襲撃者の殆どは傭兵。メイジ殺しは無し。
その内一人は………。
「数が多いな」
ラ・ロシェール中の傭兵を雇ったようだ。羽振りの良いことで。
ギーシュのワルキューレが戦っている姿が見えた。
そこそこやりての傭兵が青銅の鎧を斬るが、剣が抜けない。中の砂粒に絡まったのだろう。
ワルキューレは内部の土を使い修復すると土の詰まった重い拳を叩きつける。
ケントがギーシュにやるよう提案した戦法だ。砂粒同士の摩擦は案外侮れない。おまけに修復の材料にもなるし、ワルキューレを重く出来る。
速度を失わせないために2人で量や位置を計算しながら造られた新製ワルキューレは、ただ剣を振るうだけでなく連携も行い傭兵を倒す。
「状況は?」
一階に降りると床と一体化していた机の脚を折り盾代わりにしているギーシュ達。
キュルケの炎、タバサとワルドの風、ルイズの念力と応戦しているが数が多い。
「そら! 出てきな、青髪のお嬢ちゃん!」
と、叫ぶメイジ。魔力量だけならタバサに匹敵するだろう。トライアングルだ。
「知り合い?」
「人攫い」
「成る程」
ケントがパチンと指を鳴らすと女の足元が泥沼に代わり、同じく泥になった天井が落ちる。銀に変わる。女は窒息した。
「錬金」
ルーンを偽装し杖を振るう。矢をつがえていた盗賊達が一気に黄金に変わる。
「あの時もそうだが、生物を錬金とは………」
「こちらの国の錬金だって魔法で肉とか作るだろ。その逆だ」
「その場合、藁とか肉の欠片とか、消化できる媒介も必要なんだけどね」
「彼奴等も鉄の剣を持ってるぞ」
飛んできた矢は金に代わり、重量が変わり狙いが逸れた。
「魔力があると変えられないのかい?」
ワルドは銀の塊からダランと垂れ下がった女メイジの腕を見る。
「時間と魔力消費が増える」
「そうかい。なら、やはり魔力は温存するべきか………二手に分かれよう」
「片方は殿か。この場合、使者であるルイズと護衛であるワルドは確定」
「使い魔である君達もだよ、ケント」
「ぼ、僕達が殿!?」
ギーシュは顔を青くする中、ケントは二本の壜を取り出す。
「一時的にランクが上がる薬と、女にモテる薬だ」
「ここは僕に任せて、先に行くんだ!」
「私達にはないの、ダーリン?」
「ギーシュはドットだからなあ」
まだ開発を始めたばかり。精々ラインをトライアングルにする程度。ソフィアならその日の内に調合するのだろうが、ケントの本分は錬金術師ではなく魔法使い。
「エルザ、戻れ」
ケントの言葉にエルザは蜘蛛の糸のような魔法を使っていたメイジの首に刺したナイフを抜くと、矢の雨をヒョイヒョイ躱しながら戻ってきた。
「行くぞ」
「はーい」
「ダーリン、ここから無事に戻れたらキスしてくれる?」
「いいぞ」
キュルケはニコリと笑った。ルイズは何とも言えない顔をする。ギーシュはランクを上げる薬を飲み、モテる薬を大切そうに懐にしまった。
「裏口に回ろう」
ワルドの言葉にケントは頷く。傭兵達は黄金の彫像になった仲間達が丁度盾になり矢の数を減らす。自分もああなりたくないと、なかなか攻め込めないようだ。
月明かりに照らされた夜道を走り、建物の中の階段を登り丘に出ると山のようにでかい巨大樹が姿を現す。
「世界樹。こっちにもあったのか」
枯れてるけど。
樹の実の代わりに船がぶら下がっている。
空洞になっている木の根元へ飛び込む。中が穿たれているようだ。
駅の道案内のように鉄の板が壁に張られ、それに従い目的の枝へ向かう。
と、後ろから追いすがる音が聞こえた。
ケントの頭上を飛び越えようとした人影の足を掴み階段の外に放り捨てる。
ふわりと浮かんだ。メイジだ。
メイジは階段に降り立つと呪文を唱える。ケントが剣を抜いた。
放たれるのは雷。デルフリンガーが吸い込む。
「!?」
「こちとらガンダールヴの『盾』だ! チンケな魔法なんざ効くもんかい!」
困惑するメイジの肩にエルザの投げたナイフが刺さる。杖を落とし、バランスを崩したメイジは階段から落ちていった。
「行くぞ」
ケントはそのまま走り出した。ワルドはガンダールヴの盾と名乗ったデルフリンガーを一瞬だけ見た。
階段を駆け登った先は1本の枝が伸びている。一艘の船が停泊していた。あれがアルビオン行きだろう。
甲板へ降りるとぐーすか寝込んでいた船員が飛び起きた。
「な、なんでえてめぇら!」
「船長はいるか?」
「寝てるぜ。用があるなら、明日の朝、改めて来るんだな」
男は酒瓶をらっぱ飲みしながら酔って濁った目で答えた。ワルドはスラリと杖を抜く。
「貴族に2度も言わせる気か? 僕は船長を呼べと言ったんだ」
「き、貴族!?」
ケントは交渉をワルドに任せて船を見回す。ワルドは船長を説得しているようだ。
動力は風石。ケントの世界では精霊結晶と呼ばれる、属性の魔力が固まって生まれた鉱石。あれって量を取れない筈なんだが、この船全部………そして、定期的に出港しているとなると、この世界、精霊結晶の大産地?
「話はまとまったよ。足りない分は、僕の風で補う」
「そうか、積荷は?」
「硫黄だそうだよ。新しい秩序をつくるのに欠かせないそうだ」
要は爆薬な。火山のない浮遊大陸であるアルビオンでは、戦時も相まり黄金以上の価値があるに違いない。
「船長の話では、ニューカッスル付近に陣を敷いた王軍は攻囲され苦戦中のようだ」
「ウェールズ皇太子は?」
ルイズの言葉にワルドは首を振った。
「わからん。生きているようだが」
手紙を届けるためにはその攻囲を突破するしか無い、と。ワルドはともかく、ルイズはどうやって突破すると思っていたんだろう?
何も考えてないんだな。考える知恵を、あの年まで育った王族に授ける事ができるのは国で少ないだろう。お前は無知、なんて不敬なのだから。
「本気で、そのような考えなしの命令をルイズに! 貴方は、何も視えていないようですな!!」
ドン、と机が叩かれアンリエッタが震える。目の前にいる男は、アンリエッタの親友の父。父を亡くしたアンリエッタにとって、優しく、もう一人の父とも呼べるような男は怒りに顔を赤く染め上げていた。
「め、命令など………わたくしは、ただ頼み事を…………」
顔を青くし、声を絞り出すアンリエッタ。昼頃、彼が突然やってきた。事前の連絡もなくそれは、と城の者が追い返そうとする中偶々目撃したアンリエッタは彼を通した。
ルイズが魔法を成功した事とか、変わった使い魔とか、そんな事を話すつもりだったのに、どうして。
「あの子は魔法が使えぬ分、貴族としてふさわしい人間であろうとしていました。そんなあの子が王族の、ましてや貴方の言葉に逆らうはずがありますまい。
「それ、は………でも、その………手紙を届けるだけ、で」
「その手紙は、戦地に届けるのでしょう?」
「ですが、ルイズはあのフーケから秘宝を取り戻した実績も」
「存じております。誇らしい事です。ですが、戦地はたかが盗人一人の危険より低いわけがないのですよ」
アンリエッタの知る優しい光はその目になく、代わりに宿るは末娘をそんな危険な場所に向かわせた者に向ける、大きな怒り。
「殿下は王族であられる。ええ、貴族を扱う王族であられる」
きっと彼女は、自分から行けとは一度も命令しなかったのだろう。オトモダチ相手にそれが出来る女ではないのだ。
ルイズから言葉を引き出させたなら、成る程彼女は王族だ。
「ルイズには、ワルド子爵も…………」
「ワルド?」
その名にほんの少しだけ怒りが収まる。
ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。酒の席で互いの子供を婚約させようなどと言い合える、彼の親友にして戦友の忘れ形見。
彼が衛士隊に入ってから交流こそ減ったが、スクウェアへのランクアップや、グリフォン隊隊長の就任は我が事のように喜んだものだ。
「何故彼一人で行かせなかったのです。その方が、まだ良かった」
「それは………」
「何故ルイズでなければならなかったのか。答えろ!!」
「っ! ル、ルイズなら………私の、想い、を………察して、くれる、と…………」
ケントはアンリエッタを無知と称したが、全く知が無い訳では無い。本当は、彼を亡命させる事は望まれないという程度は理解していた。
普通の使者では、ケントのように極端に走り殺すことはないだろうが、受け入れない。でもルイズなら、そんな思いがあった。
「これは、中央から離れ貴方を見て来なかった私にも責任があるのでしょうな………」
「公爵、どちらへ?」
「話は終わりです。時間がないのです」
そう言い残すと談話室から出ていく。そして、向かうは中庭。そこにはヒポグリフの前に佇む鎧を纏った麗人。
ヒポグリフの世話をしている貴族はカタカタ震えていた。ヒポグリフも震えている。
「…………貴方」
「ルイズは今、空にいる」
「おお………!」
桃色の髪を持つルイズによく似た女性はその言葉に目を見開く。
「あの子は戦場をなんだと………!」
「叱らないでやってくれ。あの子なりに、貴族として相応しくあろうとしたのだ。だから今は、無事なあの子を抱きしめてやってくれ」
「ええ、はい………叱るのは、その後に」
「ああ。任せたぞ、カリーヌ。愛しのカリンや」
ヒポグリフに跨る女性。ヒポグリフが吠えるとバサリと翼を力強く羽ばたかせる。
空を駆ける様に飛び出す中女はルーンを唱える。ヒポグリフは一気に加速した。
「に、睨んだだけで………睨んだだけでヒポグリフを従わせた………」
「あー、君。すまない、後で正式に謝礼金を送ろう」
因みにあのヒポグリフ、王国で一番早いヒポグリフ隊隊長の騎獣だったりする。
『一番早いのを貸しなさい』と言った女にふざけるな、欲しければ決闘だと叫んだ男は現在城の尖塔に引っかかっている。
鴉はカァ、と鳴くと主の下へ帰った。
「………領地最強で満足するつもりだったが、国最強。ついてるね、俺」
「どうかしたのかい?」
風で船を加速させるワルドはケントに尋ねる。轟々唸りを上げる風の音でよく聞き取れなかった。
「トリステイン最高の風が見れるとはついてるな、と」
「その言葉はうれしいが、僕はまだまださ。トリステインにはもっと凄い風使いがいる。本当に、凄いんだ」
「ところで、この船硫黄だけでなく酒も運んでいた」
と、ケントが酒瓶を取り出す。実は船長のものだ。泣く泣く差し出してきた。
ワルドは悪い奴だ、と笑う。
「宿で休んでいる間はともかく、もう任務中と言えるのだがね。婚約者と姫殿下には内緒にしてもらえるかい?」
「ああ」
「気が利くね」
「何、面白い魔法を見せてくれた礼だ」
面白い魔法? と首を傾げたが、船を動かすような風などスクウェアクラスじゃないとまず起こせないのを思い出し、ワルドは納得した。