「宝探し、ですか?」
長い金髪の女は雇い主の言葉に胡乱な目を向ける。
彼女は元々神官だったのだが、ある日告解室にやってきた男に腕を買われた。
自分はもう俗世に関わりたくないと断ったが、色々あって結局従うことになった。
「此奴等が怪我した時に治せ」
「わたくしは、水系統ではありますが回復はそこまで………」
「知ってる。とは言え、ラルカスはまだ使えん。次点でお前だ」
「…………………かしこまりました」
心底納得いかない、という表情を隠そうともせず、女は頷いた。元よりケントの気まぐれで生かされている命なのだ。
「ちょっとダーリン、何時の間にこんな綺麗な人と知り合ったの?」
「1週間前」
「一ヶ月前ですよ」
「そうだっけ? 数を増やすとどうも紛らわしくなる」
「1週間前は私ですよ、お兄様」
「一番長い付き合いは私だよね、お兄ちゃん」
ジョゼットとエルザが笑顔で睨み合う。
「………私、詔考えなきゃいけないんだけど」
「そうか。悪かった、なら」
「い、行くわよ!」
キュルケはむう、と眉毛を寄せる。養子を受け入れ、間違いなくここに骨を埋める準備を始めたケントに、ここで一気にケントと距離を縮めるべく宝探しに誘ったのだが余計なのまで付いてきた。
タバサは全然いい、構わない。ギーシュも、まあ良いだろう。
エルザも問題ない。ただし、シエスタは微妙なところ。聞けば奴隷同然の立場から公爵にまで上り詰めたというケント。そんなケントに向ける目は、憧れと恋慕! つまりライバル!
そしてルイズ!
キュルケは本気の相手を取らないという自分ルールがある。本当に大切な相手を奪われまいと、本気で殺しに来られるのは面倒だからだ。それは自分がその女を殺してでも奪いたい男が現れる時だけ。ケントは、ぶっちゃけるとまだそこまでではない。
それはそれとして取られるのはツェルプストー家の女としてムカつく。
「………それで、ええと」
「名乗り遅れましたね。リュシーと申します」
「ダーリンとは何処で知り合ったの?」
「…………………」
1ヶ月ほど前、リュシーは何時ものように告解室にて懺悔に来る信徒を待っていた。
その日来た信者は、変わっていた。
「貴方はどのような罪を犯したのですか? 神と始祖ブリミルは、全てをお聞き届けになり、その全ての罪を清めてくださいます」
「シスター、俺は優秀なメイジを集めてるんだ。今は土と風が手元にあって、火が友だ。そこで水を探してる」
ガリアなまりの言葉ではない。旅人だろう。旅の目的………優秀な従者を探しているのだろうか?
「ここは罪を告白する場です。多くの信徒の心を癒やす場所、要件を違えるのなら、お引き取りを」
「誰かに話したただけで罪が無くなると思う奴が真に反省なんかするかよ。反省する奴は、告白した程度で安心出来ないから何度だってくる。時間の無駄さ」
リュシーはムッと眉毛を寄せる。なんだ、この無礼な男は。引っ張ればボッシュート出来る紐があれば良いのに。
「まあそれで、水のメイジだ。流石に貴族から攫うのもあれだろ? なんか都合のいいところにいないかな〜って偶々立ち寄ったら、シスターに出会った。始祖の導きに感謝する」
「…………確かにわたくしは、元貴族です。ですが、出家した身。俗世のことは、もう関わりたくありません」
「嘘つけ………ああいや、嘘はついてないのか。面倒だな」
「?…………!?」
良く解らない言葉に訝しんだ瞬間、リュシーは告解室から飛び出し足に巻き付けていたガーターから杖を抜く。杖を抜きやすいようスリットが入っていたようだ。
ゆったりとした修道服ならば、なるほど確かに目立ちにくい。神に仕えるシスターの服を剥ごうとする罰当たりは教会には来ない。考えている。
リュシーは呪文を唱えると無数の水弾が告解室を破壊する。
優しげで清廉な顔は鳴りを潜め代わりにあるのは冬の湖のように冷たい気配。感じるオーラはスクウェアクラスにも匹敵する。
強い強い怒りを燃やす復讐者。油断なく次の魔法を放とうとして──。
「この世全てが憎いって顔だな。別にいいけど、憎しみを肯定するのと、行為を受け止めるのは別だがな」
「!?」
振り返ろうとして、見えない何かに押されて壁に激突する。風の魔法? 違う、もっと別の何か!!
「わたくしに、何を……………!」
リュシーは復讐者だ。だが、それを悟られたことは一度もない。何故なら禁術に指定された人を操る
その洗脳が解かれた。術者本人が解かぬ限りより強力な水のメイジか、術者が死ぬまで解けぬはずなのに。
「………なにが目的ですか?」
「最初に言ったろ? 四系統コンプリート目指してんだ」
「世迷い言を………仕えたところで、わたくしに何の得があるというのです」
「復讐手伝ってやってもいいぞ。戦火は俺も大歓迎だ」
「……………戦火?」
「………お前も王族の意味を理解してない貴族? てっきり、知ったことか、世界なんて燃えちまえ、って奴かと」
「…………王家と関われるほどの身分ではありませんでしたので」
「ん、なら良いか」
男は世間話でもするかのように本を読んでいる。此方を見ない。歯牙にかけられても居ない。
「シャルル派が大きく動けば、大粛清をせざるをえなくなる。その先に待つのは内戦だ。アルビオンなんぞとは比べものにならないな」
「だから、我慢しろと?」
「しなくていいって」
「父を殺され、全てを奪われ、それでも、平和のために飲み込めと!?」
「だから戦火は大歓迎だっての」
「父はただ、オルレアン公派であった、それだけを理由に殺された父の無念を………!」
「人の話聞かねえなあ此奴………てか、それだけを理由に殺すのは当たり前だろ」
「……………は?」
「…………ん?」
無能と称されるジョゼフ、始祖以来の天才と称される弟。その弟を王にしようと動いていた者達が、兄が王になった後も残っているのだ、国を治める王として見せしめに殺すのは当然。
王家に関われない程度の家格というのも、見せしめに丁度いい。
「もちろん父を殺されたお前には関係のない話だ。見事王政府を倒し、粛清し返すといい。俺に仕えるなら、手伝ってやろう」
ああ、悪魔とはこのような姿をしているのか、とリュシーは思った。
家族を殺された娘に、父に殺されるだけの理由なんてないと泣く女に、殺される理由はあったと教えながら、それでも復讐を肯定する。
「…………貴方は、仮にオルレアン公派が勝利した後、面白い使い手が現れ、復讐を望まれたら手を貸すのですか?」
「ああ」
「…………悪魔め」
「神も崇めぬ修道女に言われてもな」
「…………貴方に従います。条件は復讐ではありません」
「ほう」
「…………私が壊した告解室、直してください」
「いいよ」
「ミス・リュシー?」
「……………ああ、すいません。そうですね、彼が私を欲しい、と」
「ダーリンってばこんな女がタイプなの!?」
この少女、良くあんなのに恋心抱けるな、とリュシーは思う。
あんなのことケントはギーシュに指導している。ああいうのを見れば、普通の男なのに。いや、あれもあの男の本質か。
自分のような本性を抑えた2面性とも異なる、人間を弄び、戦火を楽しむ心をそのままに自らの知識で他者を育てるのも好き。矛盾なく両立している。
「わたくしは、ケント様に恋心は抱いていません。どうぞ、誘惑ならご勝手に………」
強いて言うなら、安心だろう。
何年も復讐心を捨てられず、自分を洗脳し続ける日々。壊れていると思っていた自分も、まだマシな部類だという安心感。あれが見える範囲を歩く限り、自分は道を踏み外さずにいれる。
でもセント・マルガリタ修道院の貴族の落胤達の教育係を押し付けた件には文句を言いたい。せめてお金を増やして欲しい。あれでは彼女達にお菓子を作ってやれないではないか。
ゲルマニアのケントの土地
セント・マルガリタ修道院の貴族の落胤達を連れ帰って住まわせてる。
普段はリュシーや雇った家庭教師が魔法を教えている。
時折ケントの分身がハルケギニアにはない魔法を教える実験教育所。
リュシー タバサの冒険に登場するシスター。
ケントに目をつけられたばっかりに、根が真面目故に正当性があると知ると復讐心こそ消えないものの元の熱意を維持できなくなった。
同じ元修道女としてセント・マルガリタ修道院の貴族の落胤達の世話をしている。最近現れた紳士的なミノタウロスに困惑している。