賢者は使い魔   作:超高校級の切望

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薔薇の少年

 教室の掃除を命じられたルイズは、先程から何も言わない。

 魔法実験による塔内部での大爆発に洪水火災バイオハザードに慣れきったケントはテキパキと片付けを進めていく。

 

「………何で何も言わないのよ」

「何が?」

「私が、魔法を失敗したこと………」

「…………ああ」

 

 失敗。確かに。

 まあ、失敗するだろうさ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 結果として()()()()()()を書き換えようとするのだから、なかなか面白い魔力。

 

「俺はあれ、結構好きだがなあ」

 

 特に知り合いに見せれば大興奮で研究させろと言うだろう。

 それは異界の魔法使いとしての言葉。故に、魔法の発展など求めぬ、未知など不要な、ただ成功だけが尊ばれるハルケギニアのメイジたるルイズには嫌味にしか聞こえなかった。

 

「馬鹿にしないで!」

「……………」

「あれで、良いわけないじゃない! だから、頑張ってるのに!!」

 

 何も知らないくせに、と睨み付けてくるルイズ。

 

「あんたは今日、ご飯なし!!」

 

 そう言うと扉を開け走り去るルイズ。怒らせてしまったらしい。

 一人残されたケントはふむ、と教卓の破片を片手で弄ぶ。ぽい、と投げると掌に落ちる前にルビーに変わっていた。

 

「こういう魔法が使いたいなら、あれは邪魔かね?」

 

 本来緑のルイズの魔力の色を強制的に白に変える妙な術式。個人的には興味深いが、主人であるルイズの望みなら引き剥がして好きに研究していいのだろう。

 

 まあ生まれた時から体に刻まれているし、安全に取るには数日かかるが。

 

「とは言え、今日の飯をどうするか」

「…あ」

「ん」

 

 と、廊下を歩いていると早朝出会った黒髪のメイドと出くわす。

 

「朝の……ええと」

「そういえば、名乗っていませんでしたね。シエスタと申します。お貴族様の下着は、洗濯して部屋においておきました」

「それは助かる。俺はケントという」

 

 お互い自己紹介を済ませる。シエスタはこんなところで何を? と尋ねた。今は昼餉の時間だ。

 

「昼飯を抜きにされたのでね、せめて来たばかりのここを知ろうと回っているところさ」

「まあ」

 

 シエスタはクリクリした瞳を丸くする。そしてそうだわ、と笑みを咲かせた。

 

「賄で良いのなら出せますよ」

 

 

 

 食堂の裏の厨房にて賄いをもらったケントは、礼として配膳を手伝う事にした。

 しかし、食いきれない量の食事を出させやはり食いきれずにデザートに移るとは、ずいぶん無駄が多い。

 

 食事の一つをとっても金があることをアピールする必要があると『商利の政女』も言っていたが、ここは会食ではなく学院の食堂。

 

 彼女は『後で使用人と美味しくいただきますわ!』と言うのだが、どうもトリステインの貴族は平民に作らせているくせに平民に貴族の食い物を喰わせるなど、と捨てるらしい。

 

 『顎の骨砕いて喉奥に突っ込んでやりますわ〜』とイマジナリー政女が笑顔で拳を握る姿が脳裏に過る。無駄遣いが嫌いな彼女がいなくてよかった。

 

 などと考えながら配膳していると、何やら騒がしい一団がいた。

 

「なぁ、ギーシュ! お前、今誰と付き合っているんだよ!」

「誰が恋人なんだ、ギーシュ!」

 

 それなりに整った顔立ちの金髪の少年が友人に詰められていた。フリルの付いた改造制服。

 胸ポケットに薔薇を挿し、私はキザですと全身でアピールしている。

 

「付き合う? 僕にその様な特定の女性は居ないのさ。薔薇は多くの人を楽しませるために咲くものだからね」

 

 どうやら彼にとって、自分は薔薇の化身のようだ。

 ナルシストの彼は変なポーズばかりとるものだから、ポケットから紫の液体が入った小瓶を落とす。

 

「落とし物だ」

 

 と、返してやろうとするが振り向かない。無視か、或は気付かなかったか。

 

「落とし物だぞ」

 

 と、机においてやる。ギーシュと言うらしい少年は苦々しげに振り返った。

 

「これは僕のじゃない。君は何を言いっているんだね?」

「なんだいらないのか。シエスタ、香水もらった」

「え?」

「僕のだろうそれは!!」

 

 持ち主が持ち主であることを否定したいようなので、もう誰のものでも無いやとシエスタにやろうとしたらギーシュが思わず叫んだ。

 しまった、と顔を歪めてももう遅い。

 

「おお? その香水は、もしや、モンモランシーの香水じゃないか?」

「そうだ! その鮮やかな紫色は、モンモランシーが自分のためだけに調合している香水だぞ!」

「それがギーシュが落としたってことは。ははあ、ギーシュ、お前が付き合っているのはモンモランシー。そうだな?」

「違う。良いかい? 彼女の名誉の為に言っておくが………」

 

 と、言い訳をしようとするギーシュに近付くひとりの少女。背は低く、マントの色が異なる。下級生だろうか?

 

「ギーシュ様……」

 

 茶髪の可愛らしい少女は、その瞳を潤ませポロポロ涙を流す。

 

「やはり、ミス・モンモランシーと………」

「彼等は誤解しているんだ。ケティ。良いかい、僕の心の中にいるのは君だけだ」

 

 しかし、パァンと食堂全体に響き渡るほどのビンタを放つ。頬に真っ赤な紅葉が現れた。

 

「その香水が貴方のポケットから出て来たのが何よりの証拠です! さよなら!」

 

 ギーシュは頬をさする。ケントは新たに立ち上がる金髪ロールを見る。うちの公爵令嬢に引けを取らないまきっぷりだ。

 

「モンモランシー、誤解だ。彼女とはただ一緒にラ・ロシェールの森へ遠乗りしただけで………」

 

 冷静な態度を取っているが、冷や汗が一雫、頬を伝う。

 

「やっぱり、あの1年に手を出していたのね?」

「お願いだよ『香水』のモンモランシー。咲き誇る薔薇のような顔を、そんな怒りで歪ませないでくれ。僕まで悲しくなるじゃないか」

 

 モンモランシーは机に置かれていたワイングラスを取ると、中身をドボドボとギーシュの頭の上からかける。

 

「嘘つき!!」

 

 そう怒鳴って去っていく。

 キラリと光が溢れた。それは少女の涙であった。

 

 沈黙の中数多の視線にさらされたギーシュはハンカチで顔を拭い、芝居がかった仕草で首を振る。

 

「あのレディ達は、薔薇の存在の意味を理解していないようだ」

 

 先程モンモランシーを薔薇と呼んでいたことを思えば…………ははぁ、女は黙って遊ばれていろと。

 『十三界断』が聞けば『首を出せ』と笑顔で詰め寄ることだろう。

 

「待ちたまえ」

 

 さっさと配膳に戻ろうとしたケントをギーシュが呼び止める。椅子の上で体を回転させ、すさ! と足を組んだ。

 

「君が軽率に香水の瓶なんか拾ったから、2人のレディの名誉に傷がついた。どうしてくれるんだね?」

「え、俺のせい?」

「そうさ。なら、することは解るだろう?」

「それがこの国の常識と言うなら、仕方ないか」

 

 ふん、と得意げなギーシュ。そのギーシュに背を向けて歩き出すケント。

 

「って、おい! 何処に行くんだね!?」

「謝罪をしに」

「なら、何故僕に背を向けるのかな?」

「俺が傷つけてしまった少女達を慰めに………まさか、仮にもお二方の恋人であった貴方がそれ以上に優先させたいものでも?」

 

 ギーシュの顔がかあっ、と赤くなる。

 

「無礼だな、君は!」

「? 貴方は傷ついたのか? だとしたら悪かった。謝るよ。二股を周知して済まない。君が彼女達を騙し続け、唯一の愛を2人に囁き続けられなかったのは俺の責任だな」

 

 ガタッと立ち上がるギーシュ。ケントは、ワクワクと彼が杖を握るのを待つ。

 

「ん? 君は、ルイズの使い魔じゃないか。ふん、ルイズなんかの使い魔に、貴族の機転の理解を期待した僕が悪かったね」

「…………彼女の部屋には読み込まれよれた本がたくさんあった。魔法が使えるだけで女を傷つける男が、努力を続ける少女より貴族にふさわしいとはこの国の貴族は俺の国とは在り方が違うらしい」

「なんだと?」

「いや、国それぞれだ。他の国の貴族に、誇り高くあれ、など望んで悪かった」

「ここまで侮辱されては、ただで返すなど出来なくなったな!!」

「ほうほう。つまり?」

「躾けてやろう。ケーキを配り終えたら、ヴェストリの広場に来たまえ!」

 

 ギーシュはその場を後にする。ギーシュの友人達は楽しそうにその後に続いた。

 ケントは残りのケーキを適当に配ると最後の1個を素手で掴んで食べる。

 

「あなた、殺されちゃう………」

 

 シエスタは顔を青くして震えながら走り去る。

 

「あんた、何してんのよ!」

 

 入れ替わるようにルイズが現れた。

 

「これはルイズ様。見ての通り、配膳を」

「そうじゃなくて、決闘なんて…………危険よ!」

「そうは言われても。主を侮辱された以上、使い魔として噛み付かぬ訳にもいかないだろ」

 

 成り上がりのケントからすれば、魔法が見たいのもあるが、ルイズを馬鹿にするあの男を少しは懲らしめたい気分になるのだ。

 

「部屋においていた俺の剣を取ってきてくれ。君の使()()()()()を見せよう」

 

 ついでにこのルーンの性能も試してみたいし、と左手に刻まれた文字を見て目を細めた。




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