賢者は使い魔   作:超高校級の切望

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カトレア

 カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌ。

 ヴァリエール家の次女であり、名目上フォンティーヌ領地を持つフォンティーヌ家当主。

 

 原因不明の奇病は彼女の命を蝕む。多くの水のメイジに見せたが揃ってさじを投げ、体の芯から悪いのだと判断する。何処かを治すと別のどこかが悪くなる。

 

 結局それの繰り返し。薬と魔法で延命する彼女は常に死が近く、だからか誰よりも命を大切にする心優しい女性に育った。

 

 そんな彼女は、ケントが見た通り、長生きを諦めている。弱い体では子を残すことも出来ない。愛してくれた人を置いて先に死ぬ。

 

 貴族の娘である彼女は子を残さぬ事がどれだけ罪深いか知っている。ただ一時とはいえ、自分が誰かの人生を縛るのを良しとしない。

 

 家族が悲しむから命を手放さないだけで、とっくに命を諦めている節がある。

 

 森の中で怪我をして途方に暮れたときに出会ったゲルマニアの素敵な殿方。

 夜会で知り合った知的な年上の男性に、幼さの残る顔を真っ赤に染めて詩を送ってきた少年………胸に灯ったそれが恋なのか、別の何かなのか、わかる前に彼女は逃げてきた。

 

 恋になってしまうのが怖くて。置いていく不安が、愛してしまった人が、自分の知らぬ人生を歩む事への恐怖が、彼女を一歩踏み出させなかった。

 

 そんな男慣れしていないカトレアに、東方より訪れた賢い殿方は言う。

 

「では、まず脱いでくれ」

 

 父がサッと杖を抜いて、スッと母が杖を振るい、ゴッ! と部屋の壁が消失した。

 

 

 

 

「……………今のはウィンド・ブレイクかしら」

「いえ、ただのウィンドです」

 

 キュルケの言葉にカリーヌは淡々と返した。ドットスペル、それも初歩。それがなんて威力を出しているんだ。

 

「おほん。ミスタ・ルイミニア、触診をしたい、ということで良いのですか?」

「なるべく心臓に近い位置、背中側に触れさせてもらえれば」

 

 前からだと、カトレアの場合胸が邪魔だ。

 部屋を移動し、カトレアは服をめくる。ハルケギニアの治療と言えば水の力、つまり杖を使うのでほんのり頬を染める。

 

「……………ん〜?」

 

 魔力を心臓に流し、血管を通して全身に巡らせる。肉体的におかしな所は何もない。いや、あるにはあるが最近出来た不調。

 

 取り敢えずそれは直して………彼等の証言どおりならまた何処かが悪くなるのだろう。

 

「あの、ルイミニア様。根を詰めすぎないでくださいね? これまで、いろんな方に診てもらいましたから」

 

 カトレアの言葉にピクリと肩を揺らすケント。

 その諦めきった態度が、ムカつく。どうせ無理だと諦めた態度が気に入らない。

 

「あの、何か失礼なことを言ってしまいました?」

「別に………」

 

 ていうかこの程度なら別にどうとでもなるし?

 

 水の精霊の力とか体に入れて常に健康状態を維持するとか。まあ、それやると負けた気分になるしハルケギニアでは異端の力だが。

 

 さて、次は肉体に密接に関わる魔力系を…………と、魔力の流れを調べる………。

 なんだこれ、超ボロボロ。呪われてんのか?

 

「…………魔力系がボロボロ。魔法使うと苦しくならない?」

「はい。ですが、魔法は体力と精神力を使用しますし………」

 

 そういうものだと認識しているのか。しかし、どうしてここまでボロボロに。魔力を持ちながら肉体が魔力に適してない体質? 設備さえあればホムンクルスで肉体作って脳みそ取り替えれば良いのだが。

 

 ケントは今の状況では出来そうにない、そう言おうとした時、カトレアが急に立ち上がる。

 服を直すとカーテンを開け窓を開く。

 

「チッチッ、ピピピ」

「あら、貴方は………元気になったのね」

「ピィ……」

 

 そこにいたのは一匹の小鳥。窓の縁には樹の実が置かれている。

 

「まあ、お礼? 別にいいのに」

 

 眩いばかりの笑みを浮かべるカトレア。指で額を撫でてやると鳥は嬉しそうにピイピイ鳴く。

 

「………今のは?」

「カトレアは昔から、傷ついた動物を拾ってきては治療するのです」

 

 今聴きたかったのは、鳴き声が聞こえる前から動いていた事なのだが。

 

「………もしかして彼女、動物にとても懐かれてる?」

「はい。あの性格ですからね」

「…………………なるほど。なるほど………これは、う〜ん」

 

 

 

 

 

「氣術?」

 

 空より舞い戻ってきたラ・ヴァリエール公爵を交え再び広間に集まった一同。ケントが原因だと言い切った言葉にハルケギニアの住人は首を傾げた。

 

「簡単に言うと呼吸によって体内に練り上げ巡らせる力とでもいうか………魔力とすこぶる相性の悪いエネルギーというか」

「それは……つまり先住の力とでも?」

「先住………精霊の力とは違う」

 

 というか別に、精霊の力とこちらの魔法は反発しないし。それは精霊の力と魔法の力両方を併せ持つデルフが証明している。

 

「因みに俺が魔神の心臓で暴走したゴーレムの障壁を破壊する時に使っていたのもそれだな」

「それが、カトレアの病と関係あるのかね?」

「カトレア嬢が氣術呼吸を使ってる」

「私、ゴーレムなんて壊せませんわ」

 

 と、カトレアが首を傾げた。

 

「氣術には体内に影響を与える内氣と体外に影響を与える外氣にわけられる。内氣は身体能力の向上、外氣は周囲の感知………特に外氣を極めれば周辺の生き物の位置や、感情や相手の本質を感じ取ったりも出来る」

 

 その言葉にヴァリエール家はカトレアを見る。

 事実彼女は馬車の中にいて、怪我をした小さな動物を見つけることもある。

 

「後、内氣には自身の身体を整え病を癒し傷の治りを早くする力もあって、外氣は氣術を修めていない相手にもその恩恵を与えることが出来たりする。氣の調整を行う高等技術だが………その際その包まれるような安心感から動物に懐かれたりするんだ」

「でも賢者様、私はやり方を知りません」

「うん。だがやってる、()()()に」

 

 ゴリラ令嬢もそうだった。やり方を学ばず、最初から無意識に行う。

 特にカトレアは外氣を他人に合わせる、なんてレベルでなく、あまりに自然。

 

 集中しないと世界に満ちる精氣と区別がつかない程だ。だから気づくのが遅れた。

 

 氣は本人の性質による。彼女の慈愛は、『慈愛()の賢者』やケントの知る『聖女』達より遥かに上ということだろう。

 

「体内で練った氣が同じく体内に流れる魔力と反発して身体に不調を与えているんだ」

「でも、貴方も使っていた」

「俺は必要な時にしか錬らないし、魔氣混合法と呼ばれる特別な氣術を生み出してるからな」

 

 因みに『慈愛の賢者』は自身に回復魔法を使い壊れる体を直して氣を使用したりする。

 

「そうでなくとも内氣である程度癒せるからな」

「でも、私は………」

「問題は内外の比率。氣術の内氣、外氣の資質は完全に生まれながらの才能で、覆ることはない。例えば俺なら内氣が7で外氣が3なので身体強化と、そこそこの氣弾を使う。そして、カトレア嬢は………」

「内氣の比率が低いと」

「ゼロ」

「………は?」

「え」

 

 ルイズがピクリと反応した。

 

「体内で錬った氣の1滴たりとも体に反映させていない。ここまで極端なのは珍しい」

 

 どれだけエネルギーを生み出そうとも自分のために使えない。魔力さえなければ問題はなかったのだろうが。

 

「では、どうすれば………」

「氣術呼吸を止めればいいが、無意識にやってるからなあ。魔氣混合法を修めるか」

「私にも出来るでしょうか?」

「因みにカリーヌ殿の魔法の威力の高さも魔氣混合法を無意識にやってるから」

 

 ケントは何度も肺が破れるレベルで習得したし、必要な時以外は使わないというのに、才能というのは理不尽だ。

 

「カリーヌ殿は内氣寄り。魔法以外で長寿の秘術にも使われるので、シワ、シミなどを抑え体を若々しく保つ」

「カリーヌが何時までも美しいのは、そういうわけだったのか」

「まあ、貴方ったら」

 

 なんか惚気始めた。

 

「ねえダーリン、私も覚えられる?」

「まあ、これは人間が持つ機能だからな。俺も故郷から離れた場所で学んだけど出来たし、実際こっちでも出来てる奴がいるから理屈としては出来るはずだが」

「私も学びたい………」

 

 と、キュルケとタバサ。キュルケは単純に美容のためだろうが、タバサは力か。

 

「学院に戻ってからな。では、調律するので手を」

「調律?」

「幸いにもカトレア嬢とカリーヌ殿は血縁。体外の氣こそ変質していても、体内で錬られている氣は近い。なので、合わせます」

 

 本来の氣の習得法としてはかなりのズル。結果として氣の生成量が頭打ちになりやすいが、まあ治療目的ならそれで十分。

 

「それで、治るんですか?」

「健康になるという意味でなら」

「走ったり、ルイズを抱き上げたり出来ますか?」

「ああ、まあ少し運動してからの方が良い──が!?」

 

 ケントの声がその豊満な胸に沈む。

 

「ありがとうございます!!」

 

 ずっと命を諦めていた彼女に指した光明。感激で抱きしめて、杖を抜こうとしたルイズとラ・ヴァリエール公爵が吹き飛んだ。

 


 

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結論、お嬢様マジゴリラ。まあ、頭はいいけど。ゴリラは森の賢者だしね!

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