賢者は使い魔   作:超高校級の切望

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始祖の恩寵

「父様と何の話をしていたの?」

「これからの国の話」

 

 濁されていると思ったのか、ルイズはムッと顔をしかめる。しかし実際に彼は大貴族で、氣術の話が本当だとするなら自分より大人の可能性もあるし………。

 

「ねえ………」

「ん?」

「…………なんでもない」

 

 年齢を尋ねたかったが、尋ねられなかった。

 父と話す姿を見て感じた溝が広くなるのを恐れたのだ。だってその姿は自分達のような子供と違って………隣に立つなら自分のようなチンチクリンより、姉のカトレアの方が………。そこまで考えプルプル首を振る。

 

「って、何処行くのよ」

 

 共に女子寮に戻ろうと思えば、ケントは全くの別方向に向かおうとする。

 

「学園長室。公爵に俺の存在を認識された以上、年頃の娘と同じ部屋に居るわけにはいかないからな」

「えっ………」

「まあ幸い金ならあるし」

「だ、駄目!」

 

 ルイズは思わず叫んだ。

 

「身の回りの世話が欲しいならエルザを貸してやる」

「…………」

 

 エルザがペコリとお辞儀する。ルイズはそうじゃないと叫びたかった。

 

「貴方は私の使い魔じゃない!」

「使い魔としての領分を忘れるつもりはないよ。聞くけど、年頃の男と同じ部屋に居るって両親に言えるのか?」

「あう………」

 

 ルイズは固まる。そんな事知られば10回ぐらいはオソラキレイする羽目になる。今回も雲より高く吹き飛ばされた。

 へー、地平線ってカーブしてたのか。と感心する余裕もなかった。

 

「必要ならこれを使え。通信機だ。いいふろ……いや、この語呂合わせは分からないか。1126が俺の番号。その順番でつながる。赤いボタンが緊急信号。すぐ駆けつけてやる」

 

 ルイズとエルザは見たことない道具を渡される。遠く離れた人間と通話出来るらしい。

 

「改めて貴族として登録してくる」

「う、え………ああ!」

 

 ルイズが困惑している間にケントはいってしまった。

 

 

 

 学園長はそうか、と納得すると『ではエルザちゃんも従者らしい格好を』と幼女サイズのメイド服を出してきた。

 

 ケントは思わず『え、キモ』と呟いたがエルザはキラキラしてたので許可を出した。

 

 

 

 

「虚無、か」

 

 竜籠の中、ヴァリエール公爵はケントから聞いた言葉を呟く。娘の真の系統………とは少し違うらしい。本来目覚める系統の代わりに娘に刻まれた系統。

 

 『始祖の恩寵』とでも呼ぶべき、人に虚無を与える魔法がかけられていた。代わりに本来の系統を含めた一切の魔法が使えなくなるが。

 

 魔力を貯蔵させ器を拡張する機能もあるらしく、幼い頃のルイズの魔法が爆発どころか何も起こさないことがあったのもそれが理由。詰まりを取ればコモン・マジック程度なら使えるようになるとのこと。

 

 始祖の魔法。なるほど、普通の信徒ならば大喜びするべきかもしれない。だが、ヴァリエール公爵は諸手を挙げて喜べる暗愚ではなかった。

 

「………よりによって、この時代に」

 

 国が乱れたこの時代。知らればルイズこそ真の王と担ぎ上げ、甘い汁を啜ろうと欲深い者共が殺到するだろう。だが、それより恐ろしいのはロマリアだ。

 

 過去何度も『聖地奪還』を訴えてきて、ある時からパタリと沈黙を貫いた国。『聖地奪還』………つまりはエルフと殺し合えという無茶振りがないなら、教会などの施設を受け入れるしかない宗教総本山。

 

「あの子が無能でなかったのは喜ばしいが………」

 

 ふと、ヴァリエール公爵は思い出す。ケントがロマリアの暗躍を疑う理由の一つに、王の力を理解していない姫が2人いる事。

 

 1人は……無礼ながらアンリエッタ。もう1人は、『ガリアの青』を持つルイズの学友の1人。姫でなくともマリアンヌも王の力を理解していないだろう。

 

 方や父が幼く崩御し、方や王位継承権2位の娘と、ギリギリ理由はないとは言えない。マリアンヌに関しても、彼女の父である英雄王と呼ばれるフィリップ3世は一騎当千の武人ではあるが政治面は苦手で、エスターシュの野郎に暗躍を許した。

 

 だからこそ、次代の王族たる彼女達は本来なら王族としての心構えを教えられるはず。しかし現状はこれだ。

 

 王位を空席にし、王の承認が必要な事柄にたった一言言ってくれるだけでも良いのに『私は王ではありません』と返すのみで、政務に一切関わらない。

 

 姫は悲恋に酔い、国を危機に陥れた。

 

 国を乱し世界を滅ぼしかねない姫が同時期に2人。それを避けるためにはトリステインは新たな王を立て、ガリアならその姫を殺さなくてはならない。

 

 そんな状況にしている可能性があるのが、ロマリアだと彼は言う。実際、現教皇ヴィットーリオは美しい男と聞く。年頃の姫達を言葉で騙し、各国の内部に入り込むことが出来るだろう。

 

 それを避ける為にブリミル教でこそあれ各国ほど敬虔ではないゲルマニアにアンリエッタを移し、ヴァリエール公爵が王となるのも、なるほど正しい手だ。

 

「………しかし」

 

 アンリエッタはまだ少女だ。ルイズの親友であり、ヴァリエール公爵にとっても幸せになって欲しい娘。

 たった一人の姫を同盟道具として差し出す時点で終わっていると言われれば否定はできないが、時間さえあれば彼女を育てること………。

 

「時間、か………」

 

 その育てるべき時間を、己の領地の運営に費やし姫を見ず無駄にしたのは自分達であった。

 

「ガリアの王を見下せる立場か。我々こそ無能…………無能?」

 

 ふと、何かがひっかかる。

 そうだ、ガリアの王………確か彼の無能という言葉は、魔法に対してではなかったか?

 

 魔法至上主義のハルケギニアにおいて魔法が使えない、ただそれだけで他の何もかも出来ないと決めつけるのは何もおかしくない。

 

「………まさか!」

 

 ジョゼフ1世が虚無の魔法使いだとして、ならばロマリアはどう出る?

 

 可能性として、彼を廃嫡させロマリアで保護という名目で虚無を手にする可能性も、あの国なら平気でやるだろう。

 

 そう言えばルイズの家庭教師であったノエル女史も、ルイズをロマリアの聖アルティエリ神学校に入れようとしていた。

 

 徹底した魔法教育と厳格な規律の、学校とは名ばかりの牢獄。毎年脱走者も出る。

 

 ロマリアが虚無の魔法使いが起こす結果を知り、子供にどうしても魔法を使わせたい貴族が何も知らぬまま預けたら?

 

「………………」

 

 全てが推測。恐るべき事実ではなく、可能性。だが………。

 

「頼んでおいて、良かった。しかし、彼も人が悪い」

 

 ガリア王が虚無の担い手の可能性を、恐らく彼も考えていた。その上で黙っていたのは、こちらが気付くか確かめていたのだろう。

 

 とは言え、少なくともルイズはロマリアの思い通りにはならない。聖女などというロマリアに都合の良い人形にされてたまるか。

 

「始祖よ、これが貴方の恩寵だとしても、使い魔召喚もまた貴方が貴方の信徒達を助ける為に造った魔法。文句はありますまい」

 

 

 

 

「さて、手に入れたは良いが器が必要だな」

 

 きっと明日、ルイズは驚くだろう。自分が系統魔法を使えるのだから。

 しかし、こうして剥がして見るとなかなかどうして素晴らしい術式。

 

 精錬されて、かと思えば遊び心も見えて、しかし慌てて組み立てた部分もある。

 それでいて六千年、血脈を通り、永い間休眠状態を続ける事もあったろうに正常に作動する。

 

「6000年前に出会えていたらなあ」

「やめとけ相棒。好奇心で世界が滅ぶ」

「?」

「相棒とブリミルは、気が合うからこそぜってーに会わせちゃならねえ。奴の発想力に相棒の知識、2人揃った好奇心、サーシャが助走つけて蹴りを放つぜ」

「誰だよ」

「う〜ん? 誰だっけなあ?」 

 

 まあいい、とケントはデルフを鞘に納める。今必要なのは新しい虚無の器だ。

 

 


 

6000年前、ブリミルの使い魔の一人になっていた場合

 

「記憶を覗く魔法を作ったんだ! どうかな!?」

「おお! ここをこうすると、こう、目からピカーって光って壁に映像映すぞ!」

「あっはっは! なんだそれ、面白そう!」

 

 

「この蘇生の魔法、どうせなら命無き者にも命を与えるようにしようぜ」

「サーシャ達の武器みたいに?」

「いや、肉体を俺が作る。お前が命を与える。新生命の誕生だ。僕の考えた最強の使い魔的な」

「おお! なら、首3つ! 3つにしよう! 肉食と草食と竜がいい!」

 

 

「ところでこの術式を見てくれ。此奴をどう思う?」

「すごく(破壊の規模が)大きいな」

「「…………」」(無言で頷き合う)

「「よし、早速試してみよう!!」」

ダダダダダッ!! ドゴォ!!(助走つけてドロップキックを放った音)

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