「手紙はまあ恋文だろうな」
「悲恋に酔ってそうだもんね」
ケントの背中に乗り、んしょ、とマッサージをしながらエルザはアンリエッタ劇場を思い出す。
始祖ブリミルに自分の救いを求める前に、国の安全を願えばいいのに。
「でもさ、恋文っていっても、同盟を本当に止められるの? ゲルマニアの皇帝からしても、始祖の血を取り込めるのは嬉しいはずでしょ?」
始祖の血を引く王家は現在
大国ガリア王家、白の国アルビオン王家、水の国トリステイン王家と、そこの親戚筋にして独立国クルデンホルフ。
アンリエッタの対応次第では5つに増えるだろうが。
「始祖の血は確かにゲルマニアも欲しいだろうよ。ガリアに匹敵する大国。優秀なら即採用のあの国の力は、普通に強いからなあ」
だが始祖の血を引いていない。それだけで他国から見下されている。
そもそもあの国自体、貴族が利益のために手を組んで生まれた国だ。
「そこの皇帝に始祖の血が加われば、他の貴族を牽制できるからなあ。『我々は始祖に連なる者。異端認定するぞ』ってな」
「血なんて所詮血なのに」
「吸血鬼からすればな。こっちの魔法は血に宿る力に依存してるから、重要なのさ」
「ご主人様、異世界人だけどこっちの魔法使えるんでしょ?」
「杉の木だろうと松の木だろうと、燃やせば火は出る」
だから、こちらの平民も自らに眠る力を知覚し引き出せるようになれば、理論上は魔法は使える。現実を書き換える力である魔法を扱うには、魔法を使えるという強い自覚が必要なので六千年凝り固まったこの世界の民には無理だろうが。
「そういやルイズも始祖の血統………ブリミルめ、仕込んでたな? 血を目印に6000年も起動し続けるとか。ああ、会ってみたかったなあ」
「虚無の使い魔ガンダールヴ、だっけ? 虚無かぁ……王家の血を取り入れられれば、手に入れられる可能性があるのか」
「まあ少なくとも一夫一妻を神の教えと広められている以上、恋人がいる女を妻にするのはリスクがあるのは確かだ。因みにこれは俺の推測だが、ブリミル教の一夫一妻は後付けだ。血を広げないようにしたんだ」
系統は遺伝する。始祖ブリミルは全ての系統をスクウェアクラスで使いこなせたらしいが、それにしたって王家は分かれすぎだ。水のトリステイン、土のガリア、風のアルビオン………ガリアは近年水によったのだったか? まあ昔は土のルビーを持つに相応しい土系統よりの王族だったのは確か。ルビーと言えば、水のルビー、あれうまく使えばルイズを王と担ぐ馬鹿が現れるんじゃなかろうか。
火のロマリアは弟子が起こした国だから除外しても、ブリミルには3人の妻が………水の妻、風の妻、土の妻がいた可能性が高い。人妻が四属性に分裂したソシャゲのイベント思い出した。
「まあ明確な証拠があるわけじゃねえが。それこそブリミルJr三兄弟各属性の妻と結婚した可能性もあるにはある」
「そう思う方が普通じゃないの?」
「俺の師匠が言っていた。神の言葉を伝えられる時、その神と出会うまでは語る人間の都合のいい嘘だと思えってな」
実際土地神に会ってみたら『知らんよそんなん。毎年死体投げ込まれて迷惑してるもん、やめて』と言われたこともある。
その国に伝えてやったら殺されそうになったので土地神と一緒に滅ぼしたけど。
あれは生贄を差し出すという行為を強制させ、そこまでしたのだから従うべきと思わせるのが目的だったのだろう。それが何時しか伝統になり、義務になった。ウケる。
「でもそんなに血が大事なら、トリステインはどうするの? 始祖の血を外に出して、残ってないじゃん」
「姫様に二人以上産ませて片方を引き取る、は………リスクが高いな。ヴァリエール公爵家かクルデンホルフか……まあ、ヴァリエール家が妥当か。でもラ・ヴァリエール公爵は欲がないだろうし………」
マザリーニ枢機卿からすれば実績のあるラ・ヴァリエール公爵を王に推したいだろうが、本人はその気はあるまい。
とは言え国を思うなら娘ぐらいは差し出してくれるか? 確か、ルイズ含めた三姉妹だっけ? それすら無理なら………。
「どれだけ被害少なく国を終わらせられるかだな。まあぶっちゃけ、ゲルマニアの一地方になった方が国民的にはプラスだろうが………」
強いて問題を挙げるならゲルマニアでは人売りが行われていることか。
あらやだ、この国詰んでる?
まあ次の王のアンリエッタは未だ無能ではなく無知な可能性の卵。彼女の成長次第か。
と、その時戸がノックされる。エルザがピョンと飛び降りて鍵を開ける。
「やあ」
「ワルド」
「飲まないかい? アルビオンのいい酒があるそうだ」
「ルイズと飲めよ。口説くにはもってこいだろ?」
「騎士の僕が女性に飲ませ過ぎるわけにも、女性の前で飲み過ぎるわけにもいかないさ」
酒瓶片手にニヤリと笑うワルド。ケントも笑う。
「本当にいい酒なんだろうな?」
「保証するとも」
一つの月に懐かしさを感じながらケントは酒を飲む。なるほど、上質だ。
ケントは杯を2つ取り出した。銀細工のそれは、氷を使わず酒を冷やしてくれるのだ。
「これもロバ・アル・カリイエの魔導具かい? エルフ共を追い立て聖地を取り戻し、交易が始まれば多くの人にこの味を教えられるのかな?」
「さてな。そも王達は戦うだけ無駄と、ほとんど諦めている………ああ、レコン・キスタとか言う泥舟は、聞こえのいい金箔を貼って聖地奪還を掲げてるんだったか」
「おや、泥舟?」
「一つの国を滅ぼしたところで、残りを滅ぼせるかよ。トリステインはいけるがガリアで詰む。真っ先にゲルマニアと繋がりを持たねえ時点で能無しが偶々今は上手くいっているだけだ」
ワルドはその言葉に何やら考え込む。
「しかし、聞けば彼等の長は虚無の担い手と聞く」
「おお、偉大なる始祖の力。で、そこに神の盾達はいるのか?」
「やはり、君は………始祖の関係者なのか?」
「………………………」
ケントは無言で続けろと促す。
「君はガンダールヴの一族を育てる役目を背負った、そういう家柄ではないのかい? しかし、まだ幼く、故に君が手助けをするために………」
「ほう? つまり、エルザがルイズの使い魔で、仕えているのは俺の方と?」
「ああ。僕は、少なくともそう思っている」
真剣な瞳だ。幼すぎるガンダールヴを見て、ガンダールヴとはルーンを与えられた者ではなく、
つまり、同時にこう思っているわけだ。
『ケントは始祖について、ほんの一部であろうとハルケギニアの誰よりも詳しく知っている』と。
「或は君自身、神の頭脳………『神の本』として助言を与える一族なのでは」
「ずいぶんと、始祖が好きなようだな」
「ああ、取り分け神の頭脳に会いたかった………」
「ご覧のとおり、俺の頭にルーンはない」
「それはつまり、まだなっていないと?」
「何時なるかも解らんな」
ケントは再び酒を飲む。そもそもなるかも解らない。もうどっかにいるかも知れない。そう、例えば秘密の多いロマリアか、魔法が使えぬ無能が治めるガリア……アルビオンの『虚無』が王家の傍系だとして、ここまで急速に力を手入れた背景に『神の頭脳』があるかもしれない。
「なら、やはり………」
「……………」
「いや、済まない。君が神の頭脳として目覚めた時、改めて話をしたい」
ワルドはそう言うと去っていった。
「相棒は神の盾だろ? 使い魔契約の重複なんて、おっそろしいぜえ。胸にルーンが出たらどうすんだ」
「へえ、少なくともガンダールヴとその胸のを重複していた使い魔が過去にいたのか」
「ああ、居たねえ。何時だったかなあ、思い出せねえ」
「…………お前もう流石に記憶消されてんじゃねえの、それ」
ケントは呆れながら飛んできた火矢を掴み、投げ返した。ウォン! と唸りを上げ飛ぶ矢は襲撃者の頭蓋を貫く。襲撃だ。