賢者は使い魔   作:超高校級の切望

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薬の騒動

「それで、どういうつもりかしら」

 

 親友を赤子にされたキュルケはキレていた。ブチギレている。

 

 高い力を持つメイジは、呪文にて魔法として顕現させる前から魔力を変質させることがある。ルイズの母などがその一人。

 

 今、キュルケも体から熱が溢れていた。陽炎のように周囲が歪み、魔力に揺れる赤い髪が炎のようだ。だが対面で正座させられたモンモランシーは凍えるような寒気を味わっていた。

 

 魔力は気力、気力は感情。

 キュルケの怒りは彼女の魔力をスクウェアに押し上げていた。

 

「い、いや、その………私も、こうなるとは思わなくて」

 

 チラリとタバサを見る。ケントの腕に抱えられて、アムアムと袖を涎で汚している。

 

「アゥ………かぁしゃま?」

 

 キュルケの視線に気付き紅葉のような手を伸ばしてくるタバサ。まあかわいい。

 しかし何故キュルケをママと? それはきっと、彼女が一番母性が………というわけではなく、元々のタバサの親密度が影響しているのだろう。

 

「ほ、惚れ薬だって貰ったの!」

「惚れ薬?」

「ギ、ギーシュに飲ませてやろうと………」

 

 犯罪行為である。投獄待った無しだ。

 

「ちなみにタバサは偽名」

「それは知ってる、け……ど………偽名を使わなきゃならない立場?」

 

 ケントの言葉にモンモランシーはサッと顔が青くなる。名を偽る必要がある地位の貴族と思ったのだろう。

 

「ついでにガリア貴族」

「……………え」

 

 モンモランシーはその言葉に固まる。

 トリステインの青であったなら、まあ珍しいで済むだろう。だが、ガリアの青は話が別。

 

 それは王族に連なる者の証。ついでに言えば、蒼が綺麗な程王家に近いと言われている。夏の陽気を浴びたタバサは湖のように綺麗な青だ。

 

「…………………ふぅ」

「モンモランシー!!」

 

 モンモランシーは気絶した。ギーシュが慌てて介抱しようとするが、キュルケが胸ぐらをつかみ、腕を振りかぶる。

 

 パァン! と鋭い音が響いた。

 

「いったぁ!? な、何するのよ!」

「何してもいいのよ、今の貴方。ねぇ、解ってる? 貴方、他国の貴族に正体も解らない相手から貰った薬を飲ませて、赤子にしたのよ?」

 

 どう考えても死刑だ。戦争にならないよう、切り取った首を塩漬けにしてさらしたりするレベルの罪だ。

 

「で、でもわざとじゃないし………」

「そんな言い訳が通じるとでも? いいから、タバサを戻しなさい」

「む、無理よ! どんな薬なのかも分からないのに!」

 

 キュルケが詠唱を唱え杖を振るう。炎の槍がモンモランシーのドリルを一つ焼いて後方の地面に刺さる。

 地面が赤く発光しグツグツと泡だった。

 

「無理、なんて言葉は聞いてないの。やりなさい」

 

 笑顔だが目は笑っていない。ギーシュとモンモランシーはガタガタ震える。ルイズとジョゼットも抱き合っている。

 

「それとも、丸焼きがお望み?」

「待てキュルケ」

 

 と、ケントが止める。モンモランシー達は縋るような視線をケントに向けた。タバサはムニャムニャ眠っている。

 

「今タバサが寝たところだ。燃やすと悲鳴がアレなのでアレするのは肺からやれ」

「あれえええええ!?」

 

 現実は非情である。キュルケは微笑むと頷く。

 

「いやぁ! 死にたくない!」

「まあそれは冗談として」

「あら、私は本気で燃やしてもいいけど」

「その後が面倒だ」

 

 色々問題を起こしてゲルマニア魔法学院から追い出されトリステイン魔法学院に来たキュルケ。彼女がトリステイン貴族………それも、貧乏なれどそれなりの家格があるモンモランシ家のご令嬢を殺したとなれば、ツェルプストー家の敵対貴族に付け込まれるだろう。

 

「………ここは正式にトリステイン王室に抗議してモンモランシー家から金をむしり取った後、アカデミーに解析させて──」

「ま、待ってくれ師匠(せんせい)! それは、どうかやめてくれ!」

「じゃあこっちで調べるか」

 

 ケントは弟子に甘い。

 ケントはタバサをキュルケに抱っこさせるとその姿をまじまじ見つめる。

 

「ん〜。なるほど、精神を肉体に反映させて………」

「どういうこと?」

「タバサの反応からして、キュルケとかに懐いてるだろ? 記憶も何もかも戻ったんじゃなくて、精神を赤ん坊にして肉体をそれに反映………つまり、精神にかかってる魔法を解けばタバサの肉体は戻る………完全に悪巫山戯のたぐいだな」

 

 と言うかこれソフィアの薬じゃね? まあ人形とか『魔神の心臓』とかあったし、今更か。

 

「ダーリンでも解けない?」

「こっちじゃ、精神に薬で影響を受けた時どうやって治す?」

 

 治せるとは、言わないようだ。

 

「うーん、基本的には精霊の涙を主軸に薬を調合して解毒剤を作るわ。万能薬、とは行かなくても多くの水の秘薬や解呪薬になるの」

「精霊……?」

 

 ハルケギニアでは精霊の力を扱うことは異端とされているはずだが………エルフ達とは使い方が違う?

 

「ラグドリアン湖に住む精霊からもらうのよ。涙、なんて名前だけど正確には水精霊の一部」

 

 この世界の精霊術はケントが知る限り自然の魔力に沿うだけで、そこに意識は宿りようがない。だがラグドリアン湖には精霊が存在し、言い方からして取引ができる程度の自我があるようだ。

 

 過去の何者かが創ったのか、あるいは激レアな天然物?

 と、その時………タバサの部屋に向かう鳥型のガーゴイルが見えた。

 ガーゴイルが消える。ケントの手には、何時の間にか羊皮紙が握られていた。

 

「それは?」

「タバサは騎士爵(シュヴァリエ)として王宮から依頼を良く受けるんだよ。ちょうど、ラグドリアン湖の水位が上がってるから何とかしろとよ。ついでに、かなり厭味ったらしく母親に顔を見せてやれとも書かれている」

「タバサの実家ってラグドリアン湖の近くなのね」

「? ラグドリアン湖近くの、王に連なるガリアの貴族って確か………」

 

 キュルケが良いこと聞いちゃった、と笑う横で、ルイズはタバサの正体に思い当たる節があるのか何やら考え出した。

 

「とーしゃま?」

「よしタバサ、お前の家に向かうぞ。んで、水の精霊から涙もらって、すぐ治してやる」

 

 因みにだがケントは、治せないとも言っていない。

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