「不死鳥ねえ。上手いこと使われたな。この手の企ては、公爵殿じゃねえ………マザリーニか」
敗北ほぼ間違いない戦いでの勝利に、敵艦隊を沈めた謎の飛行生物。
それを奇跡に押し上げて、王族の人気取りに使ったらしい。良くやる。
甲斐あってアンリエッタは『聖女』と称えられ、国民人気は高い。王位継承もスムーズに進むことだろう。
「俺としてはヴァリエール公爵に是非とも王位について欲しかったが。まあ、貴族である前に人の親か……ゲルマニアも強く出れなくなったし」
アンリエッタが即位するということは、必然ゲルマニアとの婚約は破棄。ゲルマニアは渋い顔をしたが、軍編成に3週間はかかります、などと言い訳をしてアルビオンとトリステインの戦争に来なかった身として、アルビオンを一国で撃退したトリステインに大きな要求など出来るはずもない。
ましてや騎士団を退団して以来行方知れずだった烈風のカリンが戦争に参加していたと聞けば、その名に震え上がり軍が逃げ出すゲルマニアに出来ることなどあるまい。
アルビオンの明確な大陸侵略の意思が示された今、ゲルマニアにだって同盟をしない理由がないのだ。
「ケント! 早く行くわよ、遅れちゃう!」
ルイズは慌ただしい。アンリエッタに呼ばれたのだ。
ケントは使い魔なのでついていく。王都は今戦勝祝と戴冠祝なので、ジョゼットとエルザも連れて行く。
内容としては、感謝。どうやら零戦がタルブ村の守り神とされる竜の羽衣だとたどり着いた衛士がいたらしい。
それを操っていたのがケントだとも掴んだ。厳密には、ケントが零戦を操れる事を調べたらしい。あの後タルブ村の村民の前で降りたし当然か。
シエスタが抱きついてキスしてくるし、英雄として崇められるし、シエスタの親父には娘を泣かせたら殺すと脅されたし中々愉快な3日間だった。
「……………?」
「ルイズ?」
「悪いなルイズ、勝手に参加してみた」
ルイズが困惑しているのを見て首を傾げたアンリエッタ。ハッ、と視線を向けてきたのでそう返した。
「な、何でそんな勝手な事を!」
「ジョゼットの魔法を見てみたかったからな」
やはり血統に合わせて調整されただけあり、同じ術式、同じ魔力で行ってもケントでは1割とは言わないがそれに近い威力が落ちるだろう。
「ジョゼットジョゼットって………」
拗ねるルイズ。後で機嫌を取らないと面倒くさいことになりそう。
「異国の飛行機械を操り、敵の艦隊を全滅させてくださったとか。厚く御礼申し上げますわ」
「いいえ、お気になさらず」
「貴方は救国の英雄ですわ。出来たら貴方をこの国の貴族にして差し上げたいけど」
それは残念ながら不可能。あの光は奇跡であり、零戦はトリステインを守護するために現れたフェニックス。そこに人の意志が介入していてはならないのだ。
何より、目立つ。知られれば、異国の大公といえどトリステインでは何の地位もないケントを取り込もうとする者は後を絶たないだろう。
後ろ盾になるヴァリエール公爵も、ケントの秘密がそこまで知られたあとだと公爵を王にしようと動く者達も現れる筈。故に動けない。
「…………」
ルイズは何も言えない。ケントがただの使い魔であったなら、自分の使い魔として、アンリエッタにその力を捧げられただろう。だが、彼は恩人。奴隷のような扱いはできない。
「姫様………何か、困ったことがあれば何時でも言ってください。及ばず乍、力になりたいのです」
「ええ。ありがとう、ルイズ」
「お兄様達、何を話しているのかしら?」
「さあ? お兄ちゃんのやる事なんて、一々気にしないわ。私は、何を言われても従うだけだもん」
どうせペットだし、とエルザ。ジョゼットはムッとする。
別に自分が不幸とは思ったことはない。それでも、一生見ることなど無いと思っていた外の世界に連れ出してくれたケント………そのケントに従い、弟子である自分よりも時に優遇されているように見えるエルザに思うところがないと言えば嘘になる。
「それよりご飯にしましょう? 食べてろって言われたもの」
「お城から離れていいのかなあ?」
「お兄ちゃんは私の居場所解るし」
なら、いいかとジョゼットはエルザについていく。
何せ祭りなど生まれて初めてなのだ。少し、いや、かなりワクワクしている。
「お金は?」
「お兄様からちゃんと受け取ってるわ!」
2人は早速祭りに向かった。
「おお、お嬢ちゃん達。俺達に酌してくれよ」
銀髪の美しい少女に、金髪のこれから美しくなることが解る可愛らしい幼女。
戦勝祝で酒を飲む傭兵達が目をつけるのも当然で、2人は囲まれていた。
「行きましょう、ジョゼット様。あっちのお肉、おいしそう」
「え? でも」
「おいおい、無視するんじゃねえよ!」
「俺達はタルブで戦った兵隊だぞ! 解るか? アルビオン軍をやっつけてやったんだ!」
エルザが短剣を抜くとゲラゲラ笑いだし、瞬殺された。全員玉を押さえている。
「ん、やっぱり美味しい」
吸血鬼の自分には、大した栄養にはならないけど、と心の中で付け足すエルザ。ケントの弟子であるジョゼットを守ったのだし、今日は汗だけじゃなく血を味わわせてくれないだろうか?
それも、できれば直接牙を突き立てて………そこまで想像して、ペロリと唇を舐める。湿った唇から、はぁ、と悩ましげな吐息がこぼれると男達の目が釘付けになる。と………
「いやあ、小さいのに強いね、君」
「…………?」
エルザの強さを見て遠巻きに眺めるだけだった他の男達は話しかけた男にぎょっと驚愕した。命知らずと思ったのだ。しかし、すぐに納得した。
男はとても美しい顔をしていたからだ。本来は忌まれる、左右異なる瞳………月目と呼ばれるそれすらも、彼の美しさを際立てている。
世間知らずのジョゼットはわぁ、と頬を赤くした。
「……………」
エルザは自身の左手に視線が向いているのに気付いた。
「こんなに可愛いのに強いなんて、凄いな」
「ありがとう。お兄ちゃんがくれた、この不思議な文字のおかげよ」
「お兄ちゃん?」
「私のご主人様なの。とっても偉大な魔法使いよ」
「私の師匠でもありますわ」
男はへぇ、と感心したように声を漏らす。
「と、失礼。女の子相手に、名乗らないなんて無礼だった。僕はジュリオ、旅人さ」
「ジョゼット・ルイミニアです」
「エルザ」
エルザは警戒しているのか、ジョゼットの手を掴み歩き出す。ジュリオは慌てて追いかけた。
「待ってくれ! こうして出会ったのも、始祖の導きだ、よかったら、話せないかな?」
「ど、どうする、エルザ」
「ジョゼット様だけで行ってくれば? 私は、お兄ちゃんに見つけてもらえるから」
「い、意地悪!」
「その男が気になるんでしょ? 会ったばかりで、何も知らないのに。顔ばかり見て、これだから年を取った女は」
汚れを知らない若い女の子が大好物(直喩)なエルザはやれやれと呆れる。ジョゼットはむぅ、とむくれてみせた。と……
「何騒いでる」
「お兄様!」
「あ、お兄ちゃん」
ケントがやってきた。隣にはルイズ。
「そいつは?」
「僕はジュリオ。君の妹と、仲良くなりたくてね」
「そうか。帰って御主人様に、無理だったと伝えておけ」
「…………君は、もしかして──」
ケントが杖を振るうと、ジュリオの姿はその場から消えた。
「私生児、かな? 色々詳しそうだけど………王家の書物を読める立場なのかな」
街の外でジュリオは呟く。この力、やはり彼は始祖に連なるものだろう。そして銀髪の彼女はロマリアが手に入れる予定だった『予備』。
盾があんなに小さな女の子とは驚いたけど。
トリステインは公爵家の三女だと思ったのだけど、彼女が『予備』だったのだろうか?
「しかし、やり難いなあ。事情を知ってるとなると………」
先んじてガリアの『予備』を確保している辺り、4の4を集めるつもりだろうか?
もしや行方が分からぬアルビオンの秘宝も?
始祖のお力を正しく継承出来るロマリアの強みが、まさか覆されるとは。
「ご先祖様にはしっかり頑張ってほしかったものだね。でも、聖下は喜ぶかも」
自分と同じ思想かもしれないのだ。彼なら対等の友になってくれるかもしれない。
ロマリアのケントの印象。
トリステイン王家の隠し子にして虚無の担い手。
4の4についても知っている? 一筋縄で行かない相手だ。