シエスタの家に向かう一同。予定では帰郷は2週間後だったので、家族に驚かれた。
シエスタが墓の文字を読める人だと説明すると大層驚いていたが。
「あの竜の羽衣をもらい受けたい」
「は、はい。それは構いません…………祖父の遺言でも、墓の文字を読めるものにお渡しするように、と」
なら遠慮なく貰おう、とケント。
「祖父の遺言はもう一つありまして、あの墓の文字を読める者が現れたら、告げてほしいと」
「ほう」
「『なんとしてでもあの『竜の羽衣』を陛下に返してほしい』と…………」
「…………………」
破壊の杖と言い、竜の羽衣と言い………地球と繋がっているのは確かだろう。
佐々木武雄少佐が、帰還が不可能と判断してもなお、願った。
「………まあ、返すめどが立てば」
始祖の祈祷書、始祖のオルゴールの中にワールドドアという異世界に繋がる扉を開く魔法があった。
恐らく、楔は打たれている。ただ鍵は遺伝子なのでケントが再現しても何処ともしれない世界に繋がるだけだろう。
始祖の血統たるジョゼットに一度開かせてから、ケントが改めてマーキングする必要がある。
「ありがとうございます。祖父も、きっと喜んでいることでしょう」
まあ返す前に一通り遊んでからにするか。
夕方。シエスタの家にお邪魔することになったケント達。貴族が珍しいのか七人のシエスタの姉弟達が話しかけようとして両親に止められる。
キュルケはせっかくだからと平民の話を聞いている。ジョゼットは貴族の養子になったばかりなので気にしていない。
ギーシュはシエスタに似て将来美人になりそうな妹の育ちかけの箇所を見てウンウン頷いている。
ケントはゼロ戦に付与する強化魔法を早速組み上げていく。そう言えば昔見た運命の夜の前日譚で黒く染まった戦闘機があったな………でも黒はなんか悪役っぽい。
セザル王国の国旗は青地に木、その左右に杖と剣…………青にしよう。
「あの、ケントさん………」
術式を組んでいると、不意にシエスタが声をかけてきた。
見せたい場所がある、と案内されたのはだだっ広い草原。ところどころ花が咲いて、山の間に沈んでいく夕焼けが世界を赤く照らす。
ケントはカシャリと二眼レフカメラで撮る。
「それは………?」
「カメラ………光景を切り取って紙に写す機械だ」
エルザの契約精霊であるメロウの成長記録やラルカスの解剖記録などを主に取っているが、気に入った景色の写真も撮っている。
ムラサギヨモギの群生地やセント・マルガリタ修道院を上空から撮ったり、アルビオンも実は撮ってる。
「ひいおじいちゃんは、ここに降りたそうです」
「広いしな。飛び立つにもよさそうだ」
海に居たのか知らないが、突然に知らぬ場所に出た佐々木武雄はさぞ混乱し、見知った景色を探し飛び周り燃料が尽きたのだろう。
飛んでみせろと言われて飛べなかったのは、既に燃料を使い切ってしまったから。
「綺麗でしょ、ここ。ケントさんに見せたかったんです」
ケントはニブチンではないので、シエスタの言葉の意味をわかっている。
「父が言っていました。ひいおじいちゃんと、同じ国の人と出会ったのも、何かの運命だろうって。よければ、この村に住んでくれないかって。そしたら、私も……その、ご奉公をやめて、一緒に帰ってくればいいって………」
ケントはチラリとシエスタを見る。顔が赤いのは何も夕日のせいだけではあるまい。
「俺は貴族を辞める気はないぞ」
権力はあって損はない。ハルケギニアでだって、どのみち何時かは地位を手に入れるつもりであった。
「そう、ですよね。私みたいな田舎娘なんて………」
「シエスタはかわいいぞ? ただなあ、本気の相手はな………俺はお前達より永い時を生きる。しわしわヨボヨボになって先に死んで、俺は何時かそれすら忘れる。本気で俺を好きな相手に失礼だろ?」
もちろん相手を不老にする方法なんて腐るほどある。永遠の探求のために寿命を欲する魔法使いはもちろん、寿命の差で愛する者を失うまいと人に恋した人外共が編み出したりする。
賢者ともなればその方法を尋ねられたりしたな。研究で忙しかったから「似てるの作るから後にしろ」と伝えたら殺しにきて、そのまま殺し合いになったっけ。
最終的に泣きながら帰って行ったが。まだまだお互い余力があるが、お互い時間を無駄にしたくなかったので。
まあ冷静になればあれは自分が悪かったので若返りと長寿の方を教えて仲直りしたが。
「ケントさんは、人間じゃないんですか?」
「俺の国の魔法使いは皆等しく人でなしだ」
零戦が着地した場所から大して動かさず立てられた寺院。なので、開けばそのまま草原に向かえる。そういう風に、この寺院は建てられている。
「燃料よし。機体に問題なし、と………」
クランクを回しプロペラを回転させ、エンジンを始動させるとバルルルルッ!! と騒がしい音が鳴る。
エンジンを作ったことはあっても零戦を動かしたことはない。それでもガンダールヴのルーンが最適な遣り方を教えてくれる。
ババババババッ!! プロペラが回り、ルイズ達が顔をしかめる。
「いい風だねえ。こりゃ、少し短めでも飛べるぜ」
「良く解るな」
「此奴は武器だろ? ひっついてりゃ、大概のことは解るよ」
「そういえば『伝説』だものな、お前」
流石ガンダールヴの盾、とデルフを褒めるケント。ガンダールヴ同様武器の解析………それもおそらく、ガンダールヴのルーンより機能は上だ。
「ああ〜、いいね、この振動! 4DXとは大違いだ!」
ブレーキをリリース。ゴトゴトと前に進み始める。
やがて、加速。タイミングはやはりルーンが教えてくれる。
操縦桿を軽く前方に押す。尾輪が地面から離れ、滑走。
「相棒! 今だ!」
「よっしゃあ!」
「飛んでますね………」
リシューはその光景に、少なくない動揺を覚えた。
ディテクトマジックをかけ、固定化以外の魔法をかけられていないのは確認した。本当に、魔法もなしで飛ぶのか。
「すごい! お兄様、凄い!」
「おー」
彼の養女は目をキラキラさせ、彼の従者にして自分の先輩は感心している。
飛ぶ理屈は昨日聞いていたが、やはりあのサイズの物があの速度で飛ぶのは6000年、大した発展をしてこなかったハルケギニアの民からすれば夢のような光景だ。
遠雷のような、或は唸り声のような音に村人達が次々家から飛び出し、空を泳ぐように飛ぶ竜の羽衣を見て目を見開く。
「竜の羽衣だ! 飛んでいるぞ!」
「本当に飛んでる!」
「ほれみろ、だから儂は言ったんじゃ!」
「お前さんインチキだと言っておったろ!」
ワイワイ村人が騒ぐ中、旋回していた竜の羽衣はトリステイン魔法学院に向け針路を変えた。
「我々も向かいましょう」
リシューの言葉にタバサ達はシルフィードに乗る。大人数なので、イルククゥも現れた。タバサとジョゼット以外突然現れた竜に困惑してたが、取り敢えず全員送れそうだ。
しかし零戦はとても速く、シルフィード達でも追いつけなかった。
「……………遠雷か? こんな天気なのに」
アニエスは不意に聞こえた音に耳を澄ませる。晴れ渡った空に似合わない音………遠雷のようで、違う。唸り声のようにも聞こえるが………。
「どうした、アニエス」
そんなアニエスに声を掛けるケント。タバコを吹かしながら、空を見上げる。
「ああ、問題ねえよ。それより準備だ準備」
油の入った筒をチャポンと揺らすケントに、アニエスは何とも言えない顔をした。
「本当に、起きるのか?」
「起きるね。レコン・キスタに忍び込ませた奴れ……部下からの情報だ。まあ、攻め込むってことしか分からなかったみたいだが、艦隊が来る場所から逆算するとここだろ。ここならトリステインを攻める拠点としても最高の立地」
だから事前に備えておく。既にアストン伯には(金の力で)話を通している。
「戦争だ戦争。楽しみだなあ」
「何を楽しむことがある」
「自分が立てた策が嵌る時。魔法の威力を確かめる時、楽しいぜえ。大好きだ」
嘘偽りなく戦火を好む男に、アニエスは眉間にシワを刻み睨みつける。
「そんなお前がどうして、村人を逃がすための準備まで進める」
「お前俺が人殺し大好きだとでも思ってる?」
「違うのか?」
「ちげぇよ。俺は戦争が、好きなの。ただの殺しで満足出来るなら、国でも焼いてるっての」
まったく、と肩を竦めるケントは、それに、と付け足す。
「戦争でも子供を死なせちゃ駄目だろ」
「……………………」
「子供は可能性だ。今日生まれた赤子が、何かの分野で俺を凌ぐ天才になるかもしれない。それを摘み取るなんて勿体ない」
「ようするに、お前は子供好きなのか」
「そう思ってくれて構わねえ。戦争にはルールがつきものだが、レコン・キスタが守るとは限らねえからなあ」
「戦争にルールなどあるか」
「あるさ。だから地獄としてはマシな部類」
敵という人種として殺す。それが戦場。本当の地獄とは人として扱われないことだと、ケントは知っている。
「レコン・キスタ……神聖アルビオン共和国は地獄を作るぞ。それも最悪な………だから俺達が先に、醜悪な地獄を作ってやろう」
「…………まあいい。どの道、ここで功績を立てれば、それなりの地位を得られるはずだ」
「トリステインで? ガリアならともかく?」
「…………トリステインでなければ意味がない」
「ま、お前とは最後の付き合いになる。手伝ってやるさ」
アニエスはケントに向かって手を差し出す。ケントはタバコの入った箱を投げ渡す。
「このまま私に付き合う気はないか?」
「ないねえ。軍属は面倒事が多い……俺の国なら話は別だが」
「そうか」
タバコに火を付け、煙を吸い込む。
「殺せるといいな、お前の村を焼けといった貴族」
「ああ、必ず殺す。あの男も、村を焼いた連中も………!」
「俺に関係ないなら好きにしな」
と、その時、新しい人影が現れる。
「隊長、副長、準備終わりました」
「おうミシェル。お疲れさん」
「いえ……しかし、アルビオンの連中も予想もしてないでしょうね」
「トリステイン軍の出陣は、間違いなくあの男が遅らせるだろうからな」
「別に大した罠じゃねえよ。元スパイのミシェルが居たのも大きい」
「副長なら、それがなくともアルビオンを追い詰める策を思いついたのでは?」
「いいや? この義勇軍だけじゃ無理だね。まあ幸いにも、ワインの産地のタルブに、当日さる公爵夫人が買い付けに来るから利用させてもらうだけさね」
トリステインの王宮。一人の男が歩けば、皆一様に道を開ける。
恐れ目を伏せる者、睨みつける者、尊敬の念を送る者、様々だ。
男の名はピエール。またの名をラ・ヴァリエール公爵。
軍務、政界から身を引き領地運営のみに徹していた彼をアナグマと揶揄する者達は多い。しかし、面と向かって言えるものは誰も居ない。
そんな彼が週に2日、こうして王宮に顔を出すのは姫殿下の教育の為だ。
若い姫様に何を吹き込むつもりか、と文句を言う者は居ても、止められるものは居ない。
高等法院は文句を言ったが、王家に教鞭を振るう立場として問題のない家格に加え、アンリエッタが彼の娘に秘密裏に危険な任務を任せようとしていた、とのことだ。
「今日はここまでにいたしましょう」
「………………」
くたりと椅子の背にもたれかかるアンリエッタ。彼女とて、それなりに勉強はしてきた。だがそれはあくまでも経済や歴史、法律などであって、ラ・ヴァリエール公爵は『王侯貴族の力』について教えている。
無自覚だった力を理解し、改めて無知であった恐ろしさを思い知らされた。精神的にかなりくる。
「………今更、わたくしが学ぶ必要があるのでしょうか? この国の王は貴方だわ、公爵」
「………かなうなら、最後までそうはなりたくないものです」
或はもっと若ければ、国の為にその選択を取ったろう。だが、国の為に可愛い娘達に王族という責務を押し付けるのは避けたいのが親心だ。
長女のエレオノールなら納得し改めて学んでくれるだろう。しかしカトレアやルイズまでも………。
「? ですが、このまま行けば………」
アンリエッタは降嫁………つまり格下の皇帝に嫁ぎ地位が下がる。そうなればアンリエッタの子よりも高い王位継承権を持つのはマリアンヌとヴァリエール公爵。
マリアンヌが即位を拒み続ける限り、即位するのは………。
「勉強の成果が出てきましたな………」
「からかわないでくださいまし」
「いえ、感激しております」
「………………」
「そうふてくされないでくだされ。そうだ、今妻がタルブへワインを買い付けに行っておりましてな。婚約祝に、殿下の分も用意させます」
「ふぅむ………」
男は青い髭をさすりながらハルケギニアを模した遊戯盤を見つめる。
さて、攻め込む準備をしたは良いが、本来なら気にならない程度の小さな違和感。
偶然と言えばそれまでの、僅かな動き。専用の駒すら使ってない気にもとめなかった傭兵団がトリステインに向かったらしい。
嗅覚に優れた傭兵なら何もおかしくない。無いのだが………。
「こういう時はサイコロだな。うむ………」
男はサイコロを投げる。
出た目による行動は…………
「まあいい。良いさ、必勝のこれが覆るというのなら、それはそれで、みものだ。そうだろう、シャルル」
ケント・無能王「早く戦争始まらないかな。楽しみだ」