 

 そのヴァリエール家当主ラ・ヴァリエール公爵はカーテンを開け朝日を部屋に入れる。

 ふと、窓の縁に紙が置かれているのに気付く。

 

 封蝋の花押には見覚えがあり、目を輝かせ窓を大慌てで開ける。妻が見れば顔を顰めるだろうが、許してくれるだろう。何せ、それは学院に通ってから連絡を寄越さなくなった末の娘に渡していた花押。

 

 自分が先に、と妻に悪く思いながらも開く。

 ルイズの字ではなかった。少ししょんぼり。しかし、直ぐにまた笑顔になる。

 

 異国のメイジが縁あって彼女の師となり、コモン・マジックを成功させたと言う。

 

「おお、おお!! 東方の、なんと! 始祖よ、この巡り合わせに感謝を!」

 

 これはすぐに皆に伝えなくては! そのメイジも最上級の歓待を、と思って2枚目に気付く。

 

『王命にてアルビオンに向かいます。密命ゆえ、詳細は語られぬことを許してほしい。私も腕に自信はありますが、叶うなら、トリステインの『最強』を派遣してほしく願います』

 

 勝手に花押を使用した事に対する謝罪も添えられている。そこに怒りはない。それがなければ、怪しい手紙など燃やすか後回しにしていたからだ。

 

「王命? まさか! 何故ルイズを!」

 

 いや、まずは事実確認を! 王城に!? それともトリステイン魔法学院? 今、どちらにいる!?

 

「ええい! 馬車を、いや………馬を用意せよ!」

 

 その様子を眺める鴉は、カァーと鳴いて飛び去った。

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