賢者は使い魔   作:超高校級の切望

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ミノタウロス

 各地に散ったケントの分身達。

 本来は他国は分身に任せるケントであるが、今回は本体で来た。

 

 遥か昔の建築家の作品が遠い未来においても評価されるように、技術で勝ろうとも尊敬に値する讃えるべき偉業というのは存在する。ケントにとってはブリミルの魔法がそうだ。

 

 6000年、色褪せぬ術式。尊敬に値する。

 故にその術式を他人に移し、使用を確認するのは本体でやる。それがブリミルという偉大な始祖へのケントの敬意。

 

 ウェールズへの敬意が国に仕えた者としての敬意なら、ブリミルへの敬意は魔法使いとしてのものだ。

 

 ケントは魔法が大好きだ。現代日本と比べても遜色ないどころか勝った娯楽が存在するあの世界においても賢者となるだけ魔法にのめり込んだのだからさもありなん。

 

 一つの世界の魔法の始祖たるブリミルも尊敬しているし、そして………。

 

「他種族に脳を移植!? 神経の接続をどうやって!? いや、拒絶反応は!? 元の肉体との差異になれるまでの期間は!?」

 

 現在ケントはミノタウロスに滅茶苦茶話しかけていた。

 なんでこうなったんだっけ、とタバサは数刻前に思い出す。

 

 

 

 

 ミノタウロスとは首をはねても暫くは動く生命力に、巨大ゴーレムに匹敵する怪力を誇る怪物。

 その皮膚は硬く刃や矢弾などは受け付けず、人の言葉や文字を理解する知能を持つ。

 

 あの後酒場で食事をとっていたタバサ達にドミニクと名乗る老婆が声をかけてきた。何でも、彼女の村の近くにそんなミノタウロスが住み着いたのだと言う。

 

 ミノタウロスは殺されたくなければ肉の柔らかな娘を生贄に差し出せと要求してきた。領主に助けを求めても、貧しい村などに兵も動かさない。近頃近隣で子供誘拐事件が頻繁に行われているのもあるのだろう。

 

 最後の望みをかけ、ドミニクは騎士を探した。何でも十年ほど前にもミノタウロスが住み着き、その時は行きずりの騎士が退治したらしい。

 

 用意できる金額は3エキューだったが、タバサとケントは受けた。ケントは死に難いペットが欲しかったのだ。エルザは現在精霊魔法の経過観察中で、大きな実験が出来ないから。

 

 トリステインで一人の幼女メイドが寒気を感じた。

 

 

 ドミニクの村、エズレ村は僅かな畑ばかりで他には何もない。ここの領主エメルダは税収が見込めぬ村など滅んでも気にしないのだろう。

 

 なのに税は搾り取るという。セザル王国なら実験施設送りの所業だ。

 領主とは納める税を以て民を守る者だというのに。

 

「無償で働かせるなど、人を何だと思っているの」

「まったくですじゃ。ワシ等は人形などではないのです」

 

 ケントの言葉にドミニクはウンウン、と頷いた。

 

 村人達は若いケントを見てあんな子供に、とヒソヒソ話す。それを聞いたシルフィードはプリプリ怒っていたが、タバサもケントも周りの評価を気にしない人だ。

 

 ドミニクの家に行くと抱き合いさめざめと泣く母娘が居た。ドミニクの孫娘ジジと、その母親。ジジはなるほど、確かに可愛らしい娘であった。

 

「騎士様、私達を助けてくださるのですか?」

「ああ」

 

 ジジの言葉にケントはあっさり返す。

 

 

 

 

 その夜タバサ達はジジ一家に歓待された。乏しい食材をはたいて精一杯の料理を振る舞う。

 タバサはすぐに手を付けずミノタウロスの情報を求めた。母親は獣皮を差し出してきた。

 

『次に月が重なる晩、森の洞窟前にジジなる娘を用意すべし』

 

 月が重なる晩……明日の事だ。

 先週、この手紙が広場に張られていたらしい。その際牛頭の怪物が森に消えるのを何人もの村人が目撃した。

 

 十年前のミノタウロスもこうやって毎月娘を要求し、ジジの姉も食われた。通りかかったラルカスなる騎士が大怪我を負いながらも火の魔法で見事ミノタウロスを倒したという。

 

 因みに十年前のミノタウロスは個人を要求することはなかったようだ。

 

「……………食べる?」

 

 聞きたいことを聞き終え食事を始めたタバサは、チラリとジョゼットを見る。慎ましい量に遠慮しているのかと、自分の分を差し出す。

 

 食事処に休憩等には寄らぬくせに、いざ食事を始めればとても食べるタバサが出会ったばかりの相手に食事を分ける光景にシルフィードは目をパチクリと見開いた。

 

「あら、平気ですわ。修道女ですもの、清貧は基本です」

 

 と、胸を張っていうジョゼット。タバサは「そう……」と呟くと皿を戻した。少し、悲しそう。

 

 

 

 

 その夜、部屋が一つしかないので全員が一つの部屋で寝る中、ケントは庭でタバコを吸っていた。不意に火を消すと風で煙を散らす。

 

「騎士様………」

 

 振り返ると、ジジがいた。

 

「騎士様、どうかお連れの方と共に、このままお帰りください。私のために、誰かが犠牲になるのは耐えられません」

「1人で終わるか」

 

 ケントの言葉に黙り込むジジ。そうだ、ジジで味をしめたミノタウロスは、今後も何度だって村人に娘を差し出させるだろう。

 

「ですが……」

「ミノタウロスがメイジを殺す、なんてよく聞く話ではあるがなぁ。まあ安心しろよ、俺は強いからな」

「………………」

「お前はよく寝て、また明日飯を作れ」

「ええ、最期は腕によりをかけて………」

「最期にはしねえよ」

 

 ジジはその言葉にケントを見つめる。ケントは薪で焼いていた果実を取ると、一つをジジに渡す。

 

「料理の腕を上げておけ。また食いに来てやる」

「えっ………あの、それって」

「食わねえの?」

 

 ジジは慌てて果実を受け取る。ジュクリと柔らかくなった果肉から甘みの増した果汁が染み出し、振りかけられた砂糖と混ざる。

 

「…………騎士様」

「まだ何か?」

「ご武運を………」

 

 

 

 

 結果的には、ミノタウロスは偽物だった。牛の皮をかぶった半裸の変態である。

 ジジの代わりに生贄にされたシルフィードを仲間の元まで運び、一網打尽にした。

 

 メイジも居た。後ろからタバサに不意打ちして、ケントが指をすいっと動かせば生きたまま塩の塊となる。

 

 その塩の塊が、大きな何かに真っ二つに切り裂かれた。

 

「…………ん?」

 

 自分が切り落としたのが、少女に杖を向ける悪党ではなく塩の柱であった事に気付きその影は首を傾げた。

 

 巻き貝のような角も、ともに動く。

 全身は筋肉に覆われ、手足は丸太のよう。灰色の肌は、骨鉄の如き強靭さを誇るであろう。

 

 それはミノタウロスだった。タバサとシルフィードが警戒する。と……

 

「お前、その体どうやって手に入れた!」

 

 ケントがとても嬉しそうに叫んだ。

 

 

 

 ミノタウロスは人間の様に困惑していた。彼は実はラルカスと言い、十年前ミノタウロスを倒した貴族だ。

 

 彼は不治の病に冒されていて、最期に世界を見て回ろうとしていたのだが、ひょんな事からミノタウロスに襲われているエズレ村にやってきた。

 

 彼はミノタウロスの強い生命力に目をつけ、禁忌とされている脳移植を行ったのだ。

 病のために多くの研究をしていたからこそ、その技術を知りたがる研究者も現れるとは思っていたが………。

 

「近縁種、じゃ、やっぱりねえな。猿と人どころか、猫の心臓を馬に同じ哺乳類だろと移植するレベルの所業だ。亜人とか、適当な名前つけるなよなあ。ふむふむ、成る程、無意識に水の魔力の調整………ん? でも流石に死滅した脳細胞がミノタウロスの脳細胞に置換して………」

 

 こういう相手が現れるのは予想外だった。何時の間にか四肢を拘束され、ひっくり返されて、体中調べられる。

 

「よし。名乗れ」

「………ラ、ラルカスだ。こんななりでも、まだ貴族のつもりだ」

「人並みの扱いを要求するってか? ふむ、解剖はなし、と。まあいいだろう。食事してるだけだしな」

 

 何やらメモを始める少年。その目はこれから開発中の秘薬を平民に投与する貴族のよう見えた。

 

「さてラルカス、人の体に戻り、健常者の人生を送りたいか?」

「!? で、出来るのか?」

「細胞は頭から取って………土地はある、機材を用意して施設を完成させるには、1年ってとこか? その間お前の脳への侵食を押さえれば…………ああ、出来るな。間違いなく。食欲も抑えてやるよ」

「……………対価は?」

「忠誠」

 

 淀みなく言い切るケントに、タバサは何とも言えない目を向ける。

 

 ラルカスは暫し考え込んだ後、跪く。巨大なミノタウロスの肉体なので、それでもケントよりやや目線が上だ。

 

「人の身に………健常なる人の身に戻れた暁には、貴殿に永遠の忠誠を誓う」

「よし、じゃあジョゼット連れて、トリステインに帰るか」

 

 ケントはそう言うと歩き出した。ラルカスはどうすれば、と言うように戸惑う。

 

「シルフィード、乗せてやれ」

「キュイ!? い、いやなのね! ミノタウロスなんて、恐ろしい!」

「ミノタウロスの体だが中身は人間だ」

「きゅ? よく分からないのね。そういうのは、()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 と、その言葉とともにシルフィードの周りの風が渦巻く。現れたのは、一匹の竜。タバサは何もない場所から突然現れた竜に混乱する。

 

「風の精霊、育ってきたな………名前は、考えるのが面倒で自分の名を与えたな」

「ふふん。今はシルフィードなのよ、お姉様がくれた名前なのね。さ、イル、その人を乗せてやるのね」

「……………いやなのね」

 

 イルククゥと名付けられた風の精霊は、プイッとそっぽを向く。シルフィードはなっ、と口を大きく開けた。

 

「イルは偉大な精霊様なのよ! お前が乗せるのね!」

「私のおかげで生まれたくせに、生意気なのね!」

「生意気はお前なの!」

「「むきー!!」」

 

 2匹の竜は喧嘩を始めた。

 自分の名前を精霊に着けた弊害だろう。全く同じことを考える。つまり、自分が契約精霊より上だとシルフィードが思えば、イルククゥも自分が契約者より上だと思う。

 

 ちゃんと忠告しておけばよかった。

 まあどうせなら、暫く観察してみよう、ハルケギニア産の精霊はまだ2体しか拝めてない。

 

 

 

 最終的にはタバサの杖が2匹の竜の頭を殴り、喧嘩を終わらせた。

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