賢者は使い魔   作:超高校級の切望

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結婚式

「明日、僕はルイズとここで結婚式を挙げる」

 

 どっかの馬鹿に飲まされたのか、自分で飲んだのか、酔って眠っていたエルザをおぶり客室に向かっていたケントにワルドはそう言ってきた。

 

「是非とも、僕達の婚姻の媒酌を、あの勇敢なウェールズ皇太子にお願いしたくなってね。皇太子も、快く引き受けてくれた。決戦前に僕達は式をあげる」

「ほう」

「君も参列するかい?」

「結婚式に興味はないが」

「そうか。しかし遠目に見ていたが、君はやはり頭がいいな。さすが、神の本の一族」

 

 ワルドの中では、もう始祖の使い魔は血統だと決まったようだ。未熟なガンダールヴの保護者になってしまった。

 

「彼女はルイズの使い魔で、君はその保護者だ。僕が彼女と結婚した暁には、共に来てくれるかい?」

「ルイズ次第だな」

「そうかい。君が『神の本』と目覚める日を、楽しみにしてるよ」

 

 ワルドはそう言うと背中を向け歩いていった。

 

「そのまま行けばヴァリエール家当主。国すら動かせるのに、何が不満なんだろうな?」

 

 あんな死にかけの国はいらないということだろうか? 盛り返すの大変そうだもんな。

 

 などと考えながら廊下を歩いていると、月を見あげ涙を流すルイズがいた。涙が月の光を反射し真珠のように輝いている。

 マリッジブルー?

 

「ルイズ」

「っ……」

 

 ルイズは慌てて涙を拭う。声をかけていた相手がケントと気づくとふにゃっと顔を崩しもたれかかってきた。

 

 胸に顔を押し当てると、ゴシゴシ顔を押しつけてきた。猫みたいなルイズはケントの体を抱き締める。

 

「嫌だわ………あの人達……どうして、どうして死を選ぶの? わけわかんない。姫様が逃げてって言ってるのに………恋人が逃げてって言ってるのに、どうしてウェールズ皇太子は死を選ぶの?」

「それこそ、お前のよく言う貴族の誇りだな」

 

 いっそ残酷なまでな反論できぬ言葉に、ルイズは声に詰まる。貴族のルイズは黙り込み、姫様の友達のルイズが顔をのぞかせた。

 

「あの人達は、残される人のことなんて考えていないんだわ」

「考えた結果さ。そして出した答えを、理解出来ないと罵るのは勝手だが、間違っていると侮辱するのだけは許されない」

 

 死ぬのが敵なら、その覚悟も何もかも踏み躙ろう。それが戦争なのだから。敵ではないなら、その覚悟に敬意を払おう。それが人でなしが出来る誠意なのだから。

 

 ルイズには、理解出来ない。戦争を知らぬ幼い花は、戦場の覚悟を理解出来ない。

 

「貴方なら、勝てる?」

「敵の強さが分からん。まあ、それでも手を出さないが。今回は彼等を尊重すると誓ったのでね」

「なによ、それ………」

 

 王子達の覚悟を理解出来ないルイズは、やはりメソメソ泣くだけだ。

 

「俺達の仕事はあの手紙が誰かの手に渡らないようにすること。灰になった時点で終わりだ。後は帰って報告するだけ………」

 

 アルビオン王党派が壊走するのも、全滅するのも、ルイズ達の任務外だ。あの姫は、ルイズに察してもらえると信じて最後まで亡命させることを任務としなかったのだから。

 

「この国の滅びはお前には何の関係もない。救ってやらなきゃなんて思うな」

 

 それを踏みにじれるのは敵だけで、それを踏みにじるなら、敵になる。

 

「………早く帰りたい。トリステインに帰りたいわ。この国嫌い。嫌な人達と、お馬鹿さんでいっぱい。誰も彼も、自分の事しか考えていない。あの王子様もそうよ、残された人達の事なんて、どうでもいいんだわ」

「? それはルイズも同じだろう?」

「……………え?」

「父や母、後お姉さん2人だっけ? 婚約者が来ること知らなかったし、昔からお前を見ていた使用人も含めておくか………残される側になる人間がこんなにいるのに、ルイズは戦場にいるじゃないか」

 

 ルイズはサッと顔を青くする。今の今まで考えてもいなかったらしい。

 

「ちが、私は………姫様の。だって、貴族で………」

「彼等も貴族だ」

 

 ケントはそう言うとルイズを置いて部屋に向かう。ルイズは、何も言えなかった。

 

 

 

「この国を救う方法って、本当にないの?」

「あるぞ」

 

 ケントが自身の手首を切って流した血を舐め取っていたエルザはその言葉に思わず顔を上げる。人間社会など小さな村単位しか知らない彼女でも、数の差は解る。

 

 五万の軍勢に、300でどう勝てと言うのか。

 

「ああ、この戦いに勝つって意味じゃなくて、長期的な………最終的な勝利というか」

「どうやるの?」

「雲隠れ」

 

 この状況で、ウェールズ達に逃げられればレコン・キスタは能力を疑われることとなるだろう。最終目標が聖地奪還………倍の数のメイジを揃えてすら敗北を喫するエルフとの戦争だというのに。

 

 ただし、ここで逃げられても、居場所がトリステインならそのまま戦争をふっかければいい。

 

「前提条件として、匿う場所が必要だがな。ロマリアは論外として、ゲルマニアが受け入れる理由はない。トリステインは、貴族が一つに纏まっていないから無理」

 

 つまり、こうすればいい策はあるが、前提条件が果たされていない。とっとと王位を継いで国を纏め上げるべきだった、喪に服すだけで口出しもしない、最終決定権を空席にし貴族に力を与えすぎた母など軟禁して。

 

 そして土地が広大かつオトモダチで、王家に強い忠誠を誓うヴァリエール領辺りに隠しておけば良い。

 内部分裂は高く望み過ぎだが、足並みを乱し民心を離れさせ資金提供も減らせる。

 

「…………ガリアは?」

 

 エルザは同じ始祖の血統たる王家が治める大国の名が入っていないことに首を傾げた。

 

「あそこは革命(レボリューション)ごっこ楽しんでるから、余計な玩具与えるのはな」

「……………?」

 

 調べた限り、ガリアにはシャルル派、或は大公派と呼ばれる勢力があるらしい。浅ましくも王位を求め、弟を殺して簒奪し、不当にも玉座に座る無能王を追い落とそうとする勢力だ。

 

 大公が人気だとしても死者に忠誠を誓う貴族がそこまでいるとは思えないから、代わりの御輿がいるんだろう。というかタバサだ。

 

 彼女を殺せば大公派を暴走させる可能性があるとはいえ、大公派を徹底的に潰せる。そうでなくとも大公派を削ることは出来る筈だ。それが出来ない無能ならば、ガリアはあそこまで富んでいない。

 

 聞けば無能エピソードの一つに財力を自慢するかのような下品な振る舞い………他国の催しに遅刻して、その詫びにより高級な食材を用意したとか。

 

 料理人、食材、運搬料、その他諸々を使っておいて、ガリアで重税を課したらしき村は一切確認できてない。

 

 だから、敢えてだろうとケントは予想した。

 もちろん一網打尽にするためという可能性もあるが、指し手の顔が見えたとでもいうか………ケントが判断するガリア王は子供だ。それも取り敢えず片っ端からやってみる子供。

 

 そういえばレコン・キスタの発足はかなり唐突だったが、国をあのバランスで発展させた上で他国を滅ぼせるとしたら…………それはもう化け物だな。本当にそうなら、この程度の情報しか得られない中、頭で争おうとするだけ無駄だ。

 

「アルビオンの人達は、どうすればよかったんだろ」

「王弟の妻を受け入れ、隠すことに尽力してやるか、恥を飲んで誰を妻にしているか暴露してればよかった」

 

 そうすれば大公の仇討ちを望む反乱勢は現れず、レコン・キスタも今の半数………そもそも表に出てこれず聖地奪還を訴えるだけの集団になっていたかもしれない。

 

「……やっぱレコン・キスタが唐突だな。此奴本当にどっから湧いてきた?」

 

 元は無名な司教だったか? じゃあやっぱりロマリア? 安直だ。もっとなんか、面白いことが隠れている気がする。

 

 

 

 

 さて翌日。ブリミル像が置かれた礼拝堂にてウェールズは新郎新婦の入場を待っていた。

 観客はエルザとデルフだけ。武器の類を持ってくるのは本来なら禁止だが、インテリジェンスソードということで特例措置。因みにケントは何やら用事ができたと何処かへ言ってしまった。

 

 他の皆は戦の準備。ウェールズも、事が済み次第すぐに向かう予定だ。

 

 扉が開く音に、礼装に身を包んだウェールズが視線を向ける。

 

 エルザは呆然と突っ立っているルイズを見て、隣に立つワルドを半眼で見る。まさかの当日プロポーズだ。フラれて恥をかけば良いのに。

 

 ルイズは、綺麗だった。そういう趣味はないが、それはそれとして可愛らしい女の子を主な餌にしていたエルザが言うのだから間違いない。

 

 固定化の魔法がかけられた枯れぬ花の冠、新婦しか身にまとうことを許されぬ純白のマント。そこまで着飾られて無反応。抵抗の一つもしないものだから肯定と判断されるのだ。

 

 始祖ブリミル像の前に立ったウェールズの前に並ぶワルドとルイズ。ワルドは一礼した。

 

 

 

 

 さてその頃、ケントは城壁の前に浮かんでいた。

 封印が解けて魔法が十全に使いこなせるようになって最初に行ったのが城跡の落書きだとは、ケント自身も思わなかった。

 

 

 

 カリーヌはアルビオンに到着すると、そのままニューカッスル城に向かった。

 本来ならロサイスにて情報を集めながらニューカッスル城に向かうべきなのだろうが、手紙を咥えた鴉がルイズがニューカッスル城にいる事を教えてくれた。

 

 どうやって、と思いつつも私の娘ならばと思うあたり、彼女も父親に負けず親バカなのだろう。そして、ニューカッスル城が見えてきた。

 

 巨大な戦艦に見つからぬよう、雲の中に隠れようとして………それを見た。

 

『祝! ルイズ嬢の結婚式! お相手はワルド(レコン・キスタ所属)!!』

 

 そう書かれていた。ワルドがレコン・キスタ? まさか、と思う。と言うか、その真偽はまだどうでもいい。問題はあんなふざけた文を衆目に晒し、かつ何の相談もなく式を挙げること。

 

 ゼイゼイ息をしていたヒポグリフは、静かになる。少しでも音を立て、乗り手の気を損ねることを恐れたのだ。

 次の瞬間、烈風がニューカッスル城の壁を吹き飛ばした。

 

 

 

 数秒前。

 

「ディテクトマジック? 成る程、人の居場所を探ってるのか」

 

 この時間なら避難民は全員地下に居る、と手紙を送ったしな。城に残っているのは、全員魔力探知に引っかかる貴族のみ。それで、ここから?

 

 一つケントは失念していた。

 自分が魔力を感じれるものだから、勘違いをしていた。

 

 ディテクト・マジックが先住魔法を使う吸血鬼や水の力で動く屍人鬼(グール)を探知出来ないように、ケントの異界の力も探知しない事に気付いて居なかった。

 

 なので物判定で()()()()()()()

 

「……………おー」

 

 厳密には障壁があるので、足元の床ごと。床が飛んでる。壁も飛んでる。

 

 ()()()()()()()()

 

「なんて大技。なのに精密! 気持ち悪りぃ!」

 

 と言いながらもとても楽しそう。飛んできたエルザを掴み取る。

 城を破壊するほどの突風は、しかし人を避け、瓦礫一つ誰かに当てることはなかった。

 

 圧倒的な破壊力と、超精密操作を両立した離れ業。ケントは空を見上げる。男装の麗人が、顔を下半分隠す仮面と帽子の隙間から鋭い視線を向けていた。

 

「あのふざけた落書きは、誰の仕業です?」

「レコン・キスタが船から降りて火竜の背に乗り描いてました」

 

 


 

 

公式最強は武力でも知能でも、どれだけ盛ってもいいですからね

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