賢者は使い魔   作:超高校級の切望

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ゼロのルイズ

 使い魔は主人の目となり耳となる。感覚の共有を行うことが出来るらしい。

 本来呼び出せない人間だからか、不可能。

 

 使い魔は主人の望むものを探し出す。これは使い魔の特性というより仕事だ。とは言え、こちらの植物の分布も鉱石も知らない。

 

 一先ず役に立てそうなのは戦闘ぐらいだろう。

 

「ところでルイズ様。俺は何処で寝れば?」

「あ………」

 

 犬猫なら一緒に寝てたし、大型なら畜舎を借りていたが人が出ると思っていなかったルイズはその言葉に固まる。

 

 これが噛み付いてくる生意気な平民なら床にでも寝ろと言ってやれたのだが、こちらを立ててくれる男相手にそうは言えないルイズ。使用人を床に寝かせる貴族なんて聞いたこともない。

 

「ええと、その………」

「ああ、元は動物呼ぶ予定だものな。まあ毛布1枚あれば上等ですよ」

 

 と、応えるケント。

 賢人の塔に珍しい異世界人だと連れてかれた時は人並みどころか家畜以下。備品として扱われて棚に押し込められていたこともあるのだ。

 

 そんな事した相手に共に智を高め合う同胞として笑い合おうとするあの世界の魔法使いは、やはり頭がオカシイのだろう。

 

「そう? ごめんなさい、そのうち布団だけでも用意させるわ」

「ええ、ではおやすみルイズ様」

 

 

 

 

 さて、と戸も窓も開けずに部屋の外に出るケント。

 空を見上げれば、青と赤の二つの月が浮いている。

 

「俺がガキの使い魔とはね。寿命は俺の知る人間とさして変わらないだろうし、長く見積もっても100年か」

 

 この身は既に寿命の楔から解き放たれた身。一人の人生程度に縛られても大した問題はないだろう。

 とは言え自由時間は欲しい。主人が寝ている間ならいいだろう。

 

 とは言え、様子を見る限り魔法とは貴族のみが扱うようだ。街に出て本屋に行ったところで魔法に関する本は売ってないだろうし、そもそも夜に開いているかも解らない。

 

 娼館にでもよるか、と街の方向を探るため探知魔法を発動すると、人ではない別の魔力の反応があった。

 

 

 

 

「キュイキュイ、なんなのねあの小娘!!」

「おや、珍しい。真竜か?」

「きゅ!?」

 

 雲の上。プンプンと憤る蒼い竜がいた。

 ケントが前にいた世界にも竜はいる。獣程度の知恵しか持たない亜竜。高い知能を持つが人間の言葉なんぞ使わぬ邪竜。高い知能を持ち人間と共にある真竜と、大まかに分けるとこの3つ。

 

 言葉を操り、邪悪な気配はない。ならば真竜だろうが、それにしては弱い。

 

「な、なんなのね貴方! はっ!」

 

 慌てて口を押さえる竜。喋っちゃったのね、と慌てている様子を見るに、さては黙っているように言われたのだろう。

 

 メイジの実力が使い魔の強さで解るなら、言葉を発し魔法を操る竜など自慢しそうなものだが………絶滅種とか?

 それなら、好事家に狙われるかもしれないし、危険だから隠すだろう。

 

「キュイイ〜。でも! 知ったことじゃないのね、あんな小娘!」

「お前も誰かの使い魔として呼び出されたのか?」

「きゅ? お前、も? 貴方もなのね!」

 

 きゅいい? とケントの周りを飛び回る竜。

 

「まあ良いのね。使い魔同士、仲良くしてやるのよ」

 

 キュイキュイと得意げな竜。ケントはその竜の後ろを見る。

 

 ポカァァン!!

 

「キュイ!?」

 

 青い髪の少女が大きな杖で竜の頭をぶん殴った。

 

「なにするのね!?」

「喋っちゃ駄目といった」

「聞かれないようにしてたのね! この人間が来たのね!」

「まあそういうわけだ。怒らないでやってくれ」

 

 その言葉に青髪の少女はじっとケントを見つめる。

 

「………ルイズの使い魔。メイジだったの?」

「キュイ。何を言ってるのね、あれは精霊術なのよ」

 

 無知なやつなのね、と馬鹿にする用に鼻を鳴らす竜がまた叩かれた。

 

「貴方は、先住魔法を使えるの?」

「これのこちらでの呼び方なんて知らん。まあ精霊の力を利用する魔法()使えるが」

「…………貴方は一体」

「とても遠くから来た魔法使いだ」

 

 間違いではないだろう。と適当に答えるケントに少女は何やら考え込む。が、眠かったのかふぁ、とあくびをして目元をクシクシ擦る。

 

「眠いなら寝ろ。別に、此奴の事は吹聴しない」

「………………一個借り」

 

 少女はもう一度あくびをすると地上に向かって降りていった。

 

 

 

 

 翌朝、ケントは昨夜ルイズから洗うように命じられた下着を持って洗い場を探す。と、籠を抱えたメイドを見つける。

 

「そこのメイド」

「は、はい。なんでしょ………!?」

 

 声をかけられビクリと振り返る黒髪のメイドはギョッと固まる。素肌ローブの刺青の男が、小柄な少女のものと思われる下着を持っているのだ。イケメン無罪という言葉も今回ばかりは通用しない。

 

「俺はケントという。召喚したルイズ様の命令で洗い場を探しているのだが、教えてもらえないだろうか?」

「あ、ああ! 貴方が!」

 

 良かった、とメイドは納得と安堵。ロリコン変質者に声をかけられたわけではなかった。

 

「その、失礼ですが………女性の下着を洗ったことは………」

「ないな」

「ですよね。繊細なので、多分、痛めちゃうかもしれません、よろしければ私が代わりにやりましょうか?」

「そうか。助かる」

 

 ケントはメイドに預ける。メイドは後で部屋に届けますと頭を下げた。

 

 

 

 

 

「………あれ?」

 

 ポニャポニャした頭が冴えてきたルイズは、自分が食堂に向かっているのに気付く。

 

「………私何時着替えたっけ?」

「俺に着替えさせたでしょう?」

 

 そういえば、着替えさせてと言った記憶がある。流石に下着は自分で着た…………よね? 少し頬を染めケントを見るとケントは首を傾げた。

 

「な、何かなかった?」

「隣の部屋の使い魔を怖がらせてしまったぐらいでしょうか。赤い蜥蜴みたいのが………」

「それって、サラマンダー?」

 

 なら、キュルケの事か。その使い魔を怖がらせたと………フフン、いい気味だと少し気分が良くなるルイズ。

 

「でも、どうして怖がらせたの?」

「俺の故郷では高級食材だったのでうまそうだな、と」

「…………………」

 

 サラマンダーって食べれたんだ。

 

 

 

 ささやかな糧とは言葉ばかりの食いきれない飯を食う貴族を横目に見ながらケントは床で肉と野菜の浮いたスープと少し硬いパンを食って、教室に移動した。

 

 

 トリステイン魔法学院の教室は大学の講堂のようだ。

 教卓を最下層に、階段のように席が続いている。

 

 ルイズが………正確にはケントが教室に入るとクスクスと嘲笑が響く。ルイズの隣の部屋のキュルケはニコッと笑いケントに手を振ってきた。

 

 笑い声にかき消されるが。

 

「………………」

「気にしなくて良いルイズ様。前例が無いことをあり得ないから失敗だなどと宣う者に、俺の主が劣ることなどないのだから」

 

 悔しそうに俯くルイズの耳元で囁いてやれば、ルイズはそうよね、と顔を上げた。その反応が面白くなかったのか何名かは顔をしかめるが、特に何か言うことはなく、教師が入ってきた。

 

 ふくよかな中年の女性。彼女は教室を見回すとニコリと微笑む。

 

「皆さん、春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。このシュヴールズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔を見るのが楽しみなのですよ」

 

 そして視線はケントに向く。

 

「おやおや、変わった使い魔を召喚しましたね、ミス・ヴァリエール」

 

 シュヴールズの言葉に教室がどっと笑いに包まれる。その中で太った男子生徒が叫ぶ。

 

「ゼロのルイズ! 召喚できなかったからって、その辺歩いてた平民連れてくるなよ!」

「違うわ! ちゃんと召喚したもん!」

「嘘つくな! 『サモン・サーヴァント』が出来なかったんだろう!?」

 

 ゲラゲラ教室中の生徒が笑う。ギッと奥歯をかみしめ立ち上がるルイズだったが、先程のケントの言葉を思い出しふん、と鼻を鳴らすと席に座り直す。

 

 更に言葉を続けようとした太っちょは、シュヴールズが杖を振るうと口の中に粘土を詰められ黙る。

 

「貴方はその格好で授業を受けなさい」

 

 授業が始まる。シュヴールズが杖を振るうといくつかの小石が教卓に落ちる。

 

「私の二つ名は『赤土』。赤土のシュヴールズです。『土』系統の魔法をこれから1年、皆さんに講義します。魔法の四大系統はご存知ですね? ミスタ・グラモン」

「はい、ミス・シュヴールズ! 『火』『水』『土』『風』の4つです!」

 

 呪文では5つの力を司るとか言ってなかったか?

 

「今は失われた系統の『虚無』を合わせて、全部で5つの系統があることは皆さんご存知のとおりです」

 

 不意に、ケントの瞳が誰にも気づかれない程度だが淡く光り、その瞳に魔法陣が浮かび上がる。

 顔を動かさず教室を見回す瞳は最後にルイズを見据えた。

 

 シュヴールズの授業は続き、彼女曰く一番重要な系統は『土』だと言う。万物の組成を司る重要な系統なんだとか。

 

 建築、農耕、製鉄に金属加工………成る程、全部魔法がなくても出来るが、魔法があれば便利なのは間違いない。

 

 そうして生活の重要な基盤を魔法に頼るから、貴族に逆らえないようになったのか、或は貴族が平民に技術継承を起こせぬようにそういうふうにしたのか。

 

 後者なら『錬災才女』が過去の貴族の墓を畑に変えるだろうな。

 

「今から皆さんには土系統の基本である『錬金』の魔法を覚えてもらいます。1年生の時に出来るようになった人もいるでしょうが、基本は大事です。もう一度、おさらいすることにします」

 

 錬金。卑金属を貴金属に変える技術だが、向こうの世界では完全を生み出す研究とされ、その過程で多くの魔導具が生み出されていた。

 

 『錬災才女』はマキナと名付けたホムンクルスとはまた別の人造人間を作っていたっけ。自爆したけど。

 

 シュバールズは呪文を唱え、杖を振るう。石ころが光り、金属に変わった。

 

「ゴゴゴ、ゴールドですか? ミス・シュヴールズ!」

 

 キュルケが身を乗り出す。

 

「違います。ただの真鍮です。ゴールドを錬金出来るのは『スクウェア』クラスだけですから。私はただの」

 

 コホン、とわざとらしく咳払い。

 

「『トライアングル』です」

 

 魔力の色は茶色のみ。となると、重ねがけだろう。

 スクウェアやトライアングルは使える属性の数ではなく、重ねられる数か。

 

 重ねればその分威力は上がるし、となるとクラスはそのままメイジの強さと見ていいだろう。

 

「ではミス・ヴァリエール、貴方にやってもらいましょう」

 

 シュヴールズとしては馬鹿にされていたルイズに成功の体験を積ませてやりたいという善意からだったが、教室の空気は慌ただしいものになっていく。

 

 危険だ、と誰かが言うがシュヴールズは錬金の魔法の何処に危険があるのか首を傾げる。

 やめて、とキュルケが言うがルイズは立ち上がる。チラリと視線を向けるのはケント。自身の魔法の、成功の証。

 

「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を、強く心に思い浮かべるのです」

 

 ルイズが呪文を唱え始めると前の席の生徒達が机に隠れ始める。

 シュヴールズの言葉からして、錬金魔法の失敗には本来危険がないはず。だというのにこの態度。つまり、普通ではない何かが起きるとワクワク見つめるケント。

 

 ルイズが杖を振り下ろす。

 石が爆発して教卓が破壊されシュヴールズが吹き飛んだ。

 

 使い魔達が騒ぎ出し炎が飛び窓が割られ、飛び出そうとしたカラスが蛇に喰われ阿鼻叫喚。

 誰もがそれ見たことかと叫ぶ中、煤だらけのルイズが立ち上がる。

 

「………ちょっと失敗したみたい」

「何処がちょっとだゼロのルイズ!!」




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