ラグドリアン湖。
精霊の住まうその湖には代々交渉役が居る。
モンモランシーの実家であるモンモランシ家がそうだった。しかし名前紛らわしいな。
因みに彼女の父は水の精霊に領地開拓の依頼をする立場でありながら、家につれてきておいて『歩くな。床が濡れる』と言って怒らせ、交渉役を外された過去を持つ。娘に家名とほぼ同じ名前を付けたり、アホなのだろう。
とは言え、彼女の血は湖の精霊に記憶されているのは確か。だから、とモンモランシーは針を取り出し血を出そうとする。が…………
「
ケントが片腕を向けるとシュルリと現れた水の蛇がトプンと湖に潜る。
暫くすると水面が光りだし、波立つ。ゴパッ! と水面が爆ぜ巨大化した
ゲェ、とキラキラと輝く水を吐き出した。ラグドリアン湖に住む精霊だ。
グネグネと形を変えながら、やがて蛇の形をとる。
「何のようだ、“歪める者”よ」
湖の精霊はケントをそう称する。成る程、精霊。世界の影………よく分かっている。
「お前の一部をくれ。後、湖の水位戻してくんない?」
「ちょっと!!」
ついでにタバサの任務も済ませようとするケント。本当についで程度の間隔で湖の精霊に話しかける。余りに無礼な態度にモンモランシーが慌てる。
しかし精霊は怒りを顕にすることなくユラユラとその輪郭を歪める。
「断れば、我を消すか?」
絶大なる力を持つラグドリアン湖の精霊が、ただ一人の存在を恐れるように問い掛ける。モンモランシーが目を見開く中、ケントははっ、と笑う。
「希少な
言ってみろ、叶えてやる。
精霊相手に完全なる上から目線のその言葉に、精霊はプルプルと輪郭を歪めた。考え込んでいるのだろう。
「いいだろう、歪める者よ。もとより我が身に逆らうだけの力はない。お前なら、我が願いなど容易く叶える」
「大層な評価、ありがたいね」
ギーシュは「さすが
「数えるのも愚かしい程月が交差する時の間、我が守りし秘宝が、単なる者共に盗まれた」
「ほう、精霊の秘宝」
ソワッと興味を持つケント。
「我が暮らす最も濃き水の底から、その秘宝が盗まれたのは月が30程交差する前の事」
およそ2年前に盗まれたらしい。
そして、取り返すために世界を海に沈めようとした。水にさえ触れれば秘宝の位置が解るから。
なんとも気の長い事だ。永遠を生きる精霊故だろう。
それにしたって他の精霊との戦闘を気にしないあたり、この精霊以上の存在は居ないのかもしれない。
「それで? どんな秘宝なんだ?」
「『アンドバリ』の指輪。我が共に、時を過ごした指輪」
モンモランシーが聞いたことがある、と呟く。
水系統のマジックアイテム。偽りの命を死者に与える力があるとか。
誰が作ったのかは精霊も知らないらしい。人間かもしれないが、少なくとも人間がこの地に現れた時には存在していたらしい。
それが盗まれた。風の力を操るメイジ達が、水に触れることなく指輪を盗んだ。その中の1人はクロムウェルと呼ばれていたらしい。
「神聖皇帝様と来た………そういや、噂では死者を蘇らせたらしいな」
もしや圧倒的な戦力差がありながらすぐに攻め込まなかったのは、王族の死体を出来るだけ復元可能な形で戻したかったか?
「他の使い方はあるか?」
「力を一滴でも混ぜた水を飲ませれば、相手を意のままに操れる」
裏切り多発もそれが理由か? 井戸にでも流せばあっという間に支配地域の完成。生き物は水から離れて生きることは出来ないのだから。
「力が残っているかどうか」
乱用されまくってそう。
「構わぬ。台座だけでも、水の結晶の力は何れ回復するだろう」
総合すると、人工的に水精石を作る指輪か。ソフィアあたりが欲しがりそうだ。
「良いだろう。取り返してやる。期間は?」
「お前の寿命が尽きるまで」
不老であることにも気づいているだろうに…………要するに絶対に取り返してこいということらしい。もういいけど。
「契約成立だ」
その言葉に湖の精霊は己の一部を切り離す。純粋な天然精霊の一部。値段にすればどれほどか。
精霊は話は終わりだと言う様に湖の中に沈んでいった。
「なんか、いろいろあって混乱してるけど………これでタバサを戻す薬が作れるのね」
「ん? ああ、ほい」
キュルケの言葉にパチンと指を鳴らすとタバサが光に包まれる。
次の瞬間にはタバサは元の姿に戻っていた。
「服はサービス」
「???」
キュルケの髪を咥えたまま困惑するタバサ。ぷぇ、と髪の毛を吐き出すとキョロキョロ周りを見回し、首を傾げる。
「タバサ!」
「むぎゅ」
タバサを抱き締めるキュルケ。
豊満な胸にタバサの顔が埋まり、ギーシュが「形を変えたであります!」と叫びエルザを除いた女性陣が己の胸を触る。
「ていうか戻せないんじゃなかったの!?」
「戻せないとは言ってないぞ?」
「…………………そうね」
確かに言ってなかった。だけどなんで今………。
「天然精霊にあってみたかったし、
「今、すっごく不穏な読み方しなかった?」
「ていうかこれ、ソフィアの作品だよなぁ。やっぱりいろいろ流れてきてんのかね?」
「ほう、俺の過去について知りたいと?」
「というよりは、ガリア王とその弟の過去ですわ。此方で調べるので、許可だけでもいただければと」
異国の貴族を名乗る女は、ジョゼフを前にニコリと微笑む。
美しい女であった。
深き水底の様な蒼の髪。ガリア王家を彷彿とさせる長い髪を伸ばした美女。
「なぜそんなものを知りたがる?」
「組むべき国、組む必要のない国、消すべき国を知りたいのですわ」
「遠い他所の大陸から来た貴様らが、ずいぶん上から語るではないか」
「ええ、おっしゃる通りですわ。あのお馬鹿がたまたま来たとか、此方側が原因の接触なら、我々も対応を変えたでしょう……ですが、私達を招き入れたのは、
それが原因で、彼女の国の大公が一人、国から消えた。成る程、文句も言いたくなるだろう。
「それで、お前にはこの大陸はどう映る?」
「現状、この大陸で最も栄えているのはこのガリア。影響力ならロマリア。勢いに乗っているのはゲルマニアで、今後に期待がトリステインで、今後が期待出来ないのはアルビオンでしょうか」
「我が国は組むに値すると?」
「火竜山脈の採掘権を下さるなら直ぐにでも。ですが、まあ……今暫く我が国の誇る軍師と軍儀お楽しみを」
そう言って女は出て行く。侵入者だとジョゼフの使い魔が放ったガーゴイルの瓦礫を乗り越えて。
因みに魔法でもマジックアイテムでもなく、指で弾いてぶっ壊してた。
ソフィアとケントの出会い
「なぁにが完璧だ。何が完成だ。この程度で、人をなめ腐るなガキが」
「こん、な……うそ…私は、完成された」
「1000年前の技術として作られた罠も術式も、現代に通じるのはなるほど大したものだな。だが、それだけだ。古き良き時代が永遠に頂点なんて幻想なんだよ