竜籠。
4匹の竜が籠の四隅を鎖で持ち上げ空を運ぶ籠である。大貴族でも移動手段として使う者が少ない。何故なら、最低でも竜4匹を育て、かつ揺らさぬよう移動する息の合った竜使い。早々用意出来るものではない。
「僕竜籠なんて初めてだよ!」
と、ギーシュ。
ルイズは公爵令嬢、キュルケは大国ゲルマニアの大貴族、タバサは元王族なので特に気にしていない。それでもめったに乗れるものではないが。
エルザは何やら考え込んでいる。ケントは………ルイズがチラリと窓の外を見る。
竜籠ではない、浮かぶ箱がそこにあった。
ヴァリエール公爵が少し時間を取りたいと言ったらケントが取り出したマジックアイテムだ。一体、何を話しているのだろうか?
一つ一つが平民の一生をかけても買えないであろう調度品の数々。
ふかふかの絨毯に、大理石の机。贅をこしらえた部屋は、まるで王城の一室。しかもトイレやキッチンまでついてるらしい。
東方は技術が発展していると聞くが、これ程とは。
「それで、俺に聞きたいこととは?」
「うむ。これは、父としてではなく国に仕える公爵としての話しだ」
「………では、その様に接しましょう」
ケントが指を鳴らすと、メイドや執事の姿をした人形が入ってきて、茶菓子と紅茶を用意する。
「軍事国家としての意見をお聞かせ願いたい。この国の行く末を、どうお考えか」
「運が良くて、ゲルマニアの属国。普通に考えれば併合の末一地方化でしょう」
その言葉に無礼な! とは叫ばないヴァリエール公爵。彼も、自覚があったのだろう。だが民を思えば、それが最善であることも。
「そもそも同盟に自国のたった一人の姫を差し出す時点で、この国は終わっている。それを理解せず、過去の祖先達の栄光を己の物と勘違いしている貴族が、この国には多すぎます」
「返す言葉もない。しかし、腐った恥知らず共を根切りしたところで………」
「国力は低下するだけでしょうな」
永い歴史の中で培われた選民思想。一度でも落ちぶれた貴族はよほどのことがなければ二度と貴族に戻れず、国力は低下を続ける。
おまけに女のプライドが高く、澄まして、男が余程機嫌取りが上手くないといけず、そんな女に男も辟易している。
美人かつ肉感的な体を持つとは言え、美少女の多いハルケギニア魔法学院で好意を向ければ好意を返してくれるキュルケが一番モテるのは当然だ。
「おまけにゲルマニアの同盟がなっても、力が必要なはずのトリステイン貴族は姫を
なんなら、国力的に考えればゲルマニアがもらってやっているのが正しい。いかに皇帝が始祖の血を欲しがっているとは言え、膿んだ国など本来旨味がない。
「力関係を正しく認識していない同盟関係ほど脆い縄はありますまい」
尤もこれは貴族というよりトリステイン軍のほぼ全てに言えることだが。なまじ姫の人気が高く、ゲルマニアを嫌っているが故の弊害。
「恥ずかしげもなく言えば、我が国が軍事国家として盛り返せたのは私を含めた四騎将と呼ばれる者達の功績が大きい。法律なら『十三階段』、設備には『錬災才女』、資金面は『商利の聖女』……彼等は戦略面も担っていましたが、専門は私」
後、邪魔者の暗殺に『影』。
「そして何より、陛下自身が傑物でした」
5人が5人、それぞれの分野でトップクラス故に卑屈になっていたが、セザル帝国の皇帝も有能な男だった。対して、この国は………
「教育を怠った弊害、か………」
アンリエッタは優秀な生徒ではあるが、有能な王族とは言えない。知識があっても活かせていない。何より、王位を空位にし続けた弊害として、貴族が力を持ちすぎた。
彼女の言葉などクソだぬき共には子供の癇癪程度の扱いしか受けまい。
「次期国王をゲルマニア皇帝から
アンリエッタがゲルマニアに嫁いだ後残るのは後継者問題。喪に服して国政を蔑ろにする王后殿下に新しい世継ぎを生んでもらうのは不可能だろう。ならば、アンリエッタの子を選べばゲルマニア皇帝の血筋。
「一応、クルデンホルフ大公は王家の親戚筋でしたな」
クルデンボルフ。元々トリステインの大公家の一つだが、今では独立を宣言している国だ。
「王位が空席となれば、あの『金貸し』の発言力は無視できぬ」
貧乏貴族ばかりのトリステインは、名目上独立を維持できるだけの財力を持つクルデンホルフから金を借りていて、発言力はかなり高い。
「問題は、彼に国を治める器があるかですが」
「ない」
断言した。
「狭い領地で身内と共に稼ぐなら、なるほど奴めは優秀な領主です。が、数多と貴族をまとめる王となれば別です」
「ま、そうでしょうね」
領土が広がり治める領主を用意して、その領地に持たせる力を配分し監視体制も作りと、領主と国主はまるで違う。
「取れる手は2つ。一つは奇跡………始祖の恩寵にでもすがらなければなりませんがね」
「奇跡?」
「かの恥知らず共が停戦協定を破りトリステインに攻めてきて、それを王軍がゲルマニアや、公爵の手を借りることなく撃退すれば、これ以上ない喧伝となるでしょう」
尤も、そんな事はまず不可能。ケントが手を貸せばアルビオンの隠し札にもよるが、それが無いなら勝てる。
「同盟成立前なら皇帝は間違いなく支援を出さない。軍の編成どうこう喚くだけ。戦勝後なら、婚約を破棄し同盟を結べるでしょう」
「アルビオン軍は相当な痛手を負っている。それでも、来ると思うかね?」
「失った数次第では来ていたでしょうが、現状は五分五分ですね」
ヴァリエール公爵は眉根を寄せる。二万の軍勢を失い、その殆どが貴族派。これで侵攻に移るにはいささか期間が短く思える。
「議長の決定が早すぎる。神聖皇帝などと名乗っている。なのに反感らしい反感が聞こえてこない。クロムウェルがそれほど傑物か、黙らせる何かを持っていると見るべきでしょう。どんな形であれ、纏まっていますよ、連中は」
「……………」
「そして、貴方が言って欲しくなくて、同時にこれしかないと思っている道は」
ケントの言葉は、ヴァリエール公爵が挙げた手に遮られる。言わずともよいということだろう。
「私自身が王になること、か」
「聞けば、ルイズは姫様より水のルビーを下賜されたとか」
王権の象徴の一つ。それはつまり、王位継承権をルイズに渡したともとれるわけで………。ヴァリエール公爵ははぁ、とため息を吐く。
「一つの歴史を、私が終わらせるか……」
「国の歴史の一つでしょう」
「私も運がないな………これ程のうねりが絡まるとは」
「………運、でしょうか」
「………というと?」
「偶然なのか、ということです」
その言葉にヴァリエール公爵は目を細める。周囲に目を向けたのは、人形とはいえ誰の耳にも入れたくないのだろう。ケントが手を挙げると人形達は退室する。
「何処が裏で糸を引いていると思いますかな?」
「レコン・キスタだけなら有力はゲルマニア。次点でロマリア」
今回一番得をするのはゲルマニアだ。
アルビオンを内戦で疲弊させつつ、トリステインに圧力をかければゲルマニアに頼るしかなくなる。
ロマリアは一度でも頼ればズブズブと内部に根を張るだろう。各地の修道院や教会の何割が密偵の役割を持っているか………。
「プライドの高いトリステインは『無能』には頼らないでしょうし、頼られてもガリアに何の得もありませんからね」
無能な血に優秀な王家の血を〜なんて動機も、この世界ではなくはないのだろうがガリア王ジョゼフ1世には既に娘がいる。交差する杖を掲げるガリアが余計な杖を増やすことはないだろう。
トリステインからそう提案するのは無礼に過ぎる。
最終的に頼れるのはゲルマニア。
皇帝は血を流すことなく国一つ分の領地を手に入れる。
「しかしロマリアより、ガリアの方が得があるのでは?」
ガリアには火竜山脈がある。戦争が始まれば硫黄は高く売れるだろう。そうでなくとも、大国ガリアは資源が豊富だ。
「バレた時のデメリットとバレない場合のメリットが釣り合ってませんよ。レコン・キスタを滅ぼした後、アルビオンの国土を、とも思いましたが、内乱を理由に同盟を拒んで急に、なんてわかりやすい行動するならもう少しトリステインに支援しているでしょう」
「ロマリアに得も少ないと思うが」
「そのことで公爵に質問があります」
なんだね? と尋ねるヴァリエール公爵に、ケントは尋ねる。世界を揺るがす一言を。
「娘を偉大なる始祖の授け物として世界中の信仰を集め確実に歴史に刻むのと、ただ優秀なメイジとして育てるの、どちらを望みます?」
この時点の情報じゃガリアが怪しいと思えないわな。
特に王族の自覚ない二人の姫を見てるし、大公の忘れ形見の存在や虚無に気付いてるのでもっと深いと思ってる。
考えすぎた結果ロマリアがより有能になってしまった。
これをウェイバー現象という。