賢者は使い魔   作:超高校級の切望

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ゼロの決闘

「オールド・オスマン! た、大変です!」

 

 その日、いつもの如くセクハラ学園長に報復していた秘書のロングビルだったが、今日は乱入者が現れた。

 

 2人は何事もなかったかのように席に座る。

 

「大変なことなどあるものか。全ては小事じゃ」

「これを見てください!」

 

 コルベールは『始祖ブリミルの使い魔達』と言う本を机に置く。次に出すのはケントのルーンのスケッチ。

 

 見たことのない彼のルーンが気になり調べて、見つけたのだ。つまり、そのルーンは………。

 

「ミス・ロングビル。席を外しなさい」

 

 ロングビルは立ち上がると部屋から出ていく。オスマンは口を開いた。

 

「詳しく話すんじゃ。ミスタ・コルベール」

 

 

 

 学園西側。日中でもあまり日が差さない『火』と『風』の塔の間に存在するヴェストリの広場には多くの貴族が集まっていた。

 

 皆平民が貴族に打ちのめされるのを今か今かと待っているのだ。

 

「諸君! 決闘だ!」

 

 薔薇の造花を掲げ叫ぶギーシュ。わっ、と沸き立つ。

 

「ギーシュが決闘するぞ! 相手はルイズの使い魔の平民だ!」

 

 ギーシュは腕を振って観客に応え、今気づいたような態度でケントに向き合った。

 

「とりあえず、良く逃げずに来たとだけ言っておこう。褒めてやろうじゃないか」

「ルイズ様はまだか? 俺の剣………」

 

 ケントは剣を取りに行かせたルイズが来てないか首をキョロキョロと動かす。まあ来てないなら仕方ないかとギーシュに向き直ろうとすると、小さな影がケントの前に立つ。

 

「ミス・タバサ? どうしたのかね?」

「………代理」

「は?」

「ん? 俺の代わりに決闘するってことか?」

「……………」

 

 ケントの言葉に振り返り、タバサと呼ばれた昨夜の青髪の少女はコクリと頷いた。

 

「なっ!?」

 

 それに驚くのはギーシュだ。顔も青い。当然だ。ギーシュは『ドット』で、タバサは『トライアングル』。

 

 貴族の子息を教育するトリステイン学院の教師は全員がトライアングルといえば、彼女がエリートであることは解るだろう。

 

「な、なぜかな? 2人の女性の名誉を傷つけたその男を、君がかばう理由が分からないな」

「傷つけたのは貴方」

 

 ピシャリと言い放ったタバサにたじろぐギーシュ。貴族には絶対に勝てない生意気な平民を甚振るだけのはずが、なんだってこんな事に!!

 

「おいこら、勝手に話を進めるな」

「借りがある」

「じゃあ、この程度に使わせるな」

 

 が、タバサの参戦を止めたのはまさかのケント。

 

「……でも」

「俺が普通じゃないのは昨夜知ったろ?」

 

 昨夜!? と一部の生徒達が反応する。タバサは暫く考え込む。ケントはその頭に手を置いてグリグリ撫でれば小さな身体がユラユラ揺れる。

 

「心配してくれてありがとな。まあ大丈夫。俺、最強だから」

 

 ちょうどよく、ピンクブロンドの髪が見えた。だが剣は持っていない。

 

「ちょっと! 早くしなさいよ!」

「はいはい。ほら、持ってきてあげたわよ」

 

 剣を浮かせているのはキュルケだ。どうやら手伝ってくれたらしい。ルイズは持ち上げれなかったんだろうな。

 

「お前が手を貸してくれるとは」

「だって面白そうじゃない? って、タバサ?」

「代理をしようとしてくれたんだ」

 

 もう一度頭を撫でる。これ以上クシャクシャにされたくなかったのか、タバサはケントの手を押しのけギャラリーの最前列に移動した。

 

「あのタバサが、あったばかりの男の為に決闘代理? まさか! そういうことなの!?」

 

 キュルケはパァ、満面の笑みを浮かべた。

 

「タバサったら、こういう人がタイプなのね!」

「違う」

「隠さなくていいのよ。応援するわ!」

「…………………」

 

 タバサは反論しても無駄と悟ったのか、おとなしくされるがままになる。

 

「………頑張って」

「おう」

「…………本当にやるの?」

「安心しろルイズ様。メイジの強さを使い魔が保証するなら、貴方が最強であると証明する」

 

 と、キュルケが持ってきた剣を手に取れば左手のルーンが輝き出した。

 

「またせたな」

「ふん。君は兎も角、少女達の会話は邪魔をしないさ。さあ、始めよう!」

 

 ギーシュが薔薇の花を振った。花びらが一枚宙に舞い、地面に落ちたかと思うと鎧甲冑を来た女戦士の人形となった。

 

「僕はメイジだ。だから、魔法で戦うよ。よもや文句はあるまいね?」

「ないとも」

「言い忘れていたね。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って、青銅のゴーレム、ワルキューレが相手するよ」

 

 女戦士のゴーレム。ワルキューレがケントに向かって突進してくる。

 対してケントは、鞘の固定具を外す。開閉式の鞘は剣を背中から抜けやすくする構造だ。

 

 現れたのは宝剣と言われても納得のいく黒く輝く剣。迫るワルキューレに、剣を振るう。

 

 ワルキューレは容易く切り裂かれ、剣圧は城壁に切り傷を刻む。

 

「……………は?」

 

 それは誰の言葉だろうか。ルイズかもしれないし、ギーシュかもしれない。高位の『風』の使い手でも、この様な結果を残せまい。

 

「っ!? その剣、魔剣の類か!!」

 

 ギーシュが戦慄する中、ケントは無言でルーンを見つめる。

 身体強化魔法としてはお粗末。ただ、剣を握った瞬間に一瞬で剣に付いての知識どころか、扱い方まで知識が付与(インストール)された。

 

 その技量をもって放たれた飛ぶ斬撃は魔力を用いず距離を無視した。

 

「………………」

 

 まあ、ケントからすれば微妙な威力だが。

 万の軍が攻めてきましたどうしますか? と問われ『斬ればよくない?』と『ぶん殴りますわ〜』で解決出来る規格外の処刑人とお嬢様がいる身としては、この程度の強化はさして有り難みがない。

 

 因みに錬金術師と賢者は『自爆だね』と『魔法』で解決出来る。

 

 まあ、それでも左手だけに刻む小さなルーンで『強化』、『解析』、『反映』、『鼓舞』をそれなりの水準で行うのはとても興味深い。このルーンを生み出した人間は、間違いなく賢者候補に数えられるだろう。

 

「ちょっとケント!?」

 

 考え事をしていると新たなワルキューレが襲いかかってきていた。全部で6体。

 切り裂かれたのを含め、ギーシュが出せる最大数は七。死を恐れぬ人間サイズの青銅鎧が7体。彼はドットの中では強い方なのだ。

 

 まあ、それでもケントには届かないが。

 

「…………え?」

 

 ワルキューレが細切れになって地に転がる。ケントの姿はなかった。何処に、と探そうと首を動かしたギーシュの横で盾を構えたワルキューレが盾ごと崩れ落ちる。

 

「続けるか?」

 

 何時の間にか自分の背後に立っていたケントの言葉にギーシュはヒィ、と悲鳴を上げて振り返ろうとし、足を縺れさせ尻餅をつく。立ち上がろうとしたその眼前に添えられる剣を見て杖を放す。

 

「ま、まいった………」

「ん」

「強いな君は。メイジ殺しだったのか」

 

 あっさり剣を引き戻すケント。勝敗はあっさり付いた。それも、平民の圧勝。戸惑いが先行して歓声も上がらない。代わりに怒声が聞こえた。

 

「ふざけるな! この様な戦い、認められるものか!」

「……………」

 

 魔力量がギーシュより高い。恐らくラインメイジだろう。属性は風。

 

「それは魔剣だろう? 貴族が作る剣だ。つまり、君は平民と貴族の決闘でありながら貴族の力に頼った。これが許されるとでも?」

「ヴィリエ、それは暴論が過ぎる。用意できる力を用意し戦うことに、卑怯も何も………」

「黙っていろ、恥さらし」

「な、なんだと!?」

 

 止めようとするギーシュにふん、と鼻を鳴らしヴィリエと言う貴族はズカズカ前に出てくる。風の魔法でワルキューレの剣を飛ばした。

 

「さあ、君にふさわしい剣を取り給え。このヴィリエ・ド・ロレーヌが、躾をしてやろう。まあ、君が貴族に泣きつくのなら、仕方ない。あきらめてやろうかね」

 

 そう言いながらチラリとタバサを見る。どうやら彼はタバサに何らかの恨みを持つが、タバサと戦うのは怖いので知り合いらしい平民をいたぶってやろうと思ったらしい。

 

 それでもタバサが出て来たら引くつもりのようだ。何とも小物らしい。

 

「ルーンのテストは終わったしな。良いぞ、俺の力で相手してやろう」

 

 ケントはそう言うと剣を地面に刺す。ギーシュの剣は取らない。

 

「二つ名は名乗らないのか?」

「平民風情に名乗る程、安い名ではないからね」

 

 何処までも上から目線。ケントはそうか、と中指と人差し指を重ねる。パチン、と指を鳴らした瞬間、ド・ロレーヌの眼前の地面が爆ぜた。

 

「…………は?」

「じゃあ俺だけ名乗らせてもらうか。『戦狂の賢者』ケント・ルイミニア。異邦より訪れた、ただの魔法使いだ」

 

 平民だと思っていた相手のまさかの告白に目を見開くド・ロレーヌ。しかし、決闘をすると言った手前引けない。

 

 何、自分はライン。風の名門貴族のエリートなのだ!

 風こそ最強の属性。あらゆる物を吹き飛ぼす! とエアハンマーを放ち、再びパチンと音が響く。ド・ロレーヌの放った風の塊は爆ぜて消えた。

 

「っ!? つ、杖は? まさか、先住魔法か!!」

「俺の故郷はこの国では名前も聞かぬ程の遥か遠方。杖こそ使わないが、()()はお前達の魔法の在り方に近いよ。精霊の力使ってないし」

 

 タバサは首を傾げた。昨日、彼は自分で自分の魔法を韻竜などが使う力と近いと言っていたはずだが。

 

「それにこれはお前等が散々『ゼロ』と蔑んでいる力だろう?」

 

 そう言ってケントはルイズを見る。ルイズはえ? と首を傾げ、しかしすぐに理解する。それは他の生徒達も同様。

 

 ルイズの失敗(ゼロ)による爆発。ケントはそれと同じ現象を攻撃手段として使っているのだ。

 

「ふん、種がわかれば、結局君も無能ということか! 主従揃ってろくに魔法も使えぬメイジ擬きが!」

 

 大技を放とうと長い詠唱を唱え始めたド・ロレーヌ。ケントは再び指を鳴らす。ド・ロレーヌの足元が爆発し空高く吹き飛んだ。

 

 そのままパチン、パチンと指を鳴らすと空中で爆発が起きド・ロレーヌの身体はピンボールのように空高く跳ね上がっていく。途中から指を鳴らすことすら辞めた。

 

「あ、わ! うわあああ!!」

 

 塔より高く飛ばすと、今度は何もしない。重力に引き寄せられた大地に向かい落ちていくボロボロのド・ロレーヌ。慌ててフライの呪文を唱え激突を免れる。

 

「こ、こんな………こんな馬鹿な! この僕が、ゼロなんかに!!」

「俺にはこれをゼロと呼ぶ意味がわからんね。魔法は発動している。出力された結果が異なるそれを、失敗と断じて原因を探りもしない。始祖の残した魔法をなんだと思っているんだ?」

「う、うるさい! 始祖の魔法に、錬金をしようとして爆発させるなんて聞いたことがないぞ!」

「石を爆弾に錬成してるってことでいいんじゃね? ところでお前等は散々笑うが。自分が石ころにならないと、本気で思っていたのか?」

 

 ルイズは全てを爆発させてきた。錬金の授業なら石。着火の授業なら木を。浮遊の授業なら煉瓦を。なら、それを人に行えば?

 

 言葉の意味を察した多くの生徒がさっと顔を青ざめさせ、ド・ロレーヌに至ってはガタガタと震えだす。

 

「ま、待て! こんな、こんな事が許されるわけ!」

「決闘だからな。こういうこともあるさ」

 

 パチンと指が鳴る。ド・ロレーヌの目の前でパンッと空気が弾ける。ド・ロレーヌは白目をむいて泡を吹き気絶した。

 

「勝ったよ、ルイズ様」

「…………………貴方も、貴族だったの?」

「まあそれに近いな」

 

 建国の英雄ならぬ復国(ふっこく)の英雄として、貴族の爵位も貰っている。英雄であることを除けば、金があれば即実験費用に代えて万年金欠の魔法使い達の中では珍しくもない事だ。

 

「でも、私と同じで魔法が爆発するのね」

「いや? 普通に使えるけど」

 

 と、水と風と炎と土を同時に出すケント。本当はもっと色んな種類を出せるが、取り敢えず人目があるのでこの世界基準に合わせておいた。

 

「っ!!」

「ショックを受けるのは早いぞルイズ様」

 

 ケントが魔法を使えることを知りショックを受けるルイズだが、ケントは早計だと断じる。

 

「俺のさっきのあれは、ルイズ様の魔法の結果を解析して再現したもの。逆説的に、俺には貴方の失敗とされる原因が分かっている」

「……………?」

「原因が分かるなら対処のしようもあるということだ」

「それって、使えるようになるの!? 私にも、魔法が!!」

「可能性はある。数日時間はもらうがな」

 

 可能性がある。そう言われ、ルイズの目が輝く。

 誰にも………王立魔法研究所(アカデミー)に所属する姉ですら原因も解らなかったのだ。何時か必ず成功してやると思いつつも、どうせ無理だと半ば諦めていたのに。

 

「それでも良いわ! 可能性でも、使えるかもしれないんでしょ!?」

「ああ。俺が持つ全ての知識を使い、貴方を立派なメイジにすると約束しよう」




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